ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ-20

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匿名ユーザー

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舞踏会が始まった頃にまで、時間は戻る。
ジョルノがイザベラと踊っている頃に、ポルナレフの入った亀を抱えたラルカスの偏在は牢屋への道を走っていた。

ラルカスは急いでいた。
フーケの身柄が、明日にもこの魔法学院から遠く離れたトリスティンの城下町の一角にあるチェルノボーグの監獄に移送されてしまう、というのもある。
学院の牢とチェルノボーグの監獄とでは軽微に大きな差がある。
兵士を買収すれば案外簡単に侵入できるのかもしれないが、兵士へと引き渡すまで身柄を任された魔法学院の牢から脱獄させる方が容易だと、ラルカスは考えることにした。
魔法学院の面子はこれでまた潰れてしまうだろうが、急がなければならなかった。

理由は二つある。一つは、テファがジョルノに反抗し組織入りを望んでいること。
彼女が手っ取り早く手柄を立てジョルノに本気であることを示すには今やるべきだとラルカスは考えていた。
テファまでいなくなると潤いがなくなる…ということではなく、テファの境遇を考えれば普通に暮らすことを考えるより目の届く所において事務仕事でもやらせておけばいい。
ジョルノとラルカス、ポルナレフにフーケまでが加わるのだからなと、個人的な意見だがラルカスはそう考えていた。

もう一つは『土くれのフーケ』を求めるのはジョルノのパッショーネだけではないということだ。
『レコンキスタ』と名乗る組織がフーケをスカウトしようとしているという情報が入っていた。
それ自体は余り驚いてはいない。
ジョルノはテファを自分から切り離す為にフーケを使う予定のようだが、ラルカスだってできればパッショーネに参加させたいと思っているからだ。

だが、本体は(勿論コルベール等のジョルノに指定されたメイジと親交をもとうとはしているが)舞踏会を楽しんでいるし、他にもヴァリエール領内などで暗躍している偏在がいるため余り多くの精神力を分配する事は出来ない。
もしもの時の事を考えてポルナレフも連行してきたが、できれば『レコンキスタ』が来るより先にフーケを引っ張り出したいと言うのも、ラルカスの本音だった。

本体の視界に髪を黒く染め、コロネを解いて髪を下ろしたジョルノが親交のある貴族の子女や調べておいた有望そうなメイジと談笑している姿が入ってきて少しため息が出たが、今回は仕方ない。
ジョルノがこの場にいたら、亀の中に手を突っ込んでテファがいないかどうか入念に調べてしまうだろうからな。
気付かない振りをして亀を荷袋につめたラルカスは、警備の兵士を金と自分が地位の高い貴族であるという振りでクリアして牢屋への道を急いだ。
本体の視界では、その時はまだジョルノは頭の禿げた中年教師の発明の話を熱心に聞いていた。

牢屋に続く通路は、余り清掃がされておらず汚れていて薄暗い。
舗装されているだけで隠れ住んでいた洞窟と大差ないとラルカスは感じた。
煉瓦で組み上げられた壁を照らす、一定の距離を置いて設置された灯りをラルカスは消していく。
ミノタウロスという身体能力では人間を超える怪物の肉体を持つラルカスには、灯りが無いほうが有利だった。

灯りを消しながら黴臭い空気が淀む通路を進むラルカスの荷袋の中、その中でじたばたする亀の中でポルナレフは神妙な顔つきでソファに座っていた。
普段ジョルノが座っている所から人一人分程離れた位置にはテファが緊張した面持ちで座っている。

テファの手には彼女が魔法を使うための杖と、ジョルノがこちらに着て作り出した拳銃が握られている。
ジョルノの夢に付き合う為には、手を汚す覚悟がいると思っているのだ。

ポルナレフはそれを見て少し罪悪感を覚えた。
テファをこんなことに関わらせるべきではないというジョルノの考えに、ポルナレフも基本的には同意しているし、何よりジョルノを裏切る行為だという理解しているからだ。
だが、ポルナレフにはテファの頼みを断る事ができなかった。
テファの真剣な眼差しから感じられる、初めて出会った時の彼女からは考えられないような事を行うと決めた意志に…
既に、それは所詮他人に過ぎないポルナレフが説得できる時期を過ぎていると悟ったのだった。

ここで協力せずジョルノの考えどおりにした所で、テファはジョルノを追いかけてより厄介な事になる。
そう感じたポルナレフは、テファの行動を助ける事を決めたのだった。

だが…ジョルノの荷物から持ってきた拳銃をポルナレフに見せたテファを、ポルナレフは脳裏に描く。
だが、助けると決めてもジョルノの判断の方が正しいような気もしている。

その相反する気持がせめぎ合うお陰で、本当は考えなければならないルイズとのことを余り考えないようになっているのだが。
今は無事にこの件を完了することだけを考えようとしているポルナレフは気付かなかった。
ジョルノを裏切ることになると知っていて協力することを決めたのだ。
最低でもマチルダの救出を完遂し、無事に送り届けるまでは完遂しなければポルナレフのプライドに障る。


あ、ありのまま現状を説明するぜ。
私は再会したテファに同情していたら彼女が悪の道に入る手伝いをする羽目になった。
な、何を言っているかわからねぇと思うが、私にも何が起こっているか(事情が全く)わからなかった。
って言うか私は今こんなことをしている場合じゃあないんだがな。

ポルナレフは内心ため息をつきながら、思いつめた表情で胸元を押さえる手にルイズ達が持っているような杖を握るテファを見る。
自分が泣かせてしまったルイズと比べると同じ生き物なのか疑うような物体が目に入り、ポルナレフは唾を飲み込んだ。

「…ゴホンッ、テ、テファ。もう一度だけ聞いておくぜ。もうすぐ牢屋に着くと思うが…本当にいいのか? こういっちゃ何だが、マチルダお姉さんを助けてもジョルノがお前を組織に入れるとは限らないぜ。アイツを怒らせるだけかも知れん」
「うん。でも、やらなくちゃならないの」

ラルカスのフェイスチェンジで普通の人間の娘のように見える顔を俯かせたまま答えるテファにポルナレフは片手で頭を抑えた。
やはり今のテファを見る限り、説得しても無駄だとしか思えなかった。

後でテファも救出するのに協力しただとか言ってもいいと言っても、テファは退こうとはしなかった。

ここまでやるなんて、まさかジョルノの野郎。
ポルナレフは腕を組んで考え込んだ末、

「手は出してないと言っていたが…実際はテファに子供達には聞かせられないような手を出しまくっておいて、履き古した服をタンスの肥やしにするみたいに厄介払いするつもりなのか?」
「ポルナレフさんよ…アンタ、声に出てるぜ」

天井からラルカスの突込みが入り、ポルナレフはテファに平謝りする。
テファは首を振ったが、意味はわかったのか顔を赤くしていた。
ばつが悪そうにするポルナレフをフォローするように、ラルカスの声が再びかけられる。

「見張りが見えてきたぜ…どうする? 金を掴ませるかそれとも眠ってもらうかだが」
「眠ってもらうのが一番だな。私に任せろ」
「よし」

ポルナレフがマジシャンズレッドを出す。
ルイズとの一件で凹んでいるせいかいつもより迸る炎の勢いは緩やかなようだ。
上半身裸の鳥男は荒ぶる鷹のポーズで亀から飛び出し、亀を抱えたまま早足に歩くラルカスに先行する。

牢を見張る兵士があくびをしている姿が目に入る。
舞踏会の夜だから気を抜いているのかそれとも普段からそうなのかはわからないが、ポルナレフは好機と見て一気に距離を詰める。

「ムゥンッ、赤い荒縄(レッド・バインド)!」

亀の中で突如私があげた叫びに呼応し、マジシャンズレッドが炎の縄を放つッ!

兵士が炎の熱と光に気付き、驚きと共に顔を向けた時には勢い良く伸びた炎が腕を、足を縛り上げ、口を塞ぐ。
中々の速度と精度、そして兵士の顔焼き尽さない程度の奇妙な熱さ。
私は着実にマジシャンズレッドを制御できるようになっている事に少し満足感を覚えた。
崩れ落ちる牢番から牢屋の鍵を奪い取り、ラルカスに投げる。
空中に浮いた鍵や炎の縄をラルカスがどう思ったかは気になるが、ラルカスは何も言わず走り出した。
廊下を通り抜け、牢獄へと続く階段を下りていく。

「ポ、ポルナレフさん突然どうしたの?」

だが、いきなり雄叫びを上げた私の姿はテファには奇怪なものに映ったらしい。
ドン引きしながら声をかけてくるテファに私はスタンドのことを説明しちまった方がいいような気がした。

「ああ、これはスタンドって言ってな。まぁ魔法みたいなもんだ」
「そ、そうなの…」

なんだか誤解が解けていないような気がするが…ま、まぁ余り気にしないで置くとしよう。
今はそれよりも早急にやらなければならないことがある。
ラルカスは既にフーケが入れられている監獄が並ぶ階層に着ている。

「おや! こんな夜更けにお客さんなんて、珍しいわね」

奥の牢から聞こえてきた声にテファは笑顔を見せた。

「この声、マチルダ姉さんだわ!」
「そうなのか?」

ちょっぴりしか聞いた事が無い私には判断が付かないが、テファの様子を見る限りは間違いない。
ポルナレフは再びマジシャンズレッドを亀の外に出してラルカスが見ている牢の中を見る。妙齢の女性が身構えていた。
剣術を嗜んでいたポルナレフには彼女がそれなりに喧馴れしていることと彼女のボディはやっぱり結構グンパツだということはわかった。
訓練しているかどうかはわからなかったが。

「おあいにく。見ての通り、ここには客人をもてなすような気の利いたものはございませんの。でもまあ、茶飲み話をしに来たって顔じゃありませんわね」
「単刀直入に言う。貴方に我々の組織に参加していただきたい」

大柄なラルカスが腰を折り曲げて言うのを見てマチルダは鼻で笑った。

「話が早いね。アンタの組織って言うとパッショーネかい?」
「よくわかったな」
「2メイル越えの巨体のメイジ。その上これだけ手の早い組織ってのはそうはないからねぇ」

ラルカスは2メートル強の巨体。
正確には2.5メートルはある肉体にの今はマントに包まれて隠れているが盛り上がる繋がった丸いボールのような筋肉は威圧感などを加え、見る者にはそれ以上の大きさに見せている。
そして巨大な斧。顔はフェイスチェンジで変えているためミノタウロスではないが、マチルダは逆に納得していた。
ミノタウロスのメイジという話の方が常識的ではないのだ。
自分が納得するような考え…例えば恐怖に駆られた者達が勘違いしたのだとでも考えた方が、納得が行くため…疑問には思わなかった。

「それで返答は?」

マチルダは肩を竦める。

「気が早い男は嫌われるよ。アンタ達が「余り時間が無いのでな。マチルダ・オブ・サウスゴータ。”レコンキスタ”アルビオンの貴族派が動いている」

かつて捨てることを強いられた貴族時代の名前を言われたマチルダの顔は蒼白になった。
マチルダもパッショーネがアルビオンの内乱前後に設立された事は耳にしていたが、まさか知っている者がこの世にいないはずの名前まで調べられているとは思わなかった。
「アンタ、どこでそれを?」
平静を装い、震える声で言うマチルダからラルカスは…正確には有無を言わせずにミノタウロスの体を乗っ取った地下水が視線を自分が降りてきた階段へと向けた。
亀をマチルダに放り投げ、受け取ったかどうかも確認せずに地下水はミノタウロスの体を走らせる。
「ちょっと! どこに行くんだい!?」

降りてきた階段から黒いマントを纏った人物が飛び降りた。
着地すると同時に既にその人物はラルカスへ長い魔法の杖を向けている。その一連の動きだけで、その人物が軍人だという事は理解できた。
教本通りだが、熟練した動き。地下水はじっくり仮面の人物を観察する。
白い仮面をつけており顔は伺えないが、余裕を見て取った地下水は笑みを浮かべているだろうと考えた。

エア・ニードル。杖が細かく振動し、高速で風が渦を巻きドリルのような形状を作り出す。
風で生み出されたドリルが迫ってきても、地下水は走る速度を緩めずに腕をかざした。
腕に当たる風に動じることなく地下水は斧を向ける。仮面の人物は驚いて一手遅れていた。

地下水の放つエア・ハンマーが、一瞬早く飛び退いた仮面の人物を打ち据え、階段を破壊しながら天井へと叩き付ける勢いで吹き飛ばしていく。
天井でプレスされるのだけは逃れたようだが、地下水は追わずに続けて錬金を行い今破壊した階段を塞ぐ。
エア・ニードルは、ラルカスの肉体にかすり傷一つもつけられずに消滅していた。

「今の威力、スクエアクラスか」

二人が一度敗北した『烈風』程かどうかはまだわからないが、地下水と地下水に体を乗っ取られたラルカスは仮面の人物の魔法の腕を理解した。
魔法の腕だけでもないことも…地下水は斧を握りなおした。

一手、相手に譲る。
ラルカスの体を得てからの地下水の得意の戦法。
ミノタウロスの肉体の強度を持って一撃目を合えて受け、大抵驚いて一瞬動きが止まるメイジを叩き潰す。
クリーンヒットせずともスクエアクラスの魔法は、相手に決して軽くは無い傷を負わせる。
だが、この仮面の男はまだ元気に動きまわっている。侮れぬ相手と地下水は受け取った。

「おい、敵か!?」

地下水の背中にポルナレフの声がかかる。
壊れた階段を閉鎖しながら、地下水は振り向いた。空中に浮かぶ亀に地下水は頷く。

「ああ。トリスティン貴族だと思うが、さっさと逃げるぜ。『土くれ』は?」
「今姉妹喧嘩の真っ最中だ」

地下水は返事を聞きながら、亀を懐に仕舞いその場から飛び退く。
直後に、二人が立っていた横の壁が破壊され、散らばっていく煉瓦の波の中から仮面の人物が現れる。
退きながらポルナレフのマジシャンズレッドが放った炎と炎が届く直前、どうにか間に合った風の魔法が衝突する。

仮面の人物に亀を見られはしなかったはずだが、どうしたものか…地下水は悩み始めたが、油断なく魔法の杖でもある巨大な斧を構え、自分の本体である剣が固定されている事を確かめる。

仮面の人物をトリスティン貴族と考えたのは男の動きがトリスティンの軍人、それも恐らくは近衛隊のものだったからだ。
長く傭兵として生き、ガリアの裏でも暗躍していた地下水の経験からしてそれは間違いない。

元貴族のラルカスとしては、この男と正々堂々とこの場で決着をつけたいという気持が沸いている。
『烈風』を今後乗り越えなければならない身としては、当然超えなければならないだろうという義務感に似た感情もある。

だが、こんな相手と戦うのは今回の任務ではないし、ここで時間をかけ騒音を聞きつけて学院の関係者が集まってしまうと不利だ。
テファをつれてリスクを負う気は無い。
今の手際を見れば、このまま逃げるのが容易ではないことは明白だが、任務は完了させなければならない。
地下水とラルカスは湧き上がった感情を抑え、逃げる手を考え始めた。

仮面の人物が杖を下に向ける。

「待て、私に争う気は無い」
「いきなり杖を向けてきて何言ってやがるッ」
「それについては謝罪しよう。我々には優秀なメイジが一人でも多く欲しい。協力してくれないかね?」

地下水は鼻で哂った。
冗談半分の軽い口調でレコンキスタのスカウトに返事を返す。

「貴様こそうちに来いよ。ボスはどんな素性の者でも受け入れる器量があるぜ」
「麻薬の売人如きで終わるつもりか。貴様も元は貴族、ハルケギニアの将来を憂う気持はないのか?」

再度尋ねてくる相手に地下水はうんざりしたような顔をする。
ラルカスは勿論、地下水にもそんな気持はなかった。
インテリジェンス・ナイフとして生まれた地下水にあるのは、この長い生をどのように生きていくかだけだ。
自分の肉体は無く、自分と同じ時間の流れの中を生きる物と出会うことは早々無い。
百年も立たぬ内に退屈になっていた地下水にとって興味があるのは、退屈をどう潰すかだけだった。
その点、ジョルノ達と行動する今は案外嫌いではなかった。
新しい相棒のラルカスの体を使えば今までに無いレベルで魔法を行使できるし、退屈はしない男だからだ。
ラルカスも同じだった。病に冒されていた頃に、既に国家への忠誠はどうしようもなく落ち込み、今はもうない。
だから仮面の人物に油断無く斧を向けながらこう答えた。

「下らんね。俺が興味があるのはどう生きるかだけさ」

ならばと、仮面の人物が纏う空気が張り詰めていくのを感じて、地下水は笑みを浮かべた。



フーケが救出されようとしている頃、舞踏会に参加するはずだったイザベラは、まだ学院が用意した客室にいた。

本来なら舞踏会に参加していたはずだった。
トリスティン貴族の子女達を背景にパートナーとなった犯罪組織のボスとダンスをしたりするはずだったが…
その予定は準備をしている途中で、突然の来客により崩れさっていた。

「ふむ…?可愛らしい娘ではないか。私は本当にどうかしていたらしいな」
「ほ、本当にどうされたのですか?」

イザベラの容姿をザッと上から下まで観察した美丈夫はうん、と大きく頷いていった。
今までそんな言葉をかけられた覚えがなく、戸惑うイザベラにジョゼフは苦笑した。
ガリアの玉座に座っているはずの、時間的には美食を堪能しているはずのイザベラの父親が、屈託のない顔で笑っていた。

「少し前からここ何十年かの記憶を失ってしまってな。ある方の薦めもあって戻ってくるのを待つより、こうして迎えに来た方が案外記憶を取り戻す良い切っ掛けになるのではと考えたのだ」
「記憶喪失、ですか…?」

戸惑いを隠せない娘に、ジョゼフは頭を下げた。

「うむ。これまでは冷たく当たってすまなかったな。許せ」
「え? は? なんで頭を」

呆気にとられたままのイザベラとジョゼフはそのまま、イザベラのことを根掘り葉堀り尋ねているうちに舞踏会は始まり、時間が過ぎた。
ジョゼフは本当に記憶を失っているかのように、色々な事を尋ねてくる父親が本当の事を言っているのかどうか、イザベラにはまだ判断が付かなかった。

だが、舞踏会が始まるその頃になってやっと、そんなイザベラも我に帰った。

「そうか…シャルルは本当に」

シャルルが死んだ時の事を尋ね、悲しげな表情を見せる父親の真に迫った表情。
照明に照らされ、目に涙の膜が張っていることに気付いたイザベラは、父親を疑っていた。
自分でしでかしたことを確認する無神経さには呆れたし、これまでのことを考えると、今のジョゼフは胡散臭すぎた。

誰だコイツ?
どうやってイザベラの下へたどり着いたのかとか、色々な疑問もあったが、我に帰ったイザベラの頭に浮かんだのは違和感だった。
若々しい壮年の肉体はそのままだ。蓄えた髭なども。
だが、身分を隠すためか服装はラフだった。
この学院の生徒と大差ない、と言ってもいい。
公式の場意外では余り父と対面していなかったから、というのもあるが。
白シャツ。皮の手袋やブーツ…どれもイザベラが今までに見たジョゼフと比べると、飾り気の無い物だった。
装飾品と辛うじて言えるのは、(これをつけているからジョゼフだとわかったのだが)始祖から受け継ぐルビー位で他には腕にも首にも、何の宝飾もなかった。
杖さえ、一見して良い物とわかるが宝石の類は見受けられない。

それに明るく、陰りなどない表情は…まるで別人のようではないか。

自分の豹変に戸惑うだけでなく、ガリアにいる臣下。その中でも側近となる者達や愛人と全く同じ態度…
疑いさえ持ち始めた娘にジョゼフは気付き、ため息をつく。
人づてに聞いた自分とのギャップを考えれば仕方がないとはいえ、切なかった。
胸中で始祖ブリミルに祈りを捧げながら、ジョゼフは話を切り替え、初めて表情に陰りを見せた。

「そういえばお前が世話になったネアポリス伯や…シャルルの娘にも会わなければならないな。イザベラ、すまんが後で案内してくれないか」
「え、はい。父上」
「シャルロットが許してくれるとは思えんが、母親やオルレアン家のことだけは言っておかねばな」

肩を落として言うジョゼフにますますイザベラの疑念は増し、シャルロットとネアポリスという名前が異様な父親へ一つ尋ねさせた。

「父上、シャルロットをどうなさるおつもりですか?」
「無論正統な地位と権利を与えるつもりだ」
「馬鹿なッ…父上、それは」
「危険性については理解している。シャルル派を名乗る者どもが勢いを取り戻すことも、私がシャルロットに殺されることもない」

断言するジョゼフにイザベラは心の中で毒づいた。
ジョゼフの口ぶりからすれば、そうなるように既に準備が十分に済んでいるのだろう。
そうした手腕に関してはジョゼフは天才的と言ってもいい手腕を誇っている。
でなければ暗愚と呼ばれながらも王を続ける事など不可能なのは、イザベラが一番良く知っていた。

アンタはいいかもしれないけどそれじゃこっちは困るのさ!

イザベラがシャルロットを味方に引き込むためにはシャルロットは不幸なままがいいのだ。

今の不幸な状態ッ、ジョゼフが完全にシャルロットと敵対している状況が凄くいいのに!
ジョゼフの言う事が本心であれ、何か思惑があるのであれ…謝罪や協力などを求める手紙は、既にシャルロットに出してある。
だが今のジョゼフの言い様からすると、シャルル派の貴族達が揃ってバックにつきシャルロットはシャルロットだけでジョゼフに対抗しようとするかもしれない…
利を考え始めたイザベラにジョゼフは気付いたが、何も言わずに悪戯っぽい表情を作ると部屋に来る時持ってきた大きな箱をイザベラに示す。

「…フン。ところでイザベラが置いて行った使い魔を念のため連れて来たのだが…」

ニヤリとするジョゼフに、イザベラは顔を青くした。
視線を父親が持ち出した金属の箱へと固定して、震える声で尋ねる。

「あ、アイツをですか…!?」
「使い魔とメイジは共にいるものだろう?」
「ですが…アイツは」

当然のことを言うジョゼフにイザベラは口を濁し、ジョゼフが持ち込んだ箱を今度は視界にいれないようにする。
箱の中にいるであろうイザベラの使い魔は…イザベラに劣等感を抱かせる要因の一つでしかなかった。

始めは、喜んだ。
イザベラが数年前に召喚し、未だ衰える気配を全く見せないそいつはハルケギニアでは見ない、新種の鳥だった。
だがソイツはイザベラを使い魔の分際で見下ろしてくる。それが気に入らなかった。
そして、シャルロットが竜を使い魔としてからは、鳥さえ御する事ができない自分を否応なしに比べてしまう…見たくは無い物へと変わっていた。

その時、箱の内側から氷が突き出た。イザベラは悲鳴を上げ、身を竦めながら距離を取っていく。
ジョゼフは逆に好奇心で目を輝かせ、固定化をかけた金属を容易くぶち抜いた氷の鋭い輝きや、その奥から覗く猛禽の目を眺めていた。

金属製の箱をあっさり破壊した氷が砕け、中から一匹の隼が飛び出す。
軽く羽ばたきその体が宙を舞う。

「ペットショップ…」

何か予感めいたものを感じてジョゼフに従い、今勘にしたがって飛び出したペットショップは窓をこじ開けて外へと飛び立った。
一応は主人であるイザベラが後を追ってレビテーションを唱えているのはわかったが、気にも留めなかった。
レビテーションを使えないジョゼフが置いてきぼりを食らった事もどうでもいい。
翼の形状から、頻繁な旋回・方向転換などは不得意であるはずだが、悠々と旋回を繰り返し学院の建物を出たり入ったりして、灯りの近くを移動する。
ニワトリのように夜盲症ではないので、月が二つ輝くハルケギニアの夜はペットショップには十分な明るさだった。

着飾った人間達を見下しながら、ペットショップは自分が召還された時の事を思い出していた。

ペットショップが召喚されたのは、主人の屋敷をかぎ回る糞ったれな犬(イギー)に敗れた直後だった。
最早ペットショップの命の灯は消えかかり、傷ついた体は死体一歩手前だった。
だがガリア王宮の優秀なメイジ達はそんな彼を奇跡的に治療してみせた。
弱っていた自分にキスをした幼いイザベラの顔を使い魔のルーンが刻まれる焼け付く痛みと共にペットショップは今も記憶に止めている。
それから数年の月日が流れた今も。
だが何故か殺す気にならず、それを不思議に思わず主人であるDIOの下へ戻っていない。
命を助けられたから恩義を感じている、というわけではないのは自分のことだからわかる。
そんな殊勝な心がけはペットショップには存在しなかった。
それは使い魔のルーンの効果だったが、ペットショップはそれに気付く事は無かった。
時折頭に浮かぶ違和感を振り払いペットショップは学院の周囲を飛ぶ。

本来なら老衰で死んでいてもおかしくない年齢だったが、そんなことは無視した若鳥のような力強い動きではばたいていく。
目が忙しなく周囲を探り、何かを探していた。

ペットショップにも何を探しているのか明確にはわかっていなかった。檻の中で感じた奇妙な、予感を求めていた。

そしてペットショップは一人の人間に目を付けた。
人間が多く集まる会場から抜け出していく人物にペットショップは羽ばたきも極力押さえて、ゆっくりと近づいていく。
主人とは違う鮮やかな黒髪だったし、体つきも柔だ。
だがその華奢なボディや立ち振舞いに、ペットショップは微かに同じ匂いを見た。
注視する間に何処かへ向かう人間の首筋が見えた…首の付け根にある星形のアザが目に入った。
ジョゼフについてガリアを出る前に出会った男の言葉が頭に浮かんだ。
男はあっという間に、それこそチャームの魔法でも使ったかのようにジョセフと親交を結び、貴族達も恐れるペットショップの視線を受けながら、リラックスした体勢で笑みを浮かべてこう尋ねてきた。

『ペットショップ。君は引力を感じたことはあるかね?』

人間はいつのまにか立ち止まり、首だけ振り向いてペットショップを見ていた。
口元には薄く柔らかな微笑がある。爽やかな笑みだったが、声は不思議と心地よかった。

「よければ、僕と仲良くしないか?」

ペットショップは、当然のように人間が差し出した腕に止まった。人間の背後に力あるヴィジョンが一瞬見えた。
人間を背後から抱きしめるようにする黄金に輝く優美な像と、その頭に腕を置く主人のスタンドの像を。

間違いなく、人間は主人の血統に違いないと、ペットショップは確信した。

「ジョナサン!」

ペットショップを腕に止めたまま、生命エネルギーを頼りにラルカス達のいる場所に向かおうとしていたジョルノは足を止めた。
今出会ったばかりの鳥と共に声の方へと視線を向けた。重力を無視してゆっくりと青い髪の女が降りてくる。

「クリス?」

振り向くとドレスアップしたイザベラが着地していた。
レビテーションかフライの魔法で鳥を急いで追いかけて来たのだろう。
今宵の舞踏会のために時間をかけて結った髪が少し乱れていた。

「…もしかして貴女の使い魔ですか?」
「そうさっなのに…いや、何でもないよ。さ、戻るよペットショッ」

連れて行こうと手を伸ばしたイザベラは、ペットショップが自分に敵意のこもった視線を向けていることに気付いた。
それどころか、その周囲が歪み、冷たい空気が流れ始めているのをイザベラは感じていた。
忌々しい気持が浮かんだが、それをグッと堪えてイザベラはジョルノとペットショップを見る。
今日ジョルノに言われたばかりの言葉が頭に浮かんでいた。
自分に、いや誰にも従わなかったペットショップが、何故だかジョナサンに懐いているように見えた。

…自分で使えないのなら。
当然のように腕に止まりイザベラを冷たく見つめる使い魔の目を眺め、思案顔で考えたイザベラは口の端をもちあげる。

「案外いいかもしれないね。ペットショップ、アンタ…ジョナサンを助けてやりな。私の、じゅ、重要な仕事を任せてあるから、目を離すんじゃないよ」
「いいんですか?」

ペットショップに詰めより言い聞かせるイザベラにジョルノは不思議そうに聞いた。
メイジと使い魔はどちらかが死ぬまで共にいるパートナーだという風に、何かの本でジョルノは読んでいた。
それはこの学院の学生が以前ジョルノも生み出した事のあるジャイアントモールに頬づりしていたことなどを見てあながち間違っていないと思っていた。
それをあっさり手放すイザベラが変わっているのか、未だジョルノには正しい定規がなかった。

微かに顔を赤くしてイザベラはそっぽを向いた。
灯りの方を向いたので、横顔ではあったがより表情がよく見えるようになったのだが、そこは指摘せずにジョルノは礼を言う。

「ありがとうございます。彼はペットショップというんですね」
「そ、そうさ。コイツの視界を通し私はアンタを監視できるんだから、これからはサボれないね!」

少し冗談半分にイザベラは言った。
視覚や聴覚を借りる事はできるが、どの程度の距離までそれが行えるかどうか、イザベラも正確には把握していなかった。

「(一方的になってしまいますが)僕から伝たいことがあれば、すぐに貴方に伝える事ができるようになりますね。後で時間を決めておきましょう」

ジョルノもそれには気付いていたが、一方で可能という事になれば、うまくやれば情報伝達を素早くできるかもしれないとジョルノは少し期待していた。
浮遊大陸であるため、飛行船などでよく使われる風の力を秘めた風石の利用がうまかったアルビオン出身のギャング達を中心に技術を再現できないかと電信等を研究させているが、国家間で通信を行うような段階ではない。
ポルナレフが毎日頼んでいた携帯電話で出前、なんてことをやるのはまだまだ無理な話だ。

「わ、わかってるじゃないか。私もそういう使い方を期待してたのさ」

だから伝書鳩や人手による通信を強化していたのだが、離れている使い魔を使って通信を行うという使い方はありかもしれない。
何より他人にはわからないという点が素晴らしい。
どの程度の距離まで使えるかはわからないが、それで1kmでも縮められたら積極的に採用しようと考えながら、嘘っぽいイザベラに礼をいう。
そしてジョルノはペットショップと共にラルカス達の元へと向かう。イザベラに再び背を向けた時既にその目はペットショップが惚れ惚れするような冷酷さを宿していた。

イザベラは急ぐジョルノの背中に手を伸ばしたが、何故か気圧されて声をかけることができなかった。
人気の無いところまで来た時点で、ジョルノは亀を生み出しそれをペットショップに輸送させるという手を取った。
先程から忙しなく生命反応が動いていた。レコンキスタか学院関係者との戦闘に入っているらしかった。
急いでいけば、まだ間に合うかもしれない…ペットショップが足に掴んだ亀の中で、ジョルノは車のシートで寛ぐようにソファにもたれかかり足を組んだ。


その頃ポルナレフ達は、学院を脱出し周辺にある森の中へと逃げ込み、呼吸を整えていた。

あの場所でアレ以上戦いを続けていてはいつ学院の関係者達がやってくるとも知れない。
そう考えた地下水は逃走し、森へと逃げ込んだ。

人の手が入らない森はうっそうと茂り、二つの月が放つ光を遮る。
植物の枝葉が重なり合い、夜行性の動物達が徘徊する世界は人間の目では暗闇にしか映らないだろう。
だが、仮面の人物はそこに逃げ込んだ地下水を風の動きを頼りに位置を掴み追いかけてきた。
だから地下水はその人物を今、仮面の人物をエア・ハンマーで砕いていた。
ラルカスの肉体を使った地下水のエア・ハンマーは容易に人間を破壊する事ができる…が、杭のように地面に打ち付けられた仮面の人物の死体は無かった。
ラルカスと同じく、敵も遍在を使っていることに気付いていた地下水は特に驚くことも無く鼻を鳴らした。
何故わかったかといわれると返答に困るのだが、何度も使用してきたからか、なんとなく実体かどうかわかるのだった。

思っていたより手強い相手だった。
鍛えられた肉体、スクエアクラスと思われる魔法の腕と、軍人達が使う戦闘に特化した詠唱方法。
詠唱の技術や体捌きはラルカスや地下水より洗練されていた。
だがどれほど鍛え上げようとミノタウロスと人間の差はその程度では埋まらなかった。
生半可なエア・ハンマーやニードル、カッターでは、主要な風の魔法の殆どは、ミノタウロスの皮膚を貫く事は出来ないのだ。

地下水は斧を振るい、錬金で作り出した避雷針を消す。
エア・ニードルを防いだ自分に何を使ってくるのか。
地下水はライトニング・クラウドを警戒し、敵が放つ瞬間に身代わりを用意したのだった。
それはラルカスの発案だった。
烈風に負ける前のラルカスでは、思いつかなかったかもしれないと地下水は考え…ラルカスに体の主導権を返す。
ラルカスは安堵の息を吐き、亀の中にいるはずのポルナレフに、途中から戦闘を全く手伝わなかったポルナレフに険のある声を出す。

「ポルナレフさんよ。アンタさっきから何やってんだ? アンタも手伝ってくれればこんな冷や冷やしなくてすんだんだぞ」

だが返事は無い。
ラルカスは少し不機嫌になり、ぶっきらぼうに言う。

「ポルナレフ。姉妹喧嘩はどうなった?」

そう尋ね亀を覗き込んだ瞬間、中から伸びてきたゴーレムの手が、ラルカスの首を掴んだ。

「ッ?」
「アンタのボス…いいや、あのクソガキのところに私を案内しな」

中から聞こえてくる声は、地獄から響くような怨念めいたものが感じられた。
少し冷や汗を垂らしながらラルカスは中を見る。

…き、貴婦人に手をあげるのは紳士としてやっちゃいけませんよね?

亀の中の部屋では、同じようにポルナレフがゴーレムに捕まっていた。
そして、説明をしているテファがいて、かなり危険な目をしたフーケと目が合った。

「何してるんです?」
「ボス、アンタいつきたんだ?」

ラルカスはゴーレムの腕を握りつぶし、周囲に目をやる。
見覚えの無い鳥が同じように周囲を警戒している姿が目に入り、ラルカスを見下ろす冷徹な瞳が合った。

「今です。ペットショップに運んでもらいました」
「…アンタに話があるらしいぜ?」

いつのまにか背後に立っていたジョルノへ哀れむような目を向けたラルカスの姿が消える。
遍在を解除し、この場から逃走して舞踏会などに専念する事にしたらしい。
ペットショップが警戒していてくれるので、ジョルノ自身は余り警戒せずに亀の中へと入っていく。
腕を組み、親の敵のように睨みつけてくるマチルダへジョルノは笑みを浮かべたまま礼をする。

「…お久しぶりです。マチルダさん」
「ジョルノ…アンタ、覚悟はできてんだろうね?」
「姉さん、ジョルノは悪くないわ。ジョルノは姉さんとゲルマニアに行けって言うの。でも…」

ドスの効いた声を出すマチルダに、慌ててテファが説明する。
だがマチルダは可愛い妹を一瞥しただけで、面白くなさそうにジョルノへ視線を戻す。



To Be Continued...

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