ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

閃光の紳士

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匿名ユーザー

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西暦1868年のある雨の日のことだった
旅行に出かけた帰りのとある貴族の一家を乗せた馬車が、
折からの雨で崩れやすくなっていた崖際の道を通った際に崖下へ落ちた
生まれたばかりの赤ん坊は無事だったものの、
一家の父親は全身に怪我を負い、……そして、母親の姿は、何処にも無かった
馬車の落ちたすぐ傍には、豪雨によって増水した川があったことから、
母親は馬車から放り出され川に流されてしまったのだろう、と
生存は絶望的だし、遺体も見つからないだろうと、判断された
……おそらく、父親を助けた男女がもう少し早くそこを訪れていれば、
銀色の鏡が、馬車の中から、母親だけを連れ去っていく奇怪な光景を目にしていただろう


母を亡くしたのは、僕がまだ六つになったばかりの頃だった
幼かった僕は、母を求めて泣いては、両親や召使達を困らせていた
そんな中で執事のジャン爺がこう言った
「ジャック様、使い魔召喚の儀を行われてみればいかがでしょう?」
自分の運命に従うものを召喚するという、使い魔召喚の儀式
自分が求めるものを呼び出すという、儀式だった
幼かった僕は何も考えずに、彼の意見に飛びついた
おそらく、彼としてはここで僕が失敗した際には
『母上を求めて泣いているから、使い魔も来てくれないのでしょう
 母上に笑われてしまいますよ。涙を拭いて、立派なメイジになれるよう
 努力をお続けなさいませ』とでも言うつもりだったに違いなかっただろう
そんなこととは知らない僕は、たどたどしく呪文を紡いだ
「いつつのちからをつかさどりしペンタゴンよ、
 われのうんめいにしたがいし、……つかいまを、しょうかんせよ」
呪文を紡ぐ中で、僕はちらりと考えた
使い魔よりも、『母上』が欲しいな、と
そこに現れた銀の鏡は、僕の願いを汲み取ってくれたらしかった
鏡から現れたのは、大怪我を負った一人の女性だった
僕とジャン爺は慌てて、彼女の手当てを行った
「私の息子……私の息子は、どこ?」と、うなされる中で、彼女は呟き続けた
その言葉を聞くたびに僕の心は打ちのめされていた
自らが『母親』を求める余り、名も知らぬものから
『母親』を奪い取ってしまったのだ、と

目を覚ました彼女は、自分の名前と出身地を告げた
聞き覚えの無い地名であり、僕は首を傾げた
ジャン爺も、そんな場所は知らないと言った
彼女は自分の住む場所には魔法が存在しない、
と言ったので僕は心の底から驚いた
時々館にやってくる吟遊詩人から、風の噂ではこことは違う世界が存在し、
そこには魔法がないのだという話を聞いていたことはあったが、
まさか本当に、そんな世界が存在するとは思わなかったのだ
父に事情を説明すると、しばらく悩んでいたようだったが、
とうとう、彼女を我が家で僕専用の召使として迎え入れたようだった
周りには、彼女はさる貴族の庶子であったが魔法が使えない
しかし、礼儀作法に関してはきちんとした教育を受けていたため、
僕に礼儀作法を教える家庭教師として雇われたのだ、と嘘をついた
事実、彼女は元居た場所で上流階級の人間だったらしく、物腰は洗練されていた
母を亡くしてから沈んでいた屋敷にようやく本当の笑顔が戻ったのは
一重に、彼女の存在があったからだと言えよう
こうして、僕の中にはある大きな目標が出来た
『彼女を、元の世界に帰し、息子と再会させること』
新しい母のような存在になった彼女と別れることは寂しいが、
母を失う悲しみを、彼女の息子に味わわせてしまったのは、
僕が背負った最大の罪だと思ったからだった

彼女と出会ってから、二十年の月日が過ぎた
父を亡くした後、魔法衛士隊に入り、努力の末にグリフォン隊の隊長にまでなった
僕の下に、ある日一人の女が現れた
アルビオンで暗躍している『レコン・キスタ』の一員であるというその女は、
僕を『レコン・キスタ』に勧誘しに来たという
「馬鹿馬鹿しい。僕が王家を裏切ると思うのかい?
 そんなことは、しないよ。……『紳士のすることではない』からね!」
彼女がよく口にする、彼女の夫の口癖を叫びながら
僕はその女に杖を向け魔法を放った
風の刃がその女を切り裂いた……と思ったが、
そこに残ったのは一つの小さな魔法人形だった
「……我々が聖地を手に入れれば」
いつの間にか後ろに立っていた女が僕の耳元で囁く
「『門』の向こうへ……『彼女』の国へ行くことができるかもしれませんよ?」
その言葉に身を震わせた僕は、ゆっくりと女の方を振り向く
「……本当、だろうな」
「ええ……詳しくは、ご協力くださればお教えいたしましょう
 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵」
彼女を元の世界へ帰すことが、できる
確かに、聖地にはその可能性があることは知っていた
だから僕は、『ミョズニトニルン』と名乗るその女の誘いに乗った

レコン・キスタに入ったことは、誰にも知らせなかった
ただ密かに時期を待ち……そして、その時がやってきた
虚無の担い手の可能性を持ち、伝説の使い魔『ガンダールヴ』を召喚した少女、
僕の婚約者、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
姫様の任務を受け、アルビオンへ行くことになった彼女に僕は同行することになった
『魔法衛士隊グリフォン隊隊長:閃光のワルド子爵』の仮面を被り、
『王家に仇なすレコン・キスタの一員:ワルド』の本性を隠して、
僕は幼い婚約者と久しぶりに顔を合わせ、その際に彼と出会ったのだ
黒い髪にがっしりとした体つきをし、体全体からほんのわずかながら
光を放っているような、一見してただの平民でないと分かる、彼
必死で、体中から吹き出そうになる脂汗を抑える
「彼らを紹介してくれないか、ルイズ」
「あ、えっと、ギーシュ・ド・グラモンと使い魔の『ジョジョ』です」
「やあ、君がルイズの使い魔かい、人とは思わなかったな
 しかし、ジョジョ、というのは、変わった名前だね」
笑顔の仮面を貼り付けたままで、彼に問いかける
「仇名のようなものです。本当の名は『ジョナサン・ジョースター』と言います」
ああ、やはりそうだった、と思った
だって彼のその瞳は、彼女と同じ、真っ直ぐで、強い意志を秘めた瞳をしていたから

「君は、伝説の使い魔、ガンダールヴなのだろう?
 一つ、手合わせ願えないかね?」
ラ・ロシェールの宿屋『女神の杵亭』の中庭で、決闘を申し込んだ
杖と剣で、ただひたすらに打ち合う
どうやら修羅場を幾つか潜っているらしく、剣の使い方の上手さは
ガンダールヴの能力によるものだけとは思えなかった
「もう二人ともいい加減にしなさいよ!」
立ち会っていたルイズの一声で、彼は剣を納め、僕に背を向けた
「待ちたまえ、ジョジョ、使い魔くん
 何故剣を納め、僕に背を向けた?僕がもし敵だったとしたら、
 その君の背中に魔法を打ち込むかもしれないぞ?」
杖を構えたまま、そう言う僕に振り向き、彼はこともなげに答えた
「……あなたが、そんな『紳士のすることではない』ようなことを
 するような人に見えなかったからです」
友人には考えが甘いって言われましたけど、と苦笑していた
僕の心が乱れるのが分かる
僕は何をやっている?こんなことをして彼女が喜ぶわけがない
こんなのは、『紳士のすることではない』

ルイズ達と城へ辿り着き、ウェールズ皇太子と会談し、目的の手紙を手に入れた後
僕は、少し外の空気を吸ってくる、と外へ出た
「……ワルド子爵?どうしたんですか?」
外を歩いていた僕を見つけた彼が驚いて声をかけてきた
「なあに、ちょっとした散歩だよ。それより、眠らなくていいのかね?」
「……何だか、眠れないんです。皇太子の言うことは痛いほどよく分かります。
 愛する人を守るためにだったら、自分くらい、あっさり犠牲に出来ます」
「そうだね。僕もだよ」
不思議そうに首を傾げた彼に向かって僕は告げる
「なあ、使い魔くん……いいや、ジョナサン・ジョースター。
 この任務が無事に終わったら、一度僕の屋敷へ行ってくれないか」
「え、何故ですか、子爵?」
その問いには答えず、僕は口笛を吹いた
よく訓練された僕のグリフォンが僕の目の前に現れる
「答えは、僕が戻ってきたら、お教えしよう!
 だが、戻って来なくとも、行ってくれたまえ、絶対にだ!」
グリフォンに跨ると、呆気にとられたままの彼を残し、空に飛び立った

「クロムウェル様」
アルビオン王立軍をなめきっていたクロムウェルは、
あの女を連れて王城近くまで来ていた
「おお、ワルドくんではないか!どうしたのかね?」
「はい、求めていたものを手に入れましたので、
 クロムウェル様にご覧に入れようと思いまして」
「おお!それは一体何かね?手紙か?よもや皇太子の命かね?」
うきうきとしている彼に少しずつ近づく
あと、ほんの数サント
「いえ、取り戻したという方がいいでしょうね」
「何と?」
「取り戻したのは……我が誇りだよ、クロムウェル」
「まさか、貴様ァ!」
横に居た女が、僕が呪文を唱えたことに気づいたようだったが
『バヴォアッ』
既に時遅く、風の刃がクロムウェルの首を床に転がしていた
「く……ッ!総員!出よ!ワルドが裏切った!!」
女の声が連絡管を通じて船中に響き渡る
僕はクロムウェルの首を掴むと一目散に逃げ出した
立ち向かって勝てるとは、到底思えなかった
刃が、魔法が、銃弾が、矢が僕を傷つける
途中で片腕をもがれたが走り続けて、
どうにかグリフォンに跨った所で僕の記憶は途絶えた

「ヴァリエール様!ジャック様が目を開けられました!」
「ワルド様、目を覚ましたのね、よかった!」
泣きながら飛びついてきたルイズに首を傾げる
「……ルイズ。僕は、一体?」
「覚えていないの?……ワルド様は、クロムウェルの首を持って、
 ニューカッスル城へ帰って来られて……それから」
ルイズは一旦目を伏せ、再び、僕の目を見つめて言葉を続けた
「ご自分が、レコン・キスタに所属していたことを、
 ジェームズ1世陛下や、ウェールズ様、それから私たちの前でお告げになりました」
「ああ……そうだったね。……それで、ここは?」
「……ワルド領の、お屋敷です」
「何……?」
驚きのあまり思わず身を起こそうとする
不思議なことに、あれだけ大怪我を負っていたのに痛みは少なかった
「……姫様からの伝言をお伝えするわ」
ルイズの口から告げられたのは、王家への裏切りは重罪ではあるが、
クロムウェルを打ち倒した功績は大きい
よって、魔法衛士隊からの罷免、並びに領地の一部没収をして
今回の件は処理するということであった
「姫様はおっしゃったわ。裏切り者である貴方を重用したのも、
 それに、私を勝手にアルビオンへ送ったのも自分だ、と
 だから、この件の責任を全てあなたに被せるわけにはいかない、と」
「……どこまでも、甘いお方だ、姫殿下は……」
「ワルド様!……教えて。どうして、貴方は王家を裏切ろうとしたの?
 貴方、そんな人じゃなかったはずだわ……」
目に涙を溜めたルイズに聞かれて、僕は今までの一部始終を伝えることを決意した
「……ルイズ。君の使い魔も……ジョジョも、一緒かい?」
「え、ええ。別の部屋にいるけれど」
「よかった。……ジャン爺。『彼女』を呼んでくれたまえ」
「『彼女』……。はい、承知しました」

全てを伝えた後、彼女と彼は、驚いたように互いを見つめていた
言葉も出ないようだった
「……最初に会った時、我が目を疑いました」
少し白髪の混じった髪を困ったように揺らしながら彼女は口を開いた
「若い頃の夫に、とてもよく似ていて……
 何より、あの子と同じ名前でしたから……」
彼女が、自分より背の高い彼の頬をそっと撫でる
「大きくなったわね、ジョナサン」
「ああ……!」
目を見開いていた彼が優しく彼女を抱きしめた
「母さん……ッ!」
「おお、ジョジョ、私のジョナサン……!」
強く抱き合う親子の姿を見て、僕は思わず微笑んでいた
「よかった……メアリー、本当に、よかった……」」

この後、虚無の担い手であるルイズの傍らには、二人の『紳士』が
控えていたことが記録には残っている
その内一人は、彼女の夫であり、『閃光の紳士』『隻腕の護り手』とも呼ばれる
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵であるが、
もう一人の男性『太陽の紳士』と呼ばれる男性についての記述は、
彼らが聖地に到達したとされている日から、ぱったり途絶えている
民間伝承においては、『太陽の紳士』は伝説の使い魔『ガンダールヴ』であり、
聖地にある『扉』から、一人の女性を伴い故郷へ帰ったのだと言われている
なお、ルイズとワルドは後に一男一女に恵まれ、子供達は彼女と彼の恩人の名をもらったという

息子の名は『ジョナサン』娘の名は『メアリー』


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