ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

8 皇帝崩御 中編

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匿名ユーザー

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「うむ。こんなところだろう」

 そんな王の独り言にさえ体をびくりと震わせるルイズを、パリーが生暖かく見つめる。
 筆を置いた王は、長く文の書かれた紙に執務机の傍らに置かれていた豪奢な印を押すと、それを大きな封筒の中に丁寧に仕舞い込んむ。そして、引き出しから取り出した赤い蝋を明かりとして使っていた蝋燭の火で炙ると、溶けた蝋を封筒の蓋の上に垂らし、別の引き出しから取り出した印璽を押した。
 封蝋が成された封筒と二つの印をその場に置いて、ジェームズ一世は深く息を吐きながら顔を撫で付けた。
 首を振り、固まった肩を動かして音を鳴らすと、やっとルイズの顔を見る。
 昼に会ったときよりも一層疲れた様子に、ルイズは喉をごくりと鳴らした。

「帰途につく途中に引き止めて済まなかった。どうしても、渡しておきたいものがあってな」

 ふう、と息を吐いて、王は椅子に深く腰掛ける。
 どう反応をすればいいのか分からないルイズを微笑ましく見て、王は言葉を続けた。

「手荷物を増やすことになって申し訳ないが、アンリエッタに、朕の姪に渡して欲しいものがあるのだ」
「……な、なんデしょうカ」

 緊張に震える舌を無理やり動かしたせいで、若干声が裏返っていた。
 思わぬ恥を晒してしまったと顔を赤らめたルイズを、ジェームズとパリーの二人は懐かしいものを見るような目で眺め、少しだけ時間を置いて話の続きを始める。
 王の手が、自身の頭上に光る王冠にかけられた。

「渡して欲しいものとは、これのことだ」

 ルイズの前に、アルビオンの王を現す権威の象徴が置かれた。
 煌びやかな黄金と宝石の光に輝く王の証を前に、ルイズは緊張を強くしてジェームズの顔を凝視する。
 王冠を渡すという行為がどんな意味を持つのかを、血縁上は遠くとも、トリステインの王位継承権の椅子の端に座っているルイズは、よく理解していた。

「王位を、アンリエッタ王女に譲渡するというのですか!?」

 信じられない行為だ。王が他国の王族に王冠を預けるということは、国をそのまま売り渡すようなもの。戦争に負けたわけでもないのにそんな行為をすれば、王は自国の民の手で断頭台に送りにされるだろう。
 アルビオン王が一体何を考えているのか、ルイズにはまったく理解が出来なかった。

「落ち着くのだ、ヴァリエール嬢。なにも、内戦の尻拭いを押し付けようと言うではない。いや、内乱に敗北した時点で押し付けたようなものか」
「事情を、理由を説明してください!」

 執務机の向こうに居るジェームズに向かって、ルイズは身を乗り出して迫る。
 これをアンリエッタに渡すということは、単なる王位の譲渡では終わらない。アルビオンの正当なる後継者がトリステイン王女であると内外に示すということであり、それは同時に、アルビオンの王に君臨しようとしているレコン・キスタに、トリステインを攻める動機を与えることになる。
 だが、それを王は否定した。

「待て。誤解をするでない。アンリエッタにこれを渡すのは、レコン・キスタがアルビオンの王を名乗り、その傲慢な思想ゆえに戦を広めるのを見てからだ」

 ルイズの頭上に大きな疑問符が浮かんだ。

「連中が、ハルケギニアの統一と聖地回復を大義名分としていることは知っているな?」
「……はい。聞き及んでおります」
 レコン・キスタは、ハルケギニア全土に共通した政治体制を打倒し、新しい概念による統治を目的としている。だが、体制の打倒を掲げるということは、全ての王に喧嘩を売るのと同じようなものだ。内戦の枠を超えれば、世界を敵に回して戦うことになる。どう考えても可能とは思えないことを、平然と語っているのだ。
 知識のある人々にとっては、夢想家の類にしか見えない。
 そして、聖地回復という思想。これも夢物語だ。
 それ自体は人類そのものが掲げる始祖ブリミルの時代からの悲願ではあるものの、実現が可能なら当の昔にどうにかなっている。砂漠の向こうでエルフたちが占拠している聖地は、過去に数度の奪還に成功したと言われているが、長く続いたという話はない。あっという間にエルフたちに取り返されているからだ。
 強敵であるエルフを打倒することは、各国が何千年間も考え続けてきたこと。それが唐突に可能になる、なんて都合のいい話があるわけがない。
 二つの思想は、レコン・キスタが求心力を得るために掲げた看板に過ぎないのだ。その程度のことは、ルイズにも分かっていた。
 だが、それがどうしたら王位の譲渡と繋がるのか。血の上りかけた頭では、答えに辿り着くことは難しそうだった。

「レコン・キスタの目的がその二つだとすれば、必ずやトリステインに戦争を仕掛ける。ガリアでも、ゲルマニアでもなく、トリステインにだ」

 アンリエッタも危惧していたレコン・キスタの動向に、王が裏付けを語り始める。

「奴らは所詮、寄せ集めの軍隊だ。掲げた大儀を実行に移せなければ、組織そのものが瓦解するだろう。その程度は、奴らも理解しておるはず。その流れで行けば、どうしても何処かと戦争をする必要が出てくる。最終的にどこの国とも戦争となるなら、内戦の後で疲弊した戦力を強大な軍事力を持つガリアやゲルマニアにぶつけるとは考え難い。かといって、国土としては小さいなりとも、ロマリアを攻めるとなれば、国の内外に広く存在する教徒たちの叛乱を促すこととなる。これも有り得まい。すると、残る国は一つとなろう?」

 ルイズが、口元を引き締めて頷いた。

「でも、トリステインはそのためにゲルマニアと軍事同盟を結びます。わたし個人としては不本意ですが、ゲルマニアの軍事力は相当なもの。両軍が手を合わせれば、レコン・キスタなどに遅れは……」
「それが間に合うなら、これらは土にでも埋めて見なかったことにすればよい。だが、恐らくは間に合わぬであろう」

 言葉を止められて、ルイズは、え、と声を漏らした。
「政略結婚の話は、手紙で拝見した。だが、レコン・キスタはそのときを待たずして攻めるであろう。正面からか、奇襲か、までは分からぬがな」

 そこで、ルイズは唐突に、今回の旅が秘密の任務でありながら妨害の手が入っていたことを思い出した。
 既に、レコン・キスタもトリステインとゲルマニアが手を結ぼうとしていることを知っているのだ。敵が強大になるのを指を銜えて待っているなど、普通はありえない。
 そのことにルイズが気が付いたことを表情で察した王は、静かに頷いた。

「妨害が間に合わぬなら、完全に結びつく前に叩く。常套手段だ。そうなれば、ゲルマニアはトリステインを見捨てるだろう。なぜなら、両者を戦わせて疲弊させ、その横を突いて美味い所を掻っ攫った方が利口だからだ」

 レコン・キスタに一度征服されてしまえば、始祖の時代から続いた王権などに意味は無くなる。トリステインを手に入れたレコン・キスタが再度軍備を整える前に攻め、トリステインであった土地とアルビオンの土地、その両方を手に入れればいい。宗教庁のロマリアも、軍事同盟の無い国が他国を見捨てて利益に走ったとしても、文句は言えないだろう。
 もしかすれば、ガリアも途中で参戦し、ゲルマニアと共にトリステインとアルビオンの国土をナイフとフォークで切り分けるように分配するかもしれない。
 大国が二つ並ぶのは戦争を誘発させる恐れがあるため、独立国と表で発表しておいて、王には適当な駒を置き、搾取だけを行うことだって考えられる。
 トリステインもアルビオンも、属国どころか、ただの植民地に成り下がるのだ。
 最悪の結末である。

「では……」

 ルイズは目の前の封筒と王冠に目を落とし、息を呑んだ。
「うむ。これは、トリステインとアルビオンを守るための、切り札なのだ。現実性の無い思想と民を考えず利権ばかりを追い求める彼奴らは、必ずや国民から信頼を失う。そうなれば、正当なる王権を持ち、既に安定した国の治世を預かっているアンリエッタ王女を国民は受け入れるであろう。逆に、民心を失ったレコン・キスタは兵士の士気を低下させ、補給もままならなくなる。軍の内部も混乱は避けられまい。となれば、トリステイン一国でも、勝機は見えてくる。そして、トリステインが単独でレコン・キスタを打ち倒せれば、他国も手は出せなくなるであろう」

 そう言って、ジェームズはルイズに封書と共に王冠と二つの印を差し出した。
 ルイズはそれに手を伸ばし、指先が届くか届かないかの位置で逡巡した。
 この城には今、王党派の最後の意地をかけて戦おうとする兵士たちが大勢居る。彼らは王のために、アルビオンのために戦っているのだ。
 なのに、王は王でなくなろうとしている。それが、アルビオンやトリステインを守るための決断であっても、今死のうとしている人々は、それで納得するのだろうか。

 世界の大きな流れを考えれば、それを気にしている余裕なんて、ルイズにも王にも無い。両国の未来が奪われようとしているのだ。一部の人々の心情を理由に諦めろなんて、口が裂けても言えるものではない。
 やりきれない思いに戸惑うルイズを前に、ジェームズは差し出した封書を机に置いて、情けない笑みを浮かべた。

「考えておることはわかる。これをそなたに渡せば、その瞬間から朕はアルビオンの王ではなくなる。王党派は瓦解したも同じであろう。朕のために戦う者たちの裏切りだと、そなたは考えておるのではないか?」

 心情を言い当てられた事で、ルイズは肩を震わせた。

「しかし、まさにその通りなのだ。朕は、明日の決戦にて命を落とす者たちを悉く裏切っておる。だが、これも必要なことなのだ。トリステインも、アルビオンも、一国で生きるには難しい時代に来ておる。二国とも領土は狭く、ガリアとゲルマニアの二国を相手にするには体力が無さ過ぎる。遠からず、統一の必要性はあったのだ」
「それが、今というのですか?」

 ルイズの問いに、ジェームズは頷いた。

「意図して作った状況ではないが、あるのであれば使うまで。我らは、ただでは滅ばぬ。アルビオンはトリステインが生き残るための足掛かりとなり、子供たちを生かす糧となるのだ」

 だからこそ。と続けて、王は王冠と二つの印を乗せた封筒を再び手にして、ルイズに差し出した。

「そなたにこれを受け取ってもらいたい。そして、生き残ったアルビオンの民を、朕の愛すべき民を、どうか、宜しく頼む」

 頭を下げるアルビオンの王に、ルイズは緊張に顔を強張らせて、おずおずと手を差し伸べた。
 見た目よりもずっと重い封書と、その上に置かれた印と王冠を手にして、それを胸に抱きかかえる。
 王権を譲渡する文章と、王冠。
 それを手にしたルイズは、今この瞬間、アルビオン王の代理人となったのだった。

「……確かに、お預かりしました」

 ルイズの言葉に王が顔を上げ、椅子に座り直した。
 表情には安堵の色が浮かび、口を開くことなく脇で佇んでいたパリーも、どこか安心したような様子を見せる。
 これで決戦に赴いたとしても後顧の憂いは無くなった、ということなのだろう。

「ありがとう、ルイズ殿。やっと肩の荷が下りた。レコン・キスタの連中め、悔しがるであろうな。決戦の末に朕の首を手にしたとて、もはや朕はただの老いぼれ。王でもなんでもないのだからな」
「全てを知ったときの連中の顔が目に浮かぶようですな」

 唐突に笑い出した二人を見て、ルイズは心のどこかで、王は単にレコン・キスタに嫌がらせがしたいためだけに王権をアンリエッタに譲ろうとしているのではないか、なんて思った。
 裏切り者の連中にくれてやるくらいなら、姪のプレゼントにしてくれる!と言ったところか。
 とはいえ、渡されたものは間違いなくトリステインの力となる。王が言うようなときが来る日まで、必ず自身の手で管理しなければならない。
 五芒星の刻まれたタイ留めを外し、脱いだマントで封筒と印、そして王冠を包む。
 これで、人目に触れられることも、無くしたりする事も無い。おそらく、ギーシュやキュルケあたりは何なのかと尋ねてくるだろうが、王からの預かり物とでも言えば深くは追求してこないだろう。

「……あ!?た、大変!」

 仲間のことを思い出したルイズは、部屋の片隅に置かれていた水時計の針を見て、イーグル号の出港時間が迫っていることに気がついた。
 パリーに呼び止められてから、いつの間にか一時間近くも経っていたのだ。

「陛下。大変申し訳ございませんが、帰りの便が間もなく出港してしまうので、これで失礼させていただきます」
「お、おお。補修作業で遅れておったイーグル号が、そろそろ出港するのだな。引き止めて済まなかった。さ、早く行かれよ。大事な大使殿を決戦の道連れになどしたら、あの世で馬鹿息子に叱られてしまうからな」

 そう言ってまた笑い出したジェームズとパリーにお辞儀をしたルイズは、体の向きを変えて早足に部屋の扉に向かった。
 両開きの扉の取っ手に手をかけて、ふと振り返ると、ジェームズとパリーがそっと手を振る姿が目に映る。
 この姿を、しっかりと目に焼き付けておこう。
 明日滅びる王家の姿を、そして、トリステインのために、手に残る全てを残してくれる人々の姿を、ルイズは生涯の宝物として心に刻み付けることを誓った。

 最後の別れに一礼して、ルイズは改めて扉の取っ手に手をかけた。

「……ん、あれ?」

 扉が、開かなかった。
 鍵がかかっているというよりは、向こう側から押さえられている様な感覚だ。
 誰かに閉じ込められている?
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、ルイズに不安の種を植え付けた。必死に扉を開けようとするルイズの姿に、ジェームズとパリーも笑みを消して近づいてくる。

「扉が開かぬのか?」
「は、はい」

 王の言葉にルイズは頷き、取っ手を再び握る。ジェームズとパリーも、扉を開けるためにルイズの隣に並んだ。老人二人と少女一人。成人男性のそれと比べれば貧弱だが、それでも三人がかりであることに違いは無い。
 しかし、扉はまったく開かなかった。

「……どういうことだ?衛兵!そこに居らぬのか!?誰か!誰か!!」

 異常事態にジェームズが声を上げ、扉の向こうに呼びかける。ルイズもそれに続いて声を張り上げようとしたとき、何か、硬いものが破れる音と鈍い物がぶつかったような音が、同時に鼓膜を震わせた。

「……そこに居られましたか、陛下。自ら位置を知らせてくれるとは、実にありがたい」

 心根が震えるような冷たい声が、扉の向こうから囁くように流れ込む。その声に聞き覚えのあったルイズは、包みを取り落として首を横に振った。

「ウソ……、ウソでしょ?そんな……、ウソだと言ってよワルド!?」

 扉の向こうから聞こえてきた声は、ルイズの婚約者だった男、ワルドのものだった。ルイズが悲鳴を上げようとする間もなく、隣に居た人物が床に倒れる。パリーが血相を変えてその姿に縋り付き、叫ぶように呼びかけた。

「陛下!ジェームズ陛下!しっかり!お気を確かに!!」
「……え?あ、え、なんで……、なんで?」

 胸に赤い穴を開けて倒れたジェームズ一世の姿を目に入れて、ルイズは両手で顔を覆う。穴の位置は、正確に心臓を抉っている。ちらりと横目に見た木製の扉からは、王が居た場所を狙い済ましたかのようにレイピアの刀身が生えていた。
 旅の間に幾度も見た、ワルドのレイピア。それが、目の前で扉の向こうに引き抜かれていた。

「本来はウェールズの首を取るつもりだったのだが、本人が居ないのでは仕方が無い。代わりの手土産としては悪くないだろう」

 何かを蹴り飛ばすような音が続き、扉がゆっくりと開かれる。倒れる王に縋るパリーとルイズの前に、真っ赤な世界が広がった。

「正面からでは梃子摺るかと一息で殺したのだが、それが仇となってしまったな。まさか、首を無くしてなお扉を守ろうとするとは。不用意に音も立てられぬために、無駄に時間を食ってしまった」

 ワルドが、扉の正面に倒れる首の無い大男の死体を踏みつけ、執務室の中に足を踏み入れる。死体の手には金属の杖が握られていた。ニューカッスルを訪れたルイズたちを迎えた、あの大男のものだ。奥歯が合わさらず、カタカタという音だけが頭の中に響き渡る。
 死んだ。
 扉一枚しか隔てていない場所で、人が死んだ。殺された。ワルドに、仲間に、婚約者だった男に。気がつかないうちに、廊下が真っ赤で、足元が暖かくて……!?
 混乱する頭の中で、開け放たれた扉から染み込んでくる赤い液体の温度だけがはっきりと感じ取れる。息をどれだけ吸い込んでも息苦しさが取れることは無く、逆に、錆びた鉄の匂いが不快感を掻き立てた。人が死ぬ姿を直接見るのは、これで二度目だ。だが、過去に経験があるからといって、ルイズの震えは止まることは無かった。

「お、おのれ逆賊が!」
「ジジイは黙っていろ」

 立ち上がりながら自身の杖を取り出したパリーの胸に、ワルドのレイピアが突き立てられた。やはり、これも心臓を貫いている。苦悶の表情を浮かべ、それでも歯を食いしばったパリーが、握った杖をワルドに突きつける。

「ぐ、があ、は……」

 だが、喉から漏れる空気は魔法の詠唱に変わることなく、ちっぽけな断末魔となって消えた。ワルドは白目をむいて動かなくなったパリーに足をかけると、それを支えにレイピアを引き抜いてルイズに視線を向けた。 爬虫類を思わせる暖かみの無い瞳に、ルイズの背筋が凍りつく。

「君には選択肢が二つある。このまま僕と来るか、手紙を渡して死ぬか。どちらかだ」

 伸ばされた手を見つめて、ルイズはやっとラ・ロシェールでの襲撃事件に首謀者が居ることを思い出した。
 あの騒動は確かにタバサの友人が影響を及ぼしていたが、そもそもの発端は、今回の任務を知る裏切り者によるものだ。傭兵たちを金で雇い、先導した人間。この状況を見れば、それが誰だったのか、言われなくても分かる。

「あ、あなたが裏切り者だったのね!」

 ルイズの言葉に、ワルドが不敵な笑みを浮かべて頷いた。

「そうだ。レコン・キスタの指導者クロムウェル卿から与えられた僕の任務は、王女が送ったという手紙の回収と、ウェールズ王子の首さ。少々、予定が変わってしまったがね」

 なんでもないことのように告げるワルドを睨み付けて、ルイズは恐怖で固まった体を奮い立たせる。
 貴族は、いや、人間は己の行動に責任を持たなければならない。知らぬこととはいえ、ワルドという敵を城の中に引き込んでしまったのは、ルイズの責任だ。姫殿下も、このことは知らなかったのだろう。だが、今更それを言っても仕方が無い。今はこの場を切り抜けることが重要だ。
 後ろ手にルイズは杖を隠し持ち、ワルドの隙を窺う。どうせ、何をしても爆発するのだ。とびっきり短い魔法で爆発を連続させて、ワルドに攻撃の隙を与えることなく逃げ出してやる。覚悟を決めるルイズの前で、ワルドがレイピアの先端をルイズに突きつけ、自分の頭にある羽帽子に手をかけた。

「で、どうする。僕が裏切ったことが分かったとしても、君にはどうすることも出来ない。大人しく僕と共にレコン・キスタに行くか、それとも、この場で死ぬか。選びたまえ」

 どちらも冗談ではない。
 生き延びるために敵の手中に収まるなど屈辱だし、王に託されたものと親友に届けなければならない手紙を抱えた今、死ぬわけにも行かないのだ。首を振ったルイズは、大きな目を鋭くさせてワルドの視線に真っ向から向かい合った。

「どちらもお断りだわ!アンロック!」

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