ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

事件! 王女と盗賊……そして青銅 その①

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匿名ユーザー

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事件! 王女と盗賊……そして青銅 その①

「ジョータロー。ちょっと『腕』を出してくれない?」
朝っぱらからいきなりルイズが意味の解らない事を言ってきた。
いぶかしがりながらも承太郎は右腕を差し出す。
「違う! そーじゃなくって、ほら、ギーシュのゴーレムをやっつけた『腕』よ」
「……見せる理由がねーぜ」
「あるの! あの『腕』を使えば色々できそうじゃない」
「……俺に何をさせる気かしらねーが……つき合うつもりはねーぜ」
「いいから『腕』を出しなさい! 他に何かできる事があったら正直に話して」
「話すと……思うのか? わざわざ自分の能力を」
「だって、私、あんたのご主人様だもん。知る権利はあるわ」
「俺はおめーの使い魔になった覚えはないぜ」
「それでも使い魔のルーンだってちゃんと……って、どこ行くのよ!」
「朝飯だ。ついでに洗濯に行ってくるぜ」
ルイズの洗濯物をかごに入れて、承太郎はとっとと出て行ってしまった。

そして厨房の前でシエスタにルイズの洗濯物を渡した承太郎は、シエスタから奇妙な質問をされた。
「ジョータローさんはいったいどんな『芸』をするんですか?」
「……言ってる意味が解らねーな、何の話だ?」
「何って、品評会ですよ」
品評会とは、二年生全員参加の催し物で、
生徒達が召還した使い魔を全校にお披露目するイベントらしい。
さらに今年はどういう訳か、トリステインの王女アンリエッタが、直々に品評会を観覧しに来る事になったためみんな張り切っているそうだ。
アンリエッタ姫は、この国の国王が死んでからは国民的象徴で、非常に人気が高く、とても美しく、清楚で慈愛にあふれた人柄らしい。
生徒達がいいところを見せようというのもうなずけるというものだ。


「なるほど……それでルイズはあんな事を言ってきたのか」
「ジョータローさんは『スタンド』っていうのをお見せするんですか?」
「いや、俺の『スタンド』は見世物にするもんじゃねーし、色々不都合がある」
「そうなんですか。私も見てみたかったのに、残念です」
「……シエスタ。悪いが俺の『スタンド』の事は内密にしてくれ。
 あんまり人に知られたくねーんでんな」
「ええ、いいですよ。でもそれじゃあ、ジョータローさんはどんな芸をするんです?」
「俺は品評会とやらに出る気はねーぜ、悪いがふけさせてもらう」
「ミス・ヴァリエールがお怒りになると思いますが……」
「ほっときゃいーんだよ」
「さすがジョータローさん……勇気がありますね……」
こんな調子でシエスタとなごやかに会話をしつつ、
承太郎は今日もシエスタに食事の世話をしてもらう。
初日はお礼にデザート配りを手伝ったが、貴族達の態度は気に入らないし、またトラブルに巻き込まれるのも面倒なので、承太郎は薪割りを約束していた。
食後、承太郎は厨房の裏に行って薪を集め、周囲に人影がない事を確認してから、すぐれた精密動作性を持つスタープラチナで次々と薪に手刀を叩き込む。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオララララララララッ!!」
すると用意された鉈なんか使わなくても、綺麗に割れた薪が山となる。
一度に割りすぎて仕事が無くならないよう、適当な数で薪割りをやめ、承太郎は学院の庭でのんびりと空を仰いで考える。
異世界から来た――という話を、ルイズ以外の誰に伝えるべきかを。
下手に信用ならない貴族に話したらどうなるか解ったもんじゃない。
しかし元の世界に帰る手段を真剣に探すとしたら、やはり学院の教師や大人の貴族に頼るべきだ。
もしアンリエッタ姫とやらと何らかのつながりができて、王家が力を貸してくれたら心強いとも思ったが、
そう簡単に協力関係を結べるとは思えないし、自分のスタンド能力を知られたらメイジ達の研究材料にされるか、もしくは何らかの形で利用されるだろうとも考えていた。


考え事をしてしばらく時間が経つと、生徒達が使い魔を連れてやってきて、それぞれ使い魔に芸の練習をさせ始めた。
その中にギーシュの姿を発見して、生徒達の中に入っていく。
当然身長が高く異国の服を着ている承太郎は目立ってすぐ見つかり、好機の視線を四方八方から向けられる事となる。
ギーシュもすぐ承太郎に気づいて、思わず後ずさりする。
何の用だろう、怖い。
ルイズとの賭けを邪魔した一件は、ソファー没収でケリがついてはいるが、本当にそれだけでおしまいだろうかとギーシュは不安だった。
「や、やあジョータロー……」
「おめーも品評会の練習か?」
「ま、まあね。優勝は僕のヴェルダンデで間違いないよ」
「で、そのヴェルダンデってのはそこにいるモグラか?」
ギーシュの隣の地面の穴から、顔を出している巨大モグラが、肯定するように鼻をヒクヒクさせた。
「どうだい、美しいだろう! まさに僕にピッタリの使い魔さ!」
「…………」
承太郎はヴェルダンデを見た。
モグラである。愛らしい瞳で自分を見つめ返してくる。
ちょいとデカすぎるが、一応『可愛い』と呼称する事は可能だろう。
だが『美しい』とはかけ離れている。
ギーシュの美的センスがズレているのか、それともこの世界の美的センスがズレているのか。
直感的に前者だろうと承太郎は思った。
ギーシュを見ていると、なぜか本能が勝手にそうだと確信する。


「ところで……その、ジョータロー。君は出るのかい? つまり……品評会に」
「馬鹿も休み休み言いな。出ると思うか? この俺が」
「いや、ちっとも……」
ギーシュはその場にしゃがんで、ヴェルダンデの頭を撫でた。
「しかし……今年はアンリエッタ姫殿下がおいでになられる。
 品評会で、使い魔が主にさからったとか、使い魔が品評会に出ないとか、そんな事になったらとてつもない恥をかく事になってしまう。
 君は平民とは思えないすごい力を持ってるんだから、きっといい評価が――」
「知るか。俺は見世物になる気はねーんだ、ばっくれさせてもらうぜ」
「あ、ちょっ、ジョータロー!」
会話を一方的に打ち切って承太郎はとっとと立ち去ってしまう。
直後、ギーシュの友人達が寄ってきた。
「ギーシュ! ずいぶんと腰が低いな。まさかあの平民の舎弟になったのか?」
「まるでご主人様と使い魔みたいだったぞ! それでもメイジか」
わずらわしそうに薔薇の杖を抜いて構えたギーシュは、突っぱねるようにして言い返す。
「君達にどうこう言われるいわれは無いな。それとも君達も彼と決闘してみたらどうだい?」
すると、だ。友人達は一瞬強張った表情を見せたもののすぐふんぞり返る。
「ば、馬鹿言うなよ。平民なんかと決闘するだなんて、そこまで暇じゃない」
「それに決闘は校則で禁止されてるしな。うん」
ようするに承太郎が怖いのか、とギーシュは呆れ返った。
しかし、自分も承太郎の実力や恐ろしさを知っていたら、決闘なんか挑まなかったろう。
何だ、結局自分も彼等と大差ないじゃないか。ギーシュは溜め息をついて薔薇をしまう。
「やれやれだね。行こうかヴェルダンデ、ここは騒々しすぎる」


翌日。アンリエッタ姫が学院に訪れた。
ユニコーンの引く馬車に乗り、学院の生徒達に笑顔を見せ手を振る。
その様子を承太郎は学院の塔の窓からスタープラチナの目で見ていた。
一応この国のお姫様の顔くらいは覚えておこう、という程度の気持ちでの行動だ。
シエスタの言っていた通り、国民的人気は相当のものらしい。
生徒達はみんな色めき立っており、とてもあの中に混ざる気にはなれない。
インドの貧しい国民が群がってくる方がずっとマシだ。あれはあれで気に入っているし。
そんな生徒達の中、ギーシュを発見すると、想像通りというか感動に震えているようだった。
ルイズも似たような反応をしているかと思ったら、頬を紅潮させて見つめつつも、他の生徒達とは違う何か思い入れのようなものを感じられた。
そして気のせいだろうか、アンリエッタ姫が一瞬だけルイズに視線を向けたように見える。
その理由が判明するのはその日の晩になってからだった。

