ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

外伝-10 コロネの恩返し

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匿名ユーザー

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ジョルノはついに、(と言っても随分先延ばししていただけだけど)ポルナレフと合流する事に成功した。

予定では、まず表の顔である事業展開などで注目を集める『ネアポリス伯爵』が得た友人たちの紹介状を、お友達のお友達に見せ協力を得る手はずを整える。
ポルナレフの入っている亀を召喚したのは、トリスティン貴族である可能性は高い。
使い魔とは、ジョルノが聞いている話によれば基本的にはメイジの生涯のパートナーとなるらしい。

それを返してくれと頼むのは、ゲルマニアの成り上がり貴族より自国の同胞の方が良いかもしれない…
逆の可能性もあるが、切れるカードは多いに越した事は無い、そう考えての事だった。

だが実際見つけてみると…ジョルノは普段通りの仕事の手を止めて、目の前に座る一心不乱に手紙を読む小柄な美少女を見る。
ポルナレフの主人はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールで、有体に言うと思っていたよりも厄介な相手だった。

カトレアから贈られてくる手紙に何度か書かれていたルイズの性格は、(彼女にとっては可愛らしい妹なんだろうが)アバッキオより厄介な性質のようだし、
パッショーネの大敵になりそうな『烈風』カリンの娘から殺してでも奪い取るという手を使うのはもっと厄介になるだけだ。

それに教えてもらった話によれば、ルイズは魔法が使えないらしい…
ポルナレフが召還された時から、ジョルノはポルナレフが召喚されたのか亀が召喚されたのか気になっていたが、前者の可能性が高い。
ルイズはテファと同じ系統のメイジなのかどうかも、確かめておきたいという好奇心がジョルノの中にはあった。

ジョルノは一先ずこっそり亀の中にゴールドエクスペリエンスを入れて、ポルナレフと相談しようかと考え、スタンドをゆっくりと出す。
ゴールドエクスペリエンスの姿はやはり誰にも見えないらしく、隣で険悪な空気を作っているキュルケ達はなんの反応も示さなかった。
それに安心して亀の中に入らせようとした所で、ジョルノは少し強く袖を引かれた。

引いたのは隣に座っていたテファだった。
落ち着きの無い養生で、同じ馬車の中にいる面々を窺うように視線を漂わせている。
幸い、他の者達は冷静でなかったり本に夢中だったりして気付かれてはいないようだが、ジョルノは時折馬車の外へ視線が向けられるのを見て不安の理由を理解した。
ジョルノは自分の方からテファへ顔を寄せて、冷たく言う。

「貴方のお姉さんのことは、また後で話しましょう」

簡単に言うジョルノに、テファはうろたえ身を退いた。
ルイズ達と合流する前に、ジョルノから学院までは数時間と聞いていたテファは窓の外へ目をやる。
そして通り過ぎていく風景にテファの心には焦燥が募っていく…テファからは見えないが、馬車の後部には杖を奪われた『土くれのフーケ』が眠らされているのだ。

テファには何をやったかまではわからないが、テファが慕うマチルダが悪い事をして今捕まった事はわかる。
捕まったマチルダがどうなるのかも、なんとなくわかっていた。
それなのにジョルノが、後にしてくれと言ったことが、テファにはとてもショックだった。
これまで励ましてくれたり、助けてくれたジョルノが今回に限って何故そんな事を言うのか…ジョルノの隣に殺気立ったキュルケを視界に入れながらも、今のテファには理解できなかった。

冷静に告げたジョルノは隣に座るキュルケを見る。
キュルケはイザベラと睨み合っていた。
理由は至ってシンプル。イザベラが、再会したタバサに向かって王宮にいた時と同じ調子で『ガーゴイル』と呼んだのだ。
親友を侮辱されたキュルケはブチ切れたが、それをタバサ本人の助けも得てどうにか馬車に乗せたのだ。
だが機嫌が直ったわけではなく、睨みあいを続けている。
お互いに普通よりは豊かな(テファと過ごす時間がちょっぴり長くなったせいでジョルノの認識としては『普通だな』位にしか思わないサイズではあったが)胸を張り、相手を見下ろすような目で睨みあう。友好的なものは全く無い、相手の欠点を探る悪意に満ちた目だった。

この雰囲気のままで学院にたどり着くと流血沙汰になりそうな気がしたジョルノは、二人に声をかけようとして「伯爵様」と、真剣な目をしたルイズに呼び掛けられた。
半信半疑。だが、期待を持ってルイズはジョルノに尋ねる…この良いニュースを手紙ではなく、治療したという当人からルイズは聞きたかった。

「伯爵様。貴方がち、ちい姉様を治療したというのは本当ですか?」
「…はい。私一人の力ではありませんが、確かに病は治療しました」
「本当に!本当にですか!?」

嘘は許さない…凄みさえ感じさせる剣幕で、ルイズは尋ねる。
隣で殺気立っていたキュルケ達さえ怯ませながら、返事を迫って少しずつ近づいてくるルイズにジョルノは頷いた。
二度同じ事を言うのが嫌いなジョルノだったが、ルイズのその態度を見て言う。

「はい。適度な運動をすれば、健康を取り戻すはずです」

カトレアを思う気持から来る真剣さは、ジョルノには無碍にできないものがあった。

「あぁ…! ちい姉さまが…」

感極まったように狭い車内でルイズは手紙を抱きしめ、膝を付く。
頬に涙が流れ、キュルケは腰を上げた。

「ちょ、ちょっと…ルイズ? どうしたのよ」

キュルケの言葉を無視して、ルイズはジョルノの手を掴む。
少し迷惑そうにジョルノは手を掴み返し、ルイズを席に戻らせる。

「伯爵様。ちい姉様を助けてくださってありがとうございます…! このルイズ・ド・ラ・ヴァリエール、精一杯協力させていただきますわ!」

ルイズは情熱を感じさせる潤んだ瞳でジョルノに言い、その内容が書かれていたのを思い出して抱きしめていた母からの手紙を見る。

「亀をお探し……亀?」
「はい。貴方の使い魔になっているポルナレフさんを探して私はここに来ました」

表面上申し訳なさそうに言うジョルノに、ルイズはジョルノとポルナレフを交互に見て、涙を拭くのも忘れる。

「で、でも伯爵様。この亀は…伯爵様が探している亀とはきっと違いますわ! ほ、ほら…な、名前だってカメナレフって言うんです」

ジョルノはそれを聞いて、普段なら見せない不可解さを表情に出した。

「ポルナレフさん。まさか…ルイズ嬢に言ってないんですか?」
「え…カメナレフ?」

ルイズ達の視線に、ポルナレフは亀の中で嫌な汗を流しながら、誤魔化すように咳払いをした。
その行動がポルナレフへの疑惑を強めたことに気付き、ポルナレフは慌てて皆に言う。

「い、いや騙してなんていないぜ!? お、俺はお前が来るまで誠実に使い魔をする気だったからな!」
「カメナレフ…アンタ、使い魔のくせして、ごごご主人様に何か隠し事をしてたって言うの!?」

感涙が残る目で見下ろされ、ポルナレフは自分の良心がチクチクと痛むのを感じた。
気に入らない所は多々あるし、酷い扱いもされたが、ポルナレフがルイズを騙しているのは確かだ。
使い魔の契約さえ、ポルナレフはスタンドによって回避したのだから…それはいい思い付きだとまだ思っているが、ハイスクールに入るか入らないか位の少女を騙していることに変わりは無いのだ。
ルイズが手で涙を乱暴に拭き、ポルナレフを見下ろす…その時、聞き耳を立てていたタバサが本を閉じた。

眼鏡の奥に光る目を見て、馬車にタバサが乗り込んできて以来キュルケとにらみ合いをしている間さえタバサを意識していたイザベラは悟った。
タバサの目的は母を治療してもらう事だと、直感的に理解してゾッとした。
脳裏には、その後に訪れるであろう既に死した王弟シャルルに忠誠を捧げる者達の反抗の様子が描かれている。
父を排除する前に、自分が今までタバサに行った事を返され、最後には謀殺される姿までが浮かび、イザベラを震えさせる。
湧き上がって行く恐怖にイザベラの背中には汗が流れた。

「そんなことより…ジョナサン。貴方に頼みがある」
「そんなことって何よ!」
「私のお母様を治療して欲しい」

言葉を遮られ癇癪を起こしかけたルイズはそれを聞いて、不機嫌そうな顔で黙った。
ポルナレフを見る厳しい目はそのままだが、大好きな姉のように、タバサの家族も不治の病だというなら仕方が無い、と思ったのだ。
やはりと、救いを求めるようにジョルノの顔を見るイザベラを見もせず、ジョルノはルイズに「後でポルナレフさんと話し合うことにしましょう」と言った後に、返事を迫るタバサに首を振った。

「何故? 彼女の家族は治療したはず」

言って、然程広くない車内でズイッと、タバサは身を寄せる。
どうして断るのか白状させようと、冷静な表情に必死さを加えてジョルノの膝を強く掴んだ。

「失敗を恐れている? 無理かもしれないと考えているの?一度診るだけでも…」
「お断りします。他の事なら全力で貴方を助けるが、これだけは駄目です」

少しずつ身を乗り出し、息がかかりそうな距離でジョルノはタバサを見上げ、はっきりと断った。イザベラはその断りように小気味良いものを感じて、自然と笑みを浮かべていた。
人形娘の味方をせず、イザベラの利になる態度…とても気分が良かった。
逆にタバサは落胆しその表情からジョルノの意思が固いことを悟ると、ゆっくりとジョルノから離れる。服の下の肉に食い込む指を放し、席に戻るタバサの姿は憐憫を誘い、ルイズ達がジョルノを責めるように見る。

「あっはっは! 残念だったね! 伯爵様は人形娘のお願いなんて聞きたくないってさ!」
「ッ…この娘は人形娘なんかじゃないって言ってるでしょうが!」
「へぇ…どこが違うって言うんだ…」

喉に何か挟まったようにイザベラは声を失った。
席に戻るかに見えたタバサが背中越しにイザベラを見下ろしていた。
ガリア王家の青い瞳が鮮烈な輝きを見せているのに、イザベラは気がついてしまった。
静かな瞳は自分の目とは違う…深い海のような冷たい瞳が、イザベラを養豚場の豚でも見るような目で見下ろしていた。
だがそれも一瞬のこと、イザベラにはとても長く感じられた一瞬の後、その青い目はジョルノを睨みつけている。
視線を向けられていないテファがジョルノの分まで怯えるように、過剰に反応してジョルノへと身を寄せた。
キュルケやルイズまで息を呑む中、どうでもよさそうにジョルノは手紙の返事を書き続けながらタバサを一度見返し、また作業に戻る。
タバサは馬車から飛び降りた。

「ふん。ちょっと魔法ができるからっていい気になってたから罰が当たっ…ヒッ」

最初に我に帰り、また毒づこうとしたイザベラの目の前に一瞬炎が燃え上がり、悲鳴を上げさせる。
クッションに埋もれるように身を退いたイザベラを嘲笑うのは、豊かな胸元から杖を引き抜いたキュルケ。

「それ以上言ったら火傷じゃすまなくってよ」「この私に杖を…!」

それまで黙っていたラルカスが斧を抜き、二人の間へ差し込んだ。
決闘に発展しかねない二人へ、ラルカスはミノタウロスの鋼のような肉体に力を込めて威圧する。

「伯爵の馬車内で無用な争いは止めていただこう。これ以上続けるようなら叩き出すことになる」

二人はミノタウロスの本気を悟って押し黙る。
キュルケは火のトライアングル。キュルケの年齢としてはそういない強力なメイジだったし、文字通り鋼の強度の肉体を持つラルカスにも効果的な能力だ。
だが、距離が近く、馬車の中では不利は否めない。キュルケに簡単に致命傷を与える斧を出す一連の動きは、巨大な体躯に似合わず俊敏だった。

「二人共落ち着きなさいよ。まったく…お国が知れるわね」「なんですって!」

先に怒る者がいたせいかいつもよりは少し冷静にルイズはジョルノへ目を向けた。
ジョルノは動じた様子もなく、彼女らをもてなしもせずに手紙に夢中な様子で、なり上がりらしく貴族の子女を迎えるにはなっていない態度だ。
ルイズはそんな男が姉を治療し、それなりに気にいられたことがちょっと不思議だった。

息荒く指摘するキュルケにジョルノは冷めた目を向け、何も言い返さなかった。
一仕事終えたラルカスが先程胸を張って張り合っていた二人の様子を思い出す横で、イザベラは外の景色を見ながら今後の事を考えていた。


トリスティン魔法学院にたどり着いたジョルノ達は、客室の一つに通された。
『土くれのフーケ』討伐の結果は、生徒三名が無事に戻り、フーケも捕らえたことで上々だとわかっていたが、不祥事には変わりない。
その報告などを聞く所に、他国の貴族がいるわけにはいかないというわけだ。
部屋にいるのにはジョルノとテファ。それにラルカスだった。ラルカスはミノタウロスの姿では目立ちすぎるが、ジョルノの指示だった。
ポルナレフはルイズと共にいるし、イザベラの素性をオールドオスマンは知っているのか、一人別の部屋へと通された。

二人きりになってすぐ、テファはジョルノに詰め寄っていた。
連行されていく姉の姿を見せられ、テファの我慢は限界に達していた。
普段なら物珍しげに調度品や部屋からみえる景色を一つ一つ確認していく所だが、扉を閉めると、真っ先にジョルノのところへ来たのだ。

「ジョルノ、貴方にお願いしたいことがあるの」
「マチルダさんのことでしたら、手は打ちます」
「本当?」
「ええ。彼女は怒るでしょうが、捨てておくわけにもいきませんからね」

当然といった風に答えるジョルノに、テファは喜ぶと同時に疑問に思った。
貴族の客の為に用意された部屋は調度品の趣味も悪くない。
ジョルノはテーブルに向かい、仕事の続きをし始めた。テファはジョルノの隣に回りこみ、テーブルに手を着く。
丸いテーブルにかけられた真っ白なテーブルクロスが、テファに寄りかかられて少し皺を作った。

「ありがとう…どうして姉さんが怒ると思うの?」
「彼女は僕と貴方がいることを面白く思っていませんからね」

テファは笑った。
笑われて、手紙を書く手を止めて見上げてくるジョルノに優しげに言う。

「そんなことないわ。マチルダお姉さんはジョルノのこと余り知らないもの、もしそうだったとしても…今度は姉さんも一緒に旅をすれば、きっと仲良くなれるわ!」
「それはいい考えですね。マチルダさんには、テファと一緒にゲルマニアに行ってもらいましょう」
「うん。今度の旅は楽しくなりそうね! あ、ジョルノとの旅が楽しくないってわけじゃないの。姉さんも一緒ならもっとって…」

喜んで、テーブルによりかかるテファに素っ気無い態度でジョルノは頷き返す。
ジョルノは懐から用意しておいたものを取り出して、テーブルの上に並べていく。
一般には出回らないそこまでの地図や目的地にある家の設計図。その家の鍵、権利書。
身分証に、そこまでの路銀が入っている袋。当座のことが書かれたメモなどが、どこにそれだけ入っていたのかとびっくりして目を白黒させるテファの前に並べられていく。
全て並べ終えてから、ジョルノはテファを見つめた。

「この屋敷を探すのは結構手間でしたよ。庭も、庭師の方が管理していてとても美しいそうです。すぐ近くに湖があって、そこでは釣りが楽しめるそうですし、秋は食べられる木の実もたくさん取れるそうです」

家などの図面を見せながら言うジョルノにテファは違和感を覚えた。
指で部屋を指し、気温の変化が激しく、この部屋からだと寒い日には遠くの山に雪で白く染まる様が見えるとか、領民がどうとか簡単に説明するジョルノの小さな表情の変化を感じ取っていた。

「道中はマチルダお姉さんと相談してうまくやってくださいね。それと貴方が希望するなら、フェイスチェンジとかいう魔法を使う口の堅いメイジを一人手配しますが?」
「ジョルノ」
「なんです?」
「ジョルノも行くのよね?」
「いいえ。行きません、貴方とマチルダさんの二人だけです」

少し引きつった笑顔で尋ねたテファをジョルノは一息に切って捨てた。

「ど、どうして? 一緒に行きましょう! マチルダ姉さんの事だって私が間に入るし、あ…お仕事の事? それなら、私はとやかく言うつもりは…」

色々と言ってくるテファの顔にジョルノは座ったまま手を伸ばした。
頬にジョルノの赤子のように柔らかい指先が触れる。ジョルノの表情を交互に見る内にテファの言葉の勢いが下がり、ついには止まった。
撫でる手がよく手入れされたテファの透き通るような金色の髪を梳いていく。

「良い機会ですからここで別「私はジョルノと行くわ」駄目です。貴方も知る通り、僕には夢がある…………貴方は、僕の夢じゃない」

切って捨てるような口調、そしてそのまま誰かを思い起こしているような目をして、テファを見なくなるジョルノに、テファは微かに眉を動かした。
微かに微笑んでジョルノは瞬きをする。もう回想は済んだようだったが、テファは切なげに少し顔を寄せた。

「貴方とはいられません。僕は貴方を危険に晒す為にいるのではありませんから」
「それなら…! 私もギャングになるわ」

ジョルノは呆気に取られた表情を見せ、次に鋭い目をした。
笑みも消えて、髪を梳く指が硬くなったようにテファは感じた。

「馬鹿なことを言わないでください。怒りますよ」
「でも……あの子だって、ギャングになるのは許したんでしょ?」
「あの子? …もし「ジョナサン!」

二人に割り込むように扉が破られ、イザベラが部屋に入ってくる。
部屋に入るなりテファが離れたのを見て、大股で歩いてくるイザベラにジョルノはテファを離して目をやっていた。
見下ろすイザベラの視線を見返して、ジョルノは言葉を待った。

「アンタに話があるわ。ちょっと来て」
「わかりました」
「ジョル…ジョナサン! 話は終ってないわ!」

「また後で話しましょう。クリスの用の方が急ぎのようだ」

イザベラと二人で隣室に移動したジョルノはイザベラの表情に真剣なものを見て取り、視界の中に入っているテーブルの上に乗った手紙を確認した。
ガリア王家の紋章入りの封印がされていたことが見て取れ、家族絡みなのだろうなと見当をつけるジョルノ。
自分と目を合わせるジョルノを見ていたイザベラが、決心をして口を開く。

「単刀直入に言うよ。ジョナサン。アンタ、私と組まないかい?」
「どういうことです?」
「そのままの意味だよ。アンタがガリアに取り入る手伝いをするのに私以上の人間はいないはずだよ」

少し考える素振りを見せるジョルノにイザベラは言い募る。

「アンタのギャングとしての力が、私には必要になる…!」

イザベラの口調と必死な表情を見て、ジョルノは言う。

「ジョゼフ王から何か貴方が不利になるような事を言ってきたんですか?」

何故イザベラがギャングの事を知っているのか気になったが、それは追々確かめていけばいい。
テファに続き、イザベラにまで知られていたなんて、ショックだったが…ジョルノが借りを返すには、王女の権力は中々有用なのだから。

「…よくわかったね。突然手紙を送りつけてきて戻れってさ…ッ! こんな手紙、あの父上が書いてくるはずが無いッ、絶対に何かあるわ!」

このまま戻っても、待っているのは今までよりも更に、ずっと、認められることの無い、下々の者にさえ陰口を叩かれる日々だ。
いや、父王ジョゼフなら…自分をも殺しかねないのではと。
次々に浮かぶ嫌な予想が、イザベラをささくれ立たせていた。
恐怖に虚勢を張り、苛立った口調で吐き捨て、テーブルの上の手紙を払うイザベラの気性には少し眉を顰めたが、冷静な口調で言う。
実際に何かを掴んでいるのではなく、父王への不信感がイザベラにそう言わせているようだった。
イザベラの荒くなった呼吸が整うのを待って、ジョルノは返事をする。

「僕の手を借りるという事は、貴方が考えるより大きな代償を払うことになる…それを理解しているんですね?」

息を呑み、だがイザベラは真剣な表情で距離を詰めると、泣き笑いのような皮肉気に見える笑みを浮かべた。

「わかっているわ。だがアンタも私を簡単に切れるとは思わないことだね…他人から見たら、私の愛人みたいに見えるかもねぇ?」
「さあ? 一先ずは隠しておいてください」

ジョルノの返事に不機嫌そうな表情に変わるイザベラへ、ジョルノは言い聞かせるように言う。

「貴方の周りを固める準備に少し時間が必要です。貴方が安心して暮らせるように、手を尽くしましょう」
「…ふんっ、そういうことなら任せてみようじゃない」
「それと、少しずつ極力ばれないようにオルレアン家との関係を修復していってください」
「なんだって?」

機嫌が良くなりかけたが、また不機嫌な顔を見せるイザベラ。それは当然の事だった。
ジョルノがイザベラに言ったことは、イザベラにタバサと仲良くなれということ。

イザベラとタバサの関係は言うまでもなく最悪だ。

前王が生きていた頃は仲の良かったという二人の親、ジョゼフとシャルル。

事実はともかく、ジョルノの耳に入っている情報では、その二人が前王の死後、魔法が使えないジョゼフが天才シャルルを暗殺し、王位を簒奪したことから始まった両家の対立。
それぞれに味方する貴族の派閥対立は、時と共に深まっている。二人はその争いの、ジョゼフの死後の旗頭だった。

だが、信じられないことにタバサも父シャルルと比べれば若干劣るらしいが…魔法の才がないかわりに頭が切れるジョセフに比べ、イザベラは見た目は美しいが平凡な女だった。

父からも大事にされず影で蔑まれ、自分より全てにおいて未来の王に…!
自分が今いる立場に相応しいタバサが物言わずッ、淡々と強力になっていく姿を、立場を理解する前からずっと見てきたッ。

……イザベラの中に蓄積した鬱屈した感情は、タバサに関係する全てに、即座に反発させていた。

そうして爆発しようとするイザベラを、ジョルノは視線だけで威圧し、萎縮させ、口から飛び出そうとする罵詈雑言を黙らせる。
目をかけられる事が無いかわりに、咎められる事もなく与えられた権力の杖を振るい我侭を通してきたイザベラには、直接向けられる凄みを前に暴発する事もできなかった…
悔しさを感じることも出来ずにいる間に、ジョルノは囁くように言う。

「イザベラ、これは貴方が優秀である事を示す為です。周囲は貴方の美点を理解していませんからね」
「私の…?」
「そうです。15歳でシュヴァリエの称号まで持っているタバサの魔法の才能は凄いと思います。ですが…」

イザベラはジョルノの言葉に耳を傾けた。
危険な甘さを持って、その声は、とても心地よく聞こえていた。

「『烈風カリン』が仕えた王は、そのメイジより上のメイジではありませんよね? 王族に必要なのはその才能を国の為に活かす能力だと思いませんか?」
「……そりゃ、そうだろうね」

頷くが、思い悩むイザベラにジョルノは畳み掛けるように言う。

「タバサが貴方に敬意を表し、自分から働くような友好な関係になれば、シャルル派の一部も貴方の為に働き始める。元からあるジョゼフ派を引き継ぎ、一つに纏めていくことも無理じゃあない…」
「うん、そうだね。それは、悪くないわ。でも、私とあの子の関係は、アンタも知ってるだろ?」
「ええ。ですから、まずは貴方から働きかけないと。重要なのはタバサが何を求めているかです」
「あの子の求めるもの…王位、じゃあないんだね?」

すぐに同意する返事が来なかったので、違うと判断したイザベラは、必死で頭を巡らせる。

それを見ながら、ジョルノは視界の端に…部屋を覗く牛男の姿を見てげんなりした。
顔にまで出たのか牛男はすぐに頭を引っ込めるが、角が出ている…ジョルノは手で顔を覆った。
幸い、その様子はイザベラが考え込んでいたので見られはしなかった。

「あの子の家の名誉の回復。いいや、それは私の立場だとまだ、無理…なら。家族…そう、母親だわ。あの子の母親を材料に脅迫…いえ、治す手伝いをしてやれば…!」

思考から立ち戻り、イザベラはジョルノを見上げる。
だがすぐに…イザベラは微かに怯んだ様子を見せたことに、ジョルノは気付いた。
勢い込んでみたが、間違いの可能性に怯えているようだった。
イザベラを安心させようと、ジョルノは爽やかな笑みを浮かべて、彼女との距離を詰めた。

