ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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ジャイロが、正体不明の敵から攻撃を受ける、ほんの僅か前の出来事。
ルイズと才人と、才人の後ろで喋り続けるデルフリンガーは学院に戻る平坦な野道を喧々諤々と、騒がしく進んでいた。
「ほー。そーか相棒、おめーも大変な目に遭ってんだな」
デルフリンガーが、才人の境遇を聞いては、相槌を打ったり同情したりする。
「ああそうだよデルフ。俺はこれまでずっと大変だったんだ。そりゃもう、絶望に打ちひしがれる毎日を過ごしていたわけだよ」
才人が感情を込めて今までの苦悩の日々を語る。時には涙あり、時には怒りありの毎日を、講談家のように話しては、デルフリンガーに感想を述べてもらう。
「そーさな。相棒の歳でその苦労はなかなかねえな。いや、立派だよ。立派だよ相棒は」
「だろ? 俺頑張ってるだろ? なあ俺頑張ってるよな?」
「あー、頑張ってる。相棒はものすごく頑張ってる。そのぐれー頑張ってるなら、誰かから褒美もらってもいいくれーだ」
「……だよな。だよな、そうだよな! そのぐらいは許されるよなあーーーー!」
……ちらり。
そんなことを言っては、才人はルイズに視線を向ける。こんなことを道中、何度も繰り返していた。
「うっさいわね! また突き落とすわよ!」
ルイズが後ろで騒ぐ連中を怒鳴りつける。それに、デルフリンガーは、ふぅ、と溜息のように一息つくと。
「相棒の主人は、すげえ怒りっぽいね。……おい貴族の娘っ子。そんなに怒ってちゃ可愛げなんて一欠けらもありゃしねえよ。もう少し節度ってもんを……」

「 ア ?」

そう剣に言われて振り向いたルイズの目には、なんとも形容しがたい、 何か が宿っていた。それに直視され、才人は真っ青になり、さすがにデルフリンガーも、口をつぐんでしまった。
「……ま、まあなんだ相棒? 辛いことばっかりでもねえんじゃねえか? なんかこー、楽しかったもんとかはねえのかね?」
話題を変えようと、剣は才人に尋ねる。
「いやー……、正直、あったのかどーか。だってこっちに来てから、テレビも映画も見たことねーし。パソコンも動かねーし」
「テレビ? ……映画? 相棒、そりゃなんだね?」
「そうね……。サイト、それ、わたしも気になる。ねえ、それってどういうの?」
剣とルイズが、同時に才人の言葉に興味を持った。
「ああー……、テレビも映画も、いつでも見れる芝居みたいなものかな。テレビは箱の中に舞台があるように映って、映画は巨大なスクリーンで眺められる」
「箱? スクリー……? 相棒の見た芝居ってのは、ずいぶん変わってるやね」
「ああ、うん。……なんて説明したら、わかってくれんのかな。とにかく、そーいうもんなんだって」
才人が、頭を掻きながら慣れない説明をする。
「要はお芝居なんでしょ? そういうものなら、城下町でも見れるわ。別に珍しいものじゃないわよ」
テレビや映画の正体が芝居だと言われ、ルイズは興味をなくしたようだった。
「いや、見れるのは芝居じゃないんだって。ニュースもあるし、バラエティーだって……。テレビなんか、最近じゃ超薄型プラズマってのが出てきてさ……。映画だってビッグタイトルが……」
才人が語るその言葉は、ルイズにとっては呪文のように聞こえる。
彼にとっての現実が、ルイズにとっては虚構に聞こえる。それが何故か、才人には悔しく思えて、いつの間にか説明にも熱が篭っていた。

「それじゃいつか、連れてってあげるわ」
ルイズの突然の言葉に、才人は目をぱちくりさせた。
「あんたがそんなに芝居好きだなんて思わなかったわ。そんなに好きなら、ちゃんとわたしのいう事聞いていたら、連れて行ってあげる」
「……あ。ああ。あ、ありがと」
別にそんなに好きなわけじゃないけど、と、つい言ってしまいそうだったが、なんとか才人は礼だけ言えた。
「そんかわし今すぐは駄目よ! あんたには剣買ってあげたばかりだし。ちゃんと言う事聞いてからだかんね!」
それっきり、ルイズはぷいっ、と前を向く。
「相棒。こりゃ話が変な方向にいっちまったね」
デルフリンガーが、呆れたように言った。
「いや、デルフ……。これは、……チャンスだ」
才人が、剣の耳と思わしきところで、ぼそぼそ呟く。
「チャンス? なんの?」
「フラグ成立の」
「フラグってなんだ?」
「愛だろっ、愛!」
思わず、大きな声をあげてしまう。悲しいかな、才人もしっかりゲーム脳であった。
「つまり、どういうことさね?」
「これをきっかけに、ルイズは俺になびく」
「へえ。そうなるもんかね」
「なる。絶対させる」
現実を見ろ。そう見えない誰かに言われた気がするが、気にしない。
「相棒の腕の見せ所だね。応援する」
「ああ。まかせとけ」
となれば、まずはスキンシップとばかりにルイズの体を触ろうと、才人がじりじりと腕を伸ばす。密着してもおかしくない距離だというのに、それが何故かとても長い。
あと少し、もう少しでルイズの体に、才人の指が触れるというところで。
「そういえばサイト。さっき言ってたパソコンって、一体どんなの――」
ルイズが振り向く。 

才人の姿は、消えていた。

「…………サイト?」
さっきまで後ろにいたはずの才人が、消えていた。
「サ、サイト!?」
愛馬の足を停め、ルイズが周りを見渡す。
「ど、どこよサイト! どこ!? どこにいるのよーーっ!?」
落馬!? サイト、落馬したの!? 
ルイズは周りを探す。才人の姿を見落とさぬように注意しながら。だが、才人の姿はどこにもない。
どこにもいない!? こんなに見晴らしのいい、平坦な道の上で、サイトが消えた!? ルイズはその現実が信じられない。
まさか、地面に裂け目でも? その中に落ちた? まさか!?
「サイト! 返事しなさーーい! どこよーー! サイトーーーーッ!」
大声を上げながら、ルイズは才人を呼ぶ。返事は、一向に無い。
がらん、と、何かが落ちる音がした。
音のした方向を向く。そこにも、才人はいない。だが。
「つ~……、いってて。いや、衝撃が身に染みるね。おい。おい聞こえるか、貴族の娘っ子」
さっきまで散々聞いた声。
「その声……、インテリジェンスソード!? どこ! サイトはどこにいったの!?」
「落ち着け娘っ子! いま危ねえのは相棒じゃねえ! おめえだ! 娘っ子!」
デルフリンガーが、ルイズに危機を伝える。
「え?」
「貴族の娘っ子! 逃げろ! 相棒はもうやられてんだ! 俺は相棒が連れ去られる途中で抜けたんだ!」
「や……、やられたって……誰に!? 誰が!? なんのために!!?」
「知らねーよ! それよりも逃げろ! そんなとこに突っ立ってると格好の餌食だ!」
ルイズの頭は、正直言って、パニックを起こしかけていた。
サイトを一瞬で倒した敵。それが、次は自分を狙っているということに。
「逃げろ!」
剣の一喝が、彼女を後押しする。愛馬に鞭を入れ、風が巻き起こり勢いのままに、馬は駆け出す。
しかし。一瞬だけ感じた、無重力。
減速する速さ。力なく垂れる手綱。
ルイズの愛馬は、ルイズが見ている目の前で、消えてしまった。
「そ……そんな。わたしの、わたしの馬も。 消えるなんてっ……!」
地面に無造作に投げ出され、ルイズは体を打ちつけた。痛みに、呼吸が数瞬止まる。
「娘っ子! 無事か!」
デルフリンガーの声が、まだ近くで聞こえる。
「上だ! 上から来る! 逃げろ! あそこの雑木林まで!」
ルイズが目を向ける。その方向には、木々が密集する林があった。
あそこまで行ければ……、助かるかも、知れない。
でも、その望みは今すぐにでも、断たれてしまう。
ルイズの真上――、高く雲が浮かぶ、青空の中。
一羽の鳥だけが、悠然と泳ぐように飛んでいた。
そしてそこから、鏃のように何かがルイズ目がけて降ってくる。
それに追いつかれたら、わたしも、サイトのようになるのだと。彼女は理解した。
咄嗟の判断だった。躊躇したらやられてしまう。だから、思わず。
右手で掴んだ杖を高く振り上げて、呪文を呟く。
彼女の直前で、爆発が起きる。
そこからはもう、ひたすらがむしゃらに。
巻き上がる砂埃が、幸運にも、彼女の体を覆い隠し。全力で、駆け抜ける。走った。林まで、一直線に。
その途中で、後ろから強烈な力で、引っ張られる。
ルイズは、それを間近で見てしまう。
水が、水が強固なカギ針と、ロープと化していた。それが、空を漂う鳥から繋がって。まるで釣りをするかのように、ルイズのマントに食いついていた。
マントの結び目をほどく。紐が首をなぞるように後ろにすり抜けた瞬間、もう一本のカギ針が、マントを突き刺し、空高く連れて行く。
間一髪で、林に飛び込んだルイズは、それをただ呆然と眺めることしかできなかった。
「なによ……。あれ。 あれも……、魔法、なの?」
あんなのは、あんな魔法は、聞いたことがない。
いったい誰が、あんな力を、どうして、なんでわたしに!?
考えても考えても、余計に混乱するばかりで。そしてそれしか考えていなかったから――、見落とした。
「逃げろ! 相棒の相棒!」
はっとして、ルイズは見た。
けれどそのときには、もう遅く。
彼女のもう一人の使い魔も、あっけなく――、空に消えていく。
どうしようもない絶望感で、ルイズは膝をついてしまった。

次々と、空に消えていく。
ジャイロが乗っていた老馬も、ルイズの愛馬の鞍も。
「お、おい!? 俺もかよ!」
デルフリンガーも、とうとう空に連れ去られた。
そして、誰もいなくなった平原に、再び、水で出来たカギ針と、ロープが二本。
林の中にいるルイズを取り囲むように、ゆらゆらと動いていた。
「とことん……。わたしまで連れ去るつもりなのね」
ルイズは林の中で、外を見つめたまま、動けずにいた。
「最近巷を騒がせてる盗賊……にしては、ずいぶん理解不能ね。荷物は全部奪われたし、馬も、鞍だって……」
はっ、と、ルイズは気付く。
「『荷物』……『馬』……。『鞍』 ……」
まさか、敵は。 
「敵は捜して、いるの? 敵の『目的』は!?」
ルイズは、今まで自分でも、忘れていたものを、じっと見つめた。

『 捜している――――――!? 』

「わたしの、わたしの左腕にある『ミイラの腕』! これなの!? 敵は、敵はまさか、これを――狙っている!?」
この状況で、敵の目的が。
「わかりかけてきた……。どうしてわたしが持っているのか、わかったのはわからないけれど……。敵は、それを知って!」
――襲ってきたんだ。
「なんなの……、この『腕』! 誰の腕なの!? いったい! このミイラに! どんな秘密があるっていうの!?」
木々の隙間から、空を見上げる。
木漏れ日だけが、優しくルイズを照らしていた。

「どぉぉこおぉぉだぁぁぁぁぁーーーーーー。 ゥィーーン」
書斎部屋と思われたその部屋は、異様な造りだった。
部屋の中央に、噴水と見まごうばかりの大きな水鏡が置かれ、主――モット伯は、その中を楽しそうに眺めていた。
その部屋に乱暴に連れ込まれたシエスタは、いきなりその水鏡の前に立たされる。
「見るんだシエスタ。水面を見ろ!」
伯爵に言われるまま、水面を見つめる。
するとどういうわけか、水面に部屋とは違う景色が映し出された。その中心にいたのは。
「……っ」
この屋敷に連れてこられたとき、無意識に助けを求めた人達の姿が、写っていた。
「は、伯爵様! これは……、これは何かの間違いです! この人達は、この人達は何も関係ありません! ですから――」
シエスタは必死に弁解する。
だが、当の主は。
「ふっ……、ふっふっふ。ふひふひフヒフヒフヒフヒ。ヒィーーッヒッヒッヒッヒ!」
彼らの姿を見るなり、狂ったように笑い出す。
そして。

「みぃーーーーつぅけぇたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁッ!!!」

絶叫して、歓喜した。
「シエェェェスタ! みつけたよぉ! つぎをさがすまでどれだけかかるかとおもっていたのに! こんなところでみつかったあ!」
抱きかかえるように掴んでいたシエスタの腕をいきなり突き放すと、モット伯はおもむろに杖を手に取った。
そして鳥かごに入っていた小鳥を一羽かごから取り出すと、なにやら唱え、水鏡へ沈める。
その途端、小鳥の姿は水の中から消え、水鏡の景色は、流れるように動き出した。
鳥が空を飛ぶように、景色は動いていく。
「さあ。さっそく手に入れよう」
伯爵はとても嬉しそうに、杖を振った。

「伯爵様!」
シエスタが次に見た光景は、まるで悪い夢を見ているかのようだった。
モット伯が眺める水面が、突如波立ったかと思えば、それは割れるように開き、誰かがその中から引き上げられた。
「……サ、サイトさん!?」
それは、シエスタがよく知る少年、平賀才人だった。
あわてて駆け寄る。ぐったりとしている才人だったが、息はある。
その次に水から現れたのは、立派な毛並みの馬。次は魔法学院のマントが、姿を現す。
そして。
「ジャイロさん!」
ジャイロまで、水面から姿を現したのだった。
「ジャイロさん! サイトさん! しっかり! しっかりしてください!」
「やかましいぞシエスタ! いまいいところなんだ! 邪魔するな!」
シエスタの絶叫に、主が激昂する。
「やはりこいつらは持っていない……。となるとさっきの女だ。あのガキがもっているんだ!」
手に入れてやる! 手に入れてやるぞ! 
そう嗤いながら叫ぶ伯爵の姿に、シエスタの恐怖心は限界に達していた。
それでも。
「お止めください伯爵様! こ、この方達の主人は、トリステインの名門、ヴァリエール家の方です! いくら伯爵様でも! あの方と諍いを起こしては!」
シエスタは必死に止める。
才人のためでもあり、ジャイロのためでもあり、そしていま窮地に陥っているルイズのために。
そして道を踏み外そうとしている主人のために。

「だからどうしたぁっ!」

だがシエスタの言葉は、彼には届かない。
否、この男には、誰が、何と言おうと。
そう、例え――この国の王が言ったとしても。
「あいつはもっているんだ! もっているんだよシエスタ! いかなる権力より! いかなる財宝より待ち望んだものを! どんなものよりも優先されるんだ! あれを手に入れることが! 正しいことなんだ!!」
そう断言したモット伯が、なにやら呪文を唱えると、才人、ジャイロ、そしてシエスタの四肢が、まとわりついた水によって拘束される。
「……えっ、やっ。なに、動けないっ……」
「黙って見ていろ!」
次々と引き出される。岩、木、動物。植物……。
ルイズを引き上げるまで、無差別に引っ掛けては釣り上げる。
そして、シエスタの隣に、ずごん、と何かが突き刺さった。
「ほー……いててて。いくら見てくれが悪いって言っても、まったく扱いが乱暴だぜ」
何かが、喋る。でもそれは人の姿ではないことに、シエスタはどんな反応をすればいいのかわからなくて、悩んでしまった。
「おや? 相棒がいるってことは、ここが敵の居場所かね? なあそこの娘っ子」
「あ……、貴方、は?」
「俺か? 俺さまはデルフリンガーってんだ! よろしくな、娘っ子」
呑気に挨拶をするデルフリンガーに、シエスタは呆然としながら、会釈だけする。
「さーーーーあ。どこにいるんだああぁぁーーーー。  ウィーン。 ガシャーーーーン」
嬉々としてルイズを追い詰めるモット伯の声だけが、高らかに響いていた。


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