ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ-23

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
トリスティン魔法学院から父王と共にイザベラが帰国してから幾らかの日数が過ぎた。
元々偽の名前で訪れる予定であり、ジョゼフも非公式での訪問だったため気にかける者は殆どいなかった。
それよりも去っていくイザベラと仲睦ましげに別れの挨拶を済ませたネアポリス、ジョルノの方へ注目が集まっていた。
仔細までは学院と言う特殊な場で生活する貴族の子女達にも知らないが、多種多様な事業を展開し利益を上げて噂になった貴族が、自分達とそう変わりない年齢だという事の方が素性を隠している貴族よりも生徒らにとってインパクトが強かったのだ。
ヴァリエールの使い魔だったはずの亀と親しくし、平民にまでわけ隔てなく接する成り上がりをプライドの高いトリスティン貴族の子女が無視できなかったとも言えるのかもしれない。

何故ヴァリエールの亀と親しいのか、疑問に思う声も囁かれる食堂の中を抜けてルイズはテラスでタバサとサラダを食べているジョルノの元へ歩いていった。
同じテーブルに着いているのは先日ルイズと共にフーケ討伐に向かったタバサと、平然とサラダを食べるジョルノから目を背けるラルカス、ジョルノを唖然とした表情で見るテファの三人だった。
ポルナレフがいなくてホッとしたが、逆にどこにいるのか少しひっかかりを覚えたルイズは、彼らの顔つきを見て内心首を傾げた。
天気もよいし、適度に風が吹いていてとても気持良さそうな空間にそぐわない態度は奇妙に感じられる。
だが妙に思ったルイズは、接近に気付いて顔を上げたジョルノが持つフォークに刺さるはしばみ草を見て、心で理解した。

はしばみ草…極々一部の愛好家がいるのは認めるが嫌いな野菜ナンバー1の座を数千年独走し続ける野菜の王様が、朝日に照らされて口の中が苦くなりそうなその姿をルイズにこれでもかと主張していた。

「お、おはようございます。伯爵…朝からはしばみ草なんて、ヘヴィ過ぎません?」
「おはようございます。馴れてくると独特の味が癖になってきます。栄養は満点ですしね」

ジョルノの返事と、何気に隣に腰掛けているタバサがわかったような顔で頷くのを見て、ルイズはげんなりした。
だが用件は済まさなければならない。ルイズは許可を求めてからジョルノの正面に腰掛けた。
朝の清清しい空気を胸いっぱいに吸い込み、真剣な表情で見つめる。

「伯爵「ジョナサンで構いません」…ジョナサン。貴方は舞踏会の夜、私の系統について心当たりがあるとおっしゃいました」

舞踏会の夜の事を思い出しながら、確認するように言うルイズにジョルノは頷いた。
ルイズの系統は恐らく始祖の系統だと舞踏会の夜ジョルノはルイズに告げた。

伝説の系統がゼロと蔑まれてきた自分の系統であるという話は、到底信じられない話だった。
ジョルノ以外が言ったら一笑に付していただろう。
だが、ジョルノは家族以外は…家族さえも諦めていたカトレアを治療してのけた男だった。
だから肩にとまる小鳥という形で自分の使い魔との関係を一方的に清算したルイズは、ジョルノに話を聞きに来た。
ルイズは同じテーブルに着く者達をチラッと見て言う。

「それについて詳しくお聞きしたいんです。お時間をいただけませんか?」
「彼らがいても良いのでしたらこの場でお話ししましょう。お嫌なら今晩か明朝、学院の中庭でなら時間を作れますが」
「…その、この方達に一旦席を外していただくことは」
「ルイズ。先日までの貴方ならそうしてもよかった」

残念そうに言うジョルノは、唇についたサラダのドレッシングの油をハンカチで拭い、ルイズの肩にとまる鳥を見る。

「だが、タバサ達の方が先約だし、その使い魔を選んだ貴方の為に皆に紅茶を持って向こうに行ってくれとは言えません」
「ぅ…わかりました。今夜、中庭ですね」

反論しようとするルイズに首を横に振ったジョルノは既に頼んでいたらしいメイドが持ってきた紅茶を付け取る。
ルイズは唇を噛みながら席を立とうとする。
だがそれより先にタバサが席を立った。

「飲み終わったから、私は向こうに行く」
「わ、私も…向こうに行ってるから。ルイズさんとゆっくり話して」

続いてテファが立ち上がったのを見て、ラルカスも仕方ないなと言いたげな仕草をして立ち上がる。

「じゃあ私も今のメイドをナン「少し遅れますのでかわりに仕事をしておいてください」…いえすさー」

ラルカスにだけ釘を刺して、錆び付いた飾り気の無い剣を手渡すジョルノを見ながらルイズは心の中で彼女らに礼を言った。
肩にとまった小鳥を撫でながらルイズは席に座りなおす。

それを待って、ジョルノは口を開いた。

「呪文を覚える方法は始祖の秘宝を手に入れることです」
「始祖の秘宝?」
「ルビーとそれ以外の宝です。この国にあるのは水のルビーと始祖の祈祷書ですね」

テファの名前は伏せたまま、テファから聞いた話から推測した事をジョルノはルイズに説明していく。

ルビーをつけてオルゴールを開けた時にテファは忘却の呪文を覚えた。
王家に伝わる秘宝とか…テファが言っていたので調べてみた所、それは二つとも始祖の秘宝でありルビーと呼ばれる秘宝は他の王家にも引き継がれていることが確認できている。
三人の子供と一人の弟子が開いた四つの国にある四つのルビー。
テファが歌った歌…

"神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。

四人の僕を従えて、我はこの地へやってきた……。”

歌を裏付けるように先日ロマリアの枢機卿からは、始祖は己の強大な力を4つに分け、秘宝と指輪に託しました。また、それを託すべき者も、等しく4つに分けたのです。
その上で、始祖は「四の秘宝、四の指輪、四の使い魔、四の担い手……、四つの四が集いしとき、我の虚無は目覚めん。」

そんな言葉を残していると教えてもらってもいた。

話を聞かされたルイズの方は、ジョルノが情報の入手経路などを隠したせいで半信半疑だった。
自分がそうであるかさえ疑っているというのに、虚無の担い手は他にもいる可能性があるなどといわれても信じられるわけが無い。
それを察したジョルノは奇妙なことだが、ルイズをまるでちい姉さまのように安心させる声で言葉をかけた。

「半信半疑なようですね」
「失礼ながら…それに始祖の秘宝なんて私が持つ機会は…」

ルイズの家は王家とも血の繋がりがあり、このトリスティンでも有数の貴族だが王家ではない。
その上ただの学生であるルイズに王家の秘宝に触れる機会が生涯を通して存在するかどうかといえば、限りなく低いとルイズは考えていた。
だがジョルノは「既に半分はクリアできる状態です」と告げた。

「今の状況が続けば恐らく貴方が祈祷書に触れる可能性は十分にあります。ルビーに関しては私に心辺りはありますが…」
「今の状況って、どういう意味でしょうか?」

理解が追いつかないまま尋ねるルイズにジョルノはすぐには返事を返さなかった。
少し考える様子を見せ、他人には聞かせられないということをわざわざ周りに人がいない事を確認してルイズに伝えながらジョルノは少し声を潜めた。

「(これは内密な話です)ゲルマニアの皇帝とこの国のアンリエッタ王女が結婚する話が進んでいるからです」
「なんですって!?」

ある意味ルイズが虚無であると言う事以上に突拍子も無い事を聞かされたルイズは、激怒して席を立ち上がった。
アンリエッタ王女は先の王が忘れ形見であり、民衆の人気も高く「トリスティンの可憐な花」など彼女を称える言葉は限りない。
対してゲルマニアの皇帝は、ゲルマニアを野蛮な国と蔑むトリスティン貴族にとってはゲルマニアの皇帝と言う時点で既にありえない。
しかもそのお相手であるゲルマニア工程と言えば、権力争いの末に親族や政敵をことごとく塔に幽閉し、皇帝の座に就いた40代の男なのだ。

「私をからかっているの…!? 姫殿下が」

怒りに染まった表情で顔を寄せてくるルイズの口を押さえ、ジョルノは座るように言う。

「声を抑えて座ってください。この国の伝統で王族の結婚式には貴族より選ばれた巫女が『始祖の祈祷書』を手に式の詔を読み上げる習わしになっています」
「だから…! どう「同じ事を言わせないでください。次に大声を上げたりしたらこの話はここまでです」…ッわかったわ。だから教えて。どういうことなの?」

低い声で言われ、ルイズは周りを見る。
大声を上げたルイズに食堂から視線が集まっていた。
悔しそうな顔でルイズは席に座りなおす。紅茶を飲みながらジョルノはその事についても説明を始めた。

アルビオンで起きている内戦は貴族派の勝利で終りそうな事。
次はトリスティンに攻め込む可能性が限りなく高く、トリスティン一国ではそれを防ぐ手立てはないということ。
自分の魔法のことなどどーでもよくなるような事を淡々と説明するジョルノに、ルイズの血の気は引いていった。


アルビオンで戦争が起きていることは知っていたが、王家への忠誠心が厚いルイズは王党派が勝利すると考えていたし、
所詮は対岸の火事として、既に過ぎ去った話題に過ぎなかった。
どんな状況になっているかなんて気にも留めていなかった自分をルイズは恥ずかしく思った。

ルイズは昔、アンリエッタの遊び相手だったことがある。
その頃の思い出は今もルイズの小さな胸の中で輝いているのに…

「そういうわけですから、今はあの爆発を上手く使うことを考えてはどうでしょう?」

ルイズがアンリエッタの事を考えている間もジョルノは説明を続けていたらしく、我に返った時には最後に締めくくる言葉を告げられていた。
自嘲気味な笑みがルイズの顔に浮かんだ。

「上手に使うですって? 失敗して爆発してるだけじゃない…!」
「仮にそうだったとしても、貴方は爆発について良く知るべきだ。モノは使いようです。全ての魔法で全く同じように爆発するのか。爆発する場所は指定できるのかなど…細かく特性を調べることです」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ。姫殿下の為に何かしないと…何か、できることは無いのかしら」

自分の悩みなど忘れたように言うルイズに、ジョルノは首を振って個人の力でどうこうできる問題ではないと忠告する。
今のルイズの力では及ぶはずもない。

「ですが彼女は今度この学院に訪れる事になっています。貴方が彼女の友達であるなら、彼女の心を慰める事はできるかもしれない」
「姫殿下がこの学院に?」
「急な訪問らしく、今日の午後にはオールド・オスマンの所に連絡が届くはずです」

言葉の端々からルイズを気遣っているんじゃないかという気がしたが、ルイズは眉をよせて怪訝そうな表情を作っていた。
自分が知らない情報を幾らか知っているのは、既に一人の貴族として大人達に交じっているジョルノなら当然かもしれない。
だが、王女の今後の予定まで知っているものだろうか?

「…貴方、何者? 姫殿下の予定まで知ってるなんて」
「情報を集めるのは商売の基本です。それよりもルイズ」

得たいの知れなさから疑いを持ち始めたルイズを見つめ、ジョルノは言う。

「ここまで話したのは、貴方だからです。軽々しく他人に話さないと信じて構いませんね?」
「も、勿論よ。私は貴族よ? 軽々しく他人に話したりなんてするわけないじゃない」

静かな口調に何故か気圧されるものを感じながらルイズは返事を返した。
一つ頷き、ジョルノは予定が詰まっているからと席を立つ。
去っていくジョルノを目で追いながら、ルイズは好きでもない相手と結婚させられるアンリエッタと何年も連絡の無い、親が決めた婚約者のことを思い出していた。

ルイズと別れたジョルノはテファ達と合流して、その日は勉強をした。
テファ達が組織に参加することが決まってしまった以上、何か仕事を振らなければならない。

だが今もっている技能だけで参加してもらう気はジョルノにはなかった。
まずは地球の学問を学んでもらう。マチルダ程の土のメイジが地球の学問を習得すればどうなるかを考えると楽しみだった。
幸いというか、ジョルノの亀の中には図書館ほどの蔵書がある。
そんなものがあるのは仲間の死を引き摺っていたフーゴが発端だった。
一度仲間から抜けてしまったが、フーゴの頭脳はジョルノ達に必要だった。
暗殺チームを失い、ペリーコロが自殺。親衛隊などにも多数の死傷者が出たパッショーネの為にフーゴは力を尽くしてくれた。
ある時そんなフーゴが、その途中必要になっていくだろうと勉学に勤しみ始めたと聞き、ポルナレフとミスタの音頭で強力に支援してみたことがあった。
だが、結果はこんなにいらないと断られ死蔵することになった…ジョルノもある程度個体差があるとはいえ亀数匹を犠牲にしても余る量を発注した二人を見た時は頭がどうかしたのかと思ったものだ。
幹部になり突然大金を持ったからと言って調子に乗って無駄遣いしちまったらしいが…煽てられて買わされるにも限度があるだろう。
こちらに着てからはそれが案外役に立っている。
別の場所で何人かの手で訳書も作成させているのだが…話が逸れたが、要するにジョルノとしてはマチルダにはコルベールや既にネアポリス領内に集まっているメイジ達と合流し、研究を行って欲しいと考えているのだった。
そしてテファには政治や経済などを学んでもらいたいと考えていた。

「テファ、貴方は政治や経済を学んでれると助かります。余りにもできないのも困りますからね」
「が、頑張るわ」
「僕の所に来る文書にもある程度は目を通してもらう事になります。教師役は、今はラルカスにお願いしましょう」

ラルカスは頷くが、内心はちょっと面倒だったりもする。
何せ現場に出て勢力を拡大したり統治したりもしているし、ネアポリス領内で優秀な水のメイジとして研究にも参加している。
地下水と交代できるとはいえそれなりに忙しいのだ。
だがまぁ、目の保養になるからいいか、とラルカスは安請け合いした。

「だが、いいのかボス。イザベラ様の教育係に既に頭の回るのを一人振ったのだろう?」
「イザベラ王女を味方にすることには、それだけのことをするメリットがあります。二番手三番手だった者達に発破をかけ、ジョゼフ王が潰した元貴族達を更に集めさせて対応します」
「恩を売るだけなら他の奴でもいいと思うがな。アイツきっとイザベラ様の鼻っ柱叩き折る所か砕いて塵も残さんぞ」
「それでいい。そこから這い上がってきてこそ、信頼できる」
「アンタ、ガリア王女にも手を出してんのかい?」

そうかいとラルカスがため息をつく間にマチルダが剣呑な声を出したが、ジョルノはええ、と返事を返し話を続ける。
普段ならというか、これまでこんなことを話したことはなかったのだが、テファ達が加わり近況は知らないポルナレフがいるのだから仕方がなかった。
眉を寄せるマチルダの前にポルナレフは何も言わずに酒を置く。
何も言わずに一気に飲み干すと、マチルダは二杯目を要求した。

「話を続けますよ。先日、打診していたヴァリエール家などから協力を取り付けましたので、ネアポリス銀行を開く目処が立ちました」
「はぁっ?」

聞くことに徹しようかと思っていたポルナレフは、ジョルノの突拍子も無い発現に耳を疑った。

「ジョルノお前、そんなことまでやる気かよ。てっきり俺は…」
「飲む、打つ、買う。では市場規模が小さすぎるんですよ。僕の目的を果たすにはとても足りない」
「目的? ギャングになるってことじゃねぇのか?」
「それは夢の話です。ゲルマニアの工場などは稼動していますし、各国の商会も順調に成長していますが…研究にもお金がかかりますからね。そろそろもう少し手を広げておきたいんですよ」
「だからって…上手くいくのかよ?」

ポルナレフは幾らなんでも無茶だろと考えているようだが、ジョルノは力強く頷いた。
ゲルマニアには多額の金を抱える者が出てきている。金を手元に抱え込むリスクを懸念した金所有者から既に預かり始めてもいた。

「…商会?」
「はい。アルビオンの戦争で儲けるには必要でしたからね。思ったより長続きしてくれたお陰でそれなりの利益はでました」
「えげつない真似したんじゃねーだろうな?」
「ええ。誠実に商売させていただきましたよ。いい取引ができました」

どちらとも取れる返事を返すジョルノに業を煮やしたポルナレフはラルカスに視線を送る。
ラルカスはそれを予想していたのか、既にポルナレフに触れない方がいいという意味を含んだ生暖かな視線をポルナレフに送り返していた。
ちょっぴり買い占めて値段を吊り上げる位当たり前と考えていたっておかしくはないと、ラルカスは思っていた。

「戸籍が怪しい者もいますが、回収は最悪パッショーネを使います。ゴールド・エクスペリエンスで生み出した植物の栽培を始めた貴族も多数いますから需要はあります」

クンデルホルン大公国からは睨まれそうですが、とジョルノは肩を竦めて言う。
二人の会話にテファ達はついていく事ができずにいた。テファがジョルノの手を引く。

「ジョルノ。銀行って?」

首を傾げるテファの反応はもっともだった。
ハルケギニアではまだ銀行という概念が無い。
貴族達が借金を申し込む相手は、クンデルホルン大公のように金を持った貴族だし、ようやくゲルマニアで溜めた金を奪われる懸念ができる者達が出てきた程度だ。
一言で言えば預金の受入、資金の移動(決済)や貸出(融資)、手形・小切手の発行などを行う金融機関と言うだけでは済まないだろう。
だからジョルノはとても簡単に言う事にした。

「とても簡単に言うと他人からお金を預かって、それを必要としている他人に貸してあげる仕事です」
「そう…他人の役に立つ仕事なのね」
「勿論です。ちょっぴりだけ貸したお金に利子をつけて貰ったりしますけどね」

払えなかったら担保も頂くし、逃げたら逃げたでパッショーネの怖いお兄さん達がやってきて逃げる気がなくなる程度に体で払ってもらう事になるでしょう…メイジはいい労働力になりますからね、とはジョルノは言わなかった。
貸す時には勿論、肉体の一部は徴収しておく予定なので、最後には捕まえられるだろう。

まだテファには言わなくてもいいだろうと考えたからだが…言わなくても、マチルダ達には伝わったらしく引きつった顔をしている。
ポルナレフはもう何か、悟ったような顔にも見えたが。
その視線に不服そうな態度でジョルノはその後も日が暮れるまでテファ達の教師役と普段通りの仕事をこなしていった。

夜になり、日中悩んでいたルイズは学院内を歩いていた。
授業中ずっとジョルノに言われた事を考えていた。
お陰で既に舞踏会などのイベントも終わり、引き締めを行おうとする教師達の目にはばればれで軽い注意をされてしまった。
アンリエッタの為にすぐになにかがしたいという気持ばかりが逸り、眠れそうになかった。

「こんな時にいれば話相手位にはしてあげるのに。まったく、どこほっつき歩いてるのかしら?」

既にポルナレフはジョルノの所で寝泊りしている。
別にまだルイズのところにいても構わなかったのだが、小鳥が着てから同じ部屋にいるとちょっぴり切ない気分になるからだった。

この場にいないポルナレフをなじりながら、ルイズは歩いていく。
その足が女子寮を抜けても止まらずに、学院の本塔へと向かい始めた時だった。
ルイズは中庭で動き回っている影を見つけた。

不審者かと思い、ルイズは身を隠そうとしたが、それが誰かはすぐに判明した。
それはジョルノとサイトだった。
二人共重そうな荷物を抱えて、走っている。
ジョルノから離されているらしいサイトは今にも死にそうだったが、ジョルノも辛そうにしていた。

そこから少し離れた所に、ポルナレフの亀がいた。
少し躊躇ってからルイズは彼らのところに歩いていく。
足を止めかけたサイトが、ルイズに気付き声を出そうとしてむせ返る。

