ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

slave sleep~使い魔が来る-20-1

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匿名ユーザー

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アヌビス神⑥

「お姉さま!しっかりして!お姉さま!」
ルイズを背負ったイルククゥがキュルケがお姫さま抱っこで運んでいるタバサをつついて起こそうとしていた。
「お姉さま!おいちびすけ!気をしっかり持たないとダメ!きゅいきゅい!」
「大丈夫よ。ダメージと言ってもダーリンがぶっ飛ばしたアイツの下敷きになった程度よ。
それよりルイズの足がかなり危険よ…。早く直さないと。」
キュルケの心配そうな目に気付き、ルイズが言う。
「アンタなんかに…心配されるほどひどくないわよ。アンタがアイツに喰らったダメージのほうが
やばいんじゃない?」
「問題ないわよ。ヒョロヒョロのアンタよりはタフだから。主に胸周り的な意味で。」
「こんな時までその話題やめなさいよ!いよいよ持って頭に来るんだから!」
しかし軽口を叩くキュルケもやはり結構アヌビスの攻撃でボロボロになっていた。
一方キュルケはルイズの周りからバカにされてもめげなかった心の強さを知っている。
これだけ言い返せれば問題はないだろうと思いつつキュルケはブチャラティの心配をしていた。
(アイツの能力は危険すぎる。もう最後はほとんどの攻撃をあっさりといなしていた。
同じ攻撃はいっさい奴には届かない。どうやってしとめる気…?ダーリン。)
いつになく苦しい表情をみせるキュルケ。
しかし目の前の建物をみてやっとその表情が緩んだ。
デルフやアヌビスを売っていた武器屋だ。あの店主がまだ固まっている。
「やったわあの武器屋よ!ねえ!さっきの剣の鞘まだある!?」
「ハッ!…ええ、鞘だけ置いて行っちまったのが気になりましてね、ずっと持ってやした。」
鞘をキュルケが受け取るとそのままスタコラサッサと店主は逃げていった。
「よし!コイツがあれば奴を封じ込めることが出来る!!」
「きゅい!私が持っていくわ!この子持っててほしいのね!!」
ルイズをキュルケの背中に乗せてイルククゥが疾走する。
「フギャ!ちょっと!重傷人に二人もあずけないでよ!二人も持てるわけ…あら、持てるわね。
アンタたちどんだけ軽いのよ。全く。」
ルイズはなぜか顔を赤くしたまま何も言わなかった。

「人を操り、先頭データを記憶し、しかも防御不能の刃。これほどやっかいな能力に会うのも
ずいぶん久しぶりだ…。」
ブチャラティが嫌な汗をかきながらそうつぶやく。
右手にアヌビス神、左手にキャラバン・サライの杖でもあるナイフを持ってアヌビスが佇んでいた。
お互いに走る緊張。ブチャラティとアヌビスが睨みあう。
その最中、ブチャラティはアヌビスを倒す方法を考える。
(つまり同じ方法にはもうひっかかからないと言う事か?奴を倒したければ策を使いまわすことをするな
と言うことなのか?)
「フフフ。ブチャラティ、お前オレを恐れているな?同じ手も通用しない、防御もできない、
そんな奴に自分の能力が通じるのか?とな。」
アヌビスが余裕をこめてそう挑発気味に言う。しかしブチャラティは首を振る。
「おまえの能力はやっかいで、正直オレに勝てるかどうかわからない。それは認めざるを得ないな。
けど、これまでだって予想だにしてなかったようなやっかいな能力を相手にしてきたからな。いまさら恐れると言われてもな。」
ところで、とブチャラティが続ける。
「おまえ、さっきタバサやそいつの記憶を読み取ったと言ってたよな。じゃあそいつが殺されても文句はいえない
ような悪党だってことはわかってるだろ?」
何を言い出すんだ?と思いつつもアヌビスはキャラバンの記憶を読み取る。
「なるほど、ずいぶん血なまぐさい。オレも一応悪党のつもりだがこいつは典型的なクズだな。
この戦闘能力は気に入ったけどな。で、何が言いたいんだ?」
「さっきはタバサを操られてたから本気を出すことは出来なかったが…。」
『スティッキィ・フィンガース』と一声上げるとブチャラティの傍にいつものようにスタンドが現れる。
加えて、デルフを構えることで、ブチャラティの殺気がようやくアヌビスも感じられた。
「おまえがそいつを操ってる今、もうオレにお前を殺すためらいはない。それだけ言っておくからな。」
「敵に忠告とはちょっと甘いんじゃないか?いいとも。結局殺し合いに違いないからな。」

「『ウインド・ブレイク』ッ!!」
アヌビスの呪文で突風が吹き荒れる。
ブチャラティに向けて横殴りの突風を吹かせてバランスを崩す。
そして一瞬の隙を突いてどてっ腹をかっさばいてやろうとした。
あっけないがこれだけで素人だったら一撃必殺なのだ。だがバランスを崩されたブチャラティは逆に!

逆に思いっきりのけぞったのだ!!

「ああ!?何やってんだ!?」
当然のけぞったブチャラティは地面に倒れる。
だがブチャラティが一瞬で地面にジッパーを発現させて背中から中に入る。
「この断面はジッパー…。近距離パワー型の殴ったところにジッパーを出す能力?」
しかしブチャラティの能力を理解するほんの一瞬の隙すら命取り。
ジッパーで地面に隠れてからほんの2秒、すぐにアヌビスの背後からブチャラティが顔を出す。
と同時にデルフの刃を振るい、アヌビスにすぐ感づかれてその斬撃を受け止めた。
「感のいい奴だ…。ジッパーから吹き込んで来る風の動きに感づいたか…。しかもなかなか素早い動きだ…。
純粋な戦闘能力だけならあの老化のスタンド使い(プロシュートと呼ばれていたか?)や地面を潜るスタンド使い(マジに名前を知らない)
にも勝る動き…。大した実力と判断するぜ。」
「そのジッパーの能力、トリッキーな動きがウリなのか…。クックック。たしかに憶えたぞ!」
ブチャラティが訝しげに顔をゆがめながらスタンドの拳を叩き込むが素早く避けられた。
(憶えた…。もう憶えたのか?スピードだけじゃあない。こいつの成長性は生半可な代物じゃない!)
「しゃあああああああああああッ!!!!」
アヌビスが刃を振るう。ブチャラティはすんでのところで避けるが額にかすり傷を作った。

「うおおおおおお!!!このスピード!!どんどんオレのスピードを憶えているのか!?」
「スピードだけじゃねえ!拳と剣の攻撃パターンも憶えている!その一撃一撃がおまえをじりじりと追い詰める!!」
余裕のアヌビスがブチャラティを精神的に追い詰める。
だが追い詰めたと思ったブチャラティは、まだ喰らいついてきた。
ブチャラティがその場で身を下にかがめて言う。
「ならまずは!スティッキィ・フィンガース!!」
ブチャラティが前方の地面を殴ってジッパーを発現させる。
「なんだ?隠れて斬るのはもう憶えたと…うおおお!?」
アヌビスの右足に階段を踏み外すような不自然な浮遊感が襲う。
そこにはブチャラティの拳からアヌビスの足元まで伸びるように開いたジッパーの『落とし穴』があった。
「閉じろジッパー!!」
両側から右足を固定するようにジッパーが閉まる。
「おおっと!?あぶねえ!」
アヌビスが足を上げて固定を防ぎブチャラティに反撃を返そうとして!
ドグシャア!という鈍い音が腹に突き刺さる。

ブチャラティが地面に作ったジッパーはアヌビスの足をかける落とし穴のジッパーだけではなかったのだ。
落とし穴に目をやったアヌビスの視界から死角になるように足の間にもう一つジッパーを左足よりに用意し、
2つめのジッパーの持ち手を持ちながら『閉じろ』の合図で加速して突進を喰らわしたのだ。
狙い通りアヌビスが足を開放する一瞬の隙にねじ込むようにブチャラティの頭突きが決まったのだが。
「本当はスピードに乗せて拳を叩き込み一気に杖のナイフを手ごと切り離す予定だったんだが…。
ジッパーの閉じるスピードまで上がっちまうなんて…。」
「なにもかも強化しちまうのも考え物って奴か?相棒!」
アヌビスが口から出た血をぬぐって思考する。
(なんて…なんて応用に富んだスタンド能力!だがその手も憶えたッ!!)