「ベネ! イザベラ。やっぱりできるじゃあないですか!」と、ジョルノはフーゴと初めて会った時の事を思い出しながら、フーゴを真似してイザベラの後頭部から首の後ろにかけて…ゆっくりと撫でていく。

突然の行為に恥ずかしがって、イザベラがジョルノから離れようとするより早く、優しげな目を向け言葉を続ける。

「貴方はまずはその方向から、タバサに接触していきましょう。サポートする人手を後でご紹介し」

ジョルノはいい終わりかけた時、部屋の扉がノックされた。
慌ててイザベラが離れ、扉を開けに行く。

「失礼します。オールド・オスマンが「わかったわ。少し準備するからそこで待ちなさい」

黒髪のメイドにそう言って、イザベラは扉を閉めた。
ジョルノは扉を閉め、振り向いたイザベラの手を取り口づけする。

「時間のようですね。後で私の方から連絡いたします」
「ああ。多分すぐに国に戻るから、準備をしておくんだよ!」

手を押さえて出て行くイザベラを見送ってから、ジョルノは逆に窓から見える角の方へと歩いていく。

「角隠せよ」
「わざとだ。この軽薄男め…テファを傷つけて即次の女とは良い度胸だ。神が許しても俺が、いや「「俺達が許さんッ!」」

言うなり窓から侵入した牛男の隣には、ジョルノの目にははっきりとマジシャンズレッドの姿が映っていた。
マッチョ、だが頭はそれぞれ牛と鳥。そんな二人組みがなんだかジョルノの目には兄弟みたいに見えた。
というかテファとのことも見てたのかという気分だった。

「落ち着いてください。テファへの事はわかるでしょう?」

返事は炎と風の刃だった。

「テファの事はテファに免じて譲ってやろう。二人で解決すりゃあいい話だ…だが今のはなんだ!? ちゃんと説明してもらうぞ!」

杖代わりの斧を向ける牛と、仁王立ちする鳥に交互に目をやり、ジョルノは淡々と言い始めた。

「テファとタバサへの恩返しに必要な事です。ガリアはエルフの土地に面している。そして、タバサの母親を治せる状況にするには彼女の力が必要だ」

ラルカスはなんとなく納得したような表情を見せたる。
ポルナレフの操るマジシャンズレッドは、亀をラルカスのポケットから取り出しながら何も言おうとはしなかった。

「状況というのは?」
「今彼女の母親を治療したら、もっと悲劇的なことが起きる可能性が高い…ジョゼフ王はタバサを…?」

ジョルノは言いながら、考え込むような仕草をしたが、考えを打ち切り亀に向かって話しかけた。
弟を殺すまではむしろわかりやすいが、その後家族を苦しめなければならないのは何故か?
答を出すにはまだジョゼフ王に関する情報が足りない気がした。
ジョゼフ王に関する話は、政を省みず遊び呆けているということと、シャルルの生前の話をちょっぴりだけしか聞いていない。
それもどちらかの派閥の貴族によるフィルターがかかり、脚色されたものだけだ。

「…ジョゼフ王の耳にタバサの母親が回復したという情報が入る…彼は嬉々として今と同じかそれ以上の状況を作るでしょうね」

理由がわかれば、国内で隠せばどうにかなるのか他国に逃がせば追ってこないのか、
それとも草の根を分けても探し出し苦しめるつもりなのかも…自ずとわかってくるし、それによってはタバサの母親を治療する事もできる。
そんなことを考えること自体、既に無意味になっているとは誰も考えず、ジョルノの言葉にポルナレフとラルカスは納得した。

「だがボス。テファはアンタについていく気満々だぞ」
「…後で僕がもう一度説得します」

ニヤニヤするラルカスに返事を返し、ジョルノは手で顔を覆った。
テファと長く居過ぎたのか、それとも無意識にこんな気持になるのを今まで避けていたのかジョルノにもわからなかったが…
記憶を消すという強力な魔法を使えるメイジで、ジョルノが信頼もおける相手でもある。
そんなテファが共犯者になるのをボスとしてのジョルノは望んでいた。

だが、個人的にも、間違いなく喜んでいる自分がいることに、ジョルノは怒りが沸いていた。


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