ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-60

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匿名ユーザー

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「 う 」

痛みに目を覚ます。
突き刺すような痛みが手と足と、右半身を襲う。
アニエスの目に入ってきたのは、何の変哲もない宿舎の天井だった。

まるで永い眠りから覚めたようだな、と思って目を閉じた。
眠っている間、何か不思議な夢を見ていた気がする、たしかそう、地下通路でリッシュモンの胸に深々と剣を突き刺したところで………

アニエスが目を見開き、勢いよく体を起こした。
ばさっ、と音を立てて布団が床に落ちると、ほぼ同時にアニエスは体の痛みに耐えかねて声にならない悲鳴を口から漏らした。
「…………っ」

「気がつかれましたか? 外傷は治癒されましたが、まだ痛みは残りますので、安静に…」
そう言いながらアニエスの体を支えようとしたのは、アニエスの世話を仰せつかったのであろう、アンリエッタの侍女だった。
たかがシュヴァリエに過ぎないアニエスに、わざわざ侍女を使わせるという事自体、かなり破格の待遇なのだが、アニエスにはそんなことを気にしている余裕は無かった。
「今は、今日は何日だ、時間は!?」
アニエスは差し出された侍女の手をきつく握りしめ、声を荒げた。

今はいつだろうか、私はどれぐらい眠っていた?
隊員達は報告をすませたのだろうか、ルイズ達はあの後どうなったのか、リッシュモンの屋敷から虐殺にかんする資料は出てこなかっただろうか…
と、アニエスの脳裏にさまざまな思いが浮かび上がる。

こうなるとアニエスは寝ていられない、ベッドから飛び起きたアニエスを見て、侍女は『まだ怪我が完治していない』と渋ったが、アニエスは頑固に『もう治った』と言って聞かなかった。
アニエスは詰め所に残った隊員達に、自分が気絶してからのことを事細かに聞いてから、アンリエッタに謁見すべく衣服を整えて王宮の中枢部へと向かった。
王宮の裏手に、ひっそりと建てられている宿舎から外に出ると、空にはさんさんと太陽が輝いていた。

薄暗い宿舎で寝かされていたアニエスにとって、丸二日ぶりの太陽だった。


一方、魅惑の妖精亭では、ルイズとワルドの二人が、最後の仕事をしていた。
「寂しくなるわねー、またいつでも遊びに来て良いのよ」
手を左の頬に当てつつ、からだをくねらせるスカロンに、ワルドは笑いながら答えていた。
「機会があれば客として来させて貰うさ」
そう答えながらも、ワルドは慣れた手つきでモップを扱い、床を掃除していく。
薄茶色のシャツに黒いズボン姿のワルドは、誰が見ても魔法衛士隊の元隊長だと思わないだろう。
ワルドが床に向けていた顔を上げると、ルイズとジェシカが楽しそうに話をしながら、今晩の仕込みをしているのが見えた。


「それにしても驚いたわ、まさかロイズ(ルイズ)とロイド(ワルド)さんが、女王陛下の密命でこの店に潜入してたなんて」
大きな鍋の中身を、これまた大きなおたまでかき回しつつジェシカが喋る。
ルイズは野菜を刻みつつ、苦笑した。
「もう、その話絶対に他の人に言っちゃだめよ」
「解ってるわよ、貴方たちは駆け落ちして家を出奔した元貴族で、追っ手が来たから逃げ出した…これでOKよね」
「うん。あと、女王陛下の評判とかも、時々アニエスが聞きに来るから、変な遠慮はしないでちゃんと伝えてね」

ジェシカはおたまを鍋のふちに引っかけると、腕をまくり力こぶを作るような仕草をした。
「任せて! チュレンヌみたいな悪徳貴族が減るなら、幾らでも手伝っちゃうわよ」
「ふふ…でも、無理はしないでね、貴方ってすぐ人の事情を知りたがるんだもの」
「えへへ。 ……ロイズこそ無理はしないでね。貴方のこと、けっこう好きだもの」
「やめてよ、はずかしいわ」
「またお化粧教えてあげる、だからまた遊びに来てね」
「……機会があったら、遊びに来るわ。いつになるか解らないけど」

ほんの少しだけ寂しそうに見えたが、ルイズはそのとき、ハッキリとジェシカに笑みを返していた。

仕込みと掃除を終えた二人は、謝礼とばかりに金貨を置いていこうとした。
袋に詰められた金貨は少なく見積もっても100枚はある、これだけあれば大通りの一等地にお店を出せるかもしれない。
だがスカロンは袋の中から金貨を一枚取り出すと、残りをルイズに返した。

それでは困る、と食い下がるルイズに、ジェシカがこう説明した。
「急に金回りが良くなったら、うちの店で何かがあったって怪しまれるでしょ? お金は欲しいけど、私達はそんなつもりで二人を匿った訳じゃないもの。これは二人分の食事代として貰っておくわ」

ワルドが苦笑して、半分呆れたように呟いた。
「ずいぶんとお人好しだな」
「まったくね。欲がないのはいいけど…」
ルイズもため息をつきつつ呟いたが、ルイズはジェシカとスカロンの瞳に、商売人としてのプライドを見た。
伊達や酔狂で、金を受け取らない訳ではないのだ、スカロンもジェシカも、そこらの貴族に負けないぐらい商売に誇りを持っているのだろう。
「じゃ、さよなら」
「うん、またね」
ルイズの”さよなら”に、ジェシカが”またね”と返す。

そんな小さな心遣いが嬉しくて、ルイズはフードの中で顔を綻ばせた。


二人は、ジェシカとスカロンに見送りを断ると、『魅惑の妖精亭』裏口から外へ出た。
辺りに気を配りながら裏通りを歩いていく、その途中、ワルドが小声でルイズに問いかけた。
「記憶を消さないで良かったのかい」
ワルドの言葉に、ルイズの表情が曇った。
「わたしって、詰めが甘いと思う?」
ルイズが聞き返すと、ワルドは申し訳なさそうに呟いた。
「いや、そういう訳じゃないんだ。理由を聞きたかった」

ルイズは名残惜しそうに自分の顔を撫でた。
数日の間、ロイズとして過ごしていた時間。
それはとても名残惜しく、そして寂しかった。

「…わたし、あの店で働いて、すごく楽しかった。。ジェシカや、みんなが私に世話を焼いてくれた、働けば働いただけ給金がもらえて、みんなに認められるのが嬉しかった。
でも、そのせいで…魔法学院の級友と、もっと仲良くしておけばよかった、もっと友達がいたらよかった……そんな思いが私の奥底から吹き出してきたのよ…」

「ルイズ…」
ワルドは、そっとルイズの肩に手を回した。
「覚えて居て欲しかったの…わたしを」

そこにいるのは、レコン・キスタを恐怖させた『騎士』でもなければ、ワルドを脅かした『石仮面』でもなかった。

そこにいたのは、虚勢の仮面が剥がれ、涙で顔をくしゃくしゃにした、ただのルイズだった。




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