ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-74

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匿名ユーザー

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アンリエッタの本陣に次々と伝えられる戦況。
しかし、その多くはトリステイン側の不利を報せる物でしかない。
増援を求められても本陣を手薄にする訳にもいかず、
王女は報告を聞きながらただ杖を固く握り締めるのみ。
現状では個々人の奮闘に期待するより他にないのだ。

「グリフォン隊から伝令! 味方と思しき風竜の所属確認を求めています!
乗り手は青い髪の少女、服装から魔法学院の学生ではないかとの事」
「…………!」

大空で戦うグリフォン隊からの連絡にルイズの心拍が高まった。
思い当たる人物など一人しかいない。
どうして、そんな事をしているのか、
ガリアの人間であるタバサにとって他国の戦争など無関係の筈。
それなのに戦地へと赴いた理由は一つしかない。

私達を助ける為。
フーケとの戦いでもニューカッスル城でも、
タバサ達は自分の命を省みず私達を助けてくれた。
嬉しさよりも先にルイズは悲しみが込み上げてきた。
仲間に迷惑を掛けまいと一人で飛び出してきたのに、それでも彼女達はやって来る。
困惑するルイズに、更に追い討ちを掛けるように新たな報せが届く。

「報告します! 我が軍の左翼に攻撃が集中しております!
このままでは支えきれません! 至急増援を!」
「左翼というと義勇兵で構成された部隊ですな。
外堀からこちらを追い詰めていくつもりでしょう。
やはり一筋縄ではいかぬ相手のようです」

マザリーニの言葉にルイズは唐突に立ち上がった。
その部隊の中には間違いなくギーシュがいる。
このまま見殺しにする事など彼女には出来なかった。

「何処へ行くのですルイズ?」
「誰も行かないのなら私が援軍に行きます!」
「待ちなさい! 一人では危険です!」

アンリエッタの制止を振り切ってルイズは馬に跨り颯爽と駆け出した。
傍にいた重臣や兵達も彼女の行動を止める事は出来ず呆然と見送るだけ。
咄嗟にアンリエッタは声を上げて兵達に出陣を促す。

「誰か彼女の護衛を!」

しかし皆一様に頭を下げて目線を合わそうとはしない。
魔法衛士隊は王女の護衛として傍らに居なければならず、
ましてや保身を第一とする高級貴族が自ら窮地に向かうなど有り得ない。
その情けない姿に苛立ちを覚えるアンリエッタに一人の貴族が名乗りを上げた。

「では私が参りましょう」
「え? ええ、お願いできますか」
「お任せを」

歩み出た貴族の姿を見てアンリエッタは目を疑った。
風評も良くなければ、武勇に秀でているという訳でもない。
その彼が自ら前線に赴くなど彼女には考えられなかった。
だけど藁にも縋る思いでアンリエッタはその貴族を送り出したのだ。

「では頼みます」
「御安心を。彼女とは因縁浅からぬ関係ですので」

鳴り止まぬ銃声と悲鳴。
その最中にあってルイズは急かすように馬を走らせる。
心中に付き纏う不安は決して拭い去る事は出来ない。
思い浮かべるのはギーシュとタバサ、
そして彼等と同様に来ているであろうキュルケの事だ。

ずっと一人でやっていけると思い上がっていた。
いつだって私は誰かに支えられて生きていたのに気付かなかった。
自分に何が出来るのかなんて問題じゃない。
いてもたってもいられずにルイズは行動に移した。
“敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶ”
母親より学んだその言葉の意味をずっと私は勘違いしていた。
伝えたかったのは“背を見せるべき相手の事”だった。
守るべき民、愛する人、深い信頼で結ばれた友、
それに気付かなかった私の背後に誰もいなかった。
だけど今は、まるで私の背を押すように彼女等の事を感じられる。

「よう。嬢ちゃん」
「急いでるから後にして!」
「いや、後回しには出来ねえな」

カチャカチャと鍔を鳴らしながら背負ったデルフが喋る。
だけど、それを制して私は急いだ。
恨み事を言われるのは判っていた。
私はデルフから“彼”を奪い取ったのだ。
剣であるなら戦いを望むのは当然だ。
戦う場さえ与えられなかった屈辱はどれ程の物だろうか。
ましてやデルフの呼び掛けで彼が目覚めるのを恐れて引き離したのだ。
戦いが終わった後ならいくら叱責されようと構わない。
だけどデルフが発したのは怨嗟の声ではなかった。

