ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第三章-06

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匿名ユーザー

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タルブ村の中央に位置する、丸い広場。
その石段でできた広場に設置された噴水。
流水が涼しげに波紋を作っている。
その光景を最もよく見えるように、大きくテラスを張りだたせた建物。
その建物は、入り口が南側。壁は、白い漆喰。
「ここみたいね」
キュルケが、午後の太陽の光を背中に浴びながらいった。

彼女たちの目的地は、ここ、『魅惑の妖精亭・本店』である。
タルブ村は平凡な田舎村でありながら、実は、特異な郷土料理で有名な村であった。
その郷土料理の名声は、遠くゲルマニアの地にまで聞き及ぶ。
物好きな豪商や貴族たちは、この魅惑のリストランテまで足を運んで、己の舌に鼓
を打つのだった。
このリストランテは、貴族や豪商にも利用できるように清潔に整備されている。
店内には、席が百席ほど用意されているだろうか?
ルイズはそう見て取った。

「ついたわよ、ダーリン」
キュルケのその言葉にも、ブチャラティは気づかない。
なにか書かれている紙を手に持ち、それを一心に見つめている。
ブチャラティが、タバサの竜に乗っている間中、ずっとだんまりを決めていたのも
このためだ。
彼は、道中、ずっとこの店のメニューを見ていたのだ。

「う~ん……やはりマルガリータは当然頼むとして……
 ボルチーニ茸をのせてもらうか……」
「あの……ブチャラティさん……?」
さすがのギーシュも、ブチャラティの異様な態度に気がついたようだ。

「イカスミが無いのが残念だが……」
ルイズは、大きく息を吸い込んだ。
一瞬の間のあと、広場を少女の大声が支配した。

「ブチャラティ!!!」

「なんだ? ルイズ、そんなに大声を出して?」
「着いたわよ、『ピッツァ』が食べられる店」
「おおっ! そうか!」

ブチャラティはそういい残すと、やっと顔をあげた。
「ずいぶんと、人が並んでいるな」
そういった口は、不満の色を隠せない。
彼の言うとおり、『魅惑の妖精亭』の前にあつらえてある、待合椅子には、三十人
ほどの、いかにも身なりの良い人たちが並んで座っている。
おそらくは、メイジの客なのだろう。

「こんなに混んでるんだったら、相当待ちそうだな」
ギーシュは自分のおなかをさすりながら言った。
今の時刻は、とうにお昼時を過ぎている。
今頃トリステイン学院では、食事も終わり、食後の紅茶が配られている頃だろう。
この時間になっても、貴族たちですら並んでいるという事実は、ブチャラティに希
望を抱かせた。
だが、同時に、ルイズたちも、結構な時間を待ち時間に浪費する、という真実を示
してもいた。
「どのくらい待つだろうかな?」
多少は冷静さを取り戻したブチャラティは、誰ともなしに発言してみた。
彼は、まともな返答が返ってくる事は期待していない。

だが、それにもかかわらず、彼の原始的な欲求は、心の中でやくたいもない不平を
量産していくのであった。
くそっ。
これがもし故郷のネアポリスであったならば。
あの、なじみのポモドーロおばさんの店だったのであれば。
自分の不登校な息子のことで愚痴を言いながらも、俺に優先してピッツァを包んで
くれるのに。


だが、ここは異世界。
ブチャラティ以外に、生粋のイタリア人はいない。

その代わりに、彼らに声をかけるものがいた。
「お~い」

ルイズは、その声が店内からかけられたことまではわかったが、正確な位置はわか
らない。それほどまでに、この店は混んでいたのだ。
「あそこ」
タバサが人差し指を店内の一点に向ける。
ルイズは見つけた。
タバサが指さす、店の奥に設置された大き目の丸テーブルを。
それをたった三人で占拠していた。
そのうちの一人が、彼女らに声をかけた張本人。
岸辺露伴だ。

「うまい! 最高だ。ネアポリス特有の厚めの生地。それを、外側はかりっと、内
 側はややふんわり焼いてある。
 しかも、このマルガリータピッツァにのったモッツァレラチーズは、フレッシュ
 タイプの水牛のものだな。臭みがまったく無い」

ブチャラティが露伴の隣に座り、熱々のそれを口に運ぶ。
とろけたチーズと、トマトが舌の上で絶妙に絡みつく。そこに、ルッコラの葉がア
クセントを加える。この店の自慢の一品である。

「ええ、ブチャラティさん。このチーズを作るお牛さんは、おじいちゃんがわざわ
 ざ東方の地から探してつれてきたそうですよ」
シエスタは、ブチャラティのコップに赤レモンのジュースを注ぎながら答えた。
「すごいな、君のおじいさんは。こんな地で、本場のイタリア料理が食えるとは思
 いもしなかったよ。このパッケリのパスタと、トマトソースは実によく合う! 
 なんというか、どこかのバカとプッツンの組み合わせだ。いい意味でな」

露伴はレモンジュースを飲みながら言った。彼が今、食べているパスタはアツアツ
のボロネーゼだ。
タルブ村に降り注ぐ、真っ赤な太陽をたくさん浴びて育ったレモンの酸は、露伴の
舌にいまだ残る、モッツァレラチーズの後味と混ざり合わさり、さわやかな快感を
露伴の脳に感じさせた。

「いえ、私のお爺ちゃんは、故郷を探しにいった帰りに見つけたらしく『ついでだ』
 といってました。ただ、この赤いお野菜のほうは、わざわざ探したみたいです。
 『世界中を探して回った』といってたそうです」
「そうすると、君は曽祖父も、祖父もハルケギニアの人間じゃないのか?」
「はい。ええと、『タケオ』曾おじいちゃんは、お母さんのおじいちゃんですね」
ブチャラティとシエスタ、岸辺露伴が、このように魅惑の妖精店内で舌鼓をうってい
たころ。
ルイズたち、トリステイン学院の学生たちはその恩恵を受けられずにいた。
なぜなら、彼女たちは、コルベールの前で、小さくなっていたからだ。

「ミス・タバサ。私は言ったハズです。学生に、長期休暇は与えられないと」
「……」
タバサは上目遣いに、その人物を見やった。
コルベールではなく、彼の奥に座っている露伴を。
「余所見をしないでください!!!」
「……はい」
「特に、あなたは御家の事情とかいうもので、何かと休みがちなのです。いくら成績
 がいいとはいえ、あまり感心できません」
ルイズたちは椅子に座って、コルベールの頭越しに、ブチャラティたちの宴を見せ付
けられているところである。

「コルベール先生。タバサも反省していることですし、その位になされては?」
タバサとは反対に、キュルケは、明るい感じでコルベールの顔を直視した。
コルベールの額が日光で輝いている。その反射光は、キュルケの谷間を照らしていた。
「ミス・ツェルプストー。これは、あなたたち学生には共通して言えることですぞ!」
「フフフ、すみません。でも、来てしまったのはしかたがありませんわ」

「むむむ……そういわれては……」
危うく、キュルケの誘惑に陥落しそうなコルベールであったが、彼の脆弱な男心に、
意外な助っ人が表れた。彼の前で恐縮しきっている男子生徒、ギーシュである。
「コルベール先生。まあ、今回はブチャラティさんが『この店に行きたい』といって
 のことです。あまり長居はしませんってば」
この言葉に、コルベールは教職としての本分を何とか思い出した。
「それならば、なぜあなたたちがついてくるのです? 彼はミス・ヴァリエールの使
 い魔であって、君達の使い魔ではありませんぞ?
 特にミスタ・グラモン。
 君は、私の『基礎地歴学』の単位を落としているではないですか。追試は来週です。
 ここに来るほど、君は試験の成績に自信があるのですか?」
「う゛……」
「それにですな。ミスタ・ブチャラティは、使い魔であっても中身は立派な成人男子
 です。ミス・ヴァリエール、君がこのタルブ村まで付き添う必要はないではありま
 せんか」
「いえ……でも、自分の使い魔の管理はちゃんとしないと……」
「はっきり言って、日ごろの生活態度から見るに、ミス・ヴァリエール。あなたこそ
 がミスタ・ブチャラティに監督される立場ではないですかな?」
「……はい、そうです……」
コルベールの説教癖のせいで、ルイズたちは、日が落ちるまで彼の御言葉を拝聴しな
くてはならなかった。
そのおかげで、ルイズたちは一泊だけ、タルブ村の、シエスタの実家に泊まることを
許可された。
コルベールが、学生たちに夜半の、危険な旅をさせることに反対したからである。
だが、ルイズたちは、学院を抜け出した罰として、昼食にありつける事はなかった。
俗に言う、『おあずけ』というやつである。

To Be Continued...

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