ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第三章-08

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
その男は、気に入らない、とでも言うように荒く息を吐き出した。
彼のはく息は白い。
彼の名はラ・ラメー。
トリステイン艦隊の主力艦隊、本国艦隊を任されている将軍である。
この時期、トリステイン王国は平時編成をしいていたため、実質的に、戦闘行為が
行える艦隊は、すべて彼の指揮下にあった。
その彼が、ここ、ラ・ロシェールの軍港の上空に戦列艦を展開させていたのにはわ
けがある。

「まったく」
彼は忌々しげにはき捨てた。
彼の視線の先には、昼間に高く上っている青い月を背後に、ひとつの戦列艦群が押
し寄せてきていた。その船の群れの様子は、まるで一本の線が泳いでくる様だ。
「賊軍のほうが、わが軍よりも練度が高いとはな」
彼は静々と来る艦隊を見ながら、貴族派のかつての呼び名をつぶやいた。
ラ・ラメーは、トリステインの、多くの貴族たちと意見を同じくしている。
すなわち、貴族派などいない。反逆者滅ぶべし。

その彼が、神聖アルビオン帝国の正式な大使を出迎える役を担わさせられたのだか
ら、彼がむくれるのは実に自然な現象であった。

「空砲の数はいかがなさいますか?」
傍らにいた、水兵服を着た兵士の問いに、ラ・ラメーは澄まして答えた。
「七発で良い」
正式な大使や、国王といった、第一級の国賓を出迎える場合、空砲は十一発打たね
ばならない。
彼の言った七発とは、第二級の答礼となる。
今回の場合、明らかに格が不足していた。

「だが、さすがは『ロイヤル・ソブリン』。威容はすさまじいな」
トリステインのフネに、アレに対抗できる物はあったかな。
ラ・ラメーがそう思うまもなく。
突如、アルビオン艦隊の最後尾にいた一隻の船から、バラバラと避難船が発進され
るのが見えた。
「どうした? 事故か?」
同時に、そのフネから火の手が上がった。
見る見るうちに燃え広がっていく。
あっという間に爆沈した。

「『ロイヤル・ソブリン』から光信号です!」
『メルカトール』のマストにいる見張りが、ラ・ラメーにむかってそう叫んだ。
その兵士は半ば恐慌をきたしている。
「よ、読みます……『貴艦は発砲行為をやめよ』。
 あいつらは、わが軍が奴らを撃ったと思っています!」

あわてる水兵に向かって怒鳴りつけたい気持ちを抑えながら、ラ・ラメーは直接
通信手に命令を下した。
「『我に攻撃の意図なし』復唱の要なし。早く相手に伝えよ!」」

マストの見張り台から、おびえた怒鳴り声がラ・ラメーの顔に浴びせられた。
「『貴艦の攻撃行為はアルビオンに対する宣戦布告とみなす』といっています!」

彼がそういっているうちに、『ロイヤル・ソブリン』が発砲した。
主だったトリステイン戦列艦が弾の洗礼を受ける。
『メルカトール』の木製の甲板に火がつき、炎上した。
斉射の直撃をうけた『メルカトール』は、マストの帆にまで炎が回ったところで地
面に着停した。
だが、ラ・ラメーはその光景を見ることはできなかった。
正確には、最初の敵の射撃で殺された、というべきか。
アルビオン艦隊旗艦、『レキシントン』の後甲板では、総司令官が威勢よく叫んで
いた。

「なかなかだ。やるじゃないか、君!
 この『レキシントン』はすばらしいフネだな」
そう叫んでいるのは、艦隊司令官及び、トリステイン侵攻軍司令官のサー・ジョン
ストンであった。
彼が話しかけたのは、『レキシントン』艦長の平民、ボーウッドである。
ジョンストン自身は政治家であり、用兵の知識はなきに等しい。
だから、実質、この艦隊を率いているのはボーウッドであるといえた。
「たしかに。ですが、わが軍がすばらしいのは、水兵の質です」
「だが、何よりも第一に、このすばらしい作戦を考えたクロムウェル閣下だ。
 そう思わんかね?」

その言葉を聴いたとき、その場に居合わせたワルドは耳を疑った。
サー・ジョンストンは、クロムウェルに信頼されているからこそ、今回の司令官に
任命されたのだ。
その人事は作戦用兵上の必要性から生じたものではない。

で、あるからこそ、政治的に信頼が置けないボーウッドが、『レキシントン』の舵
を握ったままであるのだ。
それなのに、そのボーウッドに、ジョンストンは作戦を語っている。
ワルドは思わず笑いそうになった。


目の前の『メルカトール』が爆発し、残骸がラ・ロシェールの街に落散していく。
その光景を見ながら、ワルドは、ルイズとの旅を思い出そうとしていた。

この場は、ケリがついた。ワルドはそう見て取った。
旗艦を撃破されたトリステイン艦隊は、まともな操艦すらできず、一艦ずつ撃破さ
れていく。
ボーウッドも同じような感想を抱いたようで、艦隊の、他船の指揮を副官に任せて
いる。
暇になったボーウッドは、ニューカッスルではじめてあったとき以来、初めてワル
ドに話しかけた。
「ワルド君。知っているかね? 古今、名将といわれているものは3つに分類される」

ワルドは驚いた。
『レキシントン』の船員からみれば、ワルドは『迷惑な客分』なのだ。
当然、艦長からも嫌われていると思った。
だが、違うようだ。
彼は不機嫌そうな顔だが、それは彼の通常の表情であるらしかった。
「ほう、興味深いですな」
ワルドがそう返事すると、ボーウッドは続きを語り始めた。
「ひとつは戦術が優れたもの。これは言うまでもあるまい。もうひとつは戦局がよめ
 るもの。戦略目標を達成してこそ意義ある戦争となる」
「ふむ……ならば、三番目は?」
「最後は、部下の戦死を無駄遣いしない物だ。味方の少数の出血と引き換えに、相手
 に多大の出血を強いる者だ」

ボーウッドは、ワルドと会話をしながらも。『レキシントン』船員に対し、的確な指
示を出し続けている。
『レキシントン』指揮所からは、敵戦列間『メルカトール』が炎上、地表に着停した
様子を見ることができた。
ワルドは少し考え事をした後、この無愛想な平民に微笑みかけた。
「ほう……ならば、我々は最後に分類されるわけですかな?
 現在、わがほうには全く損害がないからね」

ボーウッドは、深く沈んだ声を発した。
「だがな、ワルド君。最後の名将は、たいていの場合、並み居る愚将と区別がつかん
 のだ。そして彼が名将とわかるのは、彼が死んだあと。敵によって評価される場合
 が多いのだ」

To Be Continued...


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー