ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ねことダメなまほうつかい-5

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匿名ユーザー

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 船の上でルイズとギーシュはふたり並んで夜空を眺めていました。
 きれいな星空に猫草もおおはしゃぎです。
 そうして眺めているとギーシュはクシュンとくしゃみをして寒そうにからだを震わせました。
 先ほどのワルド子爵との戦いでマントをなくしてしまったので彼はシャツ一枚だけなのです。
 寒そうなギーシュを見て、ルイズは頬を赤くしながらマントを開きました。

「し、し、し、仕方ないわね、わ、わたしのマントに、い、い、入れてあげてもいいわ!」
「ありがとう、ミス・ヴァリエー……あれ?急に寒くなくなったぞ」

 ギーシュが手を伸ばすと見えない何かに触れました。
 それは猫草が作った空気の球でした。
 寒そうにしているギーシュを見て、珍しく気を利かせた猫草が空気の球で包んだのです。
 猫草はマントを開いたまま固まっているルイズをふしぎそうな顔で見ていましたが、
 やがて見飽きたのか葉っぱの手で顔を洗いはじめました。
 そんなルイズをキュルケがおもしろそうに見ていると、となりで静かに本を読んでいた
 タバサが顔を上げてキュルケにはなしかけました。

「なぜ?」
「あ?ああ、ルイズについてきた理由か?」

 小さくうなずくタバサのあたまを撫でながらキュルケは星空を見上げました。

 召喚の儀式が終わったあと、キュルケは実家からの迎えの馬車に乗っていたのですが、
 その馬車が人を轢いてしまいました。
 轢かれた人は死んでしまい、たまたま通りかかった衛兵にキュルケは捕まって裁判も受けれずに
 監獄に入れられてしまいます。
 ですが、それはキュルケの父親のライバルが仕掛けた罠でした。
 馬車に轢かれた人は、はじめから死んでいたのです。
 キュルケの実家があるゲルマニアという国は、お金があれば誰でも貴族になれるのですが、
 とても競争が激しく、誰もがのし上がろうとライバルの弱みを探っています。
 キュルケの実家に弱みはありませんでしたが、そのライバルは弱みがなければ作ってしまおうと考え、
 娘である彼女を狙ったのです。
 キュルケもそれはわかっていたので、すぐに父親が助けてくれるだろうと心配していませんでしたが、
 彼女の入れられた監獄は貴族が入るところではなく平民のための監獄でした。

「ツェルプストー?んなこたぁシラネェーんだよ!」
「気にくわねぇんだよなぁ~貴族のお嬢様よぉ~」

 監獄の中に杖は持ち込めないので魔法は使えません。
 魔法の使えないキュルケはひよわな貴族ですので平民に勝てませんでした。
 そして、多くの平民は貴族が嫌いなのでキュルケはまわりからいじめられました。
 キュルケを狙ったライバルの本当の目的は彼女のこころをヘシ折ることだったのです。

 キュルケは監獄でみじめな生活を送りました。
 食事にゴキブリを入れられたりツバを吐かれたりするので食べれません。
 油断をすると殴られたり蹴られたりするので満足に眠ることもできませんでした。
 キュルケは誰もいないところでひざを抱えて泣きました。

「うぐっ…ひっく……かえりたい……ママにあいたい……」

 そうして泣いていると今までの疲れがでたのかウトウトして眠ってしまいました。
 彼女は夢を見ました。
 魔法学院で楽しく暮らしていたころの夢です。
 夢の中で多くの恋人にかこまれながら食事をしたり、部屋で静かにジグソーパズルを組み立てたり、 
 ハープで好きな曲を思うまま奏でたりしました。
 そして、キュルケはひとりの少女に出会いました。 

「やーいゼロのルイズ!魔法が使えないダメルイズ!」
「さっさと学院やめちまえー!!」

 まわりの生徒にいじめられているルイズの顔を見たところでキュルケは目が覚めました。

 キュルケが目覚めるとあたりは暗くなっていました。
 そして、彼女は静かに立ち上がり夢で見たルイズの姿を思い返して小さく呟きました。

「負けられない…ルイズにだけは……絶対にッ!!」

 ルイズはずっといまの自分のような気持ちで暮らしてきたのです。
 この監獄での生活に耐えられなければルイズに負けたことと同じとキュルケは思いました。
 そして、彼女は強くなってやると決意したのです。

 キュルケが最初にしたことは武器を手に入れることでした。
 彼女は捕まっているので杖や刃物を持つことは許されていませんでしたが、最も身近にあって、
 信頼できる、誰でも持っているものがあります。
 それは、自分の肉体でした。
 キュルケはいじめられながらも、必死にからだを鍛えました。
 今まで食べられなかった食事もからだとこころを鍛えるために平気で食べるようになりました。
 そうした努力の結果、もともと才能があったおかげでもありますが、わずか数日で彼女は誰にも負けない
 強いからだを手に入れました。
 そしてキュルケは監獄のボスである、回転する刃を持ち、体温以下になると固まる特別製の食べ物を
 武器にする大きな女と戦ったり、なんでも食べるアリを使う女の殺し屋などに襲われたりしましたが、
 傷つきながらもキュルケはその全員を人生からリタイアさせてしまいました。
 そして、彼女は監獄のボスとして君臨することになりました。
 それからしばらくしてライバルを倒した父親からの迎えが来て、キュルケは泣いて喜ぶ平民たちに
 見送られながら監獄を出て魔法学院に戻ったのです。

「ま、アタシなりに借りを返そうって思ったワケよ」
「…………………………そう」

 タバサはそういってからキュルケを見つめました。
 そして、もし自分だったらどうするのかと考えましたが、あまり考えたくない結末になってしまったので
 すべてを忘れることにしました。
 タバサも女性なので、ちびっ子マッスルにはなりたくないのです。 

「貴族様方、甲板はお寒いでしょうから船室に入られてはいかがですか?」
「そ、そうねそうしましょう」

 ルイズはひとり気まずい雰囲気になっていたのでその言葉にうなずきます。
 そして、船員のひとりに案内されてルイズたちは船の中に入っていきました。

「へぇ~まあまあの部屋じゃない」
「おい!ワインがあるぜ!!」

 案内された部屋の中には温められたワインと人数分のグラスが用意されていました。
 ルイズたちのからだは冷えきっていたので、さっそくワインを飲もうとします。
 ですが、タバサがそれを止めてディティクト・マジックという魔法でワインを調べました。
 この魔法はキラキラ光る粉で魔法がかかっているかどうかを調べる魔法です。 

「このワインは大丈夫」
「ミス・タバサは心配性だなあ」

 ワインの安全を確認したのでギーシュが栓を開けようとしましたが、猫草がフ~ッと唸って
 空気弾を撃ってビンを割ってしまいます。
 これにはみんなおどろいて怒りましたが、アニエスはなにかに気づいて残ったワインを
 少しだけなめてから吐き出しました。

「これは…眠り薬!!」 
「え?だってさっき魔法で調べたじゃない」
「魔法の薬じゃない…迂闊」

 ワインには魔法薬ではなく平民用の薬が入っていたのです。
 これは魔法を使っていないのでディティクト・マジックには引っかかりません。
 この船の船員たちの商売相手はレコン・キスタでした。
 船員たちはルイズたちがアンリエッタ姫からの任務でアルビオン王国に行くことを酒場の騒ぎで知りました。
 そして、レコン・キスタからのお礼目当てでルイズたちを捕まえようとしてワインに眠り薬を入れたのです。
 自分たちのピンチを救ってくれた猫草をルイズたちは褒めてあげました。
 ですから、一匹のハエが部屋の中にいることには誰も気づかなかったのです。 

「それで、これからどうするんだい?」
「決まってんだろーがッ!船から脱出だ!アルビオンにはシルフィードで行く!!」

 キュルケを先頭にルイズたちは部屋から出たところで奇妙な男たちに出会いました。
 たくさんのヘビをあたまに乗せたものや、ナイフを持ち口ひげを生やした紳士風の男、
 黒いよろいを着て剣を持った騎士のような格好の男など、あまりにも個性的すぎる集団です。
 その中の無精ヒゲを生やし、左の目に眼帯をまいた派手な格好の男が前に出てきました。
 ルイズを守ろうとキュルケが空賊の男に向かって杖を向けて叫びます。

「テメーッ!ジャマするならブッ殺す!!」
「ブッ殺すなんて言う必要はない」

 そう呟いてタバサが杖をかまえながらキュルケの前に出ました。
 眼帯の男はタバサを見てもなんとも感じないように進んできます。
 そして、タバサが杖をふると眼帯の男のまわりにたくさんのツララが現れました。
 タバサの得意な魔法のウインディ・アイシクルです。

「ブッ殺す…そうこころに思ったなら……」

 タバサが杖を眼帯の男に向けるとツララがいっせいに襲いかかりました。

「その行動はすでに終わっている」

 ルイズたち、その中でもタバサがいちばんおどろきました。
 避けることのできないたくさんのツララを眼帯の男が避けたからです。
 しかも、その避け方はふつうでは考えられないものでした。
 眼帯の男はツララが刺さるところの間接を自分ではずして全ての攻撃を避けたのです。

「フハハハハハ!君たちは勇敢だな!!」

 眼帯の男は笑いながら後ろに下がり間接を元通りに戻します。
 そして、まるで古い皮を脱ぎ捨てるように変装をといて現れたのはひとりの立派な貴族でした。

「ようこそ大使殿!わたしがアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ!!」

 なんとこの男はアンリエッタ姫の思い人であり、滅びようとするアルビオン王家を柱のように
 支えているので、平民たちから親しみをこめて柱の男と呼ばれているウェールズ皇太子だったのです。
 そして、その後ろにいる男たちはどんな命令でも顔色ひとつ変えずに任務に向かうことから、
 石仮面と呼ばれてレコン・キスタから恐れられている誇り高い貴族たちでした。


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