ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-03

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
ああ、我等の偉大なる始祖よ。
これは貴方の教えに背いた罰なのですか?

私は彼等を愛していた。彼等も私を愛していた。
私は国を愛し、彼等も国を愛していた。
ただお互いに愛する者達との平穏だけを望んでいたというのに。

なのに何故、彼等を手にかけねばならないのですか?

いいでしょう。それが貴方の罰というのなら受けましょう。
この手を愛する者達の血で染め、自身を呪いながら日々を過ごしましょう。
ですから私で終わりにしてください。
罪を犯したのは……そして、これから罪を犯すのも私だけ。
貴方に無垢なる祈りを捧げるあの二人には罰ではなく祝福を。
それさえも叶わぬというのなら、せめて見守ってください。
与えられるべき平穏が彼女達に訪れるように。


「それでケンカの原因は?」

椅子に腰掛けたままオールド・オスマンは憮然とした顔の前で指を組む。
その前に立たされているのは塔の前で騒動を起こした少女2人。
桃みがかった髪の少女は頭から足先まで水浸しになり、
青みがかった髪の少女は全身が砂埃に塗れていた。

「コイツがいきなり襲い掛かってきたから!」
「コイツが人の事を召使い呼ばわりするから!」

オスマンの言葉に、お互いに相手を指差し同時に声を上げた。
その光景にオスマンは深い溜息をついた。
両者に反省の色はなく今も睨み合いを続けている。
杖を取り上げていなければ、ここでケンカの続きをしたかもしれない。

「貴族同士の決闘が禁止されているのは知っておるじゃろう。
魔法とは便利なだけの力ではない。容易く人の生命を奪う危険な凶器と成り得る。
この学院では、それを扱う心構えも学ばねばならんのじゃが……」

オスマンの諫言も二人は聞く耳を持たない。
杖がなくとも取っ組み合いを始めそうな距離まで顔を近づける。
オスマンは再び深い溜息をついた。
不幸中の幸いだったのはミス・ヴァリエールの魔法は狙いを付けられず、
転入した少女の魔法は人を殺傷するほどの力を持っていなかった事だ。
もし他の学生程度の実力を持っていれば殺し合いに発展していただろう。

「たわけ! 少しは自分達の立場を弁えぬか!
もし、どちらかが死んでいれば戦争の引き金になったかもしれんのだぞ!」

傍に立てかけてあった杖を手にオスマンは石床に杖の先を叩き付けた。
普段は温厚なオスマンの激昂に思わずルイズもイザベラも背筋を正す。
だが、どちらも自分が悪いとは思っていないし、相手にやられるとも思っていない。
イザベラに至っては戦争になってもトリステインを滅ぼす気でいた。

「ここは住み慣れた王宮と違い、自分で出来る事は自分でやるのだ。
荷物運びも洗濯も掃除も一人でこなせなければ学院には居られん」

まずはイザベラを指差し、

「そしてミス・ヴァリエール。
使用人と間違われたぐらいで杖を抜くなど貴族にあるまじき行い。
すぐに暴力に訴えるのは己の狭量が故と知りなさい」

続いてルイズを指差して、それぞれの誤ちを指摘する。
ようやく押し黙った二人に満足げに頷いてオスマンは言う。

「さあ。分かったらお互いに謝って水に流……」
「嫌だね」
「嫌です」

こんな時だけ息ピッタリの二人に、
オスマンは力を使い果たしたように机に突っ伏した。
もうどうしようもない。杖を返せばすぐにでも二人は決闘を再開する。
どうするべき思い悩むオスマンに一人の女性が助け舟を出した。

「オスマン学院長」
「ん? 君は確か……」
「ロングビルです」
「そうじゃった。それでミス・ロングビル、ワシに何か?」

秘書として雇ったミス・ロングビルに訊ねる。
彼女は不敵な笑みを浮かべながらオスマンに助言した。

「はい。今日の所は注意としておきますが。
今後、二人が問題を起こすようなら保護者に来てもらうのはどうでしょうか?」

びくりと身体を震わせながら二人の背が伸び上がる。
彼女が出したそれは提案という名の脅迫だった。
ルイズの脳裏には自分の頬を抓り上げる姉の姿が、
イザベラの脳裏にはねちねちと嫌みを言うカステルモールの姿が浮かぶ。

「おお、それはいい。日頃どのような教育をされているかも伺いたいしの」

一瞬にして蒼白になった二人の顔を見て、ポンとオスマンは手を叩いた。
イザベラとルイズが互いの顔を見合わせる。
その表情から自分と同じ心境である事を理解し、
それだけは避けなければならないと固く心に誓い合った。

学院長の部屋から出て行く二人の姿は、まるで墓場に向かう葬列だった。
トボトボと、部屋に入るまでのふてぶてしさなど何処にもない。
この勝負に勝利者がいるとすればオスマンとあの女性だろう。
敗残兵の如く彼女達がその場を後にする。
部屋の扉を閉める直前、彼女の長い黒髪が挑発するように目につく。
怒りに任せてイザベラは勢いよく扉を閉めた。
多少、音が響いたがこの程度は八つ当たりの内にも入らない。

キッとルイズへと向き直るとイザベラは口を開いた。

「命拾いしたね。あのまま続けてたらわたしの勝ちだったのに」
「ふん。あんな水鉄砲、何発当たったって痛くないわよ!」
「魔法も碌に使えないくせに生意気言うんじゃないよ!」
「なによ! やる気?」
「やったろうじゃない!」

互いの袖口へと手が伸びた瞬間、扉が開け放たれる。
そこから出てきたのはミス・ロングビルの楽しげな顔。
“やってもいいですよ。後でどうなってもいいなら”と、
無言でありながらその表情は雄弁に語っていた。
渋々と手を戻す彼女達の前で再び扉が閉じていく。
ホッと溜息をつきながら彼女達は睨み合う。
が、決して手を出そうとはしない。
目の前に置かれた餌が罠ではないかと警戒しながら
餌の周りをウロウロする野生の獣のような行動。

「これじゃ決着の付けようもないね」
「そうね……待って! 決闘じゃなければ良いのよ!」

イザベラの言葉に返しながらルイズに閃きが走った。
初日の授業は恒例の行事が待っている。
そのメイジに相応しい使い魔を召喚する儀式。

「なるほど。相手より優れた使い魔を呼んだ方が勝ちってわけか」
「ええ。これならオスマン学院長も何も言わないはずよ」

二人の視線の間で火花が飛び散る。
しばしの間、睨み合っていた彼女達だが、
遂に痺れを切らし、鼻を鳴らして二人は互いに背を向けて歩き始めた。

一人、部屋に戻ったルイズはそのままベッドに身を預けた。
うつぶせになって彼女は手元に枕を引き寄せる。
彼女とて本当はイザベラとケンカするつもりはなかった。
だがルイズが使用人扱いされた時、
周りの生徒たちは憤るどころか腹を抱えて笑った。
魔法を使えない彼女には相応しいとばかりに。
それに耐え切れなくなった彼女は怒りを爆発させたのだ。

(なんで私が馬鹿にされなきゃいけないの……どうして)

彼女の枕に一滴の雫が零れ落ちた。
それは身体を滴るイザベラの放った物ではない。
彼女の内側より溢れ出た感情の一部だった。


「このウサギ小屋は一体どういう意味なんだい?」

その頃、イザベラは自分に宛がわれた部屋の前で立ち尽くしていた。
扉を開き、ずかずかと部屋に入り両開きの窓を開ける。
これで窓が鉄格子だったり填め殺しだったらどうしようかと思ったが、
流石に学生を閉じ込めるなんて事はなかった。

「全く。こんな所に寝ろってのかい」

両手を腰に当てて踏ん反り返りながらベッドを見下ろす。
その生活環境は彼女のいた王宮とは比べようもない。
本来なら部屋どころかフロア一つを貸切にしてもおかしくない。
まるで野宿同然のような扱いに不満を漏らしながら横になる。

(こんな貧相なベッドで寝られるわけないだ…ろ…)

頭の中で愚痴を並べながら、心身ともに疲れ果てていた彼女は、
呆気ないほど簡単に睡魔に身を委ね、高らかにいびきを掻きはじめた。
プチ・トロワに君臨する自分の夢を見る彼女の寝顔は、
とても先程まで文句を垂れていたと思えないほど幸せそうだった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー