ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ-18

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匿名ユーザー

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あ、ありのまま起こった事を説明するわッ。

召喚した亀を使い魔にしたと思っていたら、突然亀の中の人が「ご主人様の使い魔だなんていってたが、スマン。ありゃ嘘だった」的な事を言った…
な、何を言ってるかわからないと思うけど、私にも何が起こっているのかわからなかった…いいえ、わかりたくなかった!

召喚した亀に飼い主がいてしかもちい姉さまの恩人だったとか、召喚には成功したけど異世界から来た平民だったとかそんなチャチなものじゃあないわ!
困ったとか…理想と違ってがっかりとか、そんなことじゃあない。もっと恐ろしい、もっと汚らわしい裏切りを受けた気分だわ!

オールド・オスマン学院長らへフーケ捕縛の報告を終えたルイズ達は、見慣れない部屋にいた。
ルイズの使い魔だと思っていた亀の中、カメナレフの「事情を説明するから鍵に触れてくれ」という言葉に従って入ることができた部屋は細かいところで、奇妙だった。

彼女らが普段使う蝋燭や魔法仕掛けのランプなどの光とは違う蛍光灯の光。
それ一つとっても既に明るすぎたし、内装も貴族として教育を受けてきたルイズ達は異質なものだという事にすぐに気付いた。

見慣れない様式の家具。変な長方形の真っ黒い板、金属製の箱からは聞いた事の無い曲が流れ、そして柔らかそうなソファには壮年のこれまた奇妙な頭の男性が腰掛けている。
服装なども色々とおかしくて、ルイズ達を戸惑わせる。
眼帯をつけ、両足は膝から下が義足。腕も片方が人工物だった。

「貴方が…」

当事者でないからか、いち早く我に返ったキュルケが尋ねると、ポルナレフはばつが悪そうな表情で頷いた。

「うむ…私がお前達がカメナレフと呼んでいたものの正体だ。亀じゃあないし、名前も本当はジャン・ピエール・ポルナレフと「ふざけないでッ!」

説明に耐え切れずにルイズは叫んだ。

「ルイズ…」

心配そうに名前を呼ばれ、ルイズはよりヒステリックな声をあげる。
キュルケの心配する態度が耐えられなかった。まだ部屋の様子を見てからいつも通り本を読み始めたタバサの方が好ましい。
他の貴族から、”自分の使い魔に実は中の人がいた”なんてことで同情されるなんて…正面からゼロと嘲笑われるより、深く侮辱されたように感じた。
…ルイズは敵にでも向けるような目をしてポルナレフを否定する。

「私が召喚したのはこの亀よッ! アンタなんかじゃあないわ! 契約だってできたんだから…!」
「すまねぇが、それも勘違いだ」

頭の後ろをかきながら言うと、突然空中に炎が生み出される。
熱く、自然の法則など無視してもあがるルイズ達には見えないマジシャンズ・レッドの炎は、ポルナレフの意思によって蠢き、ポルナレフが用意したとっておきの肉を焼く。
ポルナレフ達が入っている亀の手に刻まれたルーンと同じ紋様が、一瞬で刻まれる。

見たことが無いルーンだと教師のコルベールが騒ぎ、オールド・オスマンにはちょっと汚い字ですが、ガンダールヴだと…隠れて騒いでいたルーンが刻み込まれ、ルイズは声もでなかった。

「契約の事は知ってたからな…マジシャンズ・レッドを使って、契約すると同時に亀の手に焼きこんだ」
「…そんな」

キュルケがアチャーっと顔を手で覆うのを見て、ポルナレフは辛そうな顔をする。
仕方なかったとはいえ、真実を告げられたルイズの体から、少しずつ力が抜けていくのを見るのがポルナレフにはとても辛かった。

「私にも、やる事があるからな。見ず知らずのメイジの使い魔になるわけにはいかなかったんだ」
「それなら、どうして使い魔のふりなんてしたのよ…! アンタなんて呼んでないわ! 私が召喚したのは、強くて美しい使い魔よ!」

自分を責める言葉に流石にその方が都合が良かったからだとは返せないポルナレフは苦しげな顔で、「突然呼ばれて、咄嗟にできたのはそれだけだった」と答えた。

ルイズは悔しげに顔を歪めて、ポルナレフに詰め寄る。何かに気付いてルイズは叫んだ。

「そうよ! 私は亀だけを呼んだのに、どうしてアンタなんかが一緒についてきたのよ!? 亀が召喚されて使い魔にされたってアンタには関係ないじゃない!」

その言葉にポルナレフは深く傷ついた表情をして、キュルケにちょっといいかもと思わせたが…
もっとショックを受けたルイズはそれに気付く事はなかった。

「仕方ないだろ、私は死んでるんだからな」
「はぁッ? 私を馬鹿にしてるの!?」

屈辱に震えるルイズに、ポルナレフは慌てて手を振り回し、自分の真剣さを必死に伝えようとする。
死んでいる、という言葉を聞いて、タバサがビクッと震えたことには誰も気付かなかった。

「この亀の能力は今体験してるだろ? 昔ちょっとしたことがあって死んだ私は、その能力でこの亀の中に留まる幽霊なんだよ。だからコイツを使い魔にさせるわけには」

ポルナレフは最後まで言う事が出来なかった。
飛び上がったルイズの手がポルナレフの頬を叩いた。
痛みは差ほどでもない。悪いビンタだったが、ショックは大きかった。
確かに、ポルナレフにしてみればルイズは、どうでもいい存在だった。
ルイズの気に入らない点は多々ある。だが、曲がりなりにも使い魔として何日も寝食を共にするうちに少なからず情が沸いていたのだ。
ビンタを受けてショックを受ける自分に、ポルナレフも驚いていた。
幽霊に触れるとは思っていないルイズはまたポルナレフが嘘をついたと思って、より表情を険しくした。
(デッドマンQと6部等を読みながら考えたんだけど亀の中だから触れるってことにしました…)

「そんなことあるわけないでしょ…! 本当の事を言いなさいよ!」
「本当だって言ってるだろうがッ、少しは私の言う事をだな…!」
「亀の次は幽霊だなんて、信じられるわけないでしょ!」

だったら、と自分の腕をポルナレフはナイフで切ってみせる。
見事なナイフ裁きに驚くルイズ達だったが、切り裂かれてパックリ開いた傷口からは一滴の血も流れない…タバサが心なしか顔を青ざめさせ、ポルナレフから距離をとった。

「どうだ! 私の体はもう血も流れてねーし、痛みも余り感じねー! 正真正銘の生霊なんだよ」

傷口を見せて叫ぶポルナレフから、タバサは逃げ出した。
だがタバサは回りこまれたッ。

「タバサッ、待って。二人を止めるのを手伝ってよ!」
「いや…」

立ちふさがるキュルケに微かに青白くなった顔を横に振り、タバサは努めて冷静な振りをして入ってきた亀の天井へとレビテーションで突っ込んでいく。
てっきりなんだかんだといいつつ手伝ってくれると思っていたキュルケはタバサのそんな態度を訝しんだ。

「もうタバサったら…どうしたのかしら?」

どうでも良さそうな態度でタバサが亀の中から逃げ出す間にも、二人は言い争う。
脱線してしまったが、問題はそこではないのだ。
ルイズにとって、初めて成功したと思っていた魔法が、それを証明する存在が、実はそうではなかったということが、重要だった…

「もういいわ…あんたなんて、アンタなんて伯爵様の所にさっさと戻っちゃえばいいのよ!」

ルイズがそう吐き捨てた頃、ジョルノはオールド・オスマンに事情を伝え、二つのことを認めさせていた。
あくまてルイズが承諾するという条件でだが、カメナレフの返却。
そして、再び使い魔を召喚する許可を…


「今夜はせっかくの『フリッグの舞踏会』じゃというのに、頭が痛いのぉ…」

色々とありすぎたとオールド・オスマンは深くため息をつく。
恩人の形見である円盤が戻ってこなかったのは真に惜しいが、それについては諦めがつく。

忙しいからという理由で自分で取り戻しに行くどころか教え子に奪還を命じたのはほかならぬオールド・オスマンなのだ。
しかも相手は名の知れた『土くれのフーケ』。教え子達がそれを大きな怪我もなく、皆揃ってフーケを捕らえて帰還しただけでも満足だった。
その一人が、円盤を落としてしまったと責任を感じているとあれば、尚更だった。

その責任を感じ、自分を責めていたルイズに再召喚をさせることを条件付とはいえ認めさせられたことを思い出して、オスマンはまたため息をついた。
同席を許された少し見事に頭が輝く教師コルベールも重々しく頷き同意する。

「全くです。よもや」
「それとなくあの子の胸が本物かどうか尋ねただけで何もあんなに…」
「いえ、あれはストレートすぎましたぞ」
「そうかのお…わしのモグソートニルも踏み潰されかかったしのお…」

ちょっと連れの女の子の胸を凝視して使い魔のモグソートニルにスカートの下に走らせただけだった。
ほんの、ちょっとした冗談。スキンシップだったのにネアポリス伯爵と名乗った少年がいたいけなネズミを踏み潰そうとした光景を思い出し、オールド・オスマンは残念そうに使い魔であるネズミを撫でる。

「死んだ方がいいのでは?」

コルベールがぼそっと言う。 
久しぶりに聞いた炎蛇全盛期の冷たい声に、オールド・オスマンは部屋の雰囲気を取り戻そうと咳払いをする。
無駄な足掻きだが、オールド・オスマンは冷たい空気を無視して本題に戻る。

「ネアポリス伯の説明では使い魔の儀式は完了していない。ということじゃったが、まずはその事について確かめてもらえんかの?」
「わかりました…しかし、私は正直気が重いです。あれほど熱心な生徒が、初めて魔法に成功した結果」
表情を曇らせて心情を吐露するコルベールをオールド・オスマンは首を振って止めさせた。

「申し訳ありません。もし本当だった場合は、今度こそミス・ヴァリエールの召喚の儀式を完了させてみせます。それでは、失礼します」

大げさに意気込んでからコルベールは退室していった。

使い魔のモグソートニルがオールド・オスマンを見上げる。
長年一緒に過ごしてきた使い魔が自分を気遣っていることに気付き、オールド・オスマンはその頭を撫でてやる。

ルイズが魔法に懸ける熱意はオールド・オスマンも良く知っていた。
貴族としての格で言えば最上位に当たるヴァリエール家の三女であるルイズは注目を集めずにはいられなかった。
しかも魔法がまったく使えない。

実の事をいうと進級させるかどうか、使い魔召喚の儀式に参加させるかどうかという所で、オールド・オスマンは判断を迫られた。
何も皆が使い魔召喚を成功させる傍らで何度も何度も爆発を起こし、力尽きるまで失敗させるのは残酷だと言うのだ。
コレまでは何もなかったし、その気は今後も無いだろうが、ヴァリエール家から何か言ってくるのではないかと危惧する者もいた。
…だがオールド・オスマンは少なくない反対を押し切って、召喚は成功した。
そしてその使い魔と共にフーケを捕らえるという手柄を立てた。
だというのに、その使い魔の飼い主が現れ契約は完了していないなどと…始祖ブリミルも酷い事をなさるとオールド・オスマンはもう一度深くため息をついた。
今度ルイズの母が訪ねてくると面会した折にジョルノから聞かされてもおり、オールド・オスマンの悩みは尽きなかった。

一方彼らの頭を悩ませる原因を作ったネアポリス伯爵、髪を黒く染め髪形をかえてシャツを着替えたジョルノは、ポルナレフを探しいこうとしていた。
ポルナレフの意向を聞いておきたかったし、(聞いたから絶対にそれにそった行動をしていくとは限らないが)テファを説得しなければならない。
それに当たって、ポルナレフに少し相談しておきたかった…

その為学院にたどり着いたものの国に戻る事になったイザベラや、テファとは一旦別れておりフードを被ったエロタウ…ミノタウロスのラルカスだけを伴っている。
2mを楽に越える大男を連れて、ジョルノは階段を下りていく。

階段を降りきって、その足は人の多そうな場所へと向かっていた。
そこで適当に生徒を捕まえて亀の場所かルイズの居場所を尋ねれば見つけられるだろうという算段だった。

「ご主人様一つ頼みがあるんだが…」
「なんです?」

亜人の使い魔ということにしているので自分をご主人様と呼ぶラルカスに目を向ける。
すると…探すまでもなくジョルノの視界に気弱そうな女生徒が一人目に入った。
「実は今日の為にフェイスチェンジを覚えてみたんだ。ほら、イケ面に化ければ今夜の舞踏会で一夜のロマンスを体験できるだろ?」

はにかむ牛の顔を余り見ないようにしながらジョルノは少し考え、仕事ではかなり精力的に働いていることもわかっていたので許可を出す事にした。

「…構いませんが、羽目を外し過ぎないようにお願いしますよ」
「理解してるぜ。おっと、あの亀野郎のことをあの女生徒に聞いてましょう。ちょっとボ「シッ…人目を気にしてください」OK」

浮かれるラルカスを咎めて、ジョルノは誰かを待っているらしいその女生徒に話しかける。
ダンスのステップを芝生に刻みながら後ろを付いてくるラルカスの事は気にしないことにした。

「お嬢さん、少しお尋ねしてもよろしいですか?」
「え? あ、はい…なんでしょうか?」

年齢的にはそう換わらないようにも見えるが、服装から生徒ではないと悟ったらしく女生徒は少し緊張した様子で振り向く。
初々しい仕草に、ラルカスが少し顔を綻ばせる。ジョルノは紳士的に、昨日覚えたばかりのトリスティン式の礼をする。

「ルイズ・フランソワーズという女生徒を探しているのですが、もし知っていたら教えていただけませんか? 彼女の使い魔でもかまいません」
「ルイズ…ああ、『ゼロ』の! 確か彼女なら女子寮に向かうのを見ましたわ。彼女の使い魔なら、あちらに…多分、食堂の裏で他の使い魔達とたむろっていると思いますわ」

女生徒は言いながらその場所を指し示し、ジョルノはそれを覚えて礼を言う。
妙に詳しい説明にラルカスは眉を顰めたが何も言わずに置いた。今夜の舞踏会に着ていく服のコーディネートで頭が一杯だったわけではない。

「ありがとう、助かりました。申し遅れましたが私ネアポリス伯爵と申します、この礼は後ほどまた改めてさせていただきます」
「ネアポリス伯!?」

他国人でありながら急速にトリスティンでも名が売れたゲルマニア貴族と知り、女生徒は驚く素振りをみせ去ろうとするジョルノを呼び止めた。

「お待ちください! でしたら、一つお願いがございます…」
「なんでしょうか? 私のできる範囲であれば協力させていただきますが」

なんとなくこうなるだろうなと思っていたジョルノは、特に迷う素振りもなく聞き返す。
女生徒は喜色満面にネアポリス伯にお願いする。

「実は…ある出来事からお友達を一人傷つけてしまったんです。それ以来彼女は余り授業にも顔を出さず…」

憂いを顔に浮かべて、女生徒はジョルノに体を寄せた。
自分の魅力を、それなりに理解しているのだなとジョルノは感じた。

「伯爵様、お願いでございます。彼女を励ましてあげていただけないでしょうか? 貴方に励ましていただければ、きっと彼女も…!」
「私はそういうことは余り得意ではありません。ましてや面識のない方とは」

謙遜するように言ってジョルノは首を横に振る。だが、女生徒は引き下がる気はないらしく、ジョルノとの距離をまた縮めた。
断るような態度を見せてからジョルノはですが、と諦める様子の無い女生徒に言う。

「そうですね…貴方の方がよくその方のことがわかるでしょうし」
「え?」
「今夜の舞踏会の相手にお誘いするのを名目にして、励ます内容の手紙を代筆していただけませんか? プレゼントと一緒にお送りしてみましょう。今からでは大したものは用意できませんが、花とアクセサリーの一つ位は用意して見せますから」
「あ、ありがとうございます。すぐに用意しますわ!」

言うなり女生徒は体を離し、簡単に手紙の受け渡しなどの約束をしてジョルノに一礼する。
ここにおりますので、といい手紙を用意し始める彼女の準備の良さにジョルノ達はちょっぴり感心した。

「今夜が楽しみになりましたわ。貴方様とミス・モンモランシのダンス、楽しみにしております」

ケティ・ド・ラ・ロッタと名乗るその女生徒と別れ、ポルナレフの元へとジョルノ達は歩いていく。
もう相手が見つかっていいなぁと羨ましそうにするラルカスに、ジョルノは苦笑した。
完全にケティと離れてから、ジョルノは言う。

「彼女は多分、僕を待っていたんだと思います」
「あん? ご主人様が誰かわかってたとか言うんじゃないでしょうな?」
「誰でもいいのかも…僕以外にも声をかけているのかもしれない」

証拠があるわけではなかったので、ラルカスは窺った見方だと笑い飛ばしジョルノの先を歩き出す。
食堂はすぐそこだ。そこにポルナレフがいる…大声で何か愚痴っているのが、ジョルノ達の所まで聞こえていた。

「でも、良かったのか? テファと踊ったりするのが先でしょうが」
「彼女をギャングの世界に関わらせる気はありません」

ラルカスは鼻で笑った。
ジョルノの言う事でも、今回ばかりは本気とは思えなかったのだ。
それに、烈風を始め、ジョルノ達の組織に敵対する動きが強く、纏まりを見せ持ち始めているような印象もラルカスは受けていた。

「もう遅いだろう。今更距離を置いても逆に危険じゃあないのか?」
「ゲルマニアならどうとでもなりますし、もうすぐロマリアの枢機卿様のお許しを買う算段もつきますしね」
「…聖職者を買収したのか?」
「高くつきましたが…ロマリアが最も腐っている」

言うと、ジョルノは珍しくため息をついた。
始めてみるジョルノの表情を、ラルカスは年相応だと感じて何故か可笑しくなった。

「既に僕が他の女性に手を出していると聞けば、彼女の熱病も少しは冷めるでしょう」
「どうかな?」

甘いなと言いたげにニヒルな笑みを浮かべる牛男を追い抜き、ポルナレフの元に向かった。
ジョルノ達が行くと、沈んだ空気を垂れ流す亀の中にワインの瓶が次々運び困れていく所だった。
気遣わしげな表情を浮かべながら、亀にワインを入れていくメイドを押しのけ、ジョルノは亀を取り上げて人目につかない場所へと連行した。

「ウォッ、なんだ…!?」

驚きながらマジシャンズレッドが亀から顔を出す。
ジョルノはゴールドエクスペリエンスで、マジシャンズ・レッドを押さえつけて中に入る。
精神的に深手を負ったマジシャンズ・レッドの力は弱く、グングン押し込み、ついには亀の中へと逆戻りさせることにさえあっさり成功する。
拍子抜けしたジョルノはソファに腰掛けてワインを煽っているポルナレフに尋ねた。

「何やってんです?」
「俺は、ダメな大人だ。ルイズを傷つけちまった…」
「そんなにルイズが気に入ってたんですか?」
「いやそういうわけじゃあねぇんだが…」

眉を顰めるジョルノに、ポルナレフのはっきりしない返事が返される。
ゴールド・エクスペリエンスの視界には、項垂れたままワインを煽るポルナレフの姿が見えていた。
部屋も薄暗く、テレビには『ぼのぼの』が仕舞っちゃう叔父さんに仕舞われる映像が流れている。
人気の無いところにたどり着いたジョルノは亀の中に入る。
ゴールド・エクスペリエンスで見た光景より、かなり情けない顔をしたポルナレフがジョルノを見上げていた。
何も言わずにジョルノはその隣に腰掛ける。
人が来ないように、見張りをラルカスに任せたジョルノはポルナレフと今までのことを語り合う。

ポルナレフの、主人になったルイズとの余り良くない状況にジョルノはちょっとだけ同情するような目をした。
今回ばかりはポルナレフに同情の余地がある。同じくテファに召喚されたジョルノからすれば、良くそんな主人で我慢できたなとも思ったが。
そしてジョルノの話に、ポルナレフはジョルノを2,3発殴りたくなったが、グッと我慢して同情するような態度を示した。
美少女侍らせた挙句お前とはもういられないとかお前は俺を敵に回したいのかと、問い詰めたかった…だが大人としてグッと堪えた。

「ルイズですが、もしかしたら彼女は…」

ジョルノはルイズがテファと同じ系統のメイジではないかと疑っていた。
旅の間も少し調べてみたが、使い魔に人間を呼ぶこと自体、前例が見つからないからだが…
ポルナレフは聞きたくないと腕を振るって制止する。

「いや…悪いが、これは俺の問題だ。お前には悪いが、待っちゃくれねぇか?」
「…わかりました。もう少しそちらは様子を見ましょう」

ジョルノの返事にポルナレフは笑顔を見せて、(ポルナレフ的には)兄貴分としてまだ高校にも入ってないジョルノが珍しくしてきた相談に乗ってやる事にする。
こっちは当事者ではないのでルイズとのことよりは気楽にワインを楽しみながら答えることが出来る。
考えて三秒、すぐに言い案が浮かんだ。

「そうだッ! さっき言ってた話だが、どうせならはっきり言った方がいいぜ」

気楽に言うポルナレフの態度には真剣に考えているのか疑わしさがあったが、こんな事で冗談を言うような男でも、多分、きっとないのでジョルノはアドバイスを聴いてみることにした。
薄く笑みを浮かべて、ジョルノもポルナレフから少しワインを分けてもらう。
名門貴族も通う学校で出されるワインだけあって、とても良い香りが口の中に広がった。
「…つまり新しい女が出来て誤解されたら嫌だからさっさと荷物を纏めろと言えばいいんですね?」
「いや、ちょ…まてお前、それは幾らなんでも酷いだろ!?」

かなり引き気味なポルナレフにジョルノは不思議そうな顔をした。

「そういうことではないんですか?」
「違うッ! もう少し彼女を傷つけないような方向で上手く言うんだよ!」
「そうですね…善処します」

舞踏会が始まってから言うか始まる前に言うか、その程度の事で大きく変わるとも思えなかったし、ジョルノはテファの元へと向かった。
ポルナレフが頑張れよと背中に声をかけたが、ジョルノは返さずに亀から出る。
人の目はない…ジョルノは学院長室のある塔を見た。

テファは、まだそこにいるはずだった。
何も言わずに歩き出すジョルノの後を、ラルカスが追いかけてくる。

「ラルカス、貴方も舞踏会の準備があるでしょうから自由行動してもらっても構いません」
「お、そうですか? じゃあさっきのミス・ツェルプストーに声をかけてみることにしよう…!」

許しが出た途端180度進む向きを変えるラルカスを笑って、ジョルノは亀を片手にテファの元へ行く。

「ああそうだ。ご主人様、ミス・タバサの件だが、彼女の使い魔にアンタが断った理由を説明しておきました」
「助かります」

シルフィードでは余り期待できそうに無いが、と思いながら礼を言って、今度こそラルカスとジョルノは分かれた。
そして、芝生に座るケティから手紙を受け取って、ジョルノ達が学院長と面会する前に宛がわれた客室に戻る。

テファは、今夜舞踏会があるというのにまだ何の準備もせずベッドに腰掛けてジョルノを待っていた。
ジョルノが入った途端俯いていた顔を上げて、ジョルノを見る目は一歩も引かないとジョルノに彼女の心情を伝えて来る。

一筋縄ではいかないようだとジョルノは感じたが、臆さずテファとの距離を詰めていった。
テファが口を開く…ジョルノはそれに被せるように声を出した。

「テファ、まだ準備をしていなかったんですか? 明日には貴方はゲルマニアに向かうんですから、ラルカス程とは言いませんが今夜は楽しまないと損ですよ」

そう言って用意しておいたドレスなどを荷物から出すジョルノにテファははっきりと言う。
ベッドの上に広げた布地をテファの指が押さえつけた。細い指が握りこまれ、皺を作っていく。

「私はいかないわ。ジョルノとまだ旅をするの」
「ダメです。何度も言わせないでください。僕は「私も何度も言いたくない。どうしたら私を連れていってくれるの?」ありません。そんなことは…」

ジョルノも始めてみせる剣幕で詰め寄ってくるテファにはっきりと告げる。
だが、テファは怯まなかった。

「私が、姉さんを助けるわ」

一瞬、何を言ったのかジョルノは理解するのを拒否した。
だが、テファは大きすぎる胸に手を当て、ジョルノに言う。

「それが成功したら、私を貴方の組織に入団させて欲しいの」
「駄目です。場合によっては警備の人を殺さなければならないんですよ? 貴方にその覚悟があると「きっと、姉さんとゲルマニアに行っても戦争が終った後アルビオンに帰っても、昔みたいにはもう暮らせないわ」

ジョルノがポルナレフと会いに言っている間…いや、オールド・オスマンと会っていた時もテファはずっと考えていた。
旅をして、エルフということがばれてしまうとどれだけ危険か、少しは理解できた。
ここでジョルノに頼んで姉のマチルダを助けてもらい、ジョルノが用意したゲルマニアの屋敷で静かに暮らす。
そんなことでまたジョルノが来る前のように暮らせるのか自問してみた…使い魔は、召喚したメイジにとって必要な者が呼びだされると姉は言っていたが、それは当たっているようだった。

「危険だってことはわかるけど…今の私が安心できるのはジョルノの隣だけだわ。私は、貴方が」
「テファ、それは風邪のようなものです。貴方は冷静じゃあない…」

切なげな目で言うテファに、ジョルノは険しい表情をして切り捨てた。
動揺して、テファの目が見開かれるのを見ながら、辛辣な口調で続ける。

「そんな考えは一晩寝て、少し頭を冷やせば考えなおせますよ」
「おいジョルノテメェ! もう少し言い方があるだろうが!?」
「カメナレフさんは黙っててください」

素っ気無い態度を装い、ジョルノは懐から先程ケティに書かせた手紙を取り出す。
もしかしたら、それの中身は熱烈なラブレターとかになっているのかもしれないが、確認する気はなかった。

「可愛らしい人を見かけたので今夜お誘いするつもりなんです。貴方も馬鹿な事は考えずに今夜の準備をしてください」
「わ、私は別に構わないわ。お母さんだって、お父さんの愛人だったもの…!」

虚勢も含んだ返事に、ジョルノは今度こそ厳しい目を向けて言った。

「…貴方はもう少し自分を大事にするようにそのお母さんに教わらなかったんですか? 僕にこれ以上関わると邪悪なことに関わることになる。これ以上は言わせないでくださいね」
「で、でも…」

テファの返事にジョルノは奥歯をかみ締めて無視した。テファが黙り込んでしまったので、もしかしたらとても怖い顔を見せてしまったのかもしれないと思ったが、気にしなかった。
荷物からプレゼント用のアクセサリも見つけてたので、一方的に話を打ち切り、ジョルノは急いで部屋を出て行く。

残されたテファは、決意を決めた。
ジョルノが置いていった亀に声をかける。

「ポルナレフさん、貴方に協力してもらいたいことがあるの」
「お、俺か?」
「土くれのフーケを、マチルダ姉さんを今夜私が助け出すわ。お願い、手を貸してください」

胸の前で手を組んだポーズでお願いされたポルナレフには、フランス紳士的にも、女性のお願いを断る事は出来なかった。

「ジョルノ…お前が置いていくから悪いんだぜ?」

少しして、ミス・モンモランシの部屋に手紙やらと一緒に大量の花を生み出して贈ってから、ジョルノは慌てて出たせいでポルナレフを置いてきてしまったことを思い出したが…
どこかで見た体格と歩き方をする2m以上の大柄のイケメンの青年を見かけてしまい、それどころではなくなってしまった。

「ボン・ジョォルノご主人様。既に…! 二人ほど既に、ダンスの相手を決めたぜ」
「それはよかった。ラルカス、後でテファにもフェイスチェンジをかけてあげてください」
「了解した。だがもう少し待ってくれ。向こうに美女が見える」

以前教えたイタリア語で適当に挨拶を返す牛男に軽く怒りが沸いたが、『フリッグの舞踏会』というのは何か特別な舞踏会なのかもしれない。
そう思うことにしてジョルノは他の場所へと足を向けた。

自分の事ばかりではなく、一応他にも会うべき貴族の子息達がいる。
舞踏会に向けてジョルノ自身の用意もある。
そうした些事に時間を取られ、ポルナレフやテファがどうしているか把握できない間に、少しずつ日は傾いていった。
『フリッグの舞踏会』が始まる時刻へと、時間は流れていく。

ポルナレフと喧嘩中のルイズも、部屋で泣くのを止めてドレスを身に纏い、髪型をセットし、軽く化粧をしていた。
あんな使い魔のことで『フリッグの舞踏会』にでないなんて貴族にあるまじき行為だと、ルイズの反発する心は感じたからだった。

化粧を終え、泣いた後が見つからない事を鏡で確認するルイズは、不意に一つのことに気付いた。

「そうだわ…ッ! 逆に考えるのよ。あんな奴、使い魔じゃないって言うんなら…」

ルイズは杖を持ち、鏡に向けて軽く振るった。

「私はもう一度使い魔を召喚できるって考えるのよ」

責められた時のポルナレフの顔が脳裏に浮かび、罪悪感を感じたが…ルイズは無理やり笑い、会場に向かう為部屋を出ていった。


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