「もし魔法が飛んできたら俺を使え。
振り回せなくても盾代わりには十分なる」

怨んでいる筈なのに、使い手でもないルイズにデルフは力を貸すと言った。
その言葉の真意を理解できずに問い返す。

「どうして…?」
「相棒がいたなら必ずお前さんを守るだろう? 
なら俺はお前さんを命懸けで守る。使い手の意思は俺の意思だ。
それに、お前さんがどれだけ思い悩んで決めたかも知ってる」
「……デルフ」
「胸を張れ。お前さんは俺が見込んだ相棒、そいつの認めた主なんだぜ。
きっと相棒だって怨んじゃいないさ」

その一言が気休めだというのは承知していた。
本当の気持ちなんて今もコルベール先生の所で眠る彼以外には判らない。
だけど確かに、その一言にルイズは救われたのだ。
張り詰めていた感情が解けるように彼女の瞳から小さな雫が零れ落ちた。


「何やってるのよ! 話が全然違うじゃない!」
「参ったな…。奴さん等の銃、トリステインの最新式より遥かに高性能だ」
「ちょっと待ってくれ! それじゃあ火縄銃の僕等じゃ全然勝ち目ないじゃないか!?」

真上を掠めていく弾丸をやり過ごしながら塹壕に隠れた三人が騒ぎ立てる。
キュルケの参戦も戦況を変えるには至らなかった。
戦意を失った亜人達の代わりに迫ってきたのはアルビオンの鉄砲隊だった。

『亜人みたいに大きな的ならともかく、
銃ってのはやたらめったら撃っても当たりゃしません。
鼻息が聞き取れる距離まで相手を近づけてからじゃないと』

数と質で劣ってはいても、こちらには塹壕という防壁がある。
ましてや多大な犠牲を覚悟で突撃してくる様子もないとなれば、
時間を稼ぐのは容易いと、そうニコラは判断したのだ。
亜人達との戦いで彼の助言は的確であると感じたギーシュも賛同を示した。
相手に無駄弾を撃たせて再装填の隙を突いて反撃に出る。
その考えは決して間違いではないように思えた。

『ちょっと! 敵が撃ってきたわよ!』
『大丈夫ですよ。この距離じゃあ届きさえ……』

その直後、放たれた弾丸がニコラの頬とキュルケの髪を掠める。
瞬時にして顔面を蒼白に変えた三者は塹壕の中に潜り込んだ。
そして手も足も出せぬまま今もヴェルダンデの様に彼等は身を潜めていた。


靴音を響かせながら突き進むアルビオン鉄砲隊の行進。
距離を詰めながら放たれる弾丸の雨は反撃の暇さえ与えない。
辛うじてフレイムの吐息が敵の侵攻を食い止めているものの、それだっていつまで続くか判らない。
ヴェルダンデの落とし穴も突進してくる相手ならともかく、じりじりと距離を詰めてくる相手には効果も薄い。
かといって塹壕まで接近を許せば嬲り殺しに合うだけだ。

「こうなったら突撃あるのみよ!」

があー、と遂に耐え切れなくなったキュルケが吼える。
ニューカッスル城に潜入した時と同様、隠れ続けるのは彼女の信条に反するのだ。
勇ましく杖を振るい群がる敵兵を薙ぎ倒して血路を開く。
その方がよっぽど自分らしいと納得してキュルケを決断した。

「てい!」
「落ち着くんだ! 今飛び出しても何も解決しない!」

咄嗟に飛び出そうとしたキュルケの足をニコラが掴んで引き倒す。
その上にギーシュが覆い被さり組み伏せる。
街中だったら有らぬ誤解を受けそうな状況だがそうも言ってられない。
如何にトライアングルのメイジでも数の不利は覆せない。
四方八方から止む事なく飛んでくる弾丸を全て防ぎ切るなど到底叶わない。
思わず揉んでしまったキュルケのたわわに実った胸の感触に心奪われながらもギーシュは解決策を考えていた。

そこで問題だ! この状況でどうやってあの鉄砲隊を倒すか?
(三択)1つだけ選びなさい。

答え①ハンサムなギーシュは突如反撃のアイデアが閃く。

今やってるけど無理。
それよりも吸い付くような肌の手触りが心地良くて堪らない。

答え②仲間が来て助けてくれる

来てくれたけど当てにならない。
ついでに髪からほんのりと甘い匂いが漂って来てそれどころではない。

答え③倒せない。現実は非情である。

柔らかいだけでなく押し返してくるような反応が何とも…。

結局、考えは纏まらなかった。
何より冷静になればなるほど掌から張りと弾力が伝わってくる。
二律背反の中、煩悩に負けたギーシュが経験豊富なニコラに丸投げする。

「何か良い手はないか?」
「そうですね。上空からの支援があれば何とか」

そういって見た先には苦戦というよりも一方的に蹴散らされるグリフォン隊の姿。
とても援軍を遣せるような状況ではないし、来るとしたら敵の方が先だろう。
首を振るギーシュにニコラはもう一つの案を口にした。

「となると大砲か。横一列に並べてブッ放せば止められます」
「……さっきからわざと言ってないかい?」

皮肉げに言い放つギーシュの視線の先には、こちらに向けられた艦隊の砲口。
対するトリステイン艦隊は既に壊滅し、残存艦艇もこちらに向かっている最中だ。
この状況を打破する鍵が全て敵の側に揃っているというのは笑い話にしかならない。
やはりキュルケの言う通り、突撃しか道はないのかと諦めかけた時だった。

「何しているの…?」

不意に掛けられた声に反応しギーシュは見上げた。
そこには馬上から自分を見下ろすルイズの姿。
絶望も浮かべずに戦場に立つ彼女を見てギーシュは思い出した。
この程度の窮地なんて幾度も乗り越えてきたじゃないか。
諦めるのはまだ早いのだ、と無茶をしようとした自分を諌めた。

しかし冷静になってみれば自分を見るルイズの目は冷たい。
そこには汚い物を見るかのような侮蔑の念が込められているのではとさえ感じる。
そこでようやくギーシュは自分の置かれている状況を理解した。
塹壕から出て行こうとしたキュルケを二人で取り押さえた姿は、
二人掛かりで組み伏せて彼女に乱暴しようとしているようにしか見えないのだ。

ふるふると震えるルイズと硬直したままの二人、
そして抑えつけられて身動きの取れないキュルケ。
奇妙な沈黙の中、真っ先に口を開いたのはデルフだった。

「ああ。こりゃアレだな。
戦争に負けそうになって自棄になった連中の乱行だな。
どうせ死ぬからって女を襲ったり略奪やらかしたりするんだよな」
「待て! 違う、全然違うぞ!
全く疚しい気持ちがなかったとは言わないが僕は潔白だ!」

必死に抗議するギーシュの声もルイズには届かない。
俯いて前髪に隠された瞳には憤怒の炎が赤々と燈っている。
窮地に追い込まれて風前の灯火とまで思われたギーシュが、
キュルケを押し倒しているのを見つけた彼女の心情は如何なる物だったか。
不安だった心は落胆を通り越し、そして激怒へと変わる。
ギチリと握り締められたルイズの杖が高々と掲げられる。

「こ、こ、こ、この貴族の恥さらしー!」

瞬間。戦場を揺るがすかの如き轟音が響き渡った。
ルイズの失敗魔法が炸裂したのかと脅えていたギーシュが恐る恐る目を開く。
しかし辺りは吹き飛ばされてはおらずルイズの杖も天を指したままだった。
呆然とするルイズの視線の先を追えば、そこにはアルビオン軍が爆風に吹き飛ばされる光景が広がっていた。
飛来してきた砲弾が進軍する鉄砲隊を次々と蹴散らしていく。
予期せぬ反撃にルイズばかりかギーシュもニコラもキュルケさえも言葉を失った。

「続けて第二射! 前進してくる敵集団に火力を集中させろ!
足を止めた者、逃げる者には目もくれるな! 撃ぇ!」

凛とした号令が戦場に響く。
それに合わせて鳴り響く砲火の音。
どこか聞き覚えのある声にギーシュは声のする方へと視線を向けた。
整然と並べられた大砲と砲手、その背後で指示を出す一人の女性。
傷を負っているとは思えぬ程に毅然とした立ち振る舞い。
目蓋に掛かった金色の髪が風に靡く。

「アニエス!」

思わずギーシュは彼女の名を呼んだ。
共にアルビオンに旅立った戦友と再会できた偶然を、彼は始祖に感謝した。
ましてや待ち望んだ援軍として現れるなんて出来すぎだ。
やはり彼女は勝利の女神なのかもしれない。

ギーシュの声に反応してアニエスは振り向く。
直後、笑みを湛えていた彼女の顔は一転して険しいものへと変わった。
突然の豹変に戸惑うギーシュに彼女は問いかける。

「……おまえは何をやっている?」

アニエスが目にしたのはキュルケを押し倒すギーシュのあられもない姿。
再会を嬉しがるギーシュの顔は、にやけている様にも見て取れた。
もはや軽蔑というには生温いぐらいに刺すようなアニエスの視線が向けられる。
今まで築き上げてきたイメージが一瞬にして崩壊していく音、それがギーシュの耳の中で響く。
そして血の気が引いていく感覚と共にギーシュは悟った。

……多分、僕は生きて帰れない。
この戦場を無事に潜り抜けたとしても。


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