ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと使い魔の書-02

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匿名ユーザー

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ゼロと使い魔の書
第二話
「……ねえちょっと!聞いているの?」
「聞いている。相槌を打ったほうがよかったか?」
自室で使い魔の仕事を説明している間、ルイズはずっと困惑していた。
自分の使い魔が貧弱そうな平民だった。それはまだいい。前例がないだけで使い魔には違いないのだから。
問題はその平民の性格というか態度というか、自分が接してきたどの平民よりも、いや、どんな人間よりも生気というものが希薄だった点だ。
ただ、そこに存在している。空気のように。
呼びかければ反応するし、普通に呼吸しているからゴーレムの類ではないのは確かだが、その姿はまるで長い年月を生き終わった老人のようであった。
ルイズはまだ就寝までに時間があることを確認すると、当初の予定を変更した。
「今度はあなた自身のことを話して」
「俺はお前に仕える。それでは不十分なのか?」
優しさも厳しさもない、冷め切った目をして聞かれるとルイズも一瞬言葉に詰まる。
好奇心で聞いた。とは、なんとなく言えそうにない雰囲気だった。
「と、当然でしょ!?貴族たるもの使い魔のことをよく知ってなければつとまんないもの」
とっさの一言にしては理屈が通っている。内心そう思った。使い魔もそれで納得したらしい。
「なるほど。ところで話は変わるが、これが見えるか?」
……やっぱり聞いてないんじゃないか。そう思わせるほど露骨な話題転換だった。
「……それがどうかしたの?やけに装丁が頑丈そうな本だけど」
使い魔は無言で本を開いた。
「……?これ何語?見た事もないわね……」
ここへきて初めて、僅かに、使い魔は表情を変化させた。
「読めないのか、ならいい。面倒だがな」
「な、なに偉そうな口きいているのよ!」
使い魔は完全にスルーした。どうもいけない。主導権はこちらになくてはいけないのに。
さっき思いついた「餌付けによる格差見せつけ作戦」も、鞭による調教も、はたしてこいつに堪えるかどうか……
ルイズは内心頭を抱えた。

話はルイズの予想の遥か斜め上をいったものであった。
「月が一つですって!?人間の目が一つしかないのと同じくらい違和感あるわよそれ……」
「俺にとっては二つある方が違和感がある。ようは慣れ親しんだ環境の違いだろ」
月が一つしかない、魔法がない、身分制度がないなど夢にも思ったことのない世界から使い魔は来た、ということらしい。
要点をかいつまんだ的確な説明もあって、ルイズにはそれらを全て妄言と片付けることができなかった。
「……まあ、いいわ、信じてあげても」
「そうか、それはよかった」
そんな棒読み口調で言われてもね。

再び訪れる重すぎる沈黙。
使い魔は話が終わるや否やさっさと窓辺に近寄り、草原を飽きもせずに眺めていた。
「……あんた、もしかして帰りたいって思ったりしてる?」
ここまでそっけないのは実は召還されたことに対する当てつけではないのか、と考えたルイズは聞いてみた。
言葉が響き、余韻が残り、再び静寂が訪れた頃。
「元の世界では、ある男に復讐するために生きていた。それが俺の存在理由で、生きる意義だった。だがそれも終わった今、元の世界に帰りたいとは思わないな。理由がない」
淡々と事実を告げるような口調に、背筋が寒くなった。なんと声を掛ければよいのか分からない。
同時に、自分の使い魔がなぜここまで無気力なのか理解した。
要するに、この男には今、生きる目的がないのだ。
簡単な魔法もろくに使えず、周囲からゼロゼロ言われて育ってきた自分でも、自分の生を余すことなく復讐に費やすなんて生き方は想像もつかなかった。
数瞬の間の後、ルイズはなんでもないように、でも内心勇気を奮って、言ってみた。
「なら、丁度よかったじゃない。メイジの使い魔。命を張って頑張ってもらうわよ!」
自分の言葉をどうとるか。使い魔が振り返った。
顔は陰になってよく見えないが、そんなに悪い表情ではなかったように思う。
「そうだな。当分世話になるよ。ご主人様」
口調もやわらかになった……というのは、ただの希望的観測かもしれないが。
「さてと、しゃべったら眠くなっちゃったわ。おやすみタクマ」
ルイズは服を脱ぎつつ、それらを自分の使い魔に放っていく。
「それ、明日になったら洗濯しといて、あ、あとあんた床で寝てね」
言いつつ、ちらりと使い魔の方を見る。案の定、使い魔は下着を手に立ち尽くしていた。
表情は相変わらずだが、きっと内心動揺しているのだろう。優越感。
「洗い場はどこかな」
……全然違った。
「じ、自分で探しなさいよね!それくらい!」
「それもそうだな」
だから何でそうなるの……
仕掛けたのは自分であるが、ここまで肩透かしだと逆に敗北感が沸いてくる。
こいつわざとやってるんじゃないだろうな……
ルイズは馬鹿馬鹿しくなって、ベッドに飛び込むように潜った。
使い魔が隣の床に横たわっている。
かなり迷った後、毛布を上からかぶせた。なんで貴族なのにこんなやつに気を使わなくっちゃいけないのだろう。調子狂う。
ルイズは目を閉じた。隣の使い魔からは古本に似た独特の匂いがしてきた。


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