「スティッキィ・フィンガース!」
ブチャラティはアヌビスに休む暇を与えないように今度はデルフに拳を叩き込んだ。
「アダッ!もう少し優しくできねーのかよ!!」
デルフの恨み言が聞こえたと同時にその刃が離れたところからアヌビスの元に飛ぶ!
「今度はジッパーで刃を切り離しやがったか!まるでポルナレフの『剣針飛ばし』!
だがだからこそ対処は簡単だ!」
ヒョイ、とわりとあっさりと回避した。
「このまま切り裂いてやるぜッ!!『エア・ハンマー!!』」
風の打撃がブチャラティを襲う。ブチャラティは当たり前のようにS・フィンガースで防御するが、
おたがい優れたスピードを持った物同士、一瞬の隙が命取りなのはすでに承知の事実!
一刀両断。この言葉を現実の物とするかのごとくブチャラティの頭部に振り下ろされる!
「スタープラチナやシルバーチャリオッツのスピードを取り込んだこの一撃!憶えたお前の動きで
防げはしないぜ!これで正真正銘の終わりだッ!!くらえ!」
無常に振り下ろされるアヌビスの凶刃。その刃はブチャラティの頭から正中線をかっさば…かなかった。
スカッという手ごたえのなさに一番驚いたのはアヌビスだ。
「な…?え!?」
ブチャラティはすでにエア・ハンマーを喰らうまえに自分を打ってジッパーを発現させていたのだ。
そしてアヌビスの攻撃が来る前に緊急回避して致命傷を防いだのだ。
ブチャラティはこのチャンスを逃さなかった。
「遅いッ!!」
ブチャラティの拳が襲い掛かるッ!アヌビスは思わずもう片方の左手で防いでしまった。
杖でもあるナイフを持った片手で。

パックリと、左手にジッパーが発生して切り離される。ブチャラティは地に落ちるのを待たずに
拳の連打をナイフに食らわす。
そして空中でナイフを粉々に砕いた後、その拳が避けようとしたアヌビスの左肩に当たる。
「うぐえええッ!!」
といううめき声を上げながらアヌビスは後ろに吹っ飛んだ。
だがそれも良くなかった。

スパァァァァッ!!

全く警戒してなかった方向からアヌビスのすぐ脇をデルフの刃がブチャラティの方向に戻る。
その動作によってアヌビスの脇に刃が深くかすり、ドバッと血が吹き出る。
「グオァ!?な、なんで見切ったはずの斬撃が今襲い掛かってくる!?」

「やった!これで奴の魔法は封じたぜ!チャンスだ!」
ブチャラティが帰ってきたデルフの刃を受け止める。
だが今のアヌビスは魔法の使用不能以上に突然わき腹に出来たダメージに関する疑問でいっぱいだ。
だが、アヌビスは見た。ブチャラティが元の形に戻そうとしているデルフを。
(なんだ?柄と刃が…紐状のジッパーで繋がっている!?)
ブチャラティがその視線に気付いて言う。
「お前さっきポルナレフと言う名を言ったな?なぜ彼の名を知っているのかしらないが、
これはお前の知っているような技じゃない。」
簡単なことである。つまり今度の剣針飛ばしは長い紐状のジッパーで柄と刃を繋いだまま投げたのだ。
紐がついたことでいちいち拾いに行かなくても戻すことができるし、柱などに軽く交差して反対方向からの
攻撃などを行えるブチャラティ好みのトリッキーな技。
「いわば『有線剣針飛ばし』と言ったところか。これがオレの強みだ。単純な能力をアイディア次第でいくつもの
手数を用意することができる。これを全て憶えられる前に片付けれるとなればいくらおまえでも少しやばいんじゃあないか?」
「ク、クソッ!ジッパーの能力でここまでやるとは…!!」
アヌビスがもはや左肩の付け根から切り離された手を見て毒づく。
『アヌビス神』の学習能力は確かに頭を抱えたくなるくらい厄介で、
それこそ時を止めるなり、学習できても意味ない能力でもないと屈服させられない能力だ。
これまでのアヌビスの勝因も相手の全ての手を読みきり、万策尽きた相手をバッサリ切ることで勝負をつけていた。
だがブチャラティの『スティッキィ・フィンガース』のジッパーの能力は単純だが、その一言で片付けていい物ではなかった。
開く動作、閉じる動作、繋げる動作、それらの組み合わせのバリエーションは幅広く、
アヌビスの能力でも全ての動作を憶えるにはあまりにも時間がかかりすぎるのだ。
なかでも開く動作が一番アヌビスを苦しめていた。
(クソッ!今の緊急回避といい…、最初の切り離しによる開放といい、この幅広い応用力といい…!

『スティッキィ・フィンガース』の能力!この『アヌビス神』の能力と相性が致命的に悪いッ!)

あげくのはてにアヌビスはたった今片腕と魔法という攻撃手段を失って状況は最悪だった。
魔法はルイズに使いすぎてどの道精神力が底をついていたからともかく、実戦で片腕を失うだけでかなりの
戦力ダウンになってしまうのは避けられない。

ブチャラティが冷たい目線をアヌビスに投げかける。
「どうした?背中が煤けているな。もうあきらめて投降するか?」
「ナメるな……!」
(いくら手数が多いからって所詮は有限!長期戦に持ち込めれば体力も手数もすり減らすことができるはず!
むしろ奴の勝機は短期決戦しかないんだッ!どんなに相性が悪くても所詮……!)
だがアヌビスは気がついた。短期決戦しか勝てる方法がないという事を今アヌビスが気付いた事で、逆に不安が生じたのだ。
(いや……。ダメだ!そんな簡単に行くとは思えない!長期戦に持ち込むのが定石だからこそ逆にヤバイと思うぜ!
短期決戦でないと勝てないのに奴だけが気付いてないとは思えない!むしろオレが安直にそういう戦法を取ってくることを
逆手にとって一手打たれて返り討ちかもしれない!奴を相手に長期戦の戦法を取ることほど危険なことはないと判断するぜ…!)
しかしアヌビスはキャラバンの顔にほんのわずかだが笑みを浮かばせる。
(そうとも。奴はそういう戦法を取ってくるために長期戦の戦法に対する策を練ってるだろうからこそあえての短期決戦!
まさか自分の不利な状況を自ら選ぶとは思っていまい!)
アヌビスの思考がブチャラティを欺くためにある手を閃く。
(そう…。ならばこちらもねこだましと行こうじゃないか…!)
そう思ってアヌビスが取った行動。まずそのアヌビス神の持ち手を口でくわえ、ある物を拾う。
「それは!?」
ブチャラティの目線がそれを捉える。
それは先ほどまで操られていたタバサの所持品。彼女の身長よりもある杖だったのだ。
「まさか…それで魔法が使えるのか!?」
「それはないぜ相棒!自分に合った杖でもないのに使えるもんかよ!」
だがアヌビスは含みのある笑いを浮かべる。
「使えるんだよ…。おれが今まで操ったことのある人間の杖ならいくらでもな!」
アヌビスが杖を前に掲げる。
「見せてやるぜ!必殺の『瞬間移動』って奴をッ!!」

アヌビスがタバサの杖の先で地面を強く突く。ブチャラティが本気で警戒したその時だ。
「くっ!?」
不意にブチャラティが反射的に視界をほんの一瞬だが閉じてしまう。
すぐ見開いた時にはすでにアヌビスは視界から完全に消えていた。後に残るのはタバサの杖のみ。
「なにっ!?ヤツはどこに消えた!?」
ブチャラティが息を呑む。アヌビスが宣言どおりに消えて見せたことに本気で驚いたのだ。
だがデルフの声で我に帰ることが出来た。
「ちがう相棒ッ!後ろだァーーーーーーーーーーーーッ!!」

ザクリ、と音がした。デルフの声が聞こえた時には背中に定規とカッターナイフを使ったように綺麗に背中を斬られた。

「あ…がぁッ!!」
ブチャラティが背中を押さえる。だが血液が大量に噴出しはしなかった。
斬られたのは背中だけでその間の服は切れなかったからだ。
その代わりのようにブチャラティの服の背中の部分が血でにじみつつあった。
アヌビスが歯噛みしながら言う。
「チィッ。デル公に救われたか。その声を聞いた一瞬で前に踏み出すなんてよ。
おかげで一撃ではしとめることは出来なかった…。しかもそのジッパーそういう使い方もアリなのか?」
ブチャラティが瞬時に服の下の背中の傷をジッパーで塞ぐ。これである程度は止血ができるのだ。
しかしジッパーの隙間からは血が流れ続ける。
やはりアヌビスは『瞬間移動』など出来なかった。ただのハッタリだったのだ。
まずタバサの杖を持ってブチャラティに大きくアピールし、ブチャラティの目をタバサの杖に引き付ける。
次にタバサの杖でブチャラティの目に向かうように計算して地面の小石を突く。
ブチャラティの視界を一瞬閉ざしているうちに立てたタバサの杖を踏み台に上に飛び、建物の上に飛び乗る。
後はハッタリに気付かれる前にブチャラティをその刃で葬るという作戦だったのだ。
ちなみにこの手はとある少年がおじさんXを嵌めるために使った手の応用だが、アヌビスはそれを知らない。
とはいえ、この一撃はブチャラティに大きな打撃を与えた。
ブチャラティの息が明らかに荒くなる。顔色もだんだん悪くなっていった。
そのため、うっかりブチャラティがよろけた時だ。
「隙だらけだッ!討ち取ったりィィーーーーーッ!!!」
アヌビスが正面から喉元を狙ってとどめを刺そうとする。
だがそれは。

「うりゃーーーーーーーーーッ!!!」

という少し抜けた高い声が遮った。

アヌビスがふいに横から発せられた声に反応する。
だがその方向から大量のレンガの雪崩が押し寄せて来た。
「お、お、おおおおおお!?」
アヌビスがうろたえる。だがその対処は速い。
目にもとまらぬほどの剣さばきでレンガの雨を粉々に切り捨てる。
さばき終わった後でアヌビスが声のした右上方向をみる。そこにあったのは。
「きゅーーーいーーーーーー!!!」
大きな岩を抱えていた青髪の女性が今まさに屋根からアヌビスに向けて投げかけていた光景だった。
「イルククゥッ!!」
「うわわわわわ!!!」
アヌビスが思わず後ろに下がる。
イルククゥはそれを確認せずにブチャラティに手を差し伸べる。
「おかっぱさん捕まってッ!!」
ブチャラティが躊躇せずに手を掴み屋根によじ登る。
その際に、イルククゥが背中の傷を見る。
「きゅい!?おかっぱさんその背中大丈夫!?」
「問題ない。一旦退くぞ!」
そのままブチャラティがイルククゥの手を引いて屋根を飛び飛び走る。
「あっ、おかっぱさん!?」

「逃げに徹するかぁ!逃しはしねーよッ!!」
続いてよじ登ったアヌビスがすぐ後ろをつけてくる。
「走れ!オレから離れるなッ!!」
イルククゥがブチャラティに手を引かれなすがままに走る。
「あ・・・。」
イルククゥは今、自分が危機のど真ん中にいることはわかっていた。
だが、自分の今抱いた気持ちはその焦りを薄れさせていく。
胸の辺りに暖かい物が広がっていくような感覚がする。
自分の手を引くブチャラティの手は暖かく、とても頼もしかった。
イルククゥはその手を絶対に離すまいとしっかりその手を強く握り締めた。

「高い位置にいけばわかるとは思ったが、やはり見つかった。」
ブチャラティが走りつつ、あたりを見回して言う。
イルククゥの方向は向かないまま言う。
「まずここで降りるぞイルククゥ!コケるなよ。」
「え?だってここまだ屋根じゃ、え?あ、きゃあああああッ!!」
ブチャラティがジッパーで屋根に穴を開け、そこから建物の中にこの上なくナチュラルな動作で入る。
だが虚を突かれたイルククゥがズッターーーーーンッ!と、ハデな音をたてて着地失敗した。
ついでに顔面からその家の住人らしき女性の昼食に飛び込んでしまう。ケチャップらしいソースでイルククゥの顔が真っ赤に染まる。
「きゃッ!?なんなんだよ君たちッ!?ボクの昼メシに顔から突っ込んだりして!人を呼ぶよッ!!」
「騒いですまない。命を狙われてるんだ。走れイルククゥ!」
「さっきからいたい目にばっかりあってるのね…。ヒドイわよねこんな仕打ち。」

ブチャラティがジッパーで地面から家を出る。
飛び込んだ家から三軒隣の家から出てイルククゥに話しかける。
「ところでイルククゥ、鞘は持ってきたのか?」
「きゅい!バッチリ持ってきたのね!」
イルククゥはやけに張り切った様子で腰に巻いていた鞘を見せる。
ブチャラティも確かに先ほど間近で見た鞘と同じものと判別したところで足を止めた。
「よし、ここでいい。イルククゥ!鞘はおまえが持っていろ。あとこれはタバサの杖だ。
タバサと縁があるんだろ?おまえが持っているんだ。」
「きゅい?うん、持っているのね…。」
いつの間にジッパーで体内にしまっていたのか持ってきていた杖をイルククゥに渡す。
そして屋根を飛び飛び進んだ果てに、妙に開けた場所にたどり着いたようだ。
「よしイルククゥ。奴が来る前に早いとこ隠れろ。」
「きゅい!?何いってるの!?」
イルククゥが珍しく怒った様子で頬を膨らせる。
ブチャラティの事を心配して来たのに本人が「おまえは足手まといだから隠れてろ。」と言われては
流石のイルククゥも怒ってしまう物だ。
「確かにシルフィ…イルククゥはおかっぱさんみたいにスタ…ンド…だったっけ?それが使えたりはしないのね。
でも相手はどんどん技を覚えていくんでしょう?だったら一人じゃ危険だわ!でも協力すればもしかしたら…!」
「イルククゥ。お前に言われなくともオレは奴が一人で相手をするにはいささか危険な相手だということも
リスクを背負いでもしないと勝てないことも最初からすでにわかってる。だから必ず勝つためにもう一度忠告しよう。隠れてろイルククゥ。」


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