「ん? …ルイズ」
「ポルナレフ…こんなとこでなにやってるの?」
「あ、ああ…サイトの奴が体力が無いんでな。少し鍛えてやってるんだ」

微妙な態度のポルナレフに、ルイズは不機嫌そうな言い方をする。

「伯爵もおられるけど?」
「アイツはこっちに来る前からやってたみたいだがな。理由は知らん」

ジョルノを見てみると、背中に荷物を手にも何か抱えてまだ走り回っていた。
なぜかその姿は何かを振り払おうとしているように、ルイズには見えた。それが何かはわからなかったが。
サイトがまだむせているのを見てポルナレフが声を出した。

「サイトッ! 今日はもう上がっていいぞ!」
「う、うぃっ…ウッ」
『サイト! 頼むから俺の体にだけは吐くんじゃねぇぞ!?』

急に運動をやめた反動か苦しそうにするサイトにポルナレフはため息をつく。

「あのみすぼらしいの、もしかしてインテリジェンスソード?」
「ああ、デルフって言うらしい。なんか用があったらしいんだが、物忘れが激しくて使い物になりそうになかったんでな。俺が無理言って借りた」

錆びた長剣は柄をカタカタ鳴らしながらサイトに話し掛けているが、サイトの方に返事を返す元気はないようだ。
ポルナレフはそれを見て苦笑を漏らしたような調子で続けた。

「案外気もあうようだし、サイトの教師としちゃ悪くないさ」
「ほっといていいの?」
「サイトの野郎はほっといても大丈夫だ。直にシエスタが来るからな」
「シエスタ?」
「学院のメイドだ。困ってるサイトを助けてくれてからの仲らしいが、結構お似合いなんだぜ?」

ルイズは返事を返さずに自分の使い魔になるかもしれなかった平民を見る。
今朝ジョルノに、その事で咎められたことが思い出される。
確かに、貴族として余り褒められた事じゃないと思ったが、仕方ないじゃないと自分に言い訳をして視線を外した。
ポルナレフの言うとおり、メイドがやってきてサイトを世話しているせいか…余り酷い状態でもなさそうなので罪悪感は幾らか薄れた。

「…使い魔のことだが、俺は気にしちゃいないぜ」
「な、何言ってんのよ。誰もそんなこと言って無いでしょッ」
「そうだな。だが、なんか俺の手が必要な事があったら言ってこい。俺はコレでも腕には覚えがあるからな」

少し寂しそうに言うポルナレフを見ないように、ルイズは走るのをやめ虚空に向かって殴ったり蹴ったりしているジョルノを見る。
ルイズにスタンドが見えれば、そこにジョルノに関節技を仕掛けようとするマジシャンズ・レッドの姿が見えただろうがルイズには見えなかった。
勿論本気でやったら生身のジョルノなんぞ軽く捻れるんである程度加減はしていたが。

「調子に乗りすぎよ。あ、アンタはもう私の使い魔じゃないんだから余計な事は考えなくっていいわ」
「そりゃそうだが、俺がルイズに手を貸してたのは別に使い魔だからじゃあないからな」
「じゃ、じゃあなんだって言うのよ?」

意外な返事を聞いたルイズが動揺している姿を見れば、少しはポルナレフも気分がよくなったかもしれない。
けれど、実際はそれを邪魔するようなタイミングで、隙をみせたマジシャンズ・レッドの腕を取ったジョルノが、普通の人間だったら腕をへし折られかねないやり方でマジシャンズ・レッドを倒そうとする。

「ん? チッ、ルイズ。話は後だ。俺はあのクソガキに年季の差を見せ付けてやらなきゃならねぇ。生身だから手加減してやれば調子に乗りやがって」
「ちょ、ちょっと…! …答えなさいよ」

ルイズが声をかけてもマジシャンズ・レッドのコントロールに集中し始めたポルナレフの耳には届かなかった。
アンリエッタのことを相談しようか考えていた事など忘れて、ルイズはないがしろにされた怒りに任せてその場から離れていく。
ポルナレフが気付いた時には、ルイズの姿はもう女子寮の方へ消えていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー