ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ-17

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匿名ユーザー

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シルフィードが青い空を飛んでいく。
溶け込むような色合いの鱗にしっかりとしがみつきながら、マジシャンズ・レッドの炎が揺らめくのをキュルケとポルナレフは見ている。
首の根っこに跨ったタバサの隣で、ルイズが身を乗り出して眼下に広がる森を見ていた。
後ろから迫る巨大なゴーレムがゆっくりだが、確実に離れていく。
だが、ポルナレフ達は逃げているのではない。
眼下に広がる森の中からフーケを探さなければならないのだ。
だからすぐに見つからなければ、フーケを探してゴーレムをこの森の上でかわし続けなければならない。
その事を理解している皆の表情には焦りが見え、特に追い掛け回されるシルフィードは必死だった。
そんな様子を、追跡されている『土くれのフーケ』は冷静に見つめていた。まるで養豚場の豚でも見るような目で見上げる。

「逃げるんじゃあ無いようだね。ミス・ヴァリエールのお陰かねぇ?」

小馬鹿にしたような口調だったが、顔に笑みは浮かばなかった。
それどころかシルフィードを睨みつけ、歯軋りをせんばかり…
あのまま、ゴーレムと戦い消耗してくれていればよかったのだが、マチルダの予定は狂っていた。

「あの亀…やっぱり、どう見たってジョルノ・ジョバァーナの亀だね」

木陰に潜み、近づいてくるシルフィードの姿を見ながらマチルダは確認と、自分にいい聞かせるように呟き始めた。

本当は別の目的があった。
アルビオンに隠れ住むテファの為、円盤の使用方法をメイジ達に使わせて理解するという目的…!

マチルダのテファへの感情は複雑だった。
テファは、サウスゴータ家が主君と仰いだ王弟で財務監督官だった大公の一人娘だ。
アルビオン王家やそれに追従した貴族への恨みを持つとはいえ…いや、だからこそ王家に杖を捧げてきた貴族としては、
テファこそ正統な、アルビオン王位を継ぐに、真に相応しい方の娘だ、なんて想いもないわけじゃない。
貴族に戻るなどの利益を求めての考えではない。
そうでなければ…!
彼らが正しいとするのなら…!
亡父達が間違っていたというのか?
そんなわけはないのだ…マチルダは突然湧き上がった衝動のままに隠れていた木を殴った。
どういう事情がったのか、マチルダも完全に知っているわけではない。
だが、エルフだからって理由だけで幼い子供を殺すような真似は貴族のすることではない。
愛人とて、義務の為に望まない結婚をした貴族が恋人とその後も関係を続ける話は、大っぴらに良しとはされないが、平凡な話である。

だから、テファをどうしても主君の娘として見ることはある。
彼らへのあてつけでテファを生かしておこうなんて想いさえ、マチルダにはあるのだから…

しかし同時に、何年も面倒を見続けてきたテファに愛情が沸かぬほど情が薄くもない。
もう既に、マチルダにとってテファは妹であり、娘でもあるような大切な存在だった。

そういう複雑な想いを注ぐ大事なテファが、あろうことか男を召喚したという話を聞いたことが…昨日聞いたことのように思い出される!
あの糞ガキッ!!
マチルダでさえうっかり騙されちまう、あの爽やかな笑顔が思い出されるッ!
アルビオンの冷たい冬の終わり、春の訪れを伝える花の蕾が開きだしたのを見つけた時のような気持ちッ、
鬱陶しい雨を降らせる雲の隙間から差す暖かな陽光を浴びた時のような気持ちを植えつけるくせに、時折チラつかせるあの色気ッ…!
放っておけば間違いなくテファを誑かして悪い道に引き込むに違いないッ!!

そのジョルノ・ジョバァーナが、マチルダがある貴族から盗んだ円盤を渡した直後から、マチルダが少しだけ見せてやった裏社会で何か行っているらしい…
テファがそんな道に引きずりこまれるのは最早時間の問題だろう…次に戻った時に排除するしかないッ! マチルダはそう決めていた。
ジョルノ・ジョバァーナは抜け目ないガキだ。排除しなければならないが…円盤を使っているのならそれを知らなければ、追い詰めた所で足元を掬われちまうかもしれない。
その為に、ジョルノ・ジョバァーナを確実に葬りさる為にできれば『破壊の円盤』の使い方と力を知っておかなければならなかった。

だがそれは、復讐とかは止せと言っていたテファに姉のように慕っているマチルダが盗賊をしていると知られてしまう事に比べれば、カスのようなものに過ぎなかった。
何より、テファの存在が亀の口からうっかりばれて、妹か娘のように可愛がっているテファの身に危険が迫ることに比べれば…!

「円盤も使ってないようだし…こうなると、今重要なのは円盤じゃないね…あの亀だ。喋れるようになった亀の口から、私の事がテファにばれたり、テファのことが誰かにばれちまう方が、ずっとヤバい」

言いながらマチルダはローブの中に手を入れていた。今のこの状況を、マチルダは切り抜けなければならなかった。
円盤にどんな力があるのか知る事ができないのは残念だが…どんな手段を使ってでも、亀の口を封じて逃走しなければならなかった…!
懐を探り、微かに震える手で取り出したのは小さな紙の包みだった。
一時の甘い夢、心地よい幻覚に誘われ、あるいはどんなことでもできるような全能感を味わうという手の中の禁制品の一種が、その包みの中に入っている。
それを、マチルダは硬い表情で見つめた。依存性などがあるという話をマチルダは知っていた。

だがこの薬には、精神を高揚させ魔法の力を一時的に高める力がある…!
ドーピングとしての力、体を蝕むがゆえに禁止されている上、値も張るが、その効果から念のために一つだけ用意異しておいた欲望の白い粉。
当然使いたくなんて無いが、相手にはマチルダと同じトライアングルが二人いる。
その上あのように飛ばれていては、あの亀を殺すのはかなり困難だ。積んでいる、と言ってもおかしくはないかもしれない…だが逃がすわけにはいかないのだ!
近づいてくるシルフィードの姿を一瞥し、フーケは包みを開いた。

時を同じくして、シルフィードを追いかけていた30メートルのゴーレムが突然崩れ始める。
決して精密なつくりではなかったが、それでも土が零れることは殆どなかった土の人形が、手を伸ばした形で動きを止めていた。
溶けるようにして、ゴーレムは人型ではなくなり、土の山へと変わっていくことに後ろを見ていたキュルケが一番早く気付いた。
シルフィードやタバサは前を見ていなければならなかったし、ルイズは身を乗り出すようにして眼下に広がる森を見ていた。
ポルナレフは勿論、生物探知機でもある炎が燃え盛るかどうかを見るのに集中していたのだが、「見て! ゴーレムが…!」

キュルケの声に、皆自分の行動を止めて、シルフィードまでが首だけ振り向いてゴーレムが崩れ落ちて、下に生えていた木々を押しつぶしながら大きな土煙が上る光景を見る。
だが、それが彼らの行動を一手遅らせた…!
そうする彼らの行く手で、木々を突き破り新たに生み出されたゴーレムの腕が、生き物のようにうねりながらシルフィードの前へ急速に伸びていく。
森の木を巻き添えにしたまま天へと突き出されようとしているのは、崩れ落ちた30メートルゴーレムの腕と同じサイズの腕だった。
生物探知機を有効にする為に低空で飛行していたシルフィードとその背に乗るポルナレフ達の上に影を落として、腕は成長をやめた。

構成する土くれの一部が崩れていくのにも構わず、今までに無い、本物の人間めいた動きで手が蠢く…メイジが使う魔法は、基本的には共通のものが使われる。

レビテーション、ウインドカッター。それらはどの国でも共通だが、そこにメイジ個人の能力と隠しようのない癖が現れる。
その点から言えば、つい先ほど背後から追いかけてきたゴーレムを作ったメイジとは、別のメイジが作ったような巨大な土の手は手を形作る土くれを撒き散らしながらも、恐ろしく素早かった。
だが日頃表情を動かさぬタバサが、目を見開くまでに広げられた手はシルフィードを叩き落し、何故かすぐには追撃を行わずに小刻みに震えた。

