ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第三章-09

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匿名ユーザー

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トリステインの外交の間に、あわてた青年の声がむなしく響く。
「よ、よって、わが国は、かっ開戦いたします。その、トリステイン王国に……」
蒼白な顔で、開戦通告書なる文書を読みあげるその青年に対し、マザリーニは比較
的開戦の事実を冷静に受け止めることができた。

『メルカトール』からの伝書鳩による定期通信がない事。
それと、この非公式の大使の狼狽振り。
何かトラブルがあったことは容易に想像できる。
しかし、とマザリーニは考える。
まさか、開戦とは。
くそっ。
彼は聖職にあるまじき暴言を内心毒づいた。
このタイミングでの開戦では、トリステインの防衛は危うい。


考えられることは二つ。
ひとつは、アルビオンのやつらが確信的に戦争を仕掛けてきている事。
もうひとつは、あのラ・ラメーが、本当に『レキシントン』に向かって実弾をぶっ
放したことだ。

幸いながら、あの小僧はアルビオン貴族派を毛嫌いしていた。
その可能性は、ごくごくわずかながら、ありうる。
だが、それは希望的観測に過ぎない。
第一、それにしてはアルビオン艦隊の手際が良すぎる。
ならば。
と、マザリーニは、ここで、トリステインが最悪の事態に陥った事を自覚した。

とまれ、できる限りの手を打つべきだ。
最悪の場合。
つまり、アルビオンがトリステインの征服を望んでいる場合。
彼らの意図をくじかなくてはなるまい。
それには戦力を至急集めなくてはなるまい。

もし緒戦で、彼らの戦いの意思をくじくことができたのならば。
彼らに、『引く』ための大義名分はそろっている。
ひょっとしたら、『双方の誤解』ということで、やつらは侵攻は諦めるかもしれん。

だが、とマザリーニは藁にもすがる心地で思う。
もし、このたびの事件が偶発的なものであるのであれば。
ラ・ラメーの馬鹿が独走した、という筋書きで、彼にすべての責任をとらせる方向
で調整を進めねばなるまい。
そのためには、アルビオン帝国の、親トリステイン派の貴族に早急に渡りをつけね
ばなるまい。
そこまで考え、マザリーニは愕然とした。
親トリステイン派の貴族は、すべて処刑されてしまっていることに。
生きていたとしても、王党派として、トリステイン国内に亡命している。

ここに至って、マザリーニはようやく確信した。
これは明らかに、計画的な侵略だ!
マザリーニは、使者の話を聞いてからここまでの結論に至るまでわずか十秒の沈黙
しか必要としなかった。
「大使殿」
今にも卒倒しそうなアルビオンの青年に話しかける。
「こちらとしても、貴国との交戦は本位ではない。どうにかして本国に、そう伝え
 てはもらえないだろうか?」
はい、と大きくうなずく青年をみつつ、マザリーニは絶望感を濃くしていた。
おそらく、この青年は『侵攻計画』を知らされていないのだろう。
アレだけ取り乱しているのだから。

ならば、彼の手で和平が結ばれる可能性は極めて低い。
で、あるならばと、近くに控えた近習に言い渡した。
「念のため、ゲルマニアに援軍の要請を」
念のため、といったのは、アルビオンの青年がいる手前である。
本音は、是非にでもほしい援軍であった。
マザリーニのこの思いは、近習に正しく伝わった。
「わかりました。至急、最も早い竜に使わせます」


よし、とうなずいた彼は、使者を帰らせるとともに、アンリエッタ王女に諸侯を招
集する許可をもらうべく、彼女の私室へと駆けはじめた。
畜生。こんなことなら、もっと痩せておくべきだった。
彼は域も絶え絶えになりながらも、自分の体形について、そんなことを考えていた。

アルビオンの大使が開戦を布告してから、約一日。
トリステイン王国は、ようやく諸侯を集めての会議をはじめていた。
だが、一行に結論は出ない。
アルビオンの意図が、明白な侵略なのか、自衛のための威嚇攻撃なのか。
貴族たちの意見は真っ二つに割れていた。

マザリーニからすれば、アルビオンが侵略を主目的にしていることは明白なのだ。
だが、彼がそういったところで、貴族たちは誰も信じないだろう。
半分平民の血が混じっているということは、ここトリステインでは、貴族の信頼を
得にくい。
トリステインの伝統の弊害が、このような形でも生じていた。

貴族たちの会議は踊る。
それは、ゲルマニアからの援軍が三週間後になる、との報告が入ってから激しくな
った。
それまでは、明白な侵略と主張していた派閥がやや優勢だったのだが、その報を聞
いて以来、アルビオン融和派と自称する一派が勢いづいたのだ。

人間は本来弱い。
トリステインが、現在単独で集めることのできる兵力では、アルビオンの派遣して
くる戦列艦に対抗できる見込みはない。
であるならば、彼らは、勝ち目のない戦をするよりは、わずかな希望にすがって戦
争を回避しようとしているのだ。
たとえそれが、国土を一部喪失することになろうとも。

会議が『アルビオン融和派』に有利な雰囲気になり始めたとき、その伝令はやって
きた。
その男は域も絶え絶えに、マザリーニの元に歩み寄り、かすれた大声で、そのこと
を伝えた。
「アルビオン軍、タルブ村近くの平原に降下、タルブ村を制圧しました」
それを聞いた貴族たちが色めき立つ。
「やはりあやつらはトリステインを蹂躙するつもりだ!」
「いやいや、制圧したのが戦略的価値のあるラ・ロシェールではなく、片田舎のタ
 ルブ村であるあたり、やはり、アルビオンには侵略の意図はないのでは?」

「マザリーニ」
はっ。貴族たちの喧騒を尻目に、マザリーニ枢機卿は王女の前に進み出た。
「威力偵察の可能性はありますか?」
要するに、『彼らは本気か?』と、我等の王女陛下は御下問奉られたのだ。
「おそらく違うでしょう。きゃつらはこの度の攻撃でわが国土に橋頭堡を気づくつ
 もりですな」
マザリーニは貴族たちに聞こえぬように、声を低くして返答した。
王女は固い表情のままそれを受けた。わかりました、と。


「ノーブレス・オブリージュ」

凛とした声が堂内を駆け巡った。声の響きは『貴族の義務』を意味する。
同時に、静寂が辺りを包む。
アンリエッタその人の声である。
「わたくしたちが、わたくしたちである理由。これについて、何か反論があるもの
 はおりませぬか?」
言えるはずもなかった――我々は民を守るためにある。
彼ら、ハルケギニアの貴族たちは、平時においても、何代にも渡ってこの御旗の元
に平民から税を搾り取り、贅沢の限りを尽くしてきたのだ。
しかれども、並み居る貴族たちの反応はない。
否、反応できなかった。
「ならば、私たちは言葉ではなく態度でそれを口にしなければなりません。
 タルブの村人に対しても。無論それは私とて例外ではない。マザリーニ、準備を」
そういいすて、彼女は平然と玉座の間から退室していく。

「姫様! 婚前のお体に触ります!」
マザリーニ枢機卿の絶叫が響き渡ったが、王女は気にすることもなく、歩きをやめ
ない。
「ゲルマニアの帝は、国土を失った王女とも婚姻をするほど寛容なのでしょうや?」
否応もなかった。


「落ち着きなさい。日食になれば『手』はあります」
彼女には『手』があった。
文字通り、有力な『手』が。
だが、それにもかかわらず、彼女の内心は揺れていた。
あるいは、この場で一番落ち着いていなかったのが彼女であるかもしれなかった。
アンリエッタは自分に言い聞かせるように、自分の圧に続く貴族共に言い放つ。
「落ち着くのです。そうすれば、始祖ブリミルの加護がありましょうや」
そして、心の中で付け加える。
ルイズ、そしてルイズの使い魔たち。
どうか、私の心の支えになってくださいまし。
この、トリステイン一番の危機の中。
王女の脳裏に浮かんだものは、始祖でもなく、皇后である母でもなく。
たったひとりの友人と、ただの奇妙な平民たちであった。

ラロシェールについたアンリエッタは、早速、ユグドシラルの船着場で、トリステ
イン艦隊の本国艦隊残余と合流し、集まった将軍たちと会議を持った。
「マザリーニ、状況を」
「は、敵はすでにタルブの村を占拠。村の領主であるアストン伯はすでに戦死した模様」
マザリーにはすでに、アルビオン軍に対し、『敵軍』の呼称を用いていた。
ことここにいたって、和平の道は破られた。完全に。
ならば。そうであるならば。

「はい、タルブ村に落着した部隊は、まもなく敵本国の補給を必要とします」
斥候の働きにより、地上に降りたアルビオン軍は、三千と判明している。
それほどまでの口を養うには、タルブ村はあまりにも小さすぎた。
「ですから、我々は、アルビオン大陸とトリステイン大陸をつなぐ玄関口である、
 ラ・ロシェールに陣を置き、敵先遣隊の補給を断つと同時に、敵本国からの増援
 を警戒すべきと進言いたします」

「タルブの村の人々を救わないのですか?!」
そう叫ぶアンリエッタにたいし、あくまでマザリーには弁解するように応じた。
「ですが、今から向かったとて、タルブの村に着く前に彼らの軍勢と鉢合わせにな
 ると存じ上げます」
王女の放った斥候の情報では、彼らの背後に大掛かりな補給線は見当たらなかった。
ならば、早晩移動を始めなければ、アルビオンの先遣部隊の作戦能力は失われてし
まう。徴発とは、同じ村に何度やっても、最初のときにしか食料は出ないのです。
マザリーニは王女にそう説明した。
「ですから、彼らは自らの食い扶持を求め、遠からずラ・ロシェールの町を襲うで
 しょう。ならばここにとどまり、防備を入念に施し、敵の襲撃を撃退すべきです」


「彼らが徴発を行うためにほかの町を襲うというの?」
「はい。傭兵というものはそういったものです。まともな将軍ならば、兵をそのよ
 うに動かすべきです」
「それは傭兵の論理でしょう。わたくしたちは、貴族らしく、そうあるべき道のも
 とで戦います」
アンリエッタのその一言で、将軍たちは、タルブ村への進軍を決定した。
マザリーニはこの時期、少しだけ、自分がトリステイン王国に肩入れしすぎたこと
を後悔していた。

そうあれかし、など叫んでいれば解決する、というのは僧職の世界の出来事であって
国を、国民を守る騎士が言ってよい台詞ではない。
貴族にとって、自らは盾、国の剣であるべきだった。
そうあるべき姿を己の脳裏に刻み、喜び勇んで戦場にはせ参じる。

しかし、小国とはいえ、さすがは始祖が創りし国。
『勇魔』の伝統は、騎士の伝統は、なおもトリステイン貴族の心の内に灯っていた。
あの会議から一日半。ラ・ロシェール近郊に陣を構えたトリステイン軍は、急増な
がらも、兵力二千を数えることができていた。
そのうち、平民などの傭兵は皆無。
ほぼすべてがメイジであった。
だが、それは、トリステイン王国の主だったメイジすべてをかき集めたことを意味した。

すなわち。
この戦で負けることがあろうものなら。
戦死したり。捕虜に取られたりしようものなら。
たとえ大量に傭兵を雇いいれても、下士官となるべきメイジがいなくなる。
トリステインの継戦能力は皆無になる。

この陣容での敗戦は、即トリステイン王国の滅亡となる。

マザリーニは、心のそこから始祖ブリミルの加護を祈った。
まったくの政治的打算の心なしで祈るのは、彼がこの世に生まれ落ちて初めてのことであった。

「できたぞ!」
「できましたぞ!」

ブチャラティはこの日、朝っぱらから大人二人に起こされた。
「いったいどうしたんだ。俺の部屋まで来て」
「『がそりん』ができたのです!!!」
「ああ、硫黄と窒素成分がちと大きめそうなのが気になるが、まあ、アレは何とか
 飛べるだろう」

「アレ?」
「おいおい、忘れてもらっちゃ困るよ君!『零戦』だよ!」
「ああ、そうか」
ブチャラティは寝起きの頭を振りながら立ち上がり、部屋にある窓から中庭を見下
ろした。
そこには、シエスタの『竜の羽衣』零戦があった。


「みてくれ、これが僕たちが開発した精油樽だ!」
「これで、あの竜の血が継続的に生産できるのです! オロロ~ン!!」
コルベールが感極まったように泣き始めた。
窓にかかった、白いカーテンをハンカチ代わりにして涙を拭いている。
露伴は露伴で、ブチゃラティの都合も聞かず、彼を外へと連れ出すのであった。

ブチャラティは部屋着のまま、中庭にあるコルベールの特設施設につれまわされた。
「俺にはなにがなんだかさっぱりだな……」
その施設は、中庭の一角を完全に占領していた。
建材が赤レンガのあたり、コルベールは半永久的に実験を行うつもりらしい。
一行はその建物にすえつけられた鉄製の扉をくぐり、中に入った。
ムワッとした熱が彼らを襲う。
部屋は、蒸気を伴った熱気に包まれていた。

「じゃあ説明するぞ。まず、あそこにあるレンガの反射炉で、薪を燃やす」
露伴が入り口に一番近い設備を指差し、言った。

ブチャラティは、近くに詰まれていた薪を触り、
「ちょっとまて、露伴。この薪、ちょっと湿ってないか……」
驚いた。
だが、コルベールたち二人は動じた様子を見せない。
「そう。ここはあえて不完全燃焼を行うんだ。で、次は君だ。コルベール」
「ええ。私が開発した『錬金』の魔法で、石炭を気化させるんです!!!」

コルベールは自信たっぷりの様子だ。
しらけたようすのブチャラティとは大違い。
「……で?」
「ああ、ミスタ・ブチャラティ。あなたが感動するのはこの話の後ですな。それで、
 気体となった『石炭』と、薪が燃えた『蒸気』、そして不完全に燃焼した場合にの
 み発生する『特殊な燃素』を、次の『鉄製のタンク』で混ぜ合わせるんです!」
コルベールは、炉と連結された、巨大な鉄のタンクを指差した。
そのタンクからは何本か管が通っていて、そのうちの一本が外に出ている。
コルベールによると、外では冷たい流水が管を洗い流し、中身を冷やしているとの事。
ブチャラティは、それよりも、『鉄製』のタンクが気になった。
「このタンク、『赤い』ぞ……」
「ああ。熱した鉄だからな。これも『固定化』の魔法のなせるワザだな」
露伴が平然と答える。

「それでですな、ブチャラティさん!!
 この後ちょっとしたコツがありましてですね……」
自分の世界に入ってしまったコルベール。
とりあえず、彼を無視することにしたブチャラティは、話が通じそうな露伴に、本題
を聞くことにした。

「で、露伴。この装置でガソリンは作れたのか?」
「ああ。かなり高純度のやつが作れたぞ。しかも、量産が可能ときた。この程度の大
 きさの装置じゃあタカが知れているが。大規模にやったらものすごいな」
「この大きさで『この程度』なのか……」
「そうだよ? この露伴とコルベールのコンビをなめてもらっちゃあ困る」
「その意気ですぞ、ミスタ露伴。このまま、『竜の血』が量産される暁には、平民も
 簡単に暖が取れる時代に!
 おおお! わが学院工房の技術は世界一ィィィィイィ!!!」

「しかし……こんな施設、よくも学院長が許可したもんだ」
「それは、ア・タ・シのおかげよ」
部屋の外から明るい女性の声がした。
ブチャラティはその方向を垣間見る。だが、屋外の人影は朝の日光にさえぎられ、
よく見えない。
だが、ブチャラティはその声に聞き覚えがあった。
キュルケだ。

「ミス・ツェルプストー。あなたも御覧になりますか?」
コルベールが自分の世界から帰ってきたようだ。
「いえ、別にあまり興味はないけれど。あの可愛いシエスタの頼みだし、とくに言
 うこともないかと思ってたけど、まず完成したのなら、協力者の私にも声をかけ
 るべきじゃないかしら?」
「おお、そうですな。うっかりしてましたぞ。まことに申し訳ない」

「キュルケ、君も協力したのか?」
そのブチャラティの疑問は、露伴が晴らした。
「ああ、彼女は、オスマンと交渉して、ツェルプストー家の『家宝』と引き換えに
 この施設の建設を許してもらったのさ」
さらりと重要なことを言う露伴に、ブチャラティは目をむいた。
「おい、キュルケ。家宝なんて、そんな大事なもの。間単に放り出してしまってよ
 かったのか?」

「ええ、私にとってはそんなにたいした物には見えなかったし。露伴によると、実
 際たいしたものではないみたいね」
キュルケはそういって、鮮やかな笑顔を浮かべながら施設の中に入ってきた。
「それにね。私、シエスタのこと、なぜだか気になるの」
「タバサのことが気になるのとはまったく違うけど。あの子、タバサは、取っ付き
 難くて人を寄せ付けない、心を要塞のようにしてしまっている。シエスタは、あ
 まりにも他人を信用しすぎてバカを見るタイプね。ウフフ、私ったら、結構なお
 せっかいさんね。ゲルマニアの学院にいたころは、ううん、この学院に入って来
 たころは、私はものすごい我侭娘だったのにね」
しかし、熱いわね、とこぼすキュルケは、ブラウスの第二ボタンを外し始めた。
胸の上部があらわになる。
コルベールの顔が赤いのは、この施設内の熱気のせいではないだろう。

「キュルケ、私の使い魔達に何をしているの!」
ようやく零戦に燃料を入れ終わったとき、ルイズがやってきた。
後ろにはなぜかタバサもいる。
「やれやれ、うるさいガキがお出ましだ」
「聞こえたわよ! ロハン! あんた、私の使い魔の癖に!」
「まあ、落ちつけルイズ。露伴のあの性格は今に始まったことじゃない」
「ブチャラティもブチャラティよ! 私に内緒でこんなことまで来て……
 私に一言、言ってくれてもいいじゃない」
「ああ、そいつはすまなかったな」
ブチャラティはそういって、ルイズの頭をなでた。
「ちょ、ちょと…………こ、子供扱いしないでよね!」
「別にそういうつもりじゃないんだが……」
「あらあら、ルイズったら、ダーリンと見せ付けてくれちゃって」
「そ、そんなんじゃないったら! キュルケのバカぁ!」

そのような喧騒を完全に無視し、タバサは露伴に歩み寄った。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは……って、もう昼か。ずいぶん給油に時間がかかってしまったな」
「飛べるようになった? メイドのこれ」

「ああ、もう飛べるぞ。君の風竜よりも早く飛べるな。もっとも、これを操縦できる
 のはブチャラティかシエスタくらいだが」
タバサはしばらく考え込んだ後、小さく首をかしげ、その後、露伴を見上げた。
「あなた。私と一緒に風竜にのるのと、メイドと一緒にこの竜にのるの。どっちがすき?」

「どっちっていわれてもな……」
タバサは諦めない。顔を、露伴にますます近づけた。
「どっち?」
露伴に詰め寄るタバサ。
だが、彼女の望む露伴の回答は得られなかった。

なぜなら、その場にシエスタがかけて来たからだ。
「露伴さん!零戦飛べますか?!」
シエスタが、息せき切ってかけてきているのは誰の目にも明らかだ。


「それが必要なんです! アルビオンが私の村に攻め込んだんです!」

「なんですと!」
「それで、この零戦で、私の村を、家族を守りたいんです!」

「な、だめです。そんなこと。いくらなんでも」
反対するのはコルベールただ一人。
彼は完全に浮き足立っている。
その彼に、使い魔の二人が険しい顔で話しかけた。
「いいじゃないか、コルベール。彼女には『技術』がある」
「それに、俺も同行しよう。コルベール、それで異存はないな?」
「良いんですか?ブチャラティさん」
「ああ。幸い、この飛行機は復座式だからな。操縦はシエスタがやるのか?」

「だめです! 戦場なんですよ!」
「だがな、コルベール。君も歴史を知る教育者なら知っているだろう? 徴発を受
 けた村人がどんな目にあうのか。彼女は自分の村を、家族を守ろうとしている。
 彼女には戦う理由がある」
「……わかりました。ですが、ですが!必ず生きて帰ってきてください!」
「わかった。できるだけ努力しよう」

コルベールの魔法の下、機体に向かい風が吹き付けられる。
「ブチャラティ。こいつを持っていきな」
露伴が手渡すのは、デルフリンガー。
「ありがとうよ、露伴。俺がもしものときは、ルイズを頼む」
「わかった」

ゼロ戦の定速プロペラが回り始める。
「タバサさん……露伴さんを頼みます……」
そういいながら、シエスタはブチャラティとともに、飛び立っていった。
タバサは一瞬だけ、呆然とした。
――なんてやつ。このままだと、私が勝ち逃げしたみたい。
タバサははじかれたように、自分の竜を呼び出した。

「どうした、タバサ?」
「追いかける」
「私も同行しましょう」とコルベール。

「ところで、ルイズはどこに行った?」
「まさか、ゼロ戦にのりこんだんじゃあ……」
「と、するなら。ルイズを負かされた僕も、タバサの竜に乗り込まなくてはいけな
 いんじゃないか?」
キュルケと露伴は、参ったという風に空を仰ぎ見る。
そこには、昼過ぎの日光に照らされ、西の空へと駆け去っていく鉄の竜の姿があった。

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