0 灰被り姫の時間
人工の明かりが地上を埋めることの無いハルケギニア。だが、その夜は二つの月が照らすことで完全な暗闇に陥ることは無い。天上に満ちる星もそれを助けるため、夜道に迷う人間は思いのほか少ないのだ。
見渡す限りの草原。遠くに黒く浮かぶ森。そして、地平線の星を隠す山脈。
幻想的でもあるその光景は、それを身近とする人間には価値を見出せない。
だが、どれほど感受性の無い人間も、いまここにある小さな存在を見つけたなら、思わず感嘆の息を洩らすだろう。
夜を抱いて踊る妖精がいると。
人工の明かりが地上を埋めることの無いハルケギニア。だが、その夜は二つの月が照らすことで完全な暗闇に陥ることは無い。天上に満ちる星もそれを助けるため、夜道に迷う人間は思いのほか少ないのだ。
見渡す限りの草原。遠くに黒く浮かぶ森。そして、地平線の星を隠す山脈。
幻想的でもあるその光景は、それを身近とする人間には価値を見出せない。
だが、どれほど感受性の無い人間も、いまここにある小さな存在を見つけたなら、思わず感嘆の息を洩らすだろう。
夜を抱いて踊る妖精がいると。
土を蹴り、草を踏み潰して、踏み均された道を行く人影が三つ。
夜の闇に潰れて服の色さえ分からない二人の男の前を、真っ白な肌を真っ白なドレスで包んだ少女が楽しげに踊っていた。
金色の髪が風に浮かび、星空をそのまま映したような瞳が瞬く。
夜の世界は、この幼い少女のものだった。
「楽しいね、お兄ちゃん」
影の一つに少女が微笑みかける。
だが、返って来たのは不機嫌な声だった。
「楽しいことあるか」
どこか力ない男の言葉に、少しだけ少女は表情を曇らせる。
もうすぐ日が昇る。そうなれば、少女の時間は終わってしまう。
今だけは、こうして何かに縛られること無く姿を晒せるのに。この男は一緒に踊ってさえくれない。
寂しそうに肩を落とす少女に、もう一つの影が何かを放り投げた。
真夜中の妖精を飾るにはあまりにもお粗末な、擦り切れた布。それが、昼間の少女を彩るドレスなのだ。
町が見える。
そう言ったのは、誰だったか。
夜の舞踏会は終わり、少女は灰被りに戻る。楽しい時間は終わりを迎えたのだ。
背後で上る朝日から身を隠すように、少女は自らが最も慕う人に手を伸ばす。
色濃い疲労を見せながらも、その男はしっかりと少女を胸に抱き上げた。
やれやれ。なんてぶっきら棒に声を溢す男に、少女は微笑む。
昼の太陽は意地悪だが、男が優しくしてくれる掛け替えの無い時間だ。
大嫌いな存在に一つだけ感謝できる、そんな些細なこと。
でも、男の胸に抱かれている間だけは、少女は間違いなく幸せなのだ。
夜の闇に潰れて服の色さえ分からない二人の男の前を、真っ白な肌を真っ白なドレスで包んだ少女が楽しげに踊っていた。
金色の髪が風に浮かび、星空をそのまま映したような瞳が瞬く。
夜の世界は、この幼い少女のものだった。
「楽しいね、お兄ちゃん」
影の一つに少女が微笑みかける。
だが、返って来たのは不機嫌な声だった。
「楽しいことあるか」
どこか力ない男の言葉に、少しだけ少女は表情を曇らせる。
もうすぐ日が昇る。そうなれば、少女の時間は終わってしまう。
今だけは、こうして何かに縛られること無く姿を晒せるのに。この男は一緒に踊ってさえくれない。
寂しそうに肩を落とす少女に、もう一つの影が何かを放り投げた。
真夜中の妖精を飾るにはあまりにもお粗末な、擦り切れた布。それが、昼間の少女を彩るドレスなのだ。
町が見える。
そう言ったのは、誰だったか。
夜の舞踏会は終わり、少女は灰被りに戻る。楽しい時間は終わりを迎えたのだ。
背後で上る朝日から身を隠すように、少女は自らが最も慕う人に手を伸ばす。
色濃い疲労を見せながらも、その男はしっかりと少女を胸に抱き上げた。
やれやれ。なんてぶっきら棒に声を溢す男に、少女は微笑む。
昼の太陽は意地悪だが、男が優しくしてくれる掛け替えの無い時間だ。
大嫌いな存在に一つだけ感謝できる、そんな些細なこと。
でも、男の胸に抱かれている間だけは、少女は間違いなく幸せなのだ。