ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『Do or Die ―5R―』後編

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

 夏も盛りだというのに、月さえ黙してしまったかのような静かな夜。人々は本能的に何かを感じ取ったのか極力外へ出てこようとはしない。
 そんな中、道を駆ける一人の男がいた。幻獣マンティコアの刺繍の施されたマントを翻し、とある建物の扉を開いて中に駆け込む。
「ゼッサール隊長、各拠点の包囲完了いたしました」
 男は入ると同時に敬礼を取った。視線の先には机に向かっているマンティコア隊隊長ド・ゼッサールの姿があった。机の上に広げた街の地図から視線を上げて隊士を労う。
「ご苦労。引き続き警戒しておけ。くれぐれも住民に不安を与えるなよ」
 それに答えた隊士は、しかし沈黙した後でゼッサールに尋ねてきた。
「しかし隊長、敵は素人に毛の生えたチンピラとは言え、敵の本拠地での戦闘です。数も相当だと報告もありますし……本当に援護はいらないのでありましょうか」
「ヒポグリフ隊がすでに行っているのならば問題はない」
「ですが……これほどの大捕物、万一失敗するようなことがあれば我々衛士隊の沽券に関わります!」
「……お前、入隊して何年になる?」
「は?あ、えっと、マンティコア隊に配属されて今期で六年目であります!」
「そうか」
 突飛な質問に男は小首を傾げたが、ゼッサールはそれを気にする様子もなく腕を組んだ。
「……私はな、大捕物だからヒポグリフ隊に任せたんだよ」
 それだけ言って視線を隅にやる。そこには居心地悪そうに立っている少年たちの姿があった。水魔法により傷は治癒しているが、ここに連れてこられたことに戸惑いを隠せないでいる様子だ。
 そこへゼッサールが声をかける。
「諸君らの勇気ある行動に感謝する。君たちのおかげで国の大事は未然に防げそうだ。己が身を省みないその勇気は尊敬に値する」
「あ、ああ……そりゃ、どうも」
 国中の憧れである魔法衛士隊の隊長にそう言われて、少年たちはむず痒そうだった。何となく夢のような気さえする。
「家まで護衛を付けよう」
「いや、いい!……です。ケガも治ったし自分達で帰れる。……ます」
 そうか、と隊長はその厳つい髭面に人の良さそうな笑みを浮かべ少年たちを扉まで促す。そして少年たちは外へ踏み出した。
扉を開けた瞬間に飛び込んできた光景に息を呑む。
 マンティコア隊隊士たちが道の脇にずらりと並んでいるではないか。背後からゼッサールの太い声が響く。
「救国の英雄に敬礼ッ!」
 ザッ、という音とともに一斉に敬礼する隊士たち。その間を少年たちはうつむき肩を揺らして歩いていく。
 奪われ蔑み踏みにじられてきた人生。人として扱われぬ絶望。失意に駆られ道を逸れ、下を向いて歩いてきた。日陰こそが我が住処。そう思っていた。これからもそうだと思っていた。
 だが――
「バカ野郎。下を向くんじゃねーよお前ら」
 リーダー格の少年が前を見ながらそう言った。
「こういうときは胸を張って堂々と歩くんだよ」
 オレ達はまだまだこれからだ。そう思わせるような光に踏み出す一歩だった。

 そして見えなくなる。ゼッサールが敬礼を解くのに合わせて隊士たちも下ろす。と、一人の隊士がゼッサールに声をかけてきた。『組織』とフーケの関係をゼッサールに伝えた隊士だ。
「隊長、女王の近衛である魔法衛士隊が平民に敬礼を取るということは女王の権威が取ったというのと同然です!こんなことが上に知れたら……」
「せっかくのチャンスがダメになる……か?」
 ゼッサールの言葉に隊士がギョッとなる。
「な、何を言って……」
「あまり私を見くびるなよ。モット伯を絞ってみたら吐いたぞ。今回の事件と貴様らとの関連などをな」
 脂汗がとめどなく溢れてくるらしく、しきりに額を拭いてはいるが動揺は隠し切れていない。しどろもどろに何事かをいうがもはや言葉にもならないようだ。
「黙れ。言い訳は取り調べで聞く」
「そうかよ。じゃあもういいよ」
 言うが早いか杖を引き抜く。魔法衛士隊は魔法の威力だけではなく、詠唱速度や咄嗟に杖を引き抜く速度と言った目立たないところから鍛え上げられている。ブツブツと呟いていたのは言葉ではなく呪文。
 同じ衛士隊同士なら先手を打った方が勝つ!
「アンタの首を手土産にすりゃあこの失態も帳消しだッ!」
 そう言った瞬間隊士の意識は飛んでいた。壁に叩き付けられたことに彼は気付けていないだろう。
「見くびるなと言ったはずだ。先手を打てば勝てるとでも思ったのか?修練が足らん。これが隊長である私とお前との差だ」
 いつの間に抜いていたのか、ゼッサールの手には杖が握られていた。何十年という鍛錬に裏打ちされた純粋な技量である。
 隊士たちが息を呑んだ。それほどの力量を見せたのだ。絶大なる力でもって隊の統率を図る。かつての師の教えを実行した。
 数名の隊士に後始末を任せると、残りの隊士に指示を飛ばす。この熱帯夜にゼッサールの忠実な部下たちは飛び出していった。


 街の外観に溶け込むような家の中に、その外観に不釣り合いな男たちが集まっていた。各々が手に武器を持ち、一種の興奮状態にあるようだった。テーブルの上には白い粉が散乱し、それを奪い合う。
「おいよお!そろそろ時間じゃねーのかよッ!火どころか煙一つアがりゃあしねえ!」
「大方"不運(ハードラック)"と"踊(ダンス)"っちまったんだろ。つかテメェさっきからシャブ一人でギッてんじゃねっぞ、お?」
「あ?テメェなに調子くれてんだ?"顔(ツラ)"貸せや。あんまトンガってっと"潰"すぞ!」
「おいおい二人とも待てって。つーかそんなに暴れてーならオレ達だけで街にでりゃあよくねぇ?」
「ヤベえ、お前マジヤベぇな。マジオレら大人しすぎたろ。つかオレらでヤッちまったらオレら"天下(テッペン)"取れんじゃね?そーなりゃシャブ使いたい放題ジャン!」
 その言葉に家中から歓声が上がる。掛け声と共に足踏みで地面を揺らす。ちょうど薬の効きが頂点に来たのだろう。血走った目をした男たちが扉めがけて殺到する。今まさに狂気が解き放たれたのだ。
 ――しかし、男たちの進む先には壁があった。いや、それは人が横一列に並び、道を塞いでいる光景だった。その人間たちの恰好に気づいた男が一人、震えた声を出す。
「あ……ま、ままま――」
 その壁の中心になっていた人物が声を張り上げた。
「おのれら、チンピラ共ッ!このオレ率いるヒポグリフ隊が相手だッ!」
「魔法衛士隊だアァァァッ!」
 叫びを上げ逃げまどう男たち。しかし路地に入った瞬間、すでに待ちかまえていた衛士隊の魔法によって、ある者は風に押さえ込まれ、ある者は足下の地中が変形した檻に捕まった。
 立ち向かおうとする者もいるが、相手は鍛えられた軍人だった。薬で恐怖は薄まろうとその実力差は覆しがたく、また衛士隊も容赦がなかった。一人、また一人と魔法衛士隊に捕まっていく。
 そして他の所でも同じような光景が広がっていた。街における趨勢はこれではっきりすることとなるだろう。だが、手足が死のうとも頭が残っていれば幾度でも再生する。『組織』というものは往々にしてそういうものなのだ。


 夕立で出来た水たまりも気にすることなくフーケは走り続ける。傷に当てた分だけ衣服はその布面積を小さくし、今や夏に相応しいを通り越してやりすぎなほどであった。
 街に入ってからも変わりなく続く鬼ごっこは確実にフーケの体力と精神をすり減らしていた。曲がり角には目もくれずに十字路を真っ直ぐに突っ切る。
「ホラァ!追いついちまうぞッ!」
 後方からの声と共にフーケのスカートの裾が裂ける。
「くっ…!」
 慌てて角を左に曲がる。
 だが、依然背後の気配は消える様子もない。確実に追われている。足を休ませることも出来ずに走り続けるしかないのだ。
 勿論フーケもただ追われるだけではなく、何とか振り切ろうと左へ右へ細かく曲がり蛇行して走る。
「ムダムダムダァ!」
 一瞬何かが輝いたのをフーケは見て取ると、咄嗟に横っ飛びにT字路を曲がった。
「おしいおしい……クク」
 フーケはその声を振り切るかのように跳ね起きて駆け出し始めた。服や顔に付いた泥も気にしている暇はない。
「ははは!随分いい恰好になったじゃねーか!たまんねぇなあ弱いものイジメってヤツぁよお!」
 勝ち誇ったような声にも耳を貸すことなく走っているがついに限界が来た。
 目の前には曲がり角だがもはや一本道も同然。一分もたたないうちに――
「ッ!…行き止まり……」
「残念だったなあ、フーケ」
 瞬間、膝裏に熱を感じ、力が抜けて膝を突いてしまった。
 さっくりと裂けた傷口からは赤い血が流れ出す。
「楽しい楽しい夜の鬼ごっこもいよいよお終いだ。ここからはまな板ショーの始まり始まり」
「くっ……」
 周囲を見渡してみるが目に付く物と言えば積まれた木箱と水溜まり程度だ。本体の姿など欠片も見えない。
「ハン。勝ち誇ったところでちっとも格好良くないんだよ!裏でこそこそして女いたぶって楽しいのかい?」
「ああ、楽しいね」
 フーケの問いにさも当然とでも言いたげにJ・ガイルは答えた。
「何をされているのかわからずに死んでいく顔。目の前で大切なモノが奪われて時の顔。それが見たいからオレはここにいるんだぜ。いたぶって何が悪い?貶めて何が悪い?オレには力がある。それを許されるだけの力が!」
「クズが……」
「そのクズに追いつめられてりゃ世話ねえぜ。え?『土くれ』のフーケさんよォ!噂には聞いていたが、前にアジトに侵入したときに決めていた。お前は骨の髄までいたぶり抜いてから犯すってなあ……。
 死なない程度に四肢を痛めて血を流し、テメエはオレにこう言うんだ。『もう止めて!痛くしないで!』ってな、涙を流してその綺麗な顔をグチャグチャにして言うんだ。もうそれだけでヤバイってのに、当然オレは許しはしない。
 絶望に落ちていく顔をしながらお前は死ぬんだ。たまらねえ……いつだったかスラム街の女をヤった時もやばかった。あんときゃその女のガキがいてよぉ……楽しかったぜぇ。しかもそいつがスリを始めて『組織』に上納してるんだから傑作だぜ!
 その金はオレの懐にも来てるンだっつーの!」
 哄笑が渦を巻いて起こる。どこまでも耳障りだ。そしてその話を聞かされたフーケはすっくと立ち上がると杖を振るった。
 ちょっとした地鳴りと共に通路に土が隆起して壁を作り出した。行き止まりだった場所が箱に変わる。
「な、なんだ?」
「っあー……あたしもまだまだねー。こんなビチグソ以下の腐れ外道に、もしかしたら酌量の余地はあるかもしれないなんてほんのすこ~~~~~~~~しだけとは言え、思ってたんだから。本当、まだまだね」
 そして下げていた顔を上げた。
 いつにも増してつり上がる双眸は刃のように尖り、殺意と憎悪がない交ぜになったオーラを箱の中に充満させていく。
「壁を作って逃げ場をなくしたつもりか、笑わせる。オレのスタンド能力が解らない以上――」
「反射」
 J・ガイルの言葉をブッた斬って断言する。姿はなくともJ・ガイルが息を呑むのが見えるようだ。
「その反応だとどうやらビンゴみたいね。正直まだ半信半疑って所だったけど、これで心おきなくあんたをブッ飛ばせる」
「……どこで気づいたんだ?」
「最初にピンときたのはスラムの子たちがガラスの反射を使ったときよ。一度あんたにやられてるけど、その時にキラッて何かが反射したのを見てるわ。それに確証を与えたのが今日のアンタの大鏡のトリックよ。
 あそこまで鏡にこだわる以上は、鏡自体か、それに関係すること。それに鏡を使ってどうやって攻撃しているのかがまだ解らなかった。鏡から鏡へ移動して攻撃しているのか……鏡の中から攻撃してるのか。
 だからあの橋で確認したのよ。遮蔽物をまたいで攻撃できないなら前者。してくるのなら後者――って具合にね。ついでに、どの程度のものに反射が効くのか試したけど、水もイケるようでなによりだわ。あんたは今、目の前の水溜まりの中にいる。
 あんたはあたしを追いつめてるつもりだったのでしょうけど……残念、その逆よ。気づかない?ここは四回通ったんだけどなあ。まあ、通る度に壁を増やしてたから気づかないかしら?『追う者は追われる者以上に気を付けよ』。まったくね。
 あんたが油断しきってくれたおかげでおかげでこの状況まで持ってこれたんだから、まったく――」
 油断様々だわ。
 そう言ってフーケは笑った。J・ガイルの哄笑とは対照的な静かな笑み。しかしその中身がドス黒いことはその笑顔を見れば一目瞭然だ。
 油断。していた?自分が?ナメやがって。コケにされるのは許せねえ。
 自分はいつだって上位に立ってきたんだ。ここへ来る前に殺されはしたが、あれは何かの間違いだったはずだ。
 オレの『ハングドマン』は無敵なんだ!
「テメエこそ、何を勝ち誇ってるのかは知らねーが……調子に乗ってるんじゃねーぞ。居場所が割れようと能力がバレようとオレの『ハングドマン』は無敵だ!攻撃する術は無い!」
 そうだ。まだ負けた訳じゃあない。向こうに攻め手はないがこちらは好き放題に出来る。結局泣きつくのはあの女だ。
 ったはずなのに。
 フーケは無言のまま杖を振るった。足下の地面が盛り上がり徐々に固まっていく。そして現れたのは身の丈はあろうかという巨大な腕だった。その大きな掌の隙間からフーケの目が覗く。
「確かに――その中に引きこもってるあんたに攻撃する術はないね。でも……そこから出たらどうかな?
 例えば砕けたガラスにあんたは居続けられるのか?例えば水が涸れてもあんたは引きこもり続けられるのか?
 出来ないんだろう?何か別の反射するものに映らなきゃならない。例えば――あたしの目……とか」
 そこに至ってようやくJ・ガイルは自分が絶体絶命の窮地に立たされていることを理解した。
「光の速さでも、来る場所が解ってれば網を用意することは容易いわ」
 フーケの魔法だろうか、土が水溜まりの宙に浮く。J・ガイルは慌てて周りを探るが、光を反射するものは見あたらない。フーケの目以外には。
「う、うおおおおおおおおおあああああッ!」
 雄叫びと共に、水溜まりを埋めるには十分すぎる量の土が降り注ぐ。同時に土の腕が空を掴んだ。
 否、それは確かに何かを握っていた。ちょうど人一人分の空洞がその手には出来ていたのだ。
「そしてウェザーの言った通りね。『スタンドが魔法に干渉できるのならばその逆もまた然り』……。もっとも、『見えない』ってアドバンテージは痛すぎるけど……」
 手の中で何かがもがく感覚がある。フーケには見えないがそれこそ『ハングドマン』である。
「その拘束を外せないところを見ると、遠距離型っていうのはホントに非力なのね。潰しちゃわないか心配だわ。じゃないとわざわざ捕まえた意味がないじゃない」
 言いながら指揮棒のように杖を振り、周りに次々と腕を作り出していく。
「鉄の腕じゃあ反射してあんたに逃げられちゃうかおしれないからね。殺傷能力が落ちて苦しむだろうけど、まあそれは望む所よねぇ?」
「ま、待て!と、取り引きしよう!」
 ここにいたってJ・ガイルは急に取り繕ったような態度を取り出す。追いつめられると今までの自信はどこへやらと言った有様だ。
「お前が欲しいのは利益だろう?なら『組織』の利益のうち四割をお前によこそう!だから、な?な?」
「……悪の親玉ならもうちょっとそれらしい最期ってもんがあるだろうに。あんたがアルビオンの内紛の原因を作ったなんて、正直信じられないね」
「アルビオン?……ああ、それはボスがやったやつだな」
「――……はぁ?」
 J・ガイルの声に思わず間抜けな声を漏らすフーケ。
「そうだ!オレと組んでボスを倒そう!そうすれば五割……いや、もっと大きな利益がオレ達の物になるんだ!どうだ、魅力的な話だろう?」
「ヘイヘイ!ちょ、待ちな。あんたはボスじゃなくって、じゃあ、そのボスは誰なんだい?」
「そ、それは知らない……ボスは一度も姿を見せたことがないからだ。そのくせ偉そうに命令ばかりしやがるからよぉ……他の支部で問題が起きて今はそっちに向かってるから、その間にオレが頭になっちまおうと思ってな」
 その問題ってのはオレが起こしたんだけどな。と笑った。
「あの野郎は他の奴をまったく信じてないのはその徹底した隠蔽ぶりでわかるからな。事件は必ず自分で解決すると思ってたよ。案の定そうだったわけで、おかげでオレは美味しい汁が吸えた。
 この大規模な暴動も元々はボスの作戦だったんだが、オレの出世の第一歩として使わせたもらおうと思ってな。ま、まあ確かに誰も見たこと無いボスだが、お前の機転とオレの無敵の能力があれば暗殺も簡単だ。だから、なあ、組もうぜフーげぶぇッ!」
 皆まで言わせずに拳の一つが『ハングドマン』殴りつけた。何もないところを殴っているようでも手応えはある。
「あんたに名を呼ばれると気分が悪いわ……」
「オ……ゲ……」
 さらにもう一発。
「あんたの声を聞くと耳が腐るわ……」
「ブぎィアアアァ」
 さらに一発。
「あんたが生きてるとみんなが嫌な気分になるわ……」
「ナーアアアアアァァッァァァァ」
 さらに。
 さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。
「バニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニ
 バニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニ
 HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
 バニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニ」
「ブッゲアアアァァァァァァァアアアアアア!」
「バニッシングッ!」
 無数の土腕によるラッシュのシメは天に昇るようなアッパーだった。
「無敵の存在があるはずないじゃない。ファンタジーやメルヘンじゃないんだから……」
 もはや返事などありはしない。しばしの静寂がフーケを包む。
 フーケは自分の服を見た。所々破け、土に汚れてしまって見る影もない。もはや最低限の役目しか果たさない布きれではメイドと言うよりアマゾネスだ。
「あたしの一張羅の請求書は地獄宛に送っとくよ」
 途中適当な布をローブ代わりに羽織り表に出ると、なにやら騒がしいことになっていた。
 とある店先に人垣が出来ている。気になったフーケはそこに近づくと、野次馬の一人に声をかけた。
「何の騒ぎかしら?」
「ああ、それがいきなり人がボロボロになって浮き上がって、あの飲み屋の看板にブッ刺さっちまったのさ。わけがわからねえ」
「その男……どんな男でした?」
「ここからじゃよく見えねえけど、何でも"両手とも右腕"だとかって――って、なんであんた男だって……」
 疑問に思った野次馬が振り返ったときには、すでにそこにフーケは居なかった。
 布を脱ぎ捨てると、痛む体を引きずるようにして走る。
 勝てたとは言えダメージは深刻だし、油断してくれなければそもそも勝負にさえならなかっただろう。
 そんな男を今まで押さえ付けていた人物とは、いったいどんな化け物なのか……。
「間に合ってよ……ウェザー」


「オラァッ!」
 掛け声と共に男が一人吹き飛ぶ。背後の道には他にも数人の男たちが倒れていた。
 地理になれていないウェザーにとって、今自分が立っている場所がどこなのかさえわからないのだ。同じ所を二、三度巡ってしまった。
 だが、それで気が付いたこともあった。追っ手の数が減っているのだ。恐らくは街の方にかり出されたのだろう。
「時間はないな」
 呟いて目の前に視線を移す。赤の装飾が門に施されているのが特徴的な屋敷があった。
 微かな記憶を辿れば恐らくはこここそが記憶の場所。
「せっかくだからオレは赤の屋敷を選ぶぜ!」
 誰に言ったのか、そう言って突入していった。
 中は無人だった。外であれだけの大立ち回りを演じても何の反応もないのだから当たり前だが。ウェザーは好都合とばかりに部屋中をひっくり返し始める。だがやはり何も見つからず、とうとう最後の一つの部屋となった。
「これでいなけりゃフーケがアタリか……」
 そう言って扉を開けた。
 と同時にいきなり前転して部屋の中に転がり込む。今し方ウェザーが立っていた場所には代わりにナイフが数本突き立っていた。
 身を起こしたウェザーはすぐさまスタンドを発動させる。
「『ウェザー・リポート』!」
 空気のセンサーは部屋中に張り巡らされ、すぐに空気の乱れを観測した。
 トラップのナイフを一本引き抜くと、それを部屋の隅めがけて投げつける。ドスッ、という鈍い音がして、次いで重いものが地面に落ちる音がした。
 暗闇から転がり出た何かのもとにウェザーが歩み寄り、俯せに倒れているのが男であると認識した。黒いコートに黒い頭巾という変わったいでたちだが、こんな所に一人で隠れていたと言うことはボスで間違いないだろう。
「あっけないが、存外組織のボスの戦闘能力なんてこんなもんか……」
 そう言って顔を確認しようとしたとき、不意に嘔吐感に襲われた。耐えられずに思わず吐き出してしまう。
 だが、吐き出されたものは真っ赤な液体とカミソリだった。
「うげェ!な、なにィィィィィィィ、これはッ!」
 ウェザーは事態に驚愕しながらも、背後にわずかな気配を感じて振り返った。
 黒いコートに黒い頭巾という、奇妙ないでたちの男が立っていた。だが、床にはもう一人の奇妙な男が転がっている。
 いや、それよりも、"なぜこいつはセンサーに反応しなかった"のか!
「お、お前はいったい……ッ!」
「オレはお前に……近づかない」




To Be Continued…


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー