ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-36

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匿名ユーザー

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大きなお城に住んでるというのは、こんな時デメリットにしかならない。
フロアごとに広大な面積をもつ城の中を移動するというのは一苦労。
今、康一は気を失っているらしいエレオノールを抱えているのだから更に倍だ。
「じゃあこの女の人、エレオノールさんって言うんですか?」

『ああ、そうじゃよ。君のご主人である姫殿下とは血の繋がりもある。
この国一番の大貴族の娘さんでの。いや、しかし…良いフトモモじゃぁ』
『コノジジイ、ネズミの体ヲ借リテ何見テヤガル…』
ACT3でエレオノールを抱えて、自分の肩にハツカネズミを乗せた康一。

その肩に乗ったネズミは宙に浮いたエレオノールの(スタンドのACT3を見る事はできない)、
スカートから覗く、いわゆる、美脚に目を奪われていた。
御足と呼んでもよかろう。色白な肌。そこには一点のくすみもない。
ほっそりとしながら、そしてその形を崩さぬ程度に付いた柔らかな肉。

隅々まで手間暇を掛け、磨かれぬかれた、触りたくなるようなフトモモ。
踏まれたい。ああ、ハイヒールで踏まれてみたい。力を込めて踏んで欲しい!
美しい足、これが手なら殺人鬼も大絶賛する事だろう。
もっともエレオノールの手は足に劣らず磨かれたものであるのだが。

『ハレルヤ!グレート!この世は素晴らしきフトモモじゃ―――っ!』
「おい、いい加減静かにしなよ」
肩ではしゃぐネズミに康一の手が伸び、その小さな体を掴んだ。
『うあっ!待って、ホンの茶目っ気なんじゃよ!だからお願い、苦しい、潰さんでくれ!身が!身が出る―――――!!』

必死で弁解をするネズミに対して、正直ヤレヤレな気分の康一は手を放してやる。
さすがに中身がコレでも、見た目が愛らしいハツカネズミを握りつぶすのは康一には無理だ。
プルプル震えて怯えるハツカネズミの中身の老魔法使いは、
すでにエレオノールが履いている下着の色まで把握している事は黙っておこうと固く誓った。ちなみに白。

「それで、モートソグニル」
『お、オスマンで構わんよ。使い魔の体を通してワシが喋っとる訳じゃから、そっちの方が良かろう』
見た目はネズミ、頭脳はジジイ(エロ)。今宵舞踏会に出席している筈のオールド・オスマン。
使い魔であるモートソグニルの体を通して、老魔法使いは康一に語りかけていた。

『さっき枢機卿から君のルーンの能力の事を聞いたんじゃが、使い魔を通して会話ができるとは思わんかったよ』
「それは僕も驚いてます。でも何か変な感じだなァ。ネズミを通して人と話をするなんて、まるで生きたケータイみたいだ」
康一の右手に刻まれたルーンがボンヤリと光っていた。
強い輝きではないが、道を照らす灯火のようにも見える。

康一のルーンの能力である動物や獣と会話をする能力。
その能力が離れた場所にいるモートソグニルの主人であるオスマンとの会話を可能にしているのだ。
「それで何でこんな所に使い魔を送って来たんです?僕等はそのお陰で助かった訳ですけど」
そう、先ほど窓から飛び降りる直前に聞こえてきた声は、使い魔を通したオスマンの声であった。

康一達の部屋と二階下の部屋の窓を小さな体で必死に開けて、康一達を助けてくれたのだ。
モートソグニルの小さな体なら敵に見つかる事もなく、それを行う事ができたのである。
殊勲賞ものの大活躍である事に間違いない。何より可愛いし、そこが一番重要。
『ほっ、そうじゃそうじゃ。今ちぃとマズイ状況でのぉ。舞踏会の客等が皆やられてしまっとるんじゃ』

「な…ッ!!それってどーいう事ですかッ!アンリエッタさんはどうなってるんですッ!」
『これこれっ!声が大きい、敵に見つかってしまうぞ。キチンと説明するから落ち着きなさい』
更に康一は肩の使い魔を通してオスマンを問い詰めようとするが、さすがに今の状況は分かっている。
廊下に取り付けられたランプの灯火が揺れ、ぐにゃりと影が歪んだ。

康一は周囲を警戒しながら移動を続け、オスマンの話を聞く。
『どうやら今夜の舞踏会の食事か何かに痺れ薬のような毒が仕込んであったようでの。
それにやられて広間の者は殆ど倒れてしまっているらしい。ワシもその一人じゃよ。
しかしワシには毒が薄かったのか効き目が弱い。そのお陰で君とこうして使い魔を通し話ができているという訳じゃ。』

毒、どうやら死ぬような物ではないらしいが、しかしあまりにもタイミングが良すぎると康一は思った。
今夜マザリーニと共に資料庫へ行くと命を狙われた上に、アンリエッタの方ではこの騒ぎ。
これが別々の人間のやった事ならあまりにも偶然が過ぎる。つまり。
「同一人物か、もしくは同じグループの奴がやったのか…」

『同感じゃよ。ワシは倒れる直前に君の事を枢機卿から聞いての。
その話の途中で彼は何かに気づいたように慌てて何処かへ行ってしもうた。
それで毒に倒れてから彼が危険じゃと気付き、モートソグニルに居場所を探させとった』

そこで康一達が襲われているのを知り、モートソグニルに助けさせたという事か。
『恐らくエレオノール嬢も毒にやられたんじゃろうのぉ。
毒は効き目が遅いタイプだったのかは分からんが、広間を出た後に効果が出た。
それで今は君に巻き込まれ追われていると』

どうにもならない事もある。だが、それでもエレオノールを危険に晒すのは間違っている。
彼女は無関係だった。それを巻き込んでしまったのは他でもない康一自身。
ちくしょう、と康一はボソリと呟いた。だがそれでも、どうにかなる訳じゃあない。
今までにも何度かどうにもならない事を見てきたが、その度に康一はとてもとても寂しくなる。

寂しくて、そして悔しくなる。嫌なのだ。そんなのを見るのはとても嫌だ。
理由なんか無い。そう思うのは自分の本能で心なんだろう。
だからエレオノールを助けよう。深く考えた訳じゃあないが自然と決意した。
やれることはやる。そう心に決めていた。

『それでじゃの、姫殿下の事じゃが。今は体がゆうことを利かんので分からんのじゃ。
モートソグニルを行かせる前に見たものは、周りに幾人も人が倒れている程度での。スマンな』
「いえ、そっちで何が起こってるのか分かっただけでも充分です」
『シカシ、ソウナルト急ガナキャアナリマセンネ。お姫様ガ心配デス』

そしてマザリーニも一人足を負傷しながら追っ手から逃れられるか心配だ。
今すぐにでも駆けて行きたい所だが、しかしエレオノールを放って行く訳にもいかない。
彼女はぐったりとしており、身じろぎひとつしない。
このまま置いていくのは見殺しにするようなものだ。

「でも一つ分かんないのは、どーして今まで使えなかったルーンの能力が急に使えるようになったのかって事なんだけど…」
呟くように疑問を口にした康一。右手に刻まれたルーンが光っている。
先日タバサの使い魔シルフィードと言葉を交わしてから一度も発現しなかった能力が、
今になってどうして急に使えるようになったのか。それが分からなかった。

ピンチで新たな能力に目覚めるのは康一にはよくあった事だが、これは何か違う感じがする。
精神的な成長ならスタンドにも影響が現れている事だが、しかしそれは無い。
この能力で助かった訳ではあるが、不確定な能力というのは少し不気味でさえある。
康一はルーンの能力には発動条件があると考えていたが、いつの間にかその条件を満たしていたのか?
しかしその条件が不明ではいつ能力が使えなくなるのか分からない。どうしたものだろう。

悩む康一だが、思わぬ事に救いの手がACT3から差し伸べられた。
『康一様、チョットコレヲ見テ頂キタインデスガ』
「ん?」
救いの手の文字通りに、ACT3はその手を康一へと差し出す。

スタンドの透けたその手を、康一は見て、更に瞳を最大に見開き、凝視してから硬直。
「……え?何?何でッ!?」
『私モサッキ気ガ付イタバカリナンデスガネ、イツノ間ニカアリマシタ。
多分コレガ能力ヲ発現シテイル理由ナンジャアナイデショーカ?』

普段自分のスタンドをまじまじと見る事など無いために起こった偶然。
そして自分以外にスタンド使いがいない事で気付かれる事もなかった。
ACT3自身が見つけるしか、それに気付く手立てはなかった。
今日は襲われてから移動中も発現しっぱなしである為に、それに気付く事ができたのだ。

怪我の功名。本当にそうとしか言いようが無い。
『康一君…?君はさっきから誰と喋っとるんじゃね?』
「はッ!」
オスマンが微妙に不安気に康一へ問いかけた。

スタンドはスタンド使いにしか見る事ができない。
その為、オスマンには自分のスタンドと会話している康一が、コリャヤベーぜッ!みたいな感じに見える訳だ。
「いや、その、説明は難しいんですけど、ちょっと今重要な事が分かったんです」
『重要な事?』
康一は今ACT3から得た情報を魔法に詳しいであろうオスマンに伝えようと、肩にいるモートソグニルの方へ顔を向ける。そして。

ザグゥッ!

「…え?」
頬を鋭い風が凪いでいくのを康一は感じた。
その後に何かが切れたような、これもまた鋭い音が聞こえた。
それはすぐ目の前から聞こえてきた気がする。康一は横に向けていた顔をそちらにやった。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


杜王町で普通に暮らしていても一生の内、直に拝む事は無いかもしれない
しかし康一はこの異世界に来てから、正直見慣れてしまった感がある。
初めてメイジと戦った時に康一はコレを使いもした。
何度かアニエスや軍人の訓練を目撃した時にも使われていた。

剣だ。

長細い柄の部分が康一の顔面を捉えるように傾いで、廊下の床に突き刺さっている。
康一には一瞬、その様子が自分を威嚇している蛇のように見えた。
先ほどの鋭い何かが切れたような音は、つまりこの突き刺さった剣からでたのだろう。
そして康一の頬を汗が流れ落ちる。無意識に康一は頬を拭い、しかしそれが汗で無い事に気付く。
手の甲が赤く染まっていた。それが自分の血であると気付いた瞬間、頬の痛みを康一は自覚する。

「痛ッ!」
『康一様ッ!上デスッ!!』
ACT3の叫びが聞こえて、康一は言われた通り上を見上げた。
石造りの天井。そこから、何かが吊り下がっていた。

鋭い突起がツララのように何本も恐るべき速度で生えてくる。
鈍く輝く鋭い突起、康一はその正体を知る。
「………何で、剣が天井から生えてくるん、だ?」
あまりにも不可思議な光景に疑問が先に出た。

そして天井から剣の刀身が半ばまで生えた時、僅かにその成長が止まる。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいッ!」
『来よるぞ、康一君!』
僅かに成長を止めたのは、更なる爆発的な成長を手に入れる為の大きな助走。

僅か一夜で成長するような植物のように、剣は一瞬で完全に成長しきった。
その成長により、根を必要としなくなった剣は天より康一達へ降り注ぐッ!
「ACT3ッ!」
『ワカッテイマスッ!』

ACT3は腕に抱えたエレオノールを放り出し、降り注ぐ剣を拳で迎撃ッ!
『WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!』
最速で拳を繰り出し雨のような剣をACT3が砕く。しかし。
「マズ…ッ」
砕かれてもなお鋭く尖った剣の破片は落下を止めない。

足や腕が露出したドレスを着用しているエレオノールに、その破片が突き刺さればエライ事だ。
康一は倒れたエレオノールに慌てて、のしかかるようにして覆い被さる。
正直康一では身長が足りずに多少はみ出てしまう部分があるのだが、それでもやらないよりはマシだ。
ばらばら、と砕けた刀身の破片が康一の体に落ちてくる。

そして幾つかの鋭い破片が、康一の学ランに、突き立った。
破片と言えど剣であることには変わらない。
人間の背中に刃物が刺さった、血の気が引く光景。
落下の力を得た破片はそう簡単には止まらなかった。…だが。

「う、う……学ランが、丈夫で良かったよッ。いや丈夫だからこそ学生が着るのにいいのかなァ」
幸い丈夫な化学繊維の布地が、ギリギリで康一を守っていた。
友人の東方仗助は以前バイクで、病院のドアをガラスごとブチ破ってきた事があるが、しかし学ランにガラスが突き刺さってはいなかった。
無茶をするのが若い学生の特権なのか。ぶどうヶ丘高校の学ランはことさら頑丈だった。

「あ、確か、エレオノールさんだっけッ。大丈夫ですかッ!」
当然ながら毒にやられたエレオノールから返答は無い。
康一は肌が露出した部分をチラリと失礼にならない程度に見たが、目立った怪我は見当たらない。
どうやら、とりあえずは大丈夫らしい。

康一は体に付いた鏡のように自分の顔を綺麗に映し出す、剣の破片を払い落とす。
そしてエレオノールを抱き起こして、周りの状況を確認しようとした次の瞬間。
『康一君!また剣が降ってくるぞ―――ッ!!』
耳に届いた、必死なオスマンの叫び。

康一は即座にACT3を操作して宙から降り注ぐ剣を迎撃させる。
その間にエレオノールを抱えた康一は何とか攻撃から脱しようと試みた。
しかしエレオノールは比較的体重が軽い方だろうが、人一人を連れて逃げるというのはとても難しい。

そのためスタンドの操作は最低限にして、後はACT3の判断に任せる。
そうすれば意識を逃げる事に集中できる。今は攻撃から逃れる事が先決だった。
しかしエレオノールを引きずる康一の傍に、何本か降ってきた剣が突き立つ。
康一の顔をくっきりと映し出すほど、磨きぬかれた剣だ。正直な話、ゾッとしない。

「でも一体どこから攻撃してきてるんだッ。敵からこっちが見えるなら、こっちからも敵が見えなきゃあおかしいぞッ!」
康一が首を前後に振って廊下を見渡す。だが敵の姿は無い。
ここは遠くまで見渡せるほど、見通しのいい真っ直ぐな通路であるはずなのに、敵の姿はどこにも見えないのだ。
魔法は対象を視認しなければ正確に使う事は難しいと康一は聞いている。姿を消す魔法でもあるのだろうか。

しかしそんな事を考えても今の状況ではどうにもならない。
必死に全身を使ってエレオノールを引きずる康一だが、今にも剣はACT3の防御を超えてきそうだ。
これだけ切れ味が良さそうな剣に足でも貫かれれば、逃げ切る事は不可能に近くなる。
そもそも胴体をブチ抜かれれば、多分ショックで死んでしまうだろう。

康一はかなり追い詰められている事を自覚せざるを得なかった。
戦うにしても今敵がどこから攻撃してきているのかさえ分からない。
「それじゃあまともに戦う事もできないッ!」
必死でエレオノールを引きずって後ずさる康一に、背後を確認する暇など無かった。

どすん、と康一は背中が何かにブツかり、動きをせき止められてしまう。
壁があった。どうやら曲がり角だったらしい。
すぐに方向転換して康一は角を曲がる。すると、どうだろう。
「………攻撃が止んだ?」

あれだけ止めどなく降ってきた筈の剣が、唯の一本も降ってこない。
正確には曲がり角の方まで、剣は一本も飛んでこないのだ。
「もしかして、僕らの居場所が…分かってない?」
そして剣は何かを諦めたかのように降るのを止め、周囲に静寂が戻る。

『何デモイイデスケド、コノ隙ニ体勢を立テ直シマショウ』
「確かにそうだッ。早いとこマザリーニさんを追っかけないとッ」
ACT3にもエレオノールを運ぶのを手伝わせようかと、康一は思う。
だが。どうやら間隙は、本当に僅かな間でしかなかったようだ。

ザグンッ!

康一の肩が震えた。音の出どころを見る。
またしても、剣が床に突き刺さっていた。
揺れる明かりを受けて、剣の影がゆらゆら揺らぐ。
そして再び、攻撃は開始するッ!

「くそッ!またかッ!」
『マジデ鬱陶シイ奴デスネッ!』
再び剣が天井の石材から生成され、康一とエレオノールを襲うッ!
そして更に状況が悪化している事に康一は気が付いていた。それは、天井の高さ。

「ヤバイ事に曲がり角から天井が低くなっているッ!
天井が低くなったって事は、つまり落ちてくる剣を弾く為の時間が少なくなると言う事ッ!!」
ここよりも天井が高かった場所でさえ防ぐので精一杯だったのに、この場所では更に防御する為の時間が足りなくなってしまう。
非常にマズイ。これはすぐにでもACT3の防御を超えてくるッ!

このまま手数がこちらを超えたら、完全に押し切られる。
ACT2のしっぽ文字で防御しても、文字は一箇所にしか貼り付けられない。
貼り付けた文字は回収しなければならないのだ。
それでは自分達、二人を守りきる事はできない。

康一は廊下の先を振り返って見る。
「…そうかッ!この廊下ってここに通じてたのかッ!」
廊下を少し進んだ先にドアが見えた。数日前にアンリエッタとアニエスが入っていった部屋だ。
近くに他にドアは無い。一旦あそこに逃げ込むしかないッ!

「早く…ッ!早くッ!」
『S・H・I・T!!』
康一もACT3も全力で力をつぎ込む。全力。だが。
少しだけ足りない。本当に少しだけ足りない。

ホンのちっぽけな時間があれば逃げ込めるのに、その時間が足りないのだ。
数秒の時間でいいのだ。それだけあれば、あのドアの向こうに逃げ込めるのにッ。
誰かが手を貸してくれるだけでいいのにッ!
誰かがドアを開けてくれれば、それでイイのにッ!

『早くこっちへ逃げ込むんじゃ!康一君っ!!』
そして、声と同時に、ドアが開いた。
康一が声のする方を見ると、ドアノブに何か小さなもぞもぞするモノがくっついている。
小さくて、白い、しっぽのある動物。

「オスマンさんッ!」
モートソグニルの体を通してオスマンが康一へ叫んでいた。
『HO!チョット、カッコイイトコロ見セスギジャアナインデスカネ?』
康一の視線を通して見ていたACT3がぼやいた。

そしてACT3は更にスピードを上げて落下してくる剣を叩き落す。
少しだが康一に活力が戻ってきたのだ。スタンドは精神の力。
つまり精神力が強ければ強いほど、スタンドの力も上がってくるッ!

康一は開いたドアからエレオノールを力を振り絞って部屋の中へと引き込む。
そしてエレオノールの体が全て部屋の中へ収まった時、すかさずACT3がドアを閉めた。
部屋の外でドカドカ鳴っている音が次第に弱まり、遂には止んでしまった。
それを確認した康一は尻餅をつくように、どんっと勢いよくへたり込んだ。

「はああぁああぁ…危なかった―――。
ホント助かりましたよ。オスマンさん、モートソグニルも」
『礼には及ばんよ。ワシは学院長なんでのー、若いモンを助けるのが仕事じゃよ』
その言葉の後にチュッチュと鳴いた。後の方はモートソグニルだったようだ。

『しかしここは…』
「ええ、仕立て部屋らしいです」
部屋の中に一面に置かれた衣装の数々。
ほぼ全てが、城の主アンリエッタの持ち物なのであろう。

この前、今夜の舞踏会用のドレスの為にアンリエッタが来た場所。
そしてアニエスを酷く傷心させた、忌まわしき場所。
数日前に来たとき入室はしなかったため、中の様子を見るのはこれが始めてだった。
しかし女物の服ばかりなので、康一の気分は女性服売り場に来たような感じで微妙に気恥ずかしい。

(あ、何かハンガーの首の辺りにハートの飾りが付いたのがある…
でも明らかにあの服、アンリエッタさんの趣味っぽくないんだけど何で置いてあるんだろう?)
しかも何だかあの服から邪悪な気配がプンプンしてくる。
嫌な予感がするので康一はこれ以上あの服の事を深く考えるのは止めた。