木々をなぎ倒して墜落するシルフィードが地響きを立てている間に、ゴーレムは再び土を集め、否応なしに圧迫感を与える巨体を作り上げて彼らの前に立ちあがろうとする。
マチルダはそれを少し離れた場所で眺めていた。

「そいつらを埋めちまいな…!」

亀を逃がしてしまうと、妹、あるいは娘のようにさえ思うテファの事が脳裏にひっかかっていたというのに…
鼻歌の一つでも歌いだしてしまいそうな清清しい気分が、心の内から湧き上がってきてしまう…!
自然と笑みが広がっていた事に気付いたが、マチルダは杖を振るう。

砕け散った巨大な手がルイズ達の上に土の塊となって降り注ぐ。
髪や服に降り注ぐ土から、体についた土を嫌そうに払いつつキュルケが逃げる。
シルフィードの無事を確かめたタバサが視線を微かに険しくし、「ここにいて、シルフィードを」と言い残して『土くれのフーケ』を追う亀を追いかけ森へと消える横で、ルイズは降り注ぐ土に目もくれず周囲へ忙しなく目を向けていた。
頭にこぶし大の土がぶち当たり、ぶん殴られたような衝撃に目が眩んでいても、血が滲んでもルイズは目と手を動かしていた。
タバサと共に、炎により生命を探す能力を持つ亀を追いかけようとしていたキュルケは、それを見て先にルイズへ叫んだ。

「ルイズ! 貴方何やってんのよ!「円盤がないのよ! 今叩き落された時に、何処かに落としちゃったのよ!」

震える声で叫んだルイズの目は潤んでいた。
今回の目的でもある戦利品を失くしたと聞かされたキュルケは、ルイズの頬を叩いた。
一瞬動きを止めるルイズにキュルケは言い聞かせる。

「馬鹿ね…ッ。貴方の体を守るのが先でしょ!」
「ば、馬鹿って何よ! アンタには「ほら、次の攻撃が来る前に動くわよ!」
「きゅいー!」

喚くルイズの手を引いて、キュルケはフライを唱えた。
フライの使用中は強力な魔法を使えなくなるが、代わりに高速で空を飛ぶことが出来る。
ゴーレムがまた崩れ、腕だけを素早く天へ突き出すのを見ながら、キュルケはルイズと『土くれのフーケ』がいるらしい、亀とタバサが消えた方へと飛んでいく。
離れていく二人へ残されたシルフィードが必死に鳴き声を上げたが、ルイズ達にはそれを気にする余裕はなかったし、目に見える傷が、硬いウロコのお陰で無かったせいで、然程気にしていなかった。

「きゅいきゅいー!(ゴーレムに潰されたらどうするのね!)」

離れた場所にまた腕が出現するのを見て、二人の後方で必死に手足をバタつかせるシルフィード。彼女?が自分で倒した枝葉が絡まって素早く空へ逃げることもできないことに、二人は気付かなかった。

その代わりに素早く生み出され木々をなぎ倒しながら、振り回される腕が狙うのは亀である事には気付いていた。
キュルケの位置からは良く見えないが、炎が上がり、土くれでできた巨大な腕が破裂するので追われているのは亀だと判断する。
ディスクを探すのを邪魔され、騒がしくするルイズと共にキュルケは木々の間を縫うように飛ぶ。
亀が狙われているようだとは思っても、慎重な部分が警告し木の上まで上がるのは躊躇いがあった。
そう遠くない場所で、木の幹が折れる音と共に地響きがする…断続的にその音は響き、発信源が少しずつ遠ざかっていく。
抱きかかえられ、胸が当たるせいもあって幾分余計に暴れるルイズにキュルケは目を落とす。これ以上暴れられると、落としてしまいそうだったのだ。

「円盤を探すのは後でいいじゃない…フーケを捕まえてからゆっくり探せばいいわ」
「…わかってるわよ。だ、だから離しなさいよ!」
「はいはい…」

音が離れていくのを聞いて、渋々納得し悪態をつくルイズをキュルケは笑った。
ルイズとて、状況がわからないわけではない。使い魔のカメナレフは先程から頑張っている。
タバサもだ。キュルケの今の態度とて、ヴァリエール家の宿敵ツェルプストーとは思えないものだ。
トリスティンを騒がせる盗賊フーケを相手に、シルフィードが叩き落された所なのに、ルイズを気にかけている。
だが、そんなキュルケに素直な態度を取れずに、ルイズはふくれっ面をして森の中を走っていく。
先程当たっていた大くて柔らかい脂肪の塊。何より、自分の目の前で使われる魔法の数々が、ルイズのコンプレックスを刺激して止まない。
キュルケが、ルイズにあわせてフライを解き森の中を走っているのが、草をかき分けて進む音でわかって、爪が食い込むほど強く手を握り締めた。
遠くでまた何かが燃え上がる大きな音がした。土くれの腕が弾けるのが見え、亀が空へと舞い上がった。
それを追ってどろを飛ばしながら、何本もの手が亀を追いかけていく…だがそれらは突然砕かれた。

魔法学院に入学してから、自分の系統を探そうと必死に勉強を続けていたルイズには、それがエア・ハンマーの魔法だとわかる。

「向こうね! 急ぎましょう!」

彼女が扱う炎のような色の髪をかきあげて、キュルケは軽快に森の中を抜けていく。
生い茂る長い草や突き出した根が、小さなルイズの行く手を遮って、キュルケより一歩遅らせる。

魔法が使えないからいつも走っているルイズの足は他の貴族達と比べれば速かった。
だが20cm近い身長と、魔法で道を切り開くキュルケは、ルイズより更に一歩分前に進む。
その後を進めば楽に走れたが、横目で見たルイズは、短いスカートから覗く足が切れるのも構わず、進んだ。

軽く流し目を送り、キュルケが笑うのが見え、唇をかみ締める。
フライを唱えて杖を振るっても、何も起きなかった。

「爆発だけでも起きればいいのに…!」

きつく唇をかみ締めるルイズを、普段どおりからかうようにキュルケが声をかける。

「どうかしたのルイズ? 遅れてるわよ!」
「うっさいわね! 黙って走りなさいよ!!」

二人が騒音の聞こえる方へと走っていくのを、静かに観察する男がいた。
そよ風に揺れる3つのコロネと口元の爽やかな笑み。そしてキュルケよりも大きく開いた胸元は、勿論ジョルノだった。
手でちょっぴり土で汚れた円盤、先程ルイズが必死に探していたモノを弄んでいたが、呟く。足元のモグラ達が、ただの石ころへと戻っていく傍らで。

「ツェルプストーとヴァリエール。奇妙な組み合わせだが、ポルナレフさんを召喚したのはヴァリエール家なのか」

髪の色と先日出会ったヴァリエール家の女性達の面影、そして魔法が使えなかった点から推測を立てながら、ジョルノは二人が消えた方向に背を向けた。

手の中のディスクに映るスタンド、『ワールド』の姿が奇妙に印象に残っていた。
例えて言うなら、首の背中の付け根が疼くような感覚…空いている手でジョルノは首筋を撫でる。
そうすることで何かわかりそうな気がしたのだが、無駄なことだった。
ジョルノは頭にディスクを差す―ずぶずぶずぶずぶ「ジョルノ、治療が終ったぞ」

木々の間を縫って向かう先では、ラルカスが手を振って合図している。ジョルノは頷き返した。
シルフィードの治療を終えて報告に来るラルカスに気付いたジョルノは、二匹?に駆け寄る。
その手には櫛が握られ、手早くコロネが梳かれていく。徐々に二人との距離も縮まる内に、手馴れた様子で櫛がコロネに突き刺さる。
コロネが一つ、二つと解け、最後のコロネが解けると同時にジョルノは二匹の元にたどり着いた。

「ジョ「ジョナサン」ジョ、ジョナサン、助かったのね! 全く、お姉さま達ったらシルフィーを置いて「話は後だ。今やる事はわかるな?」ひーんっ…お、斧を突きつけるのは止めて欲しいのね!」

ラルカスが涎を垂らしながら、杖代わりの斧でグリグリとシルフィードの頬っぺたを押し込む。
それが杖だということは治療をしてもらったシルフィードがよくわかっていたし、人間ではとても片手では扱えないサイズの黒光りする斧を軽々と扱う牛男に洞窟で戦った記憶が蘇ったのか、シルフィードの涙腺は決壊寸前だ。
ジョルノは苦笑してそれを眺めながら、髪に染色剤を塗りこんで、上着を脱ぐ。
亀の中へテントウムシのブローチがついた上着を仕舞い、代わりに出した汚れ一つ無い白いシャツを羽織ってボタンを留めていく。
ギーシュのようにフリルが付いてるわけではないが、使われている生地の光沢と洗練されたシルエットが黒髪になったジョルノを引き立てていた。
ラルカスが今着ているモノと同じく、ジョルノが作った偽ブランドで作られたシャツなのだが、筋肉質過ぎて聊か不恰好になってしまうラルカスには、本当に同じ商品なのか疑いたくなる優雅さをシャツは与えていた。

「怖がらせても仕方ないでしょう。シルフィード、飛べますね?」

言いながら斧を下ろさせるジョルノに、シルフィードは一も二もなく頷いて二人が乗りやすいように体を捻る。

ジョルノは生み出したモグラがほんの少し前に掘った穴を足で埋めながらその背に飛び乗る。
ラルカスも同じく、治療しながら埋めたジョルノのモグラが開けた穴を足でいじり、完璧に隠滅してから背中に乗り、シルフィードは再び空へと舞い上がる。
亀と魔法が飛び交う方へと急速に向かうシルフィードの背中で、ジョルノは亀の中からマントを取り出した。
そして最後に取り出した細い杖を軽く手の中で回して、ジョルノはゲルマニア貴族ジョナサンになった。

「ジョナサン、アンタ相変わらずメイジっぽい格好をするのが得意だな」

これから向かうトリスティン魔法学院の生徒のように、マントと杖を携えたジョルノを見てラルカスがぼやく。

「そうですか? 何故かはわかりませんが…凄く馴染むんですよ」
「なんだそりゃ「きゅいきゅい――!」

その時、空中へと伸ばされた一際大きな腕が、タバサの物と思われる魔法に粉々に砕かれた。
砕かれたゴーレムの腕が大きな土くれとなって周囲へ散らばり、一部がジョルノシルフィードへと飛来する。
散弾のように降り注ぐ拳大から、牛男の銅より大きな塊へ、ジョルノはゆっくりと杖を向けた。

「エア・ハンマー」

無駄ァッ!!

ジョルノが魔法を唱えた瞬間、その一瞬だけ二人には見えない古代ギリシアの彫刻の如く優美な像が一瞬だけ出現し、時計のような装飾が施された左腕が土の塊を全て砕いて消えた。
何か言いたげな視線が、二人からジョルノへと向けられる。

「何です?」
「助かったんだが、なんか…違わないか?」
「私も何か違うような気がするのね。きゅいきゅいっ!」
「いいえエア・ハンマーです」

ジョルノの爽やかな笑顔は、この時は凄く胡散臭かった。
それを感じたラルカスとシルフィードは同時に叫んでいた。

「嘘だっ!!」

二人の疑惑の声をジョルノは一笑に付して土煙が立ちあがる辺りへと杖を向けた。

「どうでもいいじゃないですか。さぁいきますよ…!」

爽やかだが、どこかイっちゃったような目をしたジョルノの呟きは風に紛れて消えていく。
今までに無く心地よく聞こえた声に、噴出す汗を抑えきれずラルカスはただ頷いた。
ジョルノが話しかけてくる言葉に危険な甘さがあった…だからこそ、ラルカスはその時恐怖を感じていた。

「ジョナサン…アンタ、どこかおかしい所は無いか?」
「…(奇妙なことなんですが)今の僕は最高にハイって感じなんですよ。薬を打った時なんでもできるような、良い気分になると言う人がいるそうですが…」

汗をかきながら尋ねたラルカスにジョルノは答えた。
その言葉には微かに戸惑いがあったが、ラルカス達は気付く余裕がなく…ディスクを差し込んだ辺りを触れるジョルノを、ただ見ていた。

「他人のスタンドをつけたせいで妙な影響を受けちまってるのか、僕は?」

シルフィードの背中で、とても小さな声でそう呟いていた時、フーケとポルナレフ達の戦闘は終了しようとしていた。
さほど距離が離れていない上、ポルナレフの移動速度はフーケを上回っている。

炎による生物探知機まで装備した亀を相手にするマチルダは、自分が追い詰められていくのを実感していた。
空を飛ぶ亀を相手にするには、詠唱をする時間が惜しかった。
加えてマチルダが身を隠す森が亀を相手にするには不向きだった。
マチルダが身を隠すように、亀が木々の間を抜けてマチルダを追いかける事を選んだ瞬間から…レーダーを持たないマチルダは適当に広範囲を巻き込むしかなかった。
だがその範囲に巻き込んだとしても…!
亀が操る炎。少し離れて行動する風のメイジが予想以上の腕を見せ、全て防ぎきる。
キュルケが炎を操るのは有名だったし、ルイズが魔法を使えないことはもっと有名だったからそれがタバサのせいだとはマチルダにもわかる。
だが、複数生み出した亀を貫く為の針をさえ、防ぐ程とは思っていないことだった。
焦り、唇を噛むマチルダが体を隠していた樹木が、一瞬で燃えあがった。

「チッ…」

舌打ち、慌ててその場から逃れようとするマチルダの体に、容赦ないエア・ハンマーの一撃が入る。
肺の中の空気が全て追い出され、意識を失いそうに鳴るのを辛うじてマチルダは防ぐ。
偶然切れた口内の痛みか、それとも吹き飛ばされて木に叩きつけられて生じた痛みかはともかく、マチルダは重たい体に鞭打って、自分に迫ってくる亀と、距離をとって杖を構えるタバサを見つめた。

「マ…いやいや『土くれのフーケ』。追い詰めたぜ!」
「カメナレフ…!」

マチルダはタバサに視線を向ける。
ここに来る途中、襲われた時のように切り抜けるか?
そんな考えが一瞬浮かんだが、今食らった手加減されたエア・ハンマーとタバサの無感情な目が、別の手を選ばせた。
こうなっては、このドーピングされ普段より段違いに素早く作り出せるゴーレムに、マチルダは賭けることにした。

「カメナレフの生物探知機、フーケの攻撃も止んだ…フーケは貴方」
小さな体に不釣合いな杖を向けられたマチルダは、笑みを浮かべた。
「…あぁそうさ。私が『土くれのフーケ』だったのさ。アンタらが勘違いしてくれて助かったと思ったんだけどねぇ」
「ったくあの時私の話を信じてくれりゃあこんな手間がかからねぇで済んでたのによ」
「…あの時の話はセクハラだった」
沈黙が訪れようとする。
だがそれを、マチルダが杖を投げ捨てて未然に防いだ。
何故なら、こちらへと接近する者達がたてる騒音が、彼女の耳にはしっかりと届いていたのだ。
「降参だよ。おとなしく捕まるからここで丸焼きってのは勘弁して欲しいねぇ」「そうしてくれると助かるぜ。女を殴るのは気分が悪いからな」

ポルナレフは無造作に亀を持ってマチルダに近づいていく。
タバサは、まだ離れたままいつでもマチルダを攻撃できるように杖を向けていた。
その目はどんな些細な行動も見逃さぬと言わんばかりに、注意深くマチルダの動きを観察していた。
マチルダが少し肩を竦めたり、降参の証として、杖を彼女の方へと蹴っても、タバサは杖を向け続ける。

「そんなに怖がらなくったっていいじゃないか、ねぇ? カメナレフ」

少しだけ、媚を売るような仕草で言うマチルダに、ポルナレフは戦いに挑む緊張感を少しだけ解す。
同時に杖を持っていないメイジに何ができるわけでもねぇ、という考えが浮かんだポルナレフは、マチルダの手を縛る為の縄を探しながらタバサに声をかけた。
亀の中には、亀の中から出られないポルナレフの為にジョルノ達が結構なんでも揃えてくれているのだが、ロープの類があったかどうか、ポルナレフは覚えていなかった。
だって使わねーからなぁ、とポルナレフはぼやきながら棚をあさる。

「ん? そうだな…おい、タバサ。杖もお前が持ってるんだし、もういいじゃねーか」

亀の言葉に、タバサは杖を下ろさずに少しだけ亀へと視線を向ける。
ポルナレフは聊か軽薄な調子で、(マジシャンズレッドもそれに呼応して手を広げたりしたが、タバサには見えなかった)拝み倒す事にした。

「もう心配ねーって、後で手を縛ったりすりゃ何もできねーだろ」
「駄目。今しておく」
「いや、できればそうしたいんだが…ちょっと見当たらなくってよ」

ポルナレフの言葉をタバサとマチルダは不審に思った。

「? どこを探しているの?」
「あー…秘密だ。あえて言うなら、私の四次元ポケットだな」

余計に胡散臭くなったカメナレフに、タバサは先程は悪い事をしたので譲歩しようかという気持ちが砕ける音を聞いた気がした。
むしろやる気満々になって杖を向けるタバサに、ポルナレフはちょっぴり泣いた。
だがポルナレフがちょっぴり泣いた分だけ緊迫感が薄れたその時、タバサはシルフィードが接近する音に空を見上げた。
タバサが見上げると同時に、シルフィードが姿を現す。
翼を大きく広げ、降りてくる巨体が巻き起こした衝撃波が3人を襲う。
一番小さいポルナレフは、マジシャンズレッドに亀を抱え、タバサを風から守る為に動く。
それを尻目に、マチルダは襲い掛かる風から身を守る振りをして、小さな杖を取り出す。
広範囲を適当に潰すだけでは効果が無いなら、不意に訪れる一瞬にかけた。
既に詠唱は終えていたゴーレムの腕を瞬間的に複数生み出し、時間差で全てカメナレフへ向け襲い掛からせる。

「チィッ…『マジシャンズ・レッド!!』」

カメナレフが叫ぶと同時に、炎が出現し腕を溶かしていく。
だがマチルダが用意したカメナレフへ向かう幾多のゴーレムの方が、勝るとマチルダは直感した。
視界の端に見えたタバサが、今度は加減抜きのエア・ハンマーを唱え、マチルダを殺すかもしれないが…それよりもカメナレフをゴーレムの腕が握り潰す方が先だッ!
だがそこで、突然マチルダは意識を失った。

マチルダがゆっくりと倒れ、ゴーレムが砕け散り、エア・ハンマーが消滅する。
唖然として声も出ない。タバサも、ポルナレフも。
だが、ポルナレフとタバサの間には大きな違いがあった。
ポルナレフにはこの現象が理解できていた。
全て。同時に、一秒の差もなく砕け散った。

「こ、これは…まさか!」

空を見上げたポルナレフの視界に、牛男と共に降りてくる黒髪の貴族の姿が見えた。
だが! マントと杖を見れば、自然と貴族を連想したが…その顔には見覚えがあった。そこへ植物を掻き分け、ルイズとキュルケが来る。

「タバサッ!「ミス・ロングビル…! カメナレフッ、フーケは!?」

草で切ったのか、手足から血を流しているルイズが気になったが、二人はラルカスとジョルノから目を離せなかった。
シルフィードの背中から降りてきた二人は優雅な仕草で礼をする。

「お久しぶりです。タバサ、それと初めまして。ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストーとお見受けします、私はネアポリス伯爵です」
「…どうしてここにいるの?」

状況がわからないまま、挨拶を返すルイズ達にかわって、タバサが尋ねる。
ジョルノはマチルダを一瞥する振りをしながらルイズ達に言う。その目は、油断なく警戒するポルナレフを観察していた。

「魔法学院へ向かう途中、巨大なゴーレムを見かけましてね、ミス・ヴァリエールとここでお会いできたのは運がいい」
「アンタ、どうして私の事知ってんのよ…!?」

亀からルイズへと視線を移すジョルノに、ルイズは食って掛かる。
その声は常にも増して刺々しい。
円盤を落とし、フーケ退治にも貢献できていない…情けない自分を責める気持が、自分の中だけでは抑えられず、外へもあふれ出していた。
ネアポリス伯爵がどういう人か噂で聞いていたキュルケは、詰まらなさそうに髪を手櫛で梳く。
皆が大怪我もなく、円盤がなくともフーケも捕らえたので怒られるいわれは無い、そう考えるキュルケにはルイズの刺々しさは、うざったい。
そんなことより本当に当人か確かめたかった。
ポルナレフも、頭が違いすぎるがまさかジョルノ?という疑問を解決したかったが、グッと我慢していてルイズが自分を責めていることには気付かなかった。

「貴方のご家族からよく聞いていましたから」
「ごご、ご家族ですって?」

はい、と言って懐から取り出された手紙に、ルイズは緊張し体を硬直させる。
手紙は複数あり、その一通が母からの物だという事をその封筒から察したルイズは、恐怖で震え始めていた。
今回の自分の事を母が知ればどんな顔をするかなど、考えたくもない。
そんなルイズに、ジョルノは無造作に近づき、手紙を渡す。

「私との事はその手紙に書いてあると思います…貴方にジャン・ピエール・ポルナレフという人を探すのに協力していただきたかったのですが」

言って、ジョルノは亀を見る。それにつられ、皆がマチルダの周囲をうろちょろする亀に目を向ける。亀は動きを止め、ジョルノたちの顔を順に眺めた。案外知能が高いのかもしれない。

「手間が省けましたね」

そう言った自称伯爵の表情を見て、ポルナレフは確信した。
コイツ、ジョルノじゃねぇか、と。
ジョルノは無造作にポルナレフに近寄る振りをして、今度は先程気絶させた女性がマチルダかどうかを確かめる。

「ポルナレフさん、アンタ何やってんです?」
「やっぱりお前かよ…てめぇこそ何やってたんだ? 遅いじゃねぇか」
「そこは後で話すとして、私の馬車に行きませんか。学院に戻りながらでも会話はできますからね」

ジョルノはそう言ったが、ジョルノは予想していなかった。
ルイズとポルナレフが、(ルイズはスタンドが見えない為契約が完了したと勘違いしているが)使い魔の契約も誤魔化した、微妙な関係である事を。
馬車にいる客人、イザベラがガリアではタバサを虐めていて、ここでもその調子を引きずりタバサを『ガーゴイル』呼ばわりすること。
それにキュルケがキレてしまうこと…そして、連行される『土くれのフーケ』のローブで隠れた姿形を見ただけで、テファがマチルダだと気付く事を。

「そ、そうよ!! こうしちゃいられないわ! 円盤を探さないと…!」

ルイズが背を向けて、もと来た道を戻っていく。
『土くれのフーケ』は捕らえたが、肝心の円盤を落としてなくしたなどとは口が裂けても言えない…!
顔を青ざめさせたルイズの肩をキュルケが掴んだ。彼女がシルフィードで向かう事を提案する横で、異邦人二人はコソコソと相談する。

「お前、さっきのアレはどういうことだよ…!?」
「後で、といいましたよ。ポルナレフさん」

ゴールド・エクスペリエンスで二人の会話に聞き耳を立てているタバサを指差す。
『世界』を手に入れておきたいって気持があったポルナレフは、渋々唸って黙り込んだ。

「ムゥうッ!」

呻く亀を手に持って、ジョルノはルイズ達と共にテファが待つ馬車へと向かい歩き出した。


ポルナレフ…ジョルノとは再会できたが、じゃあルイズとはこれからどうしようかって悩みが浮上。
ルイズ…フーケは捕らえたものの、奪還予定だった『破壊の円盤』を無くしいいところもなく落ち込む。そこへ届けられた実家からの手紙にビクビクしている。
タバサ…ジョナサンが不治の病と診断されていたルイズの姉を治療したと聞いて希望がムンムン沸いてきた。イザベラの事はちょっぴり気になったが後回し。
キュルケ…親友を『ガーゴイル』呼ばわりするタバサの従姉妹にキレそう。

マチルダ…気絶したまま連行される。
ラルカス…運んでいく最中に偶然触った『土くれのフーケ』のお尻の感触が忘れられない。
イザベラ…ジョナサンが色々連れて戻ってきた事に驚き、今にもキュルケと喧嘩する羽目になりそう。
テファ…連行されるマチルダを見て青ざめている。
ジョルノ…妙な円盤の力に溺れているような気分で、とても気に入らない。

To Be Continued...


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