ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『Do or Die ―5R―』前編

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『Do or Die―5R―』

「ふぅ…」
 とある屋敷の裏でため息が漏れ聞こえてきた。
 フーケは背を壁に預けて荒い呼吸を整える。戦闘を極力避けていたためにダメージこそないが、それでも緊張と焦りが疲れになってのしかかる。
 ある程度息を整えられたのか、顔を上げて目の前の屋敷を見上げる。そこはフーケが目指していた場所だった。
「ウェザーの方も上手くやってるかな? まあ、上手くやってなくても何とかするか」
 そんな楽天的な考えで足を進める。恐らくは門で決着を付けるためだったのか、その屋敷には見張りもおらず灯りもついていなかった。
 屋敷内を徘徊し部屋を一つずつ見回るが、やはり何も、誰もいなかった。
 そして気づけばとうとう残り一つとなってしまっていた。
「さてさて、アタリを引いたかハズレを引いたか……」
 細心の注意を払いながら扉を開けていく。
 蝶番が軋む音とともに開いていく空間は――闇そのものだった。
 フーケの背後の月明かりで辛うじてハッキリ見えるのは二歩先までで、窓は一つしかなく黒の厚いカーテンに覆われていた。静けさも相まってまるで怪物の胃袋に放り込まれた気分にさせられる。
「調度品が高級なのは盗賊冥利に尽きるけど…、生憎と今日のお目当ては違うのよね」
 小さな獅子の像を手で弄びながら残念そうに呟いた。
 部屋の半ばまで足を踏み入れて辺りを再度見渡す。だが、やはり何もない。
 諦めたのかフーケはため息を付き、
「結局ハズレ――」
 像をいきなり投げつけた。
 部屋の奥隅に一直線に飛んだ獅子は何もないはずの空間に"ぶつかり"、劈くような金属音を上げてその空間を"砕いてしまった"のだ。
「――なわけないわよねえ」
 ヒビ割れ崩れ落ちていく空間の破片は、しかしよく見れば輝いていた。微かな月光を受け幻想的な景色を作り出したのは空間の破片などではなく、鏡の破片だったのだ。
「モノを映し出す鏡の性質を利用して角の一辺に鏡を設置すれば、映し出されるのは同じ壁……まるでそこがこの部屋の隅のように見えていても、その後には空間が出来てるってわけ。
 解ってしまえばなんてことないトリックだけど、この徹底した暗黒の空間作りと天上まで届く巨大な鏡を用意した努力は褒めてあげる」
 フーケは以前に襲われたときの違和感、そして屋敷の外観と部屋の大きさで異変を察知していたのだ。ルカの時も、椅子に座るように促してしまえばわざわざ逆らって部屋を物色したりはしない。
 それは道具さえあれば誰にでもできるトリックだが、だからこそ誰も気が付かなかったのだ。
 舞い散るガラスの破片の向こう側。さらに深い闇の中に輝く二つの目が見えた。
「こそこそ隠れて指示だけ出すなんていいご身分ね!」
 そこをめがけてフーケが杖を振るった。
 だがその時二人の間に落ちた鏡が光を反射した。
 それを見た瞬間にフーケは慌てて身を引いていた。
「く……」
 それでもフーケの給仕服の腹部は裂け、肌にはうっすらと赤い線が引かれることとなった。
「よくかわしたなぁ……」
「同じヘマはしないわよ!」
 すぐさま再び杖を構える。もっとも、その時にはすでに男はいなくなっていたが。
「まだ隠し部屋があるなんて、驚きを通り越して呆れたわ……」
 瞬時に辺りに目をやるが、居場所が特定できないと判断するや踵を返して部屋を飛び出す。そのままわき目もふらずに屋敷を駆け抜けた。
「……オレへの攻撃が不可能と見るやいなやのあの逃げ……。マジでこっちの攻撃方法に気づいたのか?」
 部屋中に散乱した鏡を見ながら呟く。このトリックは元々気づかれたとしても、そのトリック自体が己の力に変わるという二段仕掛けのモノだったのだ。フーケは踏み込んでこなかったと言うことは、あの破片群の中に入ることがどういうことか理解している。
 独力でスタンドに気づくことは不可能に近い。ならば"他にスタンド使いがいる"と言うことになる。それもフーケの味方として。そうなれば当然ながらこの戦いに参加しているのだろうが、フーケが一人の所を見るに別行動らしい。もっとも、
「どんな能力だろうと関係ねえ…。オレの『ハングドマン』は最強のスタンドだ。炎を操ろうが超精密なスピードとパワーだろうが、『鏡の世界』は貴様らの干渉外。じわじわじわじわじわじわと、炙るように殺してやる」
 どこからか現れた禿頭の男は、その"特徴的な左手"で口元を抑える。抑えきれずに零れ出る愉悦の笑いを抑えるために。
 床に落ちたいくつもの破片に映るのは男のもう一つの姿。
「さあ、童話の世界の住人が出てきてやったぞ。じっくりゆっくりたっぷりと、骨の髄までいたぶってやる」
 街に悪意を振りまく男――J・ガイルが夏の夜に飛び出した。


「ん~~、トレビア~~ン!」
 気の抜けるような掛け声だが、それとは裏腹に野太い声と共にぶっとい腕がチンピラの喉を強打した。ウェスタンラリアットである。
 喉に衝撃を受けたチンピラはそのまま白目を上げて後に吹き飛ぶ。そして静かになった。もはや立ち上がる者は誰一人としていなかったのだから。
「ご苦労さん。取り敢えず決着だ」
 マスターのその言葉に援軍が雄叫びを上げた。武器を振り回す者、座り込んでしまう者、それに手を貸す者。とにかく、ここでの戦いには勝利したのだ。
「いやいや、おつかれだなあスカロン」
 マスターに声をかけられたケバケバしい色のシャツにごついガタイを窮屈そうにしまい込んだ男が振り返る。すると、スカロンと呼ばれたその男は身をくねらせ始めた。
「本当だわよ!本来なら『カッフェ』の奴に手なんか貸したくもないけど、今回は街全体の問題だからしょうがないわ」
「そう言うことだ。簡単な治療ならみんな始めてるからやってきたらどうだ?」
「わたくしがケガして帰ったらみんなを心配させてしまうじゃない。今日はお休みにしたけど、明日までにはさすがに治せないんですから」
「その言いぶりだと二日もあればどんなケガでも治せそうだな…」
「そりゃそうよ」
 まるであなたは治せないの?と、さも当然のように答えられてはさすがに閉口してしまう。化け物め、と心中で呟き話を変えてみた。
「だ、だがまあそれで他人をケガさせてりゃ世話ないんだがな」
「美しい薔薇には棘があるのよ」
「棘って言うよりは毒だな。即死級の」
 どうにも洒落にならないような気分になったマスターは話を切り上げるとアニエスを探し始めた。一番の重傷者であるから恐らくはすでに応急処置を受けているだろうと治療を受けている人だかりを覗き込むが見あたらない。辺りにもそれらしき影もない。
 マスターは首を傾げるしかなかった。
「どこいったんだあいつ……」


 雨上がりで悪臭の強まった路地を男は走っていた。
 店内では戦局が一気に傾いた。街中からかき集めたのではないかと思うような人数で押し掛けられては策も何もあったものではなかった。街の人間たちには薬と恐怖である程度の統制を敷いているハズだと聞いていたと言うのにだ。
 旗色が悪いと見るや、このメイジ崩れの傭兵は頭としての役割を放棄し、群を囮にして外へ逃げ出したのだった。
「畜生が!とんだ火遊びだぜ。何が『オレの作戦に狂いはない』だよあの猿山の大将はよぉ!仲間が集まらねーんじゃ意味ねーだろーが!そもそも、姿を見せねー時点で妖しいんだよ!」
 そう毒づいたとき、細い横道の闇の中から白刃が飛び出してきた。
 咄嗟のことではあったが傭兵は何とかあごの先をかすめる程度で避けることに成功した。そして追撃の一閃も跳び退いてかわす。と同時にそつなく懐に手を伸ばし杖を探る。
「ほっ、アブねえアブねえ――……って、アレ?」
 杖がいっこうに掴めない。
 まさか落としたわけもなく、不思議に思い手元を見れば――
「探し物は"これ"か?」
 そう言って闇夜の襲撃者が掲げて見せたものは紛れもなく傭兵の腕だった。
「お、おおおおおぉぉおお?お。れの。腕。っがァッ!」
 真っ赤な噴水を上げる少し短くなった腕を前に男は叫び、そしてまだくっつくとでも思ったのか地面に放り投げられた腕を拾おうとかがみ込んだ。
 だが、腕に指先が触れる瞬間を狙い澄まして足の甲が顔面にめり込む。鼻と前歯を何本か折られ、今度は仰向けに倒されることとなった。
「うぐあ!ぢ…くしょうてめえェエギッ!」
 起き上がろうとした傭兵の胸へ容赦なく足を落とし、肋骨を軋ませると脇腹を蹴り上げ完全に砕いた。そして肩を足で押さえ壁に押し付ける。肺から息が一気に抜け、視界が点滅する中、傭兵はその襲撃者を見上げた。
 月明かりを背負って立つシルエット――それはアニエスだった。
「テメ……何で…」
「"何で動けるんだ?"――とでも聞きたげだな」
 そう言いながら刃をぎらつかせる。意図的ではないにしても恐ろしすぎるというものだ。
「生憎とまだ死ねない体でな――いや、私の意志が死なせてはくれないのだ。情にほだされて忘れかけていたが……お前のおかげで思い出せたよ。確かに私は未練だらけだ。殺さなければならない相手がまだいるんでな……憎悪で痛みも吹き飛ぶ」
 淡々と、静かに告げるアニエスに傭兵は冷や汗を垂らす。
 イカレてやがるこの女……。
「何だ?泣いているのか?男の子だろう。腕が一本なくなった程度じゃあないか。まだ死なないさ。それに……」
 アニエスは男の肩を解放してやる。
「安心しろ。貴様はどうやら中核の人物のようだからな、怒り心頭ではあるが無下に殺すつもりはない。もっとも、それ相応の罰は覚悟して置くんだな」
 場合によっては今よりも酷いかもな。そう付け加えてくるりと背を向けた。
 傭兵は折れた肋をかばうように蹲りながら観念したように呻く。
「くっそ……ダングルテール以来のでかい祭だと思ったのによお……」
 刹那、傭兵は勢いよく体を起こすと残った腕で取りだした小銃をアニエスの背中に向け引き金を引こうとした。
「だが最後の最後でツイてるぜ!」
 だが、驚くべき速度で反転したアニエスの刃がその小銃も傭兵の腕同様に半ばで切り落とし、弾丸は不発に終わってしまった。
 返す刀で傭兵の腿を切り裂き、懐から取りだした短剣を傭兵の残った腕に突き立て、今度こそ磔にした。
「ひぎあああああぁぁああ!」
 絶叫を始める傭兵の口に壊れた銃をつっこみ声を抑えてしまうと、影になるように上から覗き込んだ。そのせいで傭兵にはアニエスの表情が見えない。
 と言っても今の傭兵にそんなことを気にする余裕はないのだが。
「ああ――まったくだ。まったくもってツイてるよ……。私も、お前もだ。よもやこんな所で仇に出会えるとは思いもしなかった」
「は、はあぎ…?」
「ああ、喋りにくかったか?」
 ずるり…、と口の異物感から解放された傭兵が改めて聞き直す。
「仇だって……?お、オレが?」
「貴様自分の言ったことを三秒も覚えていられんのか?鶏か貴様」
 この世の軽蔑を全て集めたかのような視線を送り、アニエスは傭兵によく聞こえるよう声を低くして言ってやった。
「ダングルテール」
 瞬間的に傭兵の体は固くなった。あまりにも露骨すぎて滑稽なほど。
「う、うそだ……あの村の住人は全員焼き払ったはずだ……!亡霊でもなければ……ありえない!」
「そうだ亡霊だ。私はあの炎から生まれた怨嗟の塊。復讐の亡霊だ。二十回目の夏にしてようやく貴様のもとに来た」
 深い――深い闇がその目には宿っていた。
 ああ、自分はここで殺されるのか。
 恐怖に凍りついた意識が辛うじて紡ぎだしたものは諦めだった。
 目の前の亡霊はそれに答えるかのように突き立てた短刀を薙ぐようにして引き抜いた。壁から自由になった腕は、しかし重力に逆らうことが出来ない。それで腱を断たれたことに至った。足も動かず、完全にまな板の上の鯉である。
 だと言うのに、アニエスはそれだけで手を止めてしまった。
 ひいひいという呼吸か悲鳴か判別できない音を喉からこぼしながら、傭兵は疑問の視線を投げかける。
「生きたままだ」
「へあ?」
「私たちは生きたまま焼かれた。喉は焼かれ肺に熱風が流れ込む。乾ききった眼球は割れて骨まで溶けだすその苦痛――それを与えなければ意味がない」
 アニエスの声に混じって何かの唸り声が傭兵の耳を打った。視線をわずかに下に送れば、闇の中にいくつもの鬼火が見える。そして徐々に大きくなる唸り声と共に姿を現した鬼火の正体は野犬だった。汚く痩せた体は明らかに飢えを訴えている。
「気づいていたか?この辺りはもうスラム街に入っていることに」
「あ……ああ……ああ……」
 二人を囲むようにして様子を窺っていた野犬たちだったが、傭兵が手負いと見るとその包囲網を狭め始めた。強くなる唸り声と獣臭に傭兵は息を呑む。
「ふ、ふざけるなよ……こんなことォ……」
「ふざける?これは摂理だ。この野犬たちが飢えているのも元はと言えば貴様ら『組織』がここの住人たちを虐げるからだろう。薬を捌き金を搾り取る悪鬼どもめ。因果応報という言葉を知らないのか。
 いや……貴様に関してはそれだけではないがな」
「た、頼む!助けてくれェ!ダングルテールのことも謝る!これからは心を入れ替えるからどうか……」
「ああ、いいとも。貴様が私の知りたいことを、そのハープのような音色を出す喉で歌ってくれれば私はお前を殺さない。当時の仲間――貴様に戦術を教えたという隊長も含めた居場所を、な」
「そ、そいつは無理だ。オレがいたのは魔法研究所実験小隊ってぇほぼ非正規の汚れ屋だが、あのダングルテールの後にオレは脱走してるんだ……。
 だ、だが一人だけオレと同じ傭兵家業をやってる奴を知ってる!そいつもオレと同じで脱走した口なんだが、これがまた狂った野郎で……」
「ご託はいい。さっさと名前と居場所を吐け」
「ぐ……。メンヌヴィルだ、聞いたことくらいあるだろう?」
 その名前にアニエスはハッとする。
 『白炎』メンヌヴィルと言えば傭兵の中ではトップクラスに位置するビッグネームだ。そしてその嫌われ具合もトップクラスである。アニエスは一度その戦闘跡を見たことがあったが、炭化した大地と肉の焼ける酷い臭いが頭にこびりついている。
「そいつは今アルビオンにいる。あの人は鼻が利くからな……とくに、鉄と焼ける臭いには敏感さ。戦争があると悟ったんだろうな。何せオレもそこにいたんだから、確かな情報だぜ」
 そこまで言って、傭兵はアニエスに何かを期待するような視線を送った。だがアニエスはそれを気にする様子もなく、剣を収めて後にさがった。
 今までアニエスを警戒していた野犬たちもその様子に安心したのか包囲網をさらに縮め始める。
「お、おい…!お前約束が違うじゃねーか!は、早く助けろってェ!」
「何を言う。ちゃんと約束は守るさ。"私は貴様を殺さない"。だからこうして剣も収めた。あとは自分でどうにかするんだな。
 もしもどうにも出来ないというのであれば」
 瞬間、アニエスの目から温度が消える。
「――煮るなり焼くなり好きにされろ」
 嘲るようなアニエスの言葉に傭兵は土気色の顔をして口をパクパクとするしかなかった。出血も手伝ってもはや呼吸もままならないのだろう。それでも絞り出すようにして呪詛の言葉を紡ぎ出す。
「――……地獄に堕ちろ……」
「地獄ならとうに味わったさ」
 そして黒い雪崩が押し寄せた。
 その爪でその牙でその顎で、血を肉を骨を、啜り咀嚼し噛み砕いていく。
 もはや人としては最低限の機能しか残さない傭兵の双眸は凍りついたように動かず、空の月を捉えている。大きな二つの月に、今日はなぜかもう二つ月が浮いていた。底の見えない暗さを持った月。
 その月光を受けた牙が見えた瞬間、傭兵の全ては終わった。


「抱き締めたいなァッ!」
「冗談ッ!」
 前回り受身をしたフーケの服がまた裂ける。すでに服は破れに破られ、背中などは大きく開いてしまっていた。
 フーケはそんなことを気にすることもなくすぐに駆け出す。背後では妖しげな笑い声が聞こえる。
 何とか致命傷は避けてはいるが、いずれ捕まるだろう。
 ――いや、とっくに捕まっているのか。
 小さく舌打ちをする。
 見えない相手に上手いこと避けていることはあり得ない。気配らしきものは感じられるが、それでも微かであり、感じてから避けていては間に合うはずもない。それでもまだ生きているということは"自分"ではなく"敵"が致命傷を避けているのだ。
 遊ばれている――。
 ボスは狩りを楽しんでいるようなものだろう。一方的な暴力に由来する愉悦。わかりきっていたことだが最低だ。
「いや、最悪なのかな……けど、油断してくれてるならそれにこしたことはないね」
「ほおらいくぞお!」
 再び声が聞こえてくる。……と言うよりも響いてくるというべきなのだろうか。声からボス本体の位置を探ることが出来ない。恐らくはスタンドを通して声を通しているのだろう。メイジにしか聞こえないのかもしれない。
 ウェザーはメイジとスタンド使いは近しいものだと言っていた。どちらも精神に由来する強さであり、スタンドが魔法に干渉するのもそのせいではないか、と。
 仮説でしかないが、今はそれを確認している余裕もない。二の腕が裂けるとノースリーブになってしまった。
 一端建物の陰に隠れてやり過ごす。幸い下っ端に出くわさないのは街の方に回したからだろう。嬉しい反面焦りも増す。
「あー……これで負けたらあいつがうるさいんだろうなぁ」
 服を破り傷口に当てて止血する。ため息の出るような状況だった。それでも目的地まではあと少しだ。そう活を入れて走り出した。
 そして再び見覚えのある場所に出る。石畳に残る血痕とひび割れは侵入したときに暴れてできたものだ。ということは門も目の前である。
 一気に駆け抜けて橋の上に出ると、反転して止まった。
 やおらスカートの中に手を入れると幾つかの小瓶を取りだし橋の上に放り投げた。割れて出てきたのは土だ。すぐに『練金』で壁を作り出す。
 この橋の上なら、敵は一直線にしか攻撃してこれないはず。なら、その進路上に障害物を配置してやれば捕まえることもできる。
「――……え?」
 しかし、予想に反してフーケの脇腹にずぐり、と痛みが走った。
 そして血がこぼれ出す。痛みに思わず蹲った。
「なんだぁ?結局お前、オレの能力には気づいてないんじゃねーか。川だろうと池だろうと、オレには関係ないね」
「あぐッ……!」
 フーケは唇を噛み締めると傷ついた脇腹を押さえて走り出した。橋の上には点々と赤い印が残され街の方へと続いていく。
「おーおー健気だねえ。まあ、そっちの方が遊びがいがあっていいけどな」
 J・ガイルは舌なめずりをしながら、追い打ちをかけるでもなくフーケの背を見る。獲物の必死な様子を楽しむかのように。


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