ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの茨 3本目

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匿名ユーザー

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「ハーミット・パープル」を使い魔にしてはや数日。
ルイズはいつものように授業に出て、いつものように魔法を失敗し、いつものようにバカにされていた。
しかし不思議と心は晴れ渡り、バカにされても鼻で笑い返すほど、彼女の心は満ち足りていた。

今日は虚無の曜日、すなわち休日である。ルイズはハーミット・パープルの能力をより深く図るため、王都トリスタニアに行くことにした。
「五人目ね」
すれ違った男が何かに足を取られ、ブルドンネの大通りのど真ん中で盛大にスッ転ぶ姿を見つつ、ルイズが呟いた。
いくら王都とはいえ、休日で人に溢れている大通りにはスリも多いのだが、ハーミット・パープルで財布を包み込んでいるルイズには通じない。
それどころか、財布をスろうとした貴族崩れのメイジに、ハーミット・パープルで足を引っかけて転ばせるという地味~な反撃もしているのだ。
しばらく町をぶらついた後、タバサの探していそうな秘薬を見てみようかと、ピエモンの秘薬屋へと足を向けた。

「またのお越しをお待ちしておりやす」
秘薬屋の近くを通りかかったルイズは、フードを被った男性を中心に、いかつい体つきの男達が店から出て行くのを見つけた、店の人間が恭しく見送っているのを見ると、どうやらお忍びの貴族か金持ちの上客らしい。
ルイズは少し考え込んでから、意を決してその店に入ってみることにした。
「いらっしゃいませ、おや貴族様ですか、うちは目を付けられるようなことはしておりませんが」
先ほどのお忍び姿の男と違い、ルイズは魔法学院の制服姿、つまりマントをつけたメイジの姿をしているので、店主は揉み手をしながら卑屈そうにしていた。
「ちょっと見に来ただけよ」
「そうでございましたか。もしや、従者に与える武器武器をお探しでございましょうか?」
「従者?」
ふと思い返すと、先ほどの男達は確かに貴族とその従者にも見える。
「はい、最近土くれのフーケが貴族様相手に暴れ回っているせいか、従者に与える武器の需要も高まっておりまして」
「そうなの」
短く、素っ気なく返事をしつつ、ハーミット・パープルを伸ばして店主の頭に軽く触れると、特に何の思考も伝わってこなかった。…ということは、この男は本心から今の言葉を言っているのだろう。
しかしルイズの態度を見て、この店主は金儲けの算段を思いついたのだろう、悪巧みの思考がハーミット・パープルを通してルイズに伝わってきた。
『こりゃ何も知らないみてえだなあ、見た目の良さそうな剣でも売って、気持ちよ~~~くお帰り願おうか、へへへ』
店主の思考を知ったルイズは、貴族に対し不埒な考えを抱く店主に、少しお灸を据えてやろうと考えた。

「この店で一番上等な剣はどれかしら?」
「へえ!少々お待ちください」
そう言いながら、店主は店の奥から大仰な剣を持ち出してきた。
柄などに宝石がちりばめられた美しい長剣であったが、ルイズの心はそんなものには惹かれない。
なぜなら、ハーミット・ハープルが店主の頭にちょっと触れれば、この刀がどれほどのものかすぐ解ってしまうのだから。
「これはゲルマニアのシュペー卿が練金された名剣でございまして……」
説明を聞いていたルイズは、笑いをこらえるのに必死だった、店主が頭の中で『シュペー卿は実践に使えないガラクタばかり作るんだよなあ』と考えているのだから。
とりあえずルイズは、それをそのまま言い返すことにした。
「シュペー卿は実践に使えないガラクタばかり作るんですって?」
「へっ?え、あ、その……儀礼に使う剣として素晴らしいものでして、はい」
ビクッ、と体を震わせ、少し怯えているようにも見える店主の姿がおかしくて、ルイズは笑いながら呟いた。
「ふふっ、お店の程度が知れるわね」
『ちげえねえ!一本とられたなあ親父よお』
突然、店内から聞こえてきた声に、ルイズはきょとんとした。
「げっ…。デルフ!おめえ余計なこと喋るなって言っておいたじゃねえか!」
『俺は何も言ってねーよ。やるねえ貴族の娘っ子よお、この親父が狼狽えてるのは久々に見たぜ』
きょろきょろと店内を見回したルイズは、声に合わせて一本の剣が振るえているのを見つけた。
「インテリジェンスソード?実物は初めて見たわ」
ルイズはデルフと呼ばれたインテリジェンスソードに近づき、ハーミットパープルで柄を握った。
インテリジェンスソードにも心があるのかと思い、興味本位で這わせただけなのだが、不思議なことにハーミット・パープルの先端に輝くルーンが浮かび上がった。

『おお?おでれーた!こりゃおでれーた、嬢ちゃん使い手か、しかも面白いもん持ってやがる』
「使い手? …あ、それよりも、コレのこと解るの?」
『ああ、ルーンが浮かんでるおめえの使い魔だろ?でもおかしいな、なんか主人と一心同体な気がする』

これはまずい、という考えたがルイズの頭をよぎる。
ルイズがハーミット・パープルの能力に満足しているのは、他人には見られないという点が大きい。
そのため、ハーミット・パープルをすぐに知覚できるようなものが、他人の手に渡るのは何とか避けたい。
意を決してデルフリンガーを持ち上げると、店主に向かって言った。
「これ、値札が付いてないけど、幾らになるかしら」
「それですかい?それなら100エキューでけっこうでさ」
すかさずハーミット・パープルを伸ばして店主の頭に触れる、先ほど高額な剣を売り付けようとした罰として、弱みを握って安く買いたたいてやろうと思ったのだ。
だが、店主の頭には、口の悪いデルフリンガーが返品される可能性への不安や、家族を食わせていくには幾らで売れば丁度良いか…など、予想外に家族思いな一面が見えていた。

「……100エキューね。それぐらいなら払うわ」
「! まいどあり、へへへ、それでしたら鞘もおつけしまさあ、五月蠅いときは鞘に押し込めば静かになりますんで」
ルイズが代金を支払うと、店主は急にニコニコと笑顔を見せつつ、サービスとばかりに鞘と、質の良いナイフを付属品としてルイズに渡した。
デルフリンガーを九割ほど鞘にしまい、綺麗な文様の浮かんだナイフを懐にしまうと、ルイズは代金とは別に金貨を一枚カウンターへ置いた。
「貴族様、ナイフはサービスでございますが」
「今度生まれてくる子供には、ひもじい思いをさせないようにしなさい」

店主は一瞬、呆気にとられたような顔を見せた。
ルイズが店から出て行くと、店主はハッと正気に戻り、金貨を自分の額の前に持ち上げて、心の祖から恭しく礼をした。

『おめえも変わった奴だななあ』
「あんたも変わってるわよ、口が悪いのに”インテリジェンスソード”なんて、何の冗談?」
『俺にだって、デルフリンガーって名前があるんだぜ。ただのインテリジェンスソードだと思わねーでくれよ』
「デルフリンガー?たいそうな名前ね。私は…そうね、ルイズで良いわ。さっき見せたのは私の使い魔『ハーミット・パープル』よ」
『へえ…なるほどねえ』
デルフリンガーは、馬に乗って魔法学院へと帰るルイズの背に負われつつ、ハーミット・パープルの『意識』を感じ取っていた。
(この嬢ちゃんの意識に何か混ざってると思ったが、当然だよなあ、完全に一体化して影響し合ってやがる)
「なにか言った?」
『なんでもねえ、これからよろしくな』



思えばこの時、デルフリンガーをちゃんと問いただしていれば、ルイズは一生残る過ちを犯さずに済んだのかも知れない……

この日の晩、ルイズは風呂に入って疲れを癒し、そろそろ寝ようとしたところで、異変が起こった。
コンコン、と扉がノックされ、『アンロック』で部屋の鍵を開けられたのだ。
「!」
昼間のスリ対峙の興奮が覚めやらぬのか、思わず、ハーミット・パープルを出しつつ身構えるルイズ、だがその緊張と心配は杞憂に終わった。
「はぁい、ルイズ。今暇かしら」
部屋に入ってきたのは、ネグリジェを着たキュルケだった。
「何よもう、そんな格好で……驚かさないでよツェルプストー。 それにアンロックは禁止されてるじゃない」
「そんなこと言わないでよ、貴方の部屋から話し声がしたから、男でもつれ込んでるのかと思ったけど……」
そう言ってキュルケはルイズの部屋を見回す、どう見ても男が隠れそうなところはないし、窓から逃げ出した様子もない、それにベッドも綺麗なままだ。
「あんたじゃあるまいし、男を連れ込むわけ無いじゃない」
先ほどまでデルフリンガーと話していたのを聞かれてしまったのかと、心の中で舌打ちしたルイズは、キュルケが満面の笑みを浮かべているのを見て少しだけ不機嫌になった。
「ふふっ、そうよねえ、男なんかいらないものね」
「何よ、皮肉のつもり? 用がないならとっとと出ていってよ」
「違うわよ、あんな立派な触手があるなら、そりゃあ男なんかいらないと思うわよねえ」
「言わせておけば…!」
キュルケを、窓から外に投げ飛ばしてやろうか、と思ったところで、ルイズの頭の中に声が響いた。

”言ってわからねー女には、体で解らせてやれッ!”

「そうね!その通りだわ」
笑みを浮かべつつベッドから立ち上がったルイズを見て、キュルケは後ずさろうとしたが、自分の体が何かに絡め取られているのに気づいて身を硬直させた。
「ちょっ、ルイ…んっ」
ハーミット・パープルがキュルケの口をふさぎ、そのままルイズのベッドへと引き倒す。
「言って解らないなら、躰で解って貰うしかないわね」
ルイズの浮かべた笑みは、悪戯を思いついた子供のような…言い換えれば『ハッピーうれピーよろピクねー!』といった具合の笑みだった。



翌朝、誰かの肌の感触で目を冷ましたルイズは、窓から差し込む朝日の眩しさに目をこすりつつ、隣を見た。
なぜか一緒のベッドで寝ているキュルケが、やけに熱っぽい視線をルイズに投げかけている。
「昨日は…凄かった……」


頭から血の気が引いていく音って、ホントに聞こえるのね……
そんなことを考えながら昨晩のことを思い出し、ルイズは気絶した。


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