ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

外伝-11 コロネ、その堕落の始まりに

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
ゆっくりと亀が歩いていく。
いつも誰かに抱えられ移動する亀だったが、今夜は森の中におかれ誰も彼を持とうとはしなかった。
緩慢な動きで数歩進んだ亀に、重なった枝葉の隙間から二つの月灯りが降り注ぐ。
甲羅に埋め込まれた鍵が、一時光を反射して輝いた。

偶然それを見た梟の心臓に氷が突き刺さる。
使い魔の断末魔を感じて、会場のテーブルに並んだ料理に舌鼓を打っていたマリコルヌがワインの入ったグラスを取り落とした。
とまっていた枝から落下していく梟の首の付け根にペットショップの爪が食い込む。
雑草が伸び放題の湿った地面を鮮血で染め上げながら、ペットショップは遅い晩餐を始めた。

その傍ら、月明かりから出て行こうとする亀の中は沈黙に包まれていた。
降り注ぐ月光が照明が点けられた部屋を更に明るくし、ジョルノを睨みつけるマチルダを照らしていた。

「ま、待ってくれマチルダお姉さ「カメナレフッ! アンタに姉さん呼ばわりされる筋合いはないよ!!」…お、おう」

口を挟もうとしたポルナレフは一回り近く年下のマチルダにちょっぴりビビったが、顔色を窺いながらもう一度口を開く。
マチルダが怒るのもわかるが、こちらの事情も説明しておくべきだと思うからだ。
テファ自身が言うべきなのだろうが、もうポルナレフも無関係ではなかった。

「マチルダさん、ジョルノの奴はテファと距離を置くつもりなんだ。それに反抗してテファがこうしてアンタを助けに…」

何も言わないマチルダに、ポルナレフの言葉は尻すぼみになる。
だが一応耳には入れたらしいマチルダは、鼻を鳴らした。

「ジョルノ、私が怒ってるのがなんでかわかるかい?」
「穏やかに暮らしていたテファを連れ出して取り返しの付かない事をさせた。テファを大事にしてきたアンタはそれが許せないと思っている」

亀の中に置かれたソファに腰掛ながらジョルノは答えた。
マチルダ達にも座るよう手振りで促すが、マチルダは落ち着き払った態度が気に入らずジョルノの胸倉を掴みあげた。

「姉さん、乱暴は止めもがっ…!」
「テファ…っ。だから、アンタはちょっと黙ってな」

止めようとするテファの口を杖を一振り、土で塞いだマチルダはジョルノと額をぶつけた。

「ハズレだよ。そりゃテファを連れ出したんだ。当然怒ってるさ。でもね、私が怒ってるのはそんなことじゃない!今更テファを遠くに置こうとしたことさ!」
「言葉を返すようですが」
「黙りな」

有無を言わせぬ口調でマチルダは言う。
荒々しい口調が、テファのことになるなりなりを顰め、ひどく悲しい色を見せる。

「テファがこんなことを言うようになったのはアンタのせいさ。この子はね、親の仇を討つのだって拒否してたんだ。そのテファが、銃を持って私を助けに来た。アンタなんかの組織に入るのにね…!」 

胸倉を掴むマチルダの手を解きながら、ジョルノはテファを一瞥する。
内乱に巻き込まれる危険があったとはいえ、ジョルノが連れ出してしまった混血の少女は自分を援護してくれる姉とジョルノを見ていた。
思わぬ援護を受けて希望に満ちた目、頬を薄く赤らめる彼女を見据えるジョルノの体をマチルダは掴みなおして言い聞かせるように言う。

「アンタがこの子に村にいちゃできないような経験をさせたんだ。さっさと別れりゃまだ良かったってのに…貧乏人が花壇の下に金が埋まってるって知って、そこに花を植えるかい?」

髪をかき上げて妙な例えを言うマチルダは、自分が貴族でなくなってからのことを思い出していた。
テファがここに来るまでに出合ったものとは全く違うだろうが、良くも悪くもマチルダも変わった。
痛んだ指先、手入れを出来ずに割れたこともある爪や新たな暮らしにあわせて変化した服装の趣味…挙げていけばきりが無い。
それ程ではないだろうが、テファだって変わってしまったことをマチルダは腹を立てながらも少しずつ受け入れようとしていた。

「責任を持ちな、それが筋ってもんじゃないかい? それとも、ギャングにはそんな甲斐性は無いかい?」
安い挑発に、ため息をつくジョルノが返事をするのを緊張した表情でテファは待った。
どうにかマジシャンズ・レッドで拘束から抜け出したポルナレフも心配そうにジョルノを見ていた。

視線を集めながらジョルノが考えていたのはジョルノ自身の過去だった。
自分もギャングの背中を追い、関わらせないようにした彼の態度を、矜持を踏みにじってギャングになった…
ブチャラティもナランチャを止める事に失敗したという。

暫し時間を置いて、黙考していたジョルノはぐったりと体から力を抜いて頷いた。
結局は、やり方を間違えたということだ。
テファの情に甘えすぎた。
頷いた事が信じられない様子のテファを眺めながら、ジョルノは力の抜けた顔を引き締めた。

「いいでしょう。僕の仕事を幾つか手伝ってもらいましょう」
「幾つか? 言っておくけど、私は危険な仕事をさせるのまでは許可して無いよ!」
「特別扱いはしません。ですが、今のテファには表の仕事しかできないでしょう」

今度こそマチルダの手を振り解き、服を直すジョルノの言い草にテファはちょっぴり不満だった。
だが、その仕事の内容は想像がつかなかったし、何より共にいることを認めたかどうかが、気になっていた。

「じゃあ、これからも一緒に旅をしていいの?」
「旅をするかどうかはわかりませんが…貴方に覚悟があるのなら構いません、貴方にも行動を決める自由がある」
「あ、ありがとう…私、頑張るわ。まだ無理だっていう仕事だってきっとできるようになるわ…!」

表情を輝かせて物騒な事を言うテファにジョルノ達は揃って首を横に振った。

やれやれと苦笑しながらジョルノは弱点を抱える事になったのか、それともより強くなるきっかけを得たのか。

夢を自分の手で貶めたのか、夢により広がりや重みが加わったのかわからないままテファ達に背を向ける。

「これ以上はまた後で話しましょう。先に会場に戻っておいてください。僕は用事を済ませてから戻ります」
「用事? こんな時間にか?」
「はい。ポルナレフさん、テファとマチルダさんを頼みましたよ」

詳しく尋ねられる前にテファ達の事を頼んで、ジョルノは亀の外へ出て行く。
首を動かし周囲を見渡せば、幸い人影などは見えなかったがペットショップが微かに見覚えのあるフクロウの肉を啄ばんでいるのが見えた。
肉を飲み込みながら、得意げにジョルノに戦果を見せつけてくるペットショップから血生臭い風が吹いた。

亀の中から聞こえる、「所でポルナレフ…アンタ、亀じゃなかったんだね?」とドスの効いたマチルダの声を無視する。
もしかしたら学院の生徒の使い魔かもしれない。
そういう考えも浮かんだが…ジョルノはペットショップにもうすぐ来る者を襲わないようにと、無駄な殺しはするなと強い口調で言いつける。
ペットショップは、それに違和感を感じたが一先ず様子見と頷いてみせる。
エジプトにいた頃の主人も昼は屋敷の奥に閉じこもっていたからだ。

最後に、だが一撃で仕留めた腕などを褒めてから、ジョルノは用意しておいたポルナレフの亀とは別の亀に入っていく。

その短い間、思い通りに動いているわけではない。
だがしかし、ペットショップの目がジョルノを通して誰かを見ているのを感じる…狂信的な、黒い輝き。
肉を貪るペットショップから漂う際限の無い暴力の臭い。
全てがジョルノの思い通りに言っているわけではないということだった。

この、出会ってからのほんの少しの時間のうちにさえ、ひしひしと感じる邪悪さ、それを従わせ使っている己を。
ポルナレフやテファに見せていない姿を考え、自らの邪悪さをジョルノは実感する。
怯みはない。
ただその実感をどう処理するか今はまだ決めかねたまま、音を立てずに亀の中へと入ったジョルノを一人の女が待っていた。

ポルナレフの亀と全く同じ照明に照らされた女は純真そうなテファとは逆に、妖艶さを漂わせる美貌の持ち主だった。
ラルカスがこの場にいたなら気付いただろうが、彼女は先日ジョルノが共に食事をした組織の人間だった。

「ボス…! なんだいこんな」

髪をかきあげながらジョルノに近寄った女が黙り込む。
ジョルノは笑みを浮かべていなかった。
養豚場の豚を見る酷薄な目で、女を見ていた。
知らず下がる女に向けて冷たい声を出した。

「貴方、僕に言うことがありますよね?」
「…何の話だい? 夜の相手でもしろっての?」

冗談半分に女が軽くしなを作ってジョルノに擦り寄る。
ジョルノの返事は、スタンドによる攻撃だった。

女が反応する暇は全く無く、瞬きする間に砕けた自分の手を見て、一瞬遅れてやってきた痛みに叫び声が上がる。
砕けた手を押さえて膝を突く女に歩みよりながら、ジョルノは表情一つ変えずにポケットから包みを取り出す。
パッショーネが売り出している麻薬の包み。
それが女の手から流れ大きくなる血溜まりに落とされ、スタンドの攻撃を受けなすすべも無く絨毯の上に蹲っていた女の表情に驚きが走る。

「僕の麻薬は、この世界で僕が最初に作った規格統一品です。ブランドの一つと言ってもいい」

言いながら、ジョルノはほぼ同じ包みを取り出し、中身の粉を見る。
女の前に落とした包みの中身との合致は9割といった所だ。
最初ジョルノが気付いた時は9割五分だった…それは許しがたいことだ。
誤魔化す自信があるのか、開き直ったのか涙を浮かべた顔に強気な笑みを浮かべ、女が顔を上げた。

「だ、だから…何」

女の無事な手がゴールド・エクスペリエンスの力で砕かれ、ミンチになる。
血が新たに噴出し、叫びだす女の頭が殴られたように横に弾かれ黙らせられる。

「貴方、僕に言う事がありますよね?」

歩み寄っていたジョルノは、叫ぶだけで女は答えない女の隣を通り過ぎソファに腰掛けながら、また逆の手を砕く。
既に、ゴールドエクスペリエンスの能力で生み出された手をつけられ、再生しようとしていた手はまた潰れる。

「何度も同じ事を言わせないでくれ。無駄なことは嫌いなんだ。貴方のお友達とかのことも含めて、色々話してください」

言う間にも、ゴールド・エクスペリエンスの能力が生み出した手が潰れた手に接着されようとしている。
血液さえ補充したが痛みは残る。それを高度な水魔法と勘違いした女は、ジョルノが見たことも無いほど強力な水のメイジだと勘違いすると共に、女が言うまでやる気だと察した。
ポルナレフがこの場にいれば、残虐な行為に耐え切れず止めていただろう。
だがジョルノのストッパーになるような者はこの場にはいなかった。

本当はテファにこの光景を見せ、退かせようとも考えていたが…心の中で嘆息し、マチルダ達のせいにしてジョルノは女を見下ろす。

離反を決めた者から既に殆どの情報は聞いてある。
子供にも麻薬を売ろうとしていた女を見て、その者は離反を決めたらしい…それから数分で女を自白させ、学院に戻った。

先に戻ったポルナレフ達が通った道を通り学院の敷地内へと戻るその足は、敷地の端にある小屋へと向かう。
本塔と火の塔に挟まれた掘っ立て小屋からは妙な鼻に付く異臭が漂っていた。
ジョルノはそこへと足を踏み入れ、壁一面の本棚をはじめ雑然と秘薬をかき混ぜるつぼや薬品の瓶、試験管。
書物や天体儀などにザッと目をやり、これまた散らかった作業机に置かれたものへと目を止めた。

窓の外で、太った影がジョルノが来た森の方へとレビテーションで飛んでいくのが見えたが、無視して置かれた物を理解することに努める。

車輪に繋がったクランクを頂上につけた長い円筒状の金属の筒。
そこには金属パイプが繋がっている。

それを見て、ジョルノは目を見開きながら迷っていた事を一つ決めた。
パイプはふいごのようなものも繋がっており…その物体に注目するその隙に、ジョルノの背後に誰かが立った。

「そこにいるのは誰だね?」
「勝手にお邪魔して申し訳ありません。ミスタ・コルベール」
「いやいや、むしろよく入ってきたね。大抵の人はこの匂いを嗅ぐと逃げていってしまうんだが。ネアポリス伯爵…だったかな。」

コルベールは勝手に部屋に入っていたジョルノを怒るどころか、少し嬉しげに笑顔を浮かべた。
おどけた調子で会場からくすねてきたというワインの瓶を見せながら、さりげなく構えていた杖を隠すのをジョルノは見逃さなかった。

「貴方が興味深い研究を行っていると聞きました。よろしければお時間を頂きたい」
「おお! それは勿論構わないが…今夜はせっかくの舞踏会だ。また後日、明日でも明後日でも」

頭同様に輝くような笑顔を浮かべ、コルベールは窓から見える会場の方を眺めて言った。

「いや明後日は授業があるから…明後日なら夕方からならいつでもかまわんが」
「わかりました。明日また伺わせていただきます」
「そ、そうかね!」

余り研究を理解してくれる相手がいないのか、待っているからねと何度も言うコルベールに送り出され、今度こそジョルノは会場へと戻っていく。

ほろ酔い気分で授業用の発明品を作るコルベールが辞表を出すのは、それから暫くしての事になる…

だが今夜はそんな先の事を気にする者はおらず、牛がうっかりフェイスチェンジがばれそうになったり、

ポルナレフが亀の中で妹を取られた自棄酒に酔ったマチルダに過去を問い詰められたり…

ジョルノは何事も無かったかのようにテファやイザベラ達と一曲踊り、一夜を楽しんだ。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー