ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ-22

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匿名ユーザー

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あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ。
お、俺はピザデブにキ…おぞましいことをされただけじゃなくご主人様宣言された。
な、なにを言ってるかわからねぇと思うが、俺にも何が起こったのかわからなかった。
かわいそうなやつとかガチホモとかじゃねぇもっとおそろしいものの片鱗を味わったぜ…!

俺は当然逃げ出した。
マントと着て杖持ったデブに迫られたら誰だってそうするだろ?
だけど、悔しいがそのデブは頭がかわいそうな奴じゃあなかったんだ。
逃げ出した俺はあっさり捕らえられた。
魔法で。魔法、ゲームとかに出てくるのとおんなじようなアレだ。
月だって二つあった…信じたくないけど、どうやらここは所謂ファンタジーの世界だったらしい。

月を見て実感した俺は、仕方ないから少しは話を聞く気になった。
僕だって儀式じゃなきゃっ血の涙をデブ…マリコルヌが流したからとか、ご主人様と呼ばれた瞬間げんなりした顔で、やっぱりいいよ…といったというのもある。

マリコルヌは俺が異世界からきたことは信じなかった。
まあ、そりゃそうだよなマリコルヌは俺の話を聞く気はないようだし、話をする気もなかった。
グヴァーシルがどうとかぶつくさ言ってたけどよくわかんねー。

俺が剣を握ったこともないというと、マリコルヌは何も言わなくなった。
俺には何も期待してないって態度だったぜ。
そしてどこで用意してきたかは知らないが、体裁が悪いからと剣と文字を覚える為の本を俺の目の前に積みながら、
マリコルヌは使い魔だから面倒は見てやるけど後は知らないと言った。

俺だってこんなデブの使い魔なんて続けるつもりは無かった。
返す方法なんてないとか言いやがるマリコルヌなんかにいつまでも付き合ってられるか!

「サイトさん、おはようございます。今日も剣の訓練ですか?」

そんな俺の心のオアシスは身近な所にあった。
考え事をしていた俺は、声の方へと顔を向ける。
そこには可愛いメイドさんが洗濯物を抱えて立っていた。

「おはようシエスタ! そうなんだ。ったく師匠は修行に関してだけはストイックで困るよ」
「そんなこと言っちゃダメですよ。せっかく教えてくれてるんですから」

…この世界のメイドさんはいいな。
か、かわいいし、胸も大きいし。

鼻の下を伸ばし始めた俺の背中が叩かれた。

「うわっ」

衝撃で学院の庭に吹っ飛ぶ俺の腹に、亀の甲羅がめり込む。
痛みでのた打ち回る俺に、亀から重っ苦しい声が発せられた。

「サイト、貴様には素振りを命じておいたはずだぜ」
「ゲホッゲホッ…! …い、いやそれは今からやろうと思ってたんだよ」
「シエスタの胸ばかり見ていたお前が覚えていたとは思えねーな」

俺の言い訳をあっさりと亀は切って捨てた。
今日も切れ味抜群の突込みだぜ。

「な、なんでそれをッ!?」
「アホがッ、ブラフだよブラフ」

そう言って再度頭が叩かれたような衝撃が俺に加わる。
赤くなって胸を押さえたシエスタが去っていく。

とってつけたような別れの言葉と足音だけが目の前がくらくらしたままの俺の頭に届いてきた…師匠、恨むぜ。

俺は亀を睨みつけ、マリコルヌから貰った剣を抜く。
練習用にはいいかもしれんが、大していい剣じゃないって師匠は言ってた。俺にはよくわかんねぇ。
重くて使いづらいのは十分身に染みたけどさ。
ずっしりとした重みを全身の筋肉を使ってどうにか支えながら俺は亀を見た。
ありえない話だが、この亀が俺の師匠だった。

ここに来たばっかりのころだった。
俺はまだこの世界の常識って奴をよく知らなくってさ。
ちょっと調子に乗っちまった俺が貴族共にやられそうになった所を、この亀が助けてくれたんだ。

『これこれ子供達…大勢で弱いもの苛めしてんじゃねーぞ!!』

これなんて逆浦島太郎?
なんて、助けられた時は唖然としたよ。
だけど話してみると気のいい亀で、実は俺と同じ世界から来たらしいってことやここでの暮らし方、それに生き抜くために剣も教えてくれる事になった。
名前は…長いんでまだ覚え切れてないから、俺は単に師匠と呼んでる。

「ったく、お前帰る気あんのか? メイドなんてナンパしてる場合じゃねえぞ」

師匠のため息に俺は誤魔化すように頭をかいた。
いわれて見れば確かに妙な話だった。
何故か俺は、こんなネットも風呂もないド田舎にいるのに不思議とホームシックとかにはかかってないんだよな。
字を覚えるのも速かったし…どうなってんだ?
疑問を宙ぶらりんにしたまま、俺は返事を返す。

「んー…それはそうなんだけどさ。やっぱ、モテると嬉しいじゃん。仕方ないって!」
「確かにあれは凶器だが…ハッ」

師匠、もしかしてアンタも見てたのか?
黙秘する亀からはわざとらしい口笛だけが聞こえてきた。
それを見て目を細めかけた俺の背中に気障ったらしい、芝居がかった声がかかった。

「使い魔君、めったな事を言うもんじゃない。彼はあのゼロのルイズの使い魔だったんだぞ?」

首だけ振り向くと案の定フリルの付いたシャツを着た案外顔はいい貴族が造花のバラを持って立っていた。

「ギーシュだっけ? どういう意味だよ」
「ッ…まあいい。ここでは無礼講だ」

なんでも決闘以来友達が激減し、相談相手が師匠しかいないとかいうそいつは平民の俺に呼び捨てにされて頭にきたようだが、一瞬俺を嘲笑うような目をして気を取り直した。
その視線の意味を問い詰めてやりたかったが、そいつが口の端を持ち上げて「マリコルヌの、使い魔君」と言った瞬間に理解できた。

コイツ、彼女持ち。
俺、呼び出されてマリコルヌにおぞましい事をされて、部屋一緒。

奴が感じている優越感を、言葉ではなく心で理解したぜ…!

「ゼロのルイズは胸もゼロなんだ。ゼロばかり見せられる毎日を送っていたんだから、ちょっとくらい大きい胸を見てもいいじゃないか」
「む…それは」

ギーシュの意見に、俺はすぐにイエスとは答えられなかった。

時々見る小鳥を連れたゼロと呼ばれている貴族の少女のことは俺もも知っている。
本当はアイツがお前の主人だったんだ、とマリコルヌが言ってたからな。

その女の子は、ぶっちゃけ可愛い。
魔法が使えないことなんてどうでもいい俺からすると、ちょっときつそうだが小鳥を可愛がる仕草とか、色々、可愛すぎる。
だから胸なんてどうでも、よくはないが、まぁいいのだ。失礼な言い方をするなら、許せる。

俺の微妙な気持に気付いたのか師匠が話しに入ってくる。
一応、気を使ってくれたのか?

「そんなことよりギーシュ。テメェ今度はなんだ? またモンモランシーがどーとか言う話じゃ」
「そーなんだよっ!! カメナレフッ!!」

師匠の質問に、ギーシュは芝生の上に膝をつき、ドンッと両手で手を突いて亀に顔を寄せる。
一々大げさな奴だ…

「モンモランシーが元気になったのはいいんだ! だけど、ゲルマニア貴族なんぞの毒牙にかかりそうなんだよ!」
「ゲルマニア? あぁ、ジョ…ナサンか」

ジョナサン…俺の家の近くにあったファミレスと同じ名前の貴族も、俺と同じ世界から来たらしいって師匠から聞いている。
手っ取り早く情報を集めるのに成り上がったりしてるとか、悩んでるような調子で言ってたから、よく覚えていた。

「そうだ! 奴めッ、既に、モンモランシ家に近づいていたんだ! モンモランシーは奴からの誘いを断れず…」
「いや別にそういう風には見えなかったが「いいやそんなはずは無い! でなければあのガードの硬いモンモランシーが…」てかお前、ケティとはどーなったんだ」

師匠のの言を力いっぱい否定したギーシュは、ケティの名を聞いて動きを止めた。
俺と師匠は何も言わなくなったギーシュに首を傾げた。
よく見ると少し汗をかき始めたように、俺達には見えた。

「舞踏会の夜僕は飲みすぎて酔いつぶれてしまってたんだ。
そして目が覚めると僕はケティの部屋で眠っていた…な、何を言っているかわから」

師匠は何も言わずにギーシュを殴った。
勿論俺はそれを全く止める気は起きず、寧ろ何かに殴られて転がっていくギーシュを踏みつける。

シャツに足型がついたようだが、それは天罰が足型になって現れたと思え。
俺は師匠に親指を立て「グッジョブ」とだけ言った。師匠も満足そうだった。

「痛ッ痛い! な、何をするんだ!?」
「黙れよ。テメェそういう関係になってまでまたなんだ? あん? 二股とかお兄さん許さんぞ?」
「ち、違う! 僕はケティに何もしていない…ちゃんと服は着ていたし、ケティも酔いつぶれたから運んだだけだって…!」
「「フーン」」

白い目をする俺達二人に、ギーシュは慌てて話を続けた。

「本当だ! なんなら後で彼女に確かめてくれ…! ともかく、僕は彼女の部屋で目覚めて焦ったんだがそういうわけだった。
僕はケティが淹れてくれた紅茶を飲んで部屋を後にしたよ…そして」
「そして?」
「ケティに見送られて女子寮から出る所を、モンモランシーに見られた。しかもケティはまだ寝巻き姿でね。
すっかり誤解されてしまったよ…まったく、美しいバラには棘がつき物だがあの早とちりは困ったものだね」

そう言って、また俺達にさんざ小突き回されてからギーシュはその時の事を説明する。

ケティがとてもいい笑顔で強張った表情のモンモランシーに「ミス・モンモランシ。おはようございます。こんな所で"偶然”お会いするなんて、びっくりしましたわ」
「そ、そうね。あ、貴方が早起きしてるなんて知らなかったわ」「最近、朝少し勉強をしているんです」ケティはそう言って、まだショックの抜けきらないモンモランシーからギーシュに一瞥を向ける。
「もう日課の方は済ませられましたの?」
何故か尋ねられたモンモランシーは、ギーシュを一瞬だが憎しみを込めた目で睨みつけ、笑顔になった。
「…ッ! え、ええ。ギーシュ…「う、うん?」ケティと仲がよくて羨ましいわ」
「ありがとうございます。でもミス・モンモランシーこそ……」

ケティは微かに、挑発するように重心を傾けてギーシュとの距離を詰めた。

「昨夜はとても素敵でしたわ。ネアポリス伯爵とぴったり息もあってらして、いつのまにあんなに親しくなられましたの?」

その言葉で昨夜見た光景、外国の成り上がりと踊る姿を思い出したギーシュが口を挟
「…我が家の領内で伯爵が事業をされてるの。それ以上の関係じゃないわ! は、伯爵は紳士的な方だし…、私そんな安くなくてよ」もうとした時既にモンモランシーが顔を赤くして否定していた。
恥らう姿は、余りギーシュが見たことの無い恥らう姿で、ギーシュは少し胃が痛んだ。
ケティは柔らかい笑みを浮かべたまま頭を下げる。

「それは失礼しました「そ、そうだよ。ケティ。由緒正しいモンモランシ家と出自の怪しい上に節度のない伯爵では釣り合うわけがない!
それにあの男、女連れで学院に来そうじゃないか!あんな軽薄な男とだなんて二度と言わないでくれたまえ!」
多少挙動不審になりながらモンモランシーの代わりに言ったつもりのギーシュを、モンモランシーは睨み付けた。
「ギーシュ…っ、失礼なことを言わないで! 私の家は今伯爵と協力してるんだから」
「な、「ギーシュ様、そろそろ行かれないと皆さん起きてきてしまいますわ」

激昂しかけたギーシュをケティが押し留める。
モンモランシーは既に美しい縦ロールをなびかせながら二人に背を向けていた。

「さよなら。またねケティ」
「ええ、ごぎげんよう」

…その時の事を語り芝居がかった様子で首を左右に振るギーシュへ、俺達二人は引きつった生暖かい笑顔を向けた。

「…お前それでよくそのジョナサン?とかいう貴族の事どうこう言えるな」
「あんな奴と一緒にするんじゃあない! 僕は今でも…」
「おっと、それならどうしてケティとまだ付き合ってるんだ?」

反論しようとしたギーシュは、師匠の質問を受けて苦虫を噛み潰したような顔をした。

「うっ…いや、それはだね。偶々言い出す機会がなかったというか、ケティもあの通り可愛いし、ね?」
「……師匠、俺はどう考えてもモンモランシーって娘とは切れたと思うんだぜ?」
「奇遇だな。俺もそう思う「ちょ…ちょっと待ってくれ! まだだ! まだだよ!! 僕はそろそろ本気を…」
「「無理だろ」」

膝から崩れ落ちるギーシュを置いて、俺達二人はシエスタの所に朝ごはんをたかりに行く。
野郎の浮気が原因の涙なぞ、俺達二人の足を止める枷にはなりようもなかった。


「私の分も忘れるんじゃないよ」

マジシャンズ・レッドを操作し、厨房へ亀を抱えて向かわせるポルナレフに気の無い言葉がかけられた。
声の主は、ここにいる間は不用意に外に出るわけにもいかないので現在ポルナレフと同居中のマチルダだった。
ポルナレフがサイトに剣を教えるのを邪魔するほど嫌な女ではないマチルダは、行儀悪くソファに寝そべったままジョルノが組織の人間用に作成させた問題集を解いている。
眉間に皺がよっているのを見て、ポルナレフはマチルダが解いている問題集を覗き込める位置へ歩き出す。

「わかってるさ。テファにもよろしくって頼まれてるからな。俺に任せておいてくれ」

最近、気分が若返ってきたのか昔のように自分の事を俺と言うようになって来たポルナレフの笑顔は爽やかだ。

「ならいいんだけどね」
「…俺が教えてやろうか?」
「アンタの世話になるほど落ちぶれちゃいないよ」

テキストを渡された時、娘同然のテファにもとても嬉しそうに"私が勉強を見てあげる”なんて言われたせいか、マチルダは反発した。
その様子に気付いて世話を焼こうとするポルナレフを拒否して、紙面をジッと睨みつける。
そうしていると何か頭に浮かんでくるような気がした。結局浮かびはしないのだが…
テファや孤児院の子供達までがやっていたと聞いて暇つぶしにやりだしたが、案外梃子摺っていしまい意地になってしまったようだった。

暫くいなかった同居人に冷たくされ、ちょっぴりだが傷ついたポルナレフは肩を竦めた。

 

その頃、日課の朝練を終えたトリスティン魔法学院の教師の一人『疾風』のギトーは食堂に向かおうとした所を彼が教える生徒達と変わらぬ年の伯爵に呼び止められていた。
最初、ギトーは生徒かと思い鬱陶しく思い首だけ振り向いて話を聞こうとした。
客人がいる事は聞いているが、それよりも自分が覚えていないできの悪いメイジの可能性の方が高いと思ったからだ。
だがそうではなく、ゲルマニア貴族のネアポリスだと聞いて、ギトーは体を少年へと向けた。
ヴァリエール家の次女が患っていた病を治療した優秀なメイジの名前は、ギトーの耳に入っていたからだった。
爽やかな笑みを浮かべながら、ネアポリスは信じがたいことをギトーに提案した。
不愉快そうな表情を作り、ギトーは聞き返す。

「私にここを辞めて貴様の軍門に下れというのか?」

ネアポリスは頷き、説明をする。
ギトーは話にならんと、鼻で笑って去ろうとしたが…奇妙な事に足は動こうとしなかった。

気持としてはココから逃げ出したいというのに!

逸る気持を抑え、感情を隠そうとするが、爽やかに微笑むネアポリスの見透かしたような目にギトーは射竦められていた。

疾風のギトー…彼は風のメイジとしてとても優秀だった。
若くして炎のトライアングルであるキュルケの炎を軽くかき消すことだって出来たし。
風のスクエアである『遍在』だって使えるスクエアメイジである。
魔法を使うセンスもいい方だった。

だが…彼はどうしようもなく"臆病"だった。

遍在で五人に増えることはできても、五人分の勇気でも周りのメイジ達の一人分の勇気に到底足りなかった。

授業でキュルケを弄ぶことはできるのだが、戦いに赴くとなると気持が萎んでしまう。
先日現れた格下のトライアングルである"土くれ"の相手などとんでもない。
この臆病さのせいで、フーケ討伐にも参加しなかった。
もしそんなものに参加していたとしても、ギトーは戦わずに逃げ出していただろう…ギトーには覚悟が無かった。

だが、ギトーには不幸な事に魔法の才能はあり、プライドだけは育ち過ぎ…虎の威を借りながら自分の本性は隠してきた。

平静を装い続けるギトーの心を、ネアポリスの危険な甘さを含んだ言葉が掴もうとしていた。
それを察したのか、2、3言葉を交わしネアポリスが去った後もギトーはその場所から動けなかった。

ギトーの説得を終えたジョルノは朝食に向かうギトーと別れ、人気のない広場へと向かった。
そこは奇しくもポルナレフが決闘を起こったのと同じ広場だった…朝という時間、それに皆食堂に向かっている時間であった為に人気は全くなく、誰かが覗き見をしているようなこともなかった。
ジョルノにはわからないが、オスマンの使い魔のネズミがジョルノの前に現れたということは、そういうことなのだろうとジョルノは思っていた。

建物の影に立つジョルノと目を合わせたネズミが二本足で立ち上がり、喋り出した。
その声は間違いなく学院長オールド・オスマンのものだった。

「ネアポリス伯爵、わざわざこんな場所に移動してもらって悪いのぅ…しかしじゃ、わしの立場や何を言いたいのかまで貴公ならわかってくれると思っておるんじゃが?」
「ミスタ・コルベール達のことですね」

ジョルノは頷いた。
ネズミ…モートソグニルからから話が早くて助かると、若干相好を崩したような雰囲気が伝わってくる。

「うむ。教員の引き抜きは止めてもらえんかのぅ…」

学院にとって血肉ともいえる教員を引き抜かれてはかなわない。しかもそれがゲルマニアによるものというのは、オスマンにも看破できぬ問題だった。
流石にコレが王国にばれたら問題にする貴族もいるかもしれないし、新たにスカウトしてくるのも面倒くさい仕事だった。

「わかりました…ですが、既に声をかけた方に関しては、彼らの意志に任せていただくのが条件です。既に彼らと私の間で約束を交わしました。声をかけた私が今更なかったことにすると言うわけにはいきません」
「勝手に引き抜きをしたそちらに問題があると思うがのぅ」

自業自得と切り捨てるようにきっぱりというネズミに、ジョルノは笑みを浮かべたまま言う。

「それをおっしゃるなら、貴方方が彼らを飼い殺しにしたから応じていただけた。という言い方も出来ますが?
ミスタ・コルベールの行動を、貴方は十年以上の時間があっても理解しなかった。そうですね?」
「むぅ…」

オスマンは苦い声を出した。辞表を出したコルベールを引き止めようとして、似たようなことを言われたからだった。

「わしもできれば穏便に済ませたいと考えておる。万事今まで通り何もなかった、と言う風にのぅ。勿論、辞めてまで何かしようとした彼らの要望には今後は耳を傾けるようにはするがの」

ネズミの目が鋭く細められる。広場の空気が密度を変えようとしていた。

「それを踏まえて、手を引いてもらえんかのぅ。今ならわしに貸し一つじゃよ君?」
「お断りします」

きっぱりと拒否するジョルノにネズミは眼光をより鋭いものへと変え、その小さい体でジョルノを威圧し始めた。
得体の知れぬ何かをネズミから感じ取り、ジョルノはそれを見定めようとネズミを見る。

「身の程を弁えろ成り上がり、貴様如き力尽くで従わせても構わんのだぞ」これこれモートソグニル、それではまるでわしが脅しておるようではないか。わしはタダお願いしておるだけじゃ、のう伯爵?」
「ええ。ですが、お断りすると言ったはずです。もう少し説明しなければいけませんか?」

圧力にもどこ吹く風と淀みなく返事を返すジョルノに、ネズミから発せられる何かが強くなった。
モートソグニルは、主人が止めるのも構わずに何故自分が一介の貴族如きに苛立たせられているのか考えずに、牙を剥いた。
風がネズミにまとわり付くように動き始めた。

「彼らとはよい関係を築きたいと私は思っている…約束は違えられない」
「ふむ…致し方ない「叩き潰せばすむと言ってやったのに、生意気な奴だ…!」

青い渦がネズミを包み、巨大な渦へと変わる。
そして風は不意に止んだ。
ネズミのかわりに巨大な竜が広場に現れていた。
シルフィードより何回りかは大きく、白い鱗が光を反射して輝いているようだった。
少し余った皮などを見て、もしかしたら年老いているのかもしれないと思ったが…見た目以上の何かを秘めているような凄みをジョルノは感じた。

「やめんか…!すまんの、伯爵。わしと離れておるせいかモートソグニルを押さえきれんようじゃ。この場は引いてくれんか?」
「三度も同じことを言わせる気ですか?」
「伯爵、挑発せんでくれ。拠点全ての精霊と反射の契約をしたエルフに向かって行ったメイジ達と同じ末路を辿りたいのなら止めはせんがの」
「反射?」

オスマンの、この場に相応しくない長い、説明的な例えにジョルノは首を傾げた。
系統魔法の本は幾つか読んでいたが、心当たりはなかった。
頭の中に浮かび上がったのは、久しく使っていない自分の能力の一つ。

「詳しくは話せんが、お主の攻撃はモートソグニルには届かぬのじゃよ。騙しておるのではない。また後日話し「なるほど。そういうやり方もありましたね」

ジョルノは合点がいったらしく、笑みを消して自分の胸元のボタンに触れた。

「ほっほ、中々博識じゃな。そういうわけじゃから、わかってくれたかの?」
「だが断る」

ネズミであった時より幾分余裕を持ったオスマンの声をジョルノはきっぱり断った。
竜の筋肉に力が入っていくのが、ジョルノの目に映る…ジョルノの肉体など一撃で粉々に出来るかもしれない。
だがモートソグニルは、攻撃するどころか「我をまといし風よ 我の姿を変えよ」 と唱え、元のネズミの姿に戻る。
不満げな様子でモートソグニルはジョルノから目を逸らす。だが口からは相変わらずオスマンの言葉を吐いていた。

「その凄み。ただのハッタリとも思えんの…いいじゃろう。じゃから、食堂にいるラルカス君に杖から手を離すように言ってもらえんか」
「ありがとうございます。こんな無駄なことは今後は遠慮したいですね」

冷めた表情で言いながら、ジョルノは片手をあげる。
ジョルノの視界の端で、建物の中からこちらを窺っていたラルカスの遍在が頷いた。
生徒に直接危害を加えるつもりはなかったが、ちょっとした騒動くらいは起こすつもりで控えさせておいたのだった。

「ほっほっほ、そうじゃのぉ。わしも将来有望な若者とはもっと建設的な話をしたいと思っておる」
「勿論です。私も貴方とは良い関係を築きたいと考えています」
「それは喜ばしい事じゃな。ではあるご婦人に一つ伝言を頼めないかのぅ?」

朗らかな笑い声をあげながら碌でもないことを言ってきそうなオスマンに、ジョルノは頷いた。

「構いませんが」
「ミス・サウスゴータというグンパツな太もものお姉さんに、わしからよろしくと伝えておいてくれんかな」
「わかりました。必ずお伝えしましょう」

サウスゴータ…ポルナレフの亀の中にいるマチルダが捨てさせられた家名をあげるオスマンに快く承諾する。

「すまんの。おおそうじゃ! 後一つ質問があるんじゃが」
「なんです?」
「ミス・ウエストウッドの胸って本物?」
「さあ? 本物なんじゃないですか」

イザベラが前に揉んでいたのを思い出しながら、ジョルノは返事を返して背中を向ける。
驚愕しているらしいオスマンとそのネズミを置いて、何事もなかったような顔で食堂に向かう。
知り合った学生達に軽く挨拶をし、以前から探させていたデルフリンガーが見つかったとか、トリスティンの王女アンリエッタが学院に来るなどの報告を受けても、共に食事をしているタバサ達が気にも留めない程度にしか反応を示さず…
オスマンも暢気な、好々爺らしい表情で生徒達を見守りながら朝食を取っていたし、ラルカスはお近づきになった女生徒と今日も仲良さそうにしていた。

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