ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-01

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
世界は不公平に満ちている。
天秤は常に一方に傾き続けている。
誰かが満たされれば、その分だけ誰かが乾く。
平等なんて言葉は恵まれた人間の欺瞞にすぎない。

ガタガタと揺れる馬車の窓から外を眺めながら、わたしはそう確信した。

アイツより魔法の腕が劣るのは仕方ない。
そこは父上の遺伝だとスッパリ諦める。
わたしより勉強が出来るのも本の虫だから当然だ。
良い子ぶりっこしてれば行儀も良く見えるだろう。
見る眼のない奴が多ければ人望も集まる。
行動力も頭の回転も、わたしの方が遥かに上だっていうのに。
ただそれだけの事なのに、まるで皆はアイツばっかり褒め称える。

―――ああ、それも当たり前か。
だってアイツはこの国のたった一人のお姫様なんだから。


「もうすぐトリステイン領内に入ります。
くれぐれもガリア王国の代表として恥ずかしくない立ち振る舞いを」
「分かってるよ! だからアンタはさっさとグラン・トロワに帰って
大好きなシャルロットちゃんのお守りでもしてな!」
「……そうしたいのは山々ですが、ますます帰れなくなりました」

そう言うなりカステルモールが片手で顔を抑えてやれやれと首を振る。
きっと“シャルロットだったらこんな苦労はしないのに”と思っているに違いない。

「シャルロット様ならばこのような不安などないのですが……」

あ、口に出しやがった。
それでも王家に忠誠を誓う騎士か、お前は。
わたしだって従姉妹とはいえ王族だぞ。

さて、なんでそんな高貴の生まれであるわたしが、
こんな口の減らない騎士と護衛を連れてトリステインくんだりまで
行かなければならないかと言うと……話せば長くなるので大分省略する。

まあ、最大の原因は父上が後継者争いで負けてしまった事だろう。
確かに魔法を使えない父上が次代の王に選ばれるかどうかは微妙だった。
だけど長男で、しかも頭が切れるとなれば周りの人間も納得する。
なのに父上は先王の言葉をあっさりと受け入れ、
弟であるオルレアン公を王位に据えてしまったのだ。
……まったく。反乱でも暗殺でもしてくれりゃあ、わたしはお姫様になれたってのに。
そうなったら真っ先にシャルロットの位を剥奪して平民にしてやる。
―――と言った所で虚しいだけ。そんな権限は今のわたしにはない。

事あるごとに比べられて王宮の中では針の筵。
誰もが口々に“シャルロット様とは大違い”
“シャルロット様はあんなに立派なのに”と繰り返す。
見る目のない奴ばかりで本当にガリア王国は大丈夫なのだろうか?
誰も頼りにならないとなれば自力で王座に付くしかない。
その為には、阿呆にも分かるよう実績を積み重ねるのが最善だ。
さっそく女王の道の第一歩として人事を一任されている父上に、
官職を預けてもらうようにお願いに行くと次のような言葉が返ってきた。

「そうか。国の役に立ちたいというお前の気持ちは分かった。
だが実力でも立場でも勝るシャルロット姫を差し置き、
お前だけに官職を与えると私の贔屓だと問題になるからな。
彼女を東百合花壇警護騎士団の団長に、お前を副長にしてやろう。
それが嫌なら、せめて魔法学院を卒業するぐらいの経歴が必要だ」

要するに学歴である。
こればっかりはお姫様であるシャルロットには無理だ。
それに口うるさい王宮の連中と顔を突き合わせるよりはマシだった。
だけどガリア王国の魔法学院は王族であろうと試験はある。
しかも要職に就く為の最短ルートとして知られ、
多くの貴族達の子弟が門を叩くガリア王国の最難関であり、
優秀な人材を多く輩出する教育機関として名を知られている。
ちなみに試験制度を取り入れたのは父上だ。


勉強は苦手ではないがシャルロットほどではない。
家庭教師の何人かは“無理です”の一言を最後に立ち去って行った。
残りの家庭教師も口には出さずとも無謀だと理解していた。
何よりもイザベラ自身にやる気がないと分かっていたからだ。
このままでは入学も危ぶまれる状況だった。
椅子にもたれかかりシャルロットを替え玉受験させようと、
カステルモールにどうやってフェイス・チェンジを使わせるか、
それだけを考えている時にジョゼフが現れて優しい声を掛けた。

「要職に就くばかりが人生ではない。
田畑を耕し牛馬を育てるのも立派な仕事だ。
人間の価値は人望や頭脳、魔法の腕、品格、生まれで全てが決まるわけではない。
人にはそれに合った器というものがある。王には王の、料理人には料理人のな。
無理せずに花嫁修業でもすると良い。私がそれなりの人物を連れてきてやろう」

ここまで言われて黙っているイザベラ様ではありません。
もし黙っていたら、それは間違いなくスキニキルです。
ディテクト・マジックを使わなくても確定です。

負けず嫌いの彼女は、周りの人が“頭を打ったのでは?”と心配するほど勉学に打ち込みました。
乗せられた事にも気付かないまま、フェイス・チェンジをかけ家庭教師に扮するジョゼフに
みっちりとスパルタ教育で勉強を教え込まれ見事に合格しました。
勿論、墜落しないのが不思議なほどの低空飛行という意味でです。
その間にジョゼフは地下水を使った替え玉受験も事前に阻止していました。

入ってしまえば、こちらの物とばかりにイザベラ様は怠けまくりました。
それはもう、授業中に何度も問題を起こし、
ただでさえ酷い悪名をさらに大きく響かせていきます。
保護者として呼び出されたジョゼフは学院長に泣きつかれ、
遂にイザベラを他の学院に転校させる事を決意しました。

入学式よりも遥かに盛大なイザベラの送別会が行なわれ、
皆は歓喜のあまりに涙を零し、一見すると別れを惜しんでいるように見えましたが、
イザベラ様自身が誰も悲しんでいない事を理解していました。

転校先はトリステイン王国の王立魔法学院。
アルビオンでは遠すぎますし、実力主義のゲルマニアでは再起不能になりかねません。
それに外国からも学びに来るほど優秀で由緒ある教育機関で、
何よりも転入試験がないのが大きかったのでしょう。
すぐさまジョゼフはトリステインに話をつけ、彼女の転入を認めさせました。

それが一年目の冬の終わりの話。
彼女が最初の授業を受けるのは二年目の春からです。
確かに転入の際には試験を必要としません。
ですが進級する為にはある試験を突破しなければならないのです。
使い魔召喚の儀式という伝統ある行事を。

ちなみにシャルロット姫は風韻竜という絶滅したはずの竜種を召喚し、
オルレアン王をはじめ周りの大人たちを大いに驚かせました。
喜ばなかったのはイザベラ様ぐらいなものでした。
自分はもっと凄いのを召喚してやると意気込んでも、
これ以上となると、それこそ始祖の使い魔でも呼ぶしかありません。

トリステイン国境を抜けて一路、トリステイン魔法学院に向かう馬車の中。
彼女は碌に信じてもいやしない始祖様に祈りを捧げた。

(こうなったら何でも構わないからアイツに勝てるのを召喚させろ!)

しかも命令形です。彼女の洗礼をした司教が聞いたなら卒倒していたでしょう。
ですが、この脅迫……もとい、お願いは思わぬ形で叶う事になります。

彼女の運命を決定付ける学び舎はもう目の前にまで迫っていました。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー