ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

小ネタ-44

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匿名ユーザー

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 ある男が居た。
 ジョースター家と百年に渡る戦いを繰り広げ、死してなお怨恨を残して敵を苦しめ続けた強大な力を持つ吸血鬼。
 かつて、その男は世界を握りかけた。
 スタンドと呼ばれる力の中でも、停止した時間を自由に行動することが出来るその男の力は特に強力だった。
 同じ能力を持つスタンド使いが現れなければ、男は唯一の弱点である日光を時間停止という能力を持って克服し、世界を支配しただろう。
 だが、歴史は彼を否定した。
 彼の意思を継ぐ者が宇宙そのものを巡って夢を追い求めても、彼が目指したものに辿り着くことはなかったのだ。
 其の過程で、世界中の人間達に降りかかった苦難は、多くのものを不幸に貶め、多くのものを成長させた。
 結果として、其の男は世界に希望の種を蒔いたのだ。
 男が、それを望んでいなかったとしても。

 世界の名を持つスタンド使いにして吸血鬼ディオ・ブランドーと、黄金の精神を血に宿したジョースターの一族の戦いは、長いものだった。
 始まりは文献の中に止まり、見聞きした人物は既に土へと還った。
 ある機関が物語の一部始終を記した文献には、数え切れないほどの名前が連なっている。
 だが、一人だけ、物語の発端とも言える位置にありながら、名前を記されなかった人物がいた。

 物語に幾度となく登場するディオ・ブランドーが未だ純真であった頃を知る、其の人物の名前は……



 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、生まれてこのかた一度として感じたことがない程の嫌な予感に襲われていた。
 ハルケギニアに存在する四大王国の一つ、トリステイン王国は公爵家の三女として生を受けたルイズは、支配階級とも言えるメイジの血筋でありながら、魔法成功率ゼロと罵られてゼロのルイズ、なんて不名誉な二つ名を付けられている。
 だが、それはいい。
 才能が無いことなんて、幼い頃から分かっている。割り切れているわけではないし、それがコンプレックスになっていることも自覚している。ただ、そういうのとはまったく無関係なところで、自分は窮地に立たされているのではないかと思うのだ。
 貴族の子女が魔法と知識を培う場所、トリステイン魔法学院の進級試験を前に、ルイズは冷や汗たっぷりで小枝のような小さな杖を握り締めていた。
「早くしろよ、ルイズ!」
「後はお前だけだぞ!」
「いい加減、帰りたいんだよ!」
「意地張ってないで、無理なら無理って言えよ!」
 学院の敷地から少し離れた草原に集まったもうすぐ二年生の級友達の野次が飛ぶ。
 使い魔召喚の儀と呼ばれる試験では、ハルケギニアに住む生き物を呼び出し、自身の手足として共に生きる使い魔として契約する必要がある。
 召喚の魔法そのものは単純で、およそ失敗するようなものではない。
 事実、この試験に落ちた人間は過去に存在していないのだ。合格率100%である。
 だが、ルイズはゼロだ。どんな魔法だって成功させられないなら、この試験に合格することは不可能。歴史上初の黒星を上げて、永久に合格率を約100%にすることになるだろう。
 それはとても不名誉なことだ。
 由緒正しい公爵家の名に傷をつけることになる。厳しくも優しい父や、規律を重んじる反面で愛情深い母、キツイ性格だが誰よりも家族を思いやる上の姉、そして、魔法が成功しないために叱られてばかりだった自分を暖かく抱き締めてくれた下の姉。その全てを裏切ってしまうのだ。
 それは、なんとしても避けなければならない。
 だが、それ以上に、ルイズは召喚の魔法を使ってはいけない気がして仕方がなかった。
 良くないものが出てくる。そんな確信があるのだ。
「どうしました、ミス・ヴァリエール。使い魔召喚の儀は、既に始まっておるのですぞ」
 杖を握り締めたまま動かないルイズに頭の禿げた中年親父が声を掛けた。
 トリステイン魔法学院で教員を務めるコルベールだ。教育熱心だが、研究オタクで自分の世界に没頭することが多くある。だが、威張ったところも無いために、生徒達からの人気はそれなりにあった。
「み、ミスタ・コルベール。今日はちょっと体調が悪いので、儀式を延期してはダメでしょうか?」
 そんな弱気なルイズの言葉に、野次を飛ばしていた生徒達は顔色を変えてざわつき始めた。
 このルイズという少女は、人一倍気が強く、負けず嫌いだ。魔法が使えないために座学では誰よりも優秀な点を取る。それは、彼女が負けを認めることを悉く嫌うために、日夜努力を惜しまないからだ。
 この少女は、ヤルなと言ってもヤル!そう感じさせるスゴ味がある。いや、実際に何度もやってきた。周りの迷惑も考えずに。
 だというのに、晴れ舞台の日に野次を飛ばされておきながら引き下がるなんて、考えられないことだった。
「ど、どうしたんだよルイズ!」
「途中で投げ出すなんて、ルイズらしくないぞ!」
「頑張れルイズ!負けるなルイズ!」
「天変地異の前触れなのか?誰か、僕の頬を抓ってくれ!夢を見ているかもしれない!」
 先程まで好き勝手に喚いていた連中が、今度は励ましの声を掛け始める。
 ルイズが何もせずに引き下がるというのは、それほどまでに異常な事態だったのだ。
「ミ、ミス・ヴァリエール。すまないが、儀式は神聖なもの。延期というのは相応の事情がなければ認められるものではない。体調不良というのは気の毒だが、そこを耐えて儀式に挑んではもらえないだろうか」
 これまでに何度もルイズを教えてきたコルベールも異常事態に冷や汗を流しつつ、ルイズに儀式を継続するように促した。
「待ってください、ミスタ・コルベール!彼女がああまで言うんです、なにか事情があるのではないでしょうか」
 赤い髪のグンバツボディーの少女が、手を上げて近付いて来る。傍らには赤い体の巨大なトカゲが並んでいた。
「ミス・ツェルプストーですか。しかし、これは進級試験です。ここで中断した場合、彼女は留年、もしくは退学となってしまいますぞ」
 コルベールの言葉に、ツェルプストーと呼ばれた少女は力なく肩を落として首を振ると、悲しげにルイズを見つめて言った。
「仕方ありませんわ。ミス・ヴァリエール自身がそれを良しとしているんですもの。無理強いをして女に恥をかかせるのは、殿方のやることではないと思いますわ」
 言いたいことはつまり、失敗が恐くて動けないでいるのだろう、ということだ。
 言葉の意味を受け取って、ううむ、と唸るコルベールにしな垂れかかった少女は、杖を握り締めるルイズに流し目をくれて、ほほ、と笑った。
 馬鹿にしているのだ。
「こ、ここ、この色ボケ女ああああ!いい度胸してるじゃないの!!」
 ツェルプストー言葉と態度から全てを察したルイズは、全身を支配していた不安感を押し退けて怒りに身を任せた。
「いいわ!見ていなさい!あんたの使い魔なんかよりも、遥かに強くて高潔で、格好良い使い魔を召喚してやるんだから!!」
 生来の気の強さを発揮したルイズは、ピンクブロンドの長い髪を翻して、杖を高く掲げる。そうしている間にやっぱり不安感がどんどん強くなっていくが、チラリと視線を横に向けた先にニヤニヤと笑みを浮かべたツェルプストーが見えた為、途中で止めることもできなかった。
「えーっと、ハルケギニアにいる、いえ、トリステイン国内、いや、やっぱりわたしの実家の庭に居る小鳥あたり!うん、その辺の無難な使い魔よ!もうツェルプストーとかどうでもいいわ!凄く普通の使い魔をわたしは求める!絶対可愛がるから、お願いだから我が導きに答えて!!」
 凄くいい加減な呪文を唱え、ルイズは杖を振った。
 召喚の魔法はコモン・マジックと呼ばれる、口語で行われる魔法だ。そのため、必要な意味が篭められていれば、どんな呪文でも構わない。
 だが、さすがにルイズの呪文は酷すぎるだろう、と誰もが思った。
「こんな呪文じゃ、また失敗ね」
 そうツェルプストーが呟いたのに合わせて、ルイズが杖を振った先で爆発が起こった。
 魔法を失敗するたびに起きる、恒例の現象だ。
 爆風で土煙が巻き上げられ、その場に居た全員の衣服を汚す。殺傷力こそ大したものではないが、発生する煤や爆風は歓迎できるものではない。
 煙で悪くなった視界が晴れてくると、爆発の余波を受けた生徒達が目を鋭くさせて爆沈地を見つめる。
 服や髪をボロボロにしたルイズが、何かを見ていた。
「……墓石?」
 てっきり失敗したかと思っていた一同は、ルイズの声に爆発に対する抗議も忘れて召喚の魔法で呼び出された、墓石と思われる石に注目した。
 あまり大きくない台座に、小さな十字架が乗せられている。
 ハルケギニアの平民は、あまり立派な墓を作ったりはしない。大抵は土に埋めて、其の上に簡単な墓標を立てるくらいだ。
 そう考えると、一応墓石としての形を持っているということは、この石はあまり位の高くない貴族の墓である可能性があった。
「えっと……読めないわね」
 台座に刻まれている文字のようなものに視線を這わせたルイズが、ハルケギニアの公用語であるガリア語でも魔法で使用するルーン文字でもないために眉を潜めた。
 未知の言語となると、古代の文献や専門職の人間の助けがいる。
 無駄に強い不安に駆られていたルイズは、召喚で出てきたものが少々罰当たりではあるものの、大したものではないことに胸を撫で下ろし、コルベールにどうすればいいか尋ねようと振り向いた。
 そして、突然足を掴まれたことで悲鳴を上げた。
「き、きゃあああああああああああ!!?」
「ミス・ヴァリエール!?」
 足を掴まれたために転び、杖を遠く手放してしまったルイズにコルベールが駆け寄り、其の体を起こそうと手を差し伸べる。
 だが、ルイズの足を掴んだ手の力は思いのほか強く、引っ張るくらいでは外れそうに無かった。
「ゾンビだ!ゼロのルイズがゾンビを召喚したぞ!」
「クソ、ある意味レアだ!だが、俺は頼まれてもゾンビなんて使い魔にしたくない!」
「というか、どこのゾンビだ!?こういうものを作るのは、法律で禁じられてるんじゃないのか!?」
「バカヤロウ!誰がゾンビなんて作る方法を知ってるって言うんだ!ありえないことに法律が対応してるわけ無いだろ!やっぱりこれは夢なんだよ!」
 ギャラリーは混乱しているようで、助けには来てくれそうに無い。
「こ、この!!」
 ルイズの手を掴んだまま、もう片方の手で杖を構えたコルベールは、魔法の詠唱を始めて杖の先端から炎を生み出した。
 炎がヘビのようにうねり、宙を這って地面から突き出る腕に襲い掛かる。
 ルイズの足を避けて、炎が手首を軽く焦がすと、すぐに地面から悲鳴が上がった。
「うっぎゃあああああああああ!!」
 実に品の無い悲鳴だった。
「な!誰か中に、地面に埋まっているのか!?」
 足を開放されたルイズを墓石から引き離したコルベールは、火傷跡をつけてぶるぶると震える腕の下を見た。
「誰か!穴を掘るのを手伝ってくれ!」
 様子を見守っていた生徒達にコル・ベールが呼びかけると、派手な格好をした巻き毛の金髪少年が、薔薇を手に前に出た。
「任せてください、ミスタ・コルベール。この青銅のギーシュが、瞬く間にその穴から婦女子を襲う不届き者を引き摺り出してご覧に入れましょう」
「は?あ、いや、掘るだけでいいのだが……」
 コルベールの声が聞こえているのか居ないのか、ギーシュと名乗った少年は薔薇を掲げて指を鳴らすと、傍らに控えていた土色の物体に指示を出した。
「行け!ヴェルダンデ!土の中に居る不審な輩を、ここに引き摺り出しておくれ!」
 土色の物体が突き出した鼻をピクピク動かして返事をすると、大きな両手で猛烈に土を掘り始めた。あまりの勢いに、掘り出された土が宙を舞い、見ていた生徒たちの頭に降りかかる。
「僕の使い魔、ヴェルダンデはジャイアントモールだ。土の中を自由自在に動き回り、匂いだけで周囲の状況を正確に把握する。小悪党の一人や二人、軽く捕まえてくれるよ」
 ジャイアントモールとは、つまるところ、でかいモグラだ。
 しかし、ギーシュが自信満々に言う通り、ついさっき土を掘り始めてばかりだというのに、ヴェルダンデはもう大人がすっぽり入れるほどの大きな穴を開けると、更に奥へと進み始めていた。
 それから十秒も経たないうちに、もう一度品の無い悲鳴が草原に響いた。
 ヴェルダンデが最初に開けた穴から顔を覗かせ、何かを口に銜えて引き摺っている。
「足だね」
 足だった。
 自分の体を最初に土の上に出したヴェルダンデは、続いて銜えていた足を引っ張って目的の人物を引きずり出した。
「……貴族じゃないわね!」
 ヴェルダンデに引きずり出された男を見て、ルイズは断言した。
 貧相な身なりの男だ。体こそ大きいが、頭頂部が禿げてコルベールと似たような髪形になっている。白髪であることから、それなりの年齢であることは窺えるが、掛けたり抜けたりしている歯を見ると、正しく医者にかかれるとも思えない。となると、長生きをしているわけでもないのだろう。見た目よりも実年齢は若いのかもしれない。
 右眉の上に傷跡がある男は、ヴェルダンデに引き摺られた足を必死に剥がそうとして躍起になっているようだが、うまく行かないらしい。全身を土で汚してぐちゃぐちゃになっていた。
「放せ化け物!おれなんか食っても美味かねえぞー!!」
 一心不乱に暴れ続ける男を見て、ルイズは少しあっけに取られた様子のコルベールに視線を移した。
「ははは!どうだい、僕のヴェルダンデは!ジャイアントモールという種族は、土の中を馬に匹敵する速度で走ることが出来る。そのパワーは人間の比ではないよ!」
 自慢話が続けるギーシュを横目に、墓石からゆっくりと近付いてくるコルベールに駆け寄ったルイズは、今、一番気にかかっている点を尋ねた。
 聞きたくないが、聞いておかないと後悔をするかもしれない。
「ミスタ・コルベール。あ、あの。わたしが召喚したのは、あの男なのでしょうか?」
 その言葉に、コルベールはまだ暴れ続けている男と墓石を交互に見て、その様だね、と答えた。
「おわああああ!?なんだ!誰だテメエら!!うっひいぃぃぃ、化け物がたくさんいるうううう!!?ま、まさか、邪教徒の集団か!?こっちみてニヤニヤするんじゃねえええぇぇぇ!ひえええぇえ、助けてくれえええ!だ、誰かー!」
 大の男にしては、酷く情けない悲鳴だ。あまりの滑稽さに、生徒達は笑いを堪えるのに必死のようだった。
 だが、あまり笑えない状況に立たされているルイズは、この世の終わりを見ているかのような絶望に、顔を真っ青にして視線を男とコルベールの間を何度も往復させていた。
「み、みみみみみ、ミスタ・コルベール。あ、あいつを召喚したということは、わ、わたしは、あ、ああ、あいつと契約を結ばなければならないという、こ、ここ、こと、で、ででです、よね?」
 どもりながらも尋ねるルイズに、コルベールは気の毒そうな表情になって頷いた。
 召喚は、使い魔とする生物を呼び出しただけでは終わらない。
 魔法の契約を持って、主従の証となるルーンを刻むことで、初めて召喚の儀式は終わるのだ。
 そして、魔法の契約は口付けを持って成される。
 つまり、キスである。
「い、いや!いやよ!!わたしのファーストキスが、あんな下品で臭い、情けないオッサンだなんて!」
 生まれてから16年間清い体を保ってきたのは、どこの誰とも分からないオッサンのためではない。断じて、ない。
 年頃の少女であるルイズは、胸に秘めた純情な乙女心を打ち砕くであろう事実に、首を振って後退り、まるでナイフを構えるかのように杖を両手で握り締めた。
「うお!?待て!止めろ!その変な生き物をこっちに近づけるな!!やめろ、止めろって言ってるだろうが!近付くんじゃねえええええ!!」
 すっかり生徒たちの遊び道具となった謎の男は、本日召喚されてばかりの使い魔たちに囲まれて悲鳴を上げている。
 握った土を投げつけ、唾を吐き、屁をこく。
 プライドも何も無い様子で近付く使い魔を追い払っている様子は、ルイズに芽生える嫌悪感を更に強める結果となっていた。
「ミスタ・コルベール。同じ女として、あんなのと契約をさせるのは、ちょっとどうかと思いますわ」
「そうは言うが、ミス・ツェルプストー。使い魔召喚の儀は神聖なものだ。一度召喚した使い魔がイヤだからといって、再召喚を認めるわけにはいかないのだよ」
 ツェルプストーに首を縦に振り、コルベールの意見に首を激しく横に振ったルイズは、杖を自分の喉元に当てると、目を閉じた。
「あんなのとキスをするくらいなら、わたしはこの場で自害します。さようなら、お父様、お母様、エレオノール姉さま、ちい姉さま。先立つ不幸をお許しください」
 魔法を発動させるルーンを口にし始めたルイズに、コルベールとツェルプストーが慌てて止めにかかった。
「放して!死なせて!!わたし、あんなのと口付けしてまで生きていたくない!!」
 両手両足に絡まるコルベールとツェルプストーの腕から逃れようと暴れるルイズは、それが自分の力では引き剥がせないと分かると、杖の先を口の中に突っ込んでルーンの続きを唱え始める。
「うわああああ!!待て、待ちたまえ、ミス・ヴァリエール!!わかったから!学院長と相談して、何とかするから!!落ち着きたまえ!」
「そうよ、ヴァリエール!こんなところで死ぬなんて考えちゃダメ!良い子だから、落ち着いて今後について話し合いましょう!なんとか署名とか集めて、学院長に納得させるから!早まっちゃダメよ!!」
 取り押さえるコルベールとツェルプストーの脳裏にあるのは、ルイズが魔法を使ったときに必ず起きる爆発だ。
 爆風で衣服を焼き、引き千切るだけのパワーがある爆発が、もしも口の中で発動なんてしたら、一生もののトラウマとなりそうなスプラッタな光景が出来上がるだろう。もう肉の類は食べられなくなるかもしれない。
「ほ、本当に?本当に、アレと契約しなくてもいいの?」
 一応、コルベールとツェルプストーの訴えが届いたのか、ルイズが少しだけ落ち着きを取り戻して杖を口から放した。
 激しく首を縦に振るツェルプストーの横で、コルベールは空気を読まずに言ってはいけない言葉を漏らした。
「あ、いや。それは学院長に聞いてみないことには……むぐっ!?」
 気が付いたツェルプストーが口を閉ざしたが、もう遅かった。
「いやあああああ!!死ぬ!死んでやるうううう!!ふぁ、ファイアーボール!!」
 紡いだルーンが完成し、ルイズの杖が口の中で青白く発光したかと思うと、いつものように爆発が起きて悲鳴が上がった。
「うわあああ!?オッサンがいきなり爆発した!!」
「どういうことだ!爆弾でも抱えてたのか!?」
「死んだか!死んだのか!?だったら埋めてやろう!ちょうど墓石もあるしな!!」
「いや、生きてる!辛うじて生きてるぞ!衛生兵、じゃなくて、水の系統のメイジ!治療してやってくれ!」
 杖はルイズの口の中に向けられえているが、どうやら爆発はまったく別の場所で起きたようだ。呼び出された謎のオッサンの傍で爆発したらしく、もうもうと煙を上げている様子が見て取れる。
「……はあ、ヴァリエールのノーコンに助けられたわね」
 ルイズは魔法を失敗するだけでなく、狙いも付けられない。流石に杖の先端すら狙えなかったというのは初めてだが、それが今回は命を繋げる結果になったらしい。
 コルベールとキュルケは呆然とするルイズを目にしてホッと胸を撫で下ろし、事態の収拾をどうすればいいのかと頭を悩ませるのだった。


 後日、男がダリオ・ブランドーという名前であることが判明したが、その名前がハルケギニアの歴史に刻まれることは最後まで無かった。


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