「ねえジョータロー。ちょっと『腕』を見せなさい」
「断る。何度頼まれよーが、俺の能力を見世物にする気はねー……」
「姫様の前で私に恥をかけっていうの!?」
「しつこいぜ、俺は――」
そこでドアがノックされ会話が断たれる。
承太郎はソファーにふんぞり返り、我関せず、という態度を見せた。
ノックは規則正しいものだった。初めに長く二回、続いて短く三回。
ルイズがベッドから飛び上がり、急いで寝巻きのキャミソールの上にブラウスを着た。
ドアを開いて来客を招き入れると、頭巾を被って顔を隠した少女は口元に人差し指を立てる。
「……あなたは?」
ルイズの問いに答えず、少女はマントから魔法の杖を取り出して振る。
同時にルーンを呟いて、光の粉が部屋に舞った。
「……ディテクトマジック(探知)?」
「どこに耳が、目が光っているか解りませんからね」
そう言ってフードを脱いだ少女の顔に承太郎は見覚えがあった。
それを肯定するようにルイズが慌てて膝をつく。
「姫殿下!」
「お久し振りですね。ルイズ・フランソワーズ」
そう言って姫殿下、アンリエッタは感極まった表情でルイズを抱きしめた。


「ああ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へお越しになられるなんて……」
「そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい。あなたとわたくしはお友達じゃないの!」
それから二人は長々と過去の思い出話に花を咲かせ始めた。
どうやらルイズは幼い頃、アンリエッタ姫の遊び相手をしていたらしい。
ルイズは王家へ取り入るだとか、そういう欲を持たず、敬意を払いながらも純粋にアンリエッタへ友情を抱いていたらしい。
だからこそアンリエッタもルイズだけは特別な唯一の友達として大切に思っているようだ。
関わると面倒くさそうだし、水を差すのも悪いと思って承太郎は無視を決め込んでいた。
だが、承太郎が無視していてもアンリエッタがふとした拍子に承太郎に気づいてしまう。
「あら、ごめんなさい。もしかしてお邪魔だったかしら?」
「お邪魔? どうして?」
「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?
 いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相を……」
「ちちち、違います! そこにいるのは、私の『使い魔』なんです!」
「使い魔? 人にしか見えませんが……」
「人です。姫様」
「そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ。
 あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」
「好きであれを使い魔にした訳じゃありません」
アンリエッタと話しながら、ルイズの心臓はドッキンドッキン脈打っていた。
ここでもし承太郎が「おい! 俺はてめーの使い魔になった覚えはねーぜ!」とか言ったら、敬愛するアンリエッタ姫殿下の前でとてつもない大恥をかいてしまう。
それだけは、絶対に、やだ。
「でもすごいわ。人間を使い魔として召喚するなんて歴史上初めての事かもしれない」
「は、はは……。ありがとうございます」
「もう夜も更けてまいりましたし、わたくしはそろそろ。
 使い魔さん、明日の品評会、がんばってくださいね。ではおやすみなさい」

アンリエッタがやって来て、出て行くまで、終始無言の承太郎だった。
ルイズは大きく息を吐いて、ベッドに戻っていく。
いちいちブラウスを脱いでから承太郎に向き合った。
「……ジョータロー。あんた、姫様から『がんばって』なんてお言葉をいただいたんだから、 明日の品評会……絶対に出なさいよ。
私はともかく、姫様を侮辱したら、許さないから」
「…………」
「解ってるの? 姫様からあんなお言葉をいただけるなんて、大変名誉な事なのよ?
 平民どころか、貴族でも滅多に……ちょっと、聞いてるの? 姫様なのよ姫様」
「やれやれだぜ。つまり、明日の品評会とやらに出れば……問題はないんだろう?」
「え? そ、そうよ。問題ないわ。出る気になったの!?
 あんたの『腕』を見たら、みんなビックリするに違いないわ。杖無しであんな――」
「勘違いするんじゃねえ、俺は自分の能力を見世物にする気は微塵もねーぜ」
「だったら、あんた何する気よ?」
「任せな。とびっきりの『芸』を見せてやるよ。それを見て驚かなかった奴はいねえ」
「そ、そんなにすごい特技があるの? ちょっとやって見せてよ」
「駄目だ。それを見せるにはちょいと道具を使う……。
 数に限りがあるし、こっちの世界じゃ補充ができねえ。無駄遣いはしたくないんでな」
「ん~……じゃあ、どんな特技かだけでも教えなさいよ。実演しなくていいから」
「やれやれ……。こういうのは先に何をやるのか言っちまったら楽しみが半減するんだぜ。
 なぁに、心配するな。うまくやるさ。だからおとなしくベッドに入って眠りな」
「……解った。その代わり、明日、絶対成功させなさいよ」
「ああ」
自信満々で引き受けた承太郎を意外に思いながら、ルイズは嬉しそうに微笑んだ。
承太郎の説明を信じるなら、異世界の道具を使ったすごい特技に違いない。
他のどんな使い魔も真似できないような、姫様が感動するような、優勝するような特技。
明日の品評会は、もしかしたら人生最良の日になるかもしれないとルイズは思った。

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