ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-58

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匿名ユーザー

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アルビオンで王党派が敗北したその日のうちに、ニューカッスル落城の知らせがトリステインに届けられた。

当時、アンリエッタに近づくことすら許されなかったアニエスは、王族が用いるユニコーンの警備を任されていた。
そこに、息を切らせて走ってくる者がいた、女王に即位する前の、お姫様だった頃のアンリエッタだ。
足を泥だらけにして、アンリエッタが血相を変えて走り寄ってくるのだ、アニエスでなくても驚いたことだろう。

「姫殿下!?」
「はあっ、はぁ、ユニコーンを!ユニコーンを出しなさい!」
アニエスは、アンリエッタを落ち着かせようとして、扉の前に立ちはだかった。
「殿下、姫様、落ち着いて下さい!」
「どきなさい!アルビオンに、アルビオンに行くの!」
アニエスは、思もしない力で突き飛ばされ、しりもちをついた。
その隙にアンリエッタは『アンロック』で鎖のついた鍵を開け、かんぬきを魔法で持ち上げて地面に投げ捨てた。

ギィ…と音を立て、重厚な扉が開かれる、藁束の上に座っているユニコーンを見つけると、アンリエッタはその背に飛び乗った。
「立って!…どうしたの!立ちなさい!…どうして、どうしてなのですか…どうして私の言うことを聞いてくれないの……!」
ユニコーンはアンリエッタを背に乗せても、黙って座り込んだまま微動だにしなかった。
まるでアンリエッタの愚行を諭すように、沈黙を保っていた。

王党派の敗北を聞いたからといって、ココまで取り乱すのは余程の理由があるのだろう。
そう考えたアニエスはある点に思い当たった、確かウェールズ皇太子はアンリエッタの従兄弟に当たるはずだ。
肉親としての情がアンリエッタを取り乱させたのだろうか?
いや、きっとそれ以上に強い『情』があったのだ、殺された恋人の敵討ちをする女傭兵がいたと聞いたことがある。
アニエスはアンリエッタを見て、内心でほくそ笑んだ。
もしかしたら『いい気味だ』と思っていたかもしれない。

「姫殿下、どうか心を静めて下さ…」
泣き崩れたアンリエッタに近づき、アニエスが手をさしのべた、だがその手を切り裂くようなアンリエッタの視線に射抜かれ、アニエスは呼吸を忘れ体を硬直させた。

まるで自分以外の全てを恨むような、復讐者の目つき……アニエスはたじろぎつつも、アンリエッタに手を伸ばした。

アンリエッタはアニエスから視線を外すと、アニエスの手を掴んでユニコーンの背から降りた。
「…心配をかけてしまいました、貴方の名をお聞かせ下さるかしら」
アニエスは跪き、自分を卑しい粉ひき娘ミランだと名乗った、それは『姫は卑しい者の手を取った』と、逆説的にアンリエッタを皮肉ろうと思ったからだ。
「まあ、貴方が?噂は聞いておりますわ、とても優秀な方だと聞いております。さ、顔をお上げになって」


「もったいなきお言葉でございます」
アニエスはポーカーフェイスで答えたつもりだが、内心の疑問が表情に出る寸前でもあった。
優秀とはいったいどういうことだろうか、自分はこの宮殿の中で、貴族に好印象など持たれていないはずだ。
「私はただ、建物の前で立ちつくすだけでございますから」

「そんなことはないわ、貴族に嫌われて噂されるんですもの。足を引っ張るばかりの大臣達が、平民一人の噂に踊らされるなんて、なかなかありませんわ。わたくし、一度貴方にお会いしてみたかったのよ」

「噂…でございますか」
アニエスがアンリエッタの顔を見上げた、噂とは何だろう、純粋な疑問だった。
「アニエス、貴方がメイジ殺しだと言うのは、本当ですか?」

「!!!」

おもわず息を呑んだ。
この姫の意図が理解できなかったが、一つだけ直感めいたものを感じた。
それはつまり、恨み、憎しみといった類の物だ。

その後アニエスは、魔法衛士に連れられていくアンリエッタを、跪いて見送った。
アニエスはいけすかない貴族の男から、姫様を危険な目に遭わせるとは何事かと呵られた後、アンリエッタから秘密裏に呼び出しを受け、銃士隊の構想を告げられた。

結局、ウェールズと再会し、死んだと思われていたルイズとも裁可したことで、アンリエッタは急速に精神的なバランスを取り戻したのだろうが…
王党派全滅の知らせは、アンリエッタを短い間だけでも狂気に走らせたのだ。
あの復讐者としての瞳を、自分と同じ狂気に満ちた瞳を、アニエスは忘れられなかった。

場面は変わり『ねずみ取り』の夜。

そうそうたる殿様方の屋敷が並ぶ高級住宅街、その一角にリッシュモンの屋敷がある。
今から二十年近く前に建てられた屋敷で、高級住宅街の中でもひときわ大きく、どれほどの贅を尽くしているのか想像もつかない。

その屋敷を目指して、雨の中馬を走らせる人物がいた、アニエスである。

アニエスはリッシュモンの館に近づくと、正門の前で馬を下り、門を叩いた。
門についた小さな窓が開かれ、中からカンテラを翳した使用人が顔を見せる。
「どなたでしょう?」
「女王陛下の銃士隊、アニエスが参ったとリッシュモン殿にお伝え願います」
「このような時間に、ですか?」
使用人は訝しげに聞き返したが、アニエスは凛とした表情を崩すことなく言い返した。
「急報です。急ぎ取り次ぎをねがいます」

使用人は首をひねりつつ奥へと消えていった、しばらくすると、ゴトンと重い音がして、門の内側でかんぬきが外された。

アニエスは手綱を使用人に預けると、屋敷の中へと歩いていくと、別の使用人が現れてアニエスを暖炉のある居間へと案内した。
しばらく待つと、寝巻きの上にガウンを羽織ったリッシュモンが現れ、テーブルを挟んで向かい側のソファに座った。

「高等法院長を叩き起こすからには、よほどの事件なのだろうな」
アニエスは長い剣をソファに立てかけ、腰に銃を下げているが、リッシュモンはそれを気にせず、アニエスを見下した態度で話しかけた。
「女王陛下と、ウェールズ皇太子殿下が、お消えになりました」
リッシュモンの眉がピクリと動き、僅かに身を乗り出すようにしてアニエスの顔を視る。
「何者かにかどわかされたのか? それとも、皇太子がらみか?」
「現在調査中です」
リッシュモンは自身の顎を右手で撫でると、うーむ、と唸って視線を下げた。
「なるほど大事件だ……。うむ、なるほど。してそれはいつ確認された?」

「女王陛下は本日午後、練兵場を視察されておりましたが、その帰りの馬車から忽然と姿を消してしまいました。ほぼ同じ頃、執務室に書類を届けようとした女官が皇太子殿下の姿がどこにも見えぬと言って、警備兵に問い合わせております」

「当直の護衛は?」
「我ら、銃士隊でございます」
ぎろりと、リッシュモンがアニエスを睨む。
「君たちか、ふん、無能を証明するために新設されたのかね銃士隊は」
女王陛下が誘拐されたというのに、リッシュモンは悠長に皮肉を言って、アニエスを睨んだ。
「汚名をすすぐべく、全力をあげての捜査中であります」
アニエスが怯むことなく言い返すと、リッシュモンは机をドンと叩いて叫んだ。
「だから申し上げたのだ! 剣や銃など、杖の前ではおもちゃに過ぎん! 平民など数だがあっても、一人のメイジの代わりにもならぬ!」
怯えることなくアニエスはリッシュモンを見つめている、一瞬の静寂の後、アニエスは相変わらず落ち着いた口調で呟いた。
「戒厳令の許可を、街道と港の封鎖許可をいただきたく存じます」
リッシュモンが杖を振ると、羊皮紙とペンが手元に飛んできた、リッシュモンは羊皮紙に戒厳令の旨を書き留めるとアニエスに手渡す。
「全力をあげて陛下を捜し出せ!見つからぬ場合は貴様ら銃士隊など、法院の名にかけて全員縛り首だ。そう思え」

羊皮紙を受け取ったアニエスは、退出しようとしてドアのノブに手をかけ、立ち止まった。
「何だ、早く戒厳令を敷かんか」
「閣下は……」
まるで怒りを押し殺すような、僅かに震えた声でアニエスが声を絞り出した。
「二十年前の、〝ダングルテールの虐殺〟は、閣下が立件なさったとか」
「虐殺? ふん、人聞きの悪いことを言うな。アングル地方の平民どもは国家を転覆させんと企てていた、言わば正当な鎮圧任務だ。昔話などあとにしろ」

それを聞くと、アニエスは無言で退出していった。
音もなく閉じた扉を見つめ、なにやら考え事をしていたリッシュモンだったが、何かを思いつくと羊皮紙とペンを再び取り出して、慌てたように何かを記していった。





屋敷の外に出たアニエスが、使用人に預けていた馬を受けとると、馬につけた道具袋の中から黒いローブを取り出した。
極薄になめされた革のローブは、雨をほとんど通さない。
アニエスはローブの中で、慣れた手つきで拳銃に火薬を入れていった。
ふと途中で動きを止め、改めて火薬と撃鉄の動きを確認し、火蓋を閉じてベルトに挟む。
アニエスが用いているのは火打ち石を利用した新式の拳銃であり、今までとは装填にかかる手間が段違いに少ない。
長剣を背負い、戦いの仕度が整うと、アニスは馬に跨って雨の中を進んでいった。

途中、背中の剣がひとりでにカタカタと揺れだして、まるで耳元で囁くような声を出してきた。
『尾行はされてないぜ』
アニエスが背負っているのは、ルイズから預けられたデルフリンガーであった。
『あ、ワルドが近くにいるぜ、たぶんその先の路地に隠れてる』
無言のまま、アニエスは馬を進めていく。

路地の脇を通り過ぎた時、雨が降っているにもかかわらず、足音も立てずに近づく気配があった。
ちらりと脇を視ると、そこには魔法で水を避け、足音をも消しているワルドの姿があった。

「正午から、リッシュモンと、料理人が二人、使用人が一人出入りしている。街の衛兵の動きはこちらの住宅街に伝わっていないようだ」
アニエスにだけ聞こえるよう、ワルドが呟く。
ワルドは昼ごろからリッシュモンの屋敷を見張っていたが、リッシュモンと組んで金を動かしている商人の姿は見えなかったようだ。

「引き続き監視を頼む」
アニエスが小声で呟くと、ワルドは音もなく夜の闇に消えていった。

『しかしまあ、妙なもんだね』
「何がだ」
何かを不思議そうに感じているのか、人間ならため息混じりであろうデルフリンガーの呟きに、アニエスが小声で聞き返した。
『あのプライドの固まりみたいな貴族が、アンタの言うことを聞いてるんだもんよ』
「なりふりを構っていられないのさ、私も、子爵も……」
『そしてリッシュモンも、ってか?』
「だといいがな……」
アニエスは自嘲気味に呟いてから、手綱を強く握りしめて背筋を正した。
目前に迫った復讐の機会を逃すまいとして、気を引き締めたアニエスの表情から、既に笑みが消えていた。

『魅惑の妖精亭』の屋根裏部屋で、アンリエッタ、ルイズ、ウェールズの三人が体を休めていた。

アンリエッタはアニエスの手引きで脱出し、ウェールズはルイズの手引きで王宮を脱出した。
昨日、アニエスから指定された場所で合流すると、アニエスは王宮へと戻っていった。
ルイズはアンリエッタとウェールズを引き連れ、『イリュージョン』を駆使して城下町を移動し、魅惑の妖精亭へとたどり着いたのだ。
王宮では今頃、行方不明になった二人を捜し出すため、蜂の巣を突っついたような大騒ぎになっている頃だろう。

椅子に座ったルイズは、ベッドに腰掛けているアンリエッタとウェールズを睨んでいた。
心なしか、その目には批難の色が浮かんでいる。

アンリエッタとウェールズは、時々お互いの目を合わせては頬を染めて、微笑み合っては頬を染めて視線を逸らし、また見つめ合って、お互いの手を握りしめている。

ルイズはちょっとだけ仲間はずれ気分を味わっていた。
子供の頃、アンリエッタの遊び相手を務めていたルイズには、一つだけ心当たりがある、『愛の逃避行ごっこ』と称して王宮内で隠れん坊をしたのだ。
幼少のアンリエッタにはラ・ポルトという従者がおり、アンリエッタの教育係でもあった。
そんな彼を『追っ手』と称し、ルイズとアンリエッタは王宮内で『愛の逃避行』をしていたのだ。
今のアンリエッタとウェールズは、まさに『愛の逃避行』を彷彿とさせるシチュエーションであった。
頬を染める二人を見て、ルイズは長い長いため息をついた。



「それにしても…」
アンリエッタの声に気付き、ルイズが顔を上げた。
「アニエスが『ルイズは変装してる』と言うから、どんな意外な姿をしてるのかと思ったけど、予想したとおりだったわ、一目でルイズだと解りましたもの」

ルイズはきょとんとして自分の顔をぺたぺたと触った、ルイズの顔は骨格にも手を加えており、一目でルイズだとわかるはずがないのだ。
「……参考までに、どうして私だと解ったのか教えて欲しいわ」
相変わらず微笑んだままのアンリエッタは、よく見るとルイズの顔ではなく、ルイズの胸を注視していた。
「ルイズなら、私と同じサイズに膨らますと思ったの。三年前の園遊会の時、影武者をルイズに頼みましたよね?。あの時のことは今でも時々思い出すわ」

ルイズの頬が引きつり、不自然な笑顔になる。
「貴方に影武者を頼んだとき、服を交換しましたよね? あの時ルイズったら私の胸を鷲づかみにして『ちょっとぐらい分けてくれてもいいじゃない』とか……」

ルイズが両拳を握りしめる、ミシミシと骨のきしむ音が聞こえてくるのは、気のせいではないだろう。

「ゴホン! あー…その、そろそろ本題に入りたいんだが」
ウェールズが話を進めようとして、わざとらしく咳をする。
アンリエッタはウェールズの顔をきょとんとした表情で見つめ、一瞬遅れて顔を真っ赤にした。
自分がどれだけ恥ずかしいことを喋っていたのか気がついたのだろう、ウェールズもアンリエッタとルイズが繰り広げる百合百合な昔話を聞いて、顔を真っ赤にしていた。
「「…………」」

顔を赤くしてお互いを見つめあう二人は、しばらくしてから気まずそうに視線を逸らした。

そんな二人を見ていたルイズは、目の前で繰り広げられた若々しいカップルのやりとりに言い様のない疎外感を感じていた。

ふと、ルイズの姉であるエレオノールの姿が思い浮かんだ。
彼女はこれまでに何度も婚約と破談を繰り返しており、三十才を目前に控えていながらまだ一度も結婚していない。
魔法学院やアカデミーの後輩が結婚したと聞く度に、エレオノールは不機嫌になりルイズの頬をつねった。
『アタシが独身だからって見せつけやがって…!』
およそ貴族らしからぬ口調で、同級生の結婚式をうらやむ姉を思い出し、ルイズはちょっとだけ姉に同情した。

「ところで、リッシュモンの裏は取れたの?」
場の雰囲気を変えるべく、ルイズが唐突に口を開く。
アンリエッタは慌てて居住まいを正し、わざとらしくコホンと小さな咳払いをした。

「リッシュモンの経済状況を調査ましたが…かなりの額の賄賂が流れています。その額はおよそ7万エキュー。それだけではありません、彼を高等法院へと押し上げた決定的な資料がロマリアからの物だったのですわ」
「ロマリア?」
ルイズが聞き返すと、ウェールズが口を開いた。
「ダングルテールの虐殺事件については、以前少しだけ説明したね」
「覚えているわ、疫病が流行ったという理由で村人ごと焼き尽くされた村よね。新教の流布でロマリアに睨まれて…」
そこまで言って、ルイズは目を見開き、ごくりとツバを飲みこんだ。
アンリエッタはちらりとウェールズを見た、ウェールズは少し俯いていたが、その表情はいつになく厳しいものだった。
「君の想像している通りだ。ダングルテールの大虐殺は、先代のロマリア法皇が暗に示唆したと言われる『新教徒狩り』と見て間違いはない」
ウェールズの言葉を、アンリエッタがひきつぐ。
「あの村を焼き尽くせと命じたのはリッシュモンです。疫病を未然に防いだとして彼はロマリアからも感謝状を頂き、高等法院を司ることになったのです」

ルイズは、誰とも視線を合わせず、床をじっと見つめていた。
その表情はどこか寂しげだが、怒りが噴出するのをこらえているようにも見えた。
「…感謝状ぐらいで彼を高等法院に推薦したの?」
小声で呟いたルイズに、アンリエッタが首を横に振る。
「当時、マザリーニは小国であるトリステインを守るため必死になって外交、内政に尽力していましたが……。卿にとってロマリアからの感謝状は、推薦状と呼ぶより命令書のようなものなのです。」
「あの枢機卿でも、ロマリアには弱いのね。 …でも仕方ないか、枢機卿の立場を保証してくれるのはロマリアだものね」
「マザリーニには『苦渋の決断でした』と言っていたわ。リッシュモンを大臣にすれば国政の中枢に近づけてしまいます。それを防ぐために彼を高等法院へ送り、あえて私財を蓄えさせ、尻尾を出すのを待っていたんですって」
ルイズは顔を上げて、アンリエッタとウェールズを交互に見る。
ウェールズは苦笑いを浮かべてルイズの顔を見返した。


「枢機卿は、冷たいように見えて、なかなか熱い人物だよ。ダングルテールの虐殺は、トリステインの格を落とす重大な事件だと、憤慨していたのだからね」
「あの枢機卿が怒る姿なんて見たこと無いわ」
ルイズがそう言うと、ウェールズはルイズと同じように両腕を胸の前で組み、ぐっと力を込めた。
「君と同じように、彼も両腕を組んで、眉をひそめるんだ。怒りをこらえるようにね」

胸の前で組んでいた腕から、ミシリと骨のきしむ音が聞こえた。
二人はルイズの手を見る、すると、指先が腕の皮膚を突き破り腕の筋肉へとめり込んでいた。

「怒りをこらえる…そうよ、私だけじゃない。枢機卿も、そしてアニエスも爆発しそうな怒りをこらえていたと思うわ」

ルイズは自分への怒りを何度もこらえている、石仮面を召喚したのは自分。被ったのも自分。死を偽装したのも自分。自分の怒りにはやり場がない、すべて自分の責任だから。
だがアニエスはどうだろう、怒りの矛先を目の当たりにしたとき、彼女はどんな行動に出るのだろうか、信用しているつもりだが、少し不安が残る。

ルイズが思考の海に沈みかけたところで、部屋の扉がノックされた。
『サイレント』のかけられた部屋にノックの音は響かないが、ルイズは壁に背中を預けて振動を聞いていた。
ルイズは二人に「仲間が来たわ」と告げると、おもむろに部屋の扉を開けた。


部屋に入ってきた二人を見て、ウェールズとアンリエッタは「えっ」と驚きの声を上げた。

一人は、ウェールズにとって因縁浅からぬワルド子爵だった、だが彼の登場は予想の範囲内なので、それほどの驚きではない。
もう一人が問題なのだ、ワルドに続いて顔を見せたのは、ウェールズにとっては馴染みの深い女性、マチルダ・オブ・サウスゴータだった。

「ミス・マチルダ。君も協力してくれるのか? しかし、なぜ…」
ウェールズが名前を呟くが、マチルダは不機嫌そうに顔を背けるばかりで、何も言わない。

アンリエッタも困惑しているのか、ちらちらとルイズの表情を伺っている。
ルイズは悪戯が成功した子供のように微笑むばかりで、何も言おうとしない。

ルイズとマチルダの接点は、魔法学院ぐらいしか思いつかない。
しかし、魔法学院の秘書とルイズが、いったいどんな経緯で知り合うこととなり、今回のねずみ取り作戦に協力するのか、まったく理解できない。


ウェールズとアンリエッタが困惑しているのを見て、ルイズは満足げに頷き、口を開いた。

「紹介するわ。ご存じの通りこちらはワルド子爵。そしてこっちはミス・ロングビル。またの名を『土くれのフーケ』よ」

アンリエッタとウェールズは、口を半開きにして唖然としている。
そんな二人の様子を見て、ルイズはくすくすと笑い出した。








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