ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの茨 1本目

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匿名ユーザー

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「何よこれ」
その日ルイズが召喚したものは、小さな茨の冠だった。

「何が出てきたんだ?」「何も見えないぞ」「ネズミでも呼び出したんじゃないか?」
ルイズの後ろから、同級生達の声が聞こえてくる。
ゲートから召喚されたものが何なのか、見ようとしているのだろう。

ルイズは一歩前に出て、地面に置かれた茨の冠を手に取った。
よく見ると、中央に穴の開いた奇妙な鏡に茨が絡みつき、冠の様相を見せている。
なんだかよく分からないけれど、これは自分が召喚した使い魔らしい。

「ミス・ヴァリエール、どんな使い魔を召喚したのかね?」
どこまでがおでこなのか分からない教師、コルベールがルイズに近寄り、ルイズの手をのぞき込む。
「あの、これ…」
手の中にある茨の冠を見せると、コルベールは首をかしげた。
「これ?…はて、これとは、どれのことですか?」
「だから、この茨の冠みたいなものです」
「…?」
「…」
「…」
ほんの少しの間、重たい沈黙が流れたかと思うと、コルベールはぽんと手を叩いて他の生徒達に向き直った。
「えー、皆さん!そろそろ帰らねば、次の授業に遅れてしまいます、少々急ぎ足で戻るとしましょう!」

コルベールの声を聞いて、生徒達は空を飛んで、トリスティン魔法学院へと帰っていく。
ルイズを馬鹿にする言葉も少なくない、誰かは「とうとう頭がヘンになった」とまで言ってルイズを侮蔑し、飛び去っていった。
「ミス・ヴァリエール、召喚が失敗したからと言って意地を張ってはいけません、さあ、もう一度やり直しましょう」
「え…」
優しく語りかけるコルベールの笑顔が、ルイズにはとても残忍なものに見えた。

コルベール先生の指導の元、サモン・サーヴァントを何度もやり直したが、ルイズの前に使い魔を呼び出すゲートは現れなかった。
ルイズは何度も茨の冠のようなものを指さし、これが呼び出されているからゲートが開かないのだとコルベールに説明した。
だが、コルベールは気の毒そうにルイズを見ると、今日はもう疲れているのだから休みなさいと言って、魔法学院に帰るよう促した。
そこでルイズは気づく、この茨の冠はコルベール先生に見えていないのだと。
「先生!違います、本当に私、使い魔を呼び出したんです、この茨の冠みたいなものを、持ってください!」
ルイズはコルベールの手を取って、その上に茨の冠を載せる。
だがそれはコルベールの手を通り抜け、地面に落ちてしまった。

「…!」
呆然とするルイズを見たコルベールは、ルイズが意地を張り過ぎて混乱しているのだと考えた。
空を飛ぶことの出来ないルイズは、魔法学院に歩いて帰るしかない。
混乱状態の生徒から目を離す訳にはいかないので、コルベールはルイズと共に歩いて魔法学院へと戻ることにした。

ルイズは茨の冠を胸に抱き、部屋に戻ろうと歩いていた。
その途中キュルケとすれ違い、この茨の冠は他人には見ることが出来ないと、改めて認識することになった。
「あら、ヴァリエール、胸に何か抱いてどうしたの?」
「…”何か”って、ツェルプストーは、これが見えるの?」
「これって、どれのことかしら」
キュルケは、胸の前で交差させたルイズの腕をのぞき込む、だがそこには何もない。
胸すら無い。
「何にも持ってないじゃない、あんた大丈夫?」
「見えない…の?」
「?」

部屋に戻ったルイズは、茨の冠を手に持ち、考える。
これは一体なんだろう?
他の人には見ることも出来ないし、触れることもできない。
ルイズからは見ることができ、触れることもできる。

訳が分からなかった。

やたらにルイズのことを心配し、魔法学院まで付き添って歩いてくれたコルベール先生。
彼はきっと、サモン・サーヴァントに失敗たと思いこんでいるのだろう。
使い魔がいないメイジは二年に進級できない、つまり、明日の授業は皆と一緒に受けることもできず、一年生と一緒に授業を受けることになる。

けれども、自分は確かにこの茨の冠を召喚した。
誰にも認めて貰えない使い魔。

ルイズは笑った、だが、それは自虐的な笑いだった。
何年も何年も、魔法が成功しない、ゼロのルイズと蔑まれてきた結果が、誰にもその存在を認められない使い魔。
本当に自分にはお似合いだと、泣きながら笑った。


ルイズは茨の冠を手に取り、鏡の前に立つ。
これを被ったら、どんな格好になるだろう、花の冠ではなく茨の冠なんて、自分にはお似合いかもしれない…
そう考えながら、ルイズは茨の冠を頭に乗せた。


『ハ ー ミ ッ ト ・ パ ー プ ル ! 』


ぱっ、と頭の中で何かの声が響く。
ルイズは咄嗟に部屋の中を見回したが、自分以外だれも居るはずがない。
だが、確かに聞こえたのだ、『ハーミット・パープル』と。
改めて鏡を見ると、頭に乗せたはずの茨の冠が消えていた。


これが後に『ゼロのルイズ』を『ゼロの茨』と名を変え、『虚無の茨』として恐れられる運命の第一歩だとは、本人ですら気づいていなかった。


続かない。

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