部屋の中を見回してみると大きな姿見の鏡がある。
あとは座って化粧をする為だろう、豪奢な鏡台もあった。
鏡台の上に裁縫用の糸だろうか、芯に巻きつけられたそれが出しっぱなしにしてある。
今日の舞踏会の為に誰かが使ったのかもしれない。

康一は特に危険は無いようだと確認して、長い竿でドレスが大量に吊られている影にエレオノールを引き込んだ。
これは康一がここなら敵に見つかりにくいかもしれないと思ってである。
康一自身もその影に隠れて、小さなモートソグニルも康一の肩に飛び乗る。
何とか一息つけそうだが、実際はそうも言っていられない。

『問題はこれからどうするかっちゅう事じゃ。早ようせんとここも危ないじゃろう』
オスマンの言う通り、確かに今は攻撃が止んでいるが、またいつ始まるかは分からない。
数分か。それとも数秒かも分からないのだ。
「そーですね。とりあえず状況を整理してみましょう。
この攻撃をしてきてる敵は土のメイジなんですかね、オスマンさん?」

石造りの天井から剣を生成しての攻撃。思いつくのはそれしかない。
『ああ間違いないじゃろうの。この攻撃密度と回数からしてトライアングルクラスではなかろうかな?
「錬金」を使った回数や精神力の総量からして敵もそろそろ余裕がなくなってくる頃じゃ。もうひと踏ん張りって感じじゃな』
確かに敵は余りに攻撃にエネルギーを使いすぎていた。つまり逆に言うと。

「まだ、何か仕掛けてくるって事ですよね」
『…君、本当に戦い慣れとるのー』
この若さで、この判断力。どれだけ修羅場を潜ったのかオスマンにも想像できない。
だてに康一はスタンド使いをやっている訳ではないのだ。

「けど問題が一つ。オスマンさん、攻撃されている時に何処かに敵の姿なんかを見ました?
姿じゃあなくても、何か不自然な物音だったり、気配だったり」
康一の言いたい事はオスマンにも分かっている。
仮にも偉大な魔法使いと謳われるオスマンがそれに気が付かない筈がなかった。

『……康一君、君はネズミという種に関してどの位の事を知っているかね?』
「は…?ネズミですか?何で、いや、そーいえば」
ネズミというキーワードで康一は前に仗助から、愚痴混じりで聞かされた話を思い出した。
曰くイキナリ承太郎さんが自分の元を尋ねてきて、ネズミ狩りをする為に連れ出された事。

そのネズミは矢で貫かれたスタンド使いのネズミで、恐ろしいほどの知恵と感覚を持っていたと、仗助は話してくれた。
それは何百mも先に人間がいる事を簡単に察知して、人間が仕掛けた罠を逆に利用するほど頭が良かったとか。
そして何より重要なのが、ネズミの追跡中に水溜りでバリーの靴とミスタージュンコの靴下を泥まみれにされた事を、涙ながらに仗助は語ったのだ。

最後はカナリどうでもいいが、オスマンは康一がそれに気付いた事で再び語りだす。
『その様子じゃと少しはネズミの生態の事も知っているようじゃのぉ。
ネズミには人間や他の生物が自分から何百m先にいるか、そして何をしているかなど簡単に見通す、
超感覚ともいっていいじゃろう、恐ろしいまでの鋭敏な感覚を持っておる』

息を呑む康一。
「ならその鋭い感覚を使って、敵の位置を調べられるんですかッ」
フッフッフッ、と明らかにオスマンがもったいぶって笑う。
コノ野郎…さっさと言え、と康一は思うがさすがにそこは我慢。そして。

『ゴメン。無理』
………康一は、切れた。康一の中で張り詰めていたものがプツンと音を立てて切れた。
怒りの意思を受けたACT3がモートソグニルに拳で触れた。
『(カナリ手加減シテ)3・FREEZEッ!』

『えっ!お、重いっ!!何、ナンじゃァっ!!』
対象を超重くする3・FREEZEの能力。
かなり加減しているがハツカネズミがその重さに打ち勝つことは不可能だ。
よってモートソグニルは重さに耐えかね、床へと落下。

『ふぎゃっ』
べしゃっ、と床に落ちて身悶えるモートソグニル。
現在オスマンはモートソグニルと感覚を共有しているために、ブッ倒れている自分の体にも重さが伝わっている事だろう。

康一はちょっと静かに、何気ない感じで言う。
「モートソグニルには恨みは無いんだけど。メイジと使い魔は一心同体って言うし。まぁ、堪えてよ」
3・FREEZEので拘束されたオスマンにはまさしく恐怖の言葉。
『すまんかった!ちゃんと無理なのには理由があるんじゃ!だから潰さんといてェ―――ッ!!』

自分に掛かる重さが康一によるものだと理解したオスマンは、慌てて叫んだ。
康一はふぅと小さくため息をついて、3・FREEZEを解除。
『おおうっ!』
必死で重さに耐え体を起こそうとしていたモートソグニルが、急に重さが無くなってコロリと転がった。
「うふふ……。ジョーダン、ほんのジョーダンですって。で、何なんです?無理な理由って?」

くしくし、と顔をさすってオスマンが話す。心なしか声が震えていた。
『簡単に話すと、確かにワシらを狙っておるメイジが、ここらの何処かに居る事は確かなんじゃよ。
それはモートソグニルの感覚で感じ取っている確かな事じゃ。
しかし何故かこの辺りに居る事は分かっても、正確な位置が掴めんのじゃ。これは間違いない』

オスマンの言う事に多少疑問を康一は覚える。
「それは、つまり、魔法で気配を殺してるとか、そういう事なんですか?」
『そんな魔法は聞いた事が無いが、広い世界じゃからそんな魔法もあるかもしれん。
しかしこのメイジが都合良く、そんな魔法を知っているとも思えん』

つまりそれは敵の行動が関係しているのか?それとも何か別の理由があるのか?
「もう一度確認しときますけど、この辺りに敵が居る事は確かなんですね?」
『ああ。それは死人でもないかぎり間違いないぞい』
ふむ、と康一は眉根を寄せてとりあえず今とるべき行動を決める。

「よし。エコーズACT1!」
康一の背後に長いしっぽを持つスタンドが現れた。
まずは周囲をACT1で偵察して、敵の居所を掴もうという事である。
そしてACT1は壁をすり抜け、剣の突き立った廊下を飛行して幾つもの部屋を調べていく。

「今僕の能力でこの辺りを調べてますけど、でもこれで敵が見つけられると思いますか?
魔法ってのは目で見るか、対象の位置が分かんないと正確には使えないんでしたよね」
康一にとって今一番の謎はそこだ。
こちらから敵を見つける事ができないのに、なぜ敵は康一達の位置が分かるのか?

『それはワシも気になってたんじゃよ。攻撃を受けた際、何処にも敵のメイジの姿は見当たらんかった。
このワシの使い魔、モートソグニルのネズミが持つ超感覚を使ってさえ居所が掴めん…』
魔法は目視、または対象を設定しなければ正確な魔法は使えないというのにじゃ』
魔法の知恵袋であるオスマンでさえ、この謎が分からない。

『可能性としては今のワシのように使い魔の視覚を通じてこっちを見ているとか。
それに敵は土のメイジじゃ。土のメイジには馴染んだ大地を知る力を持つ者もおる。
その力を使い城の石材などから、こちらの位置を割り出してるという事も考えられる。
この敵はしばらく城の牢屋に閉じ込められておったからのぉ。城と馴染む時間はあったかもしれん』

だがこの可能性には穴がある。それはオスマンも承知していた。
「でもそれだと敵の使い魔がモートソグニルの感覚に引っかからないのはおかしいですね。
生き物の数も分かるんでしょう?」
『ああ、今周囲に感じるのは一つのみじゃ』

「それに土のメイジって言っても、杖もなしに城と自分を馴染ませるなんて事できないんじゃあないですか?」
『そうなんじゃよなぁ。一応脱獄する前から杖を隠し持っていたとか、苦しい理由なら説明がつくんじゃが』
どうも二つとも怪しい感じだ。しかしそれぐらいしかオスマンには思いつかない。

そうこうする内に、ACT1は周囲50mを調べつくしてしまった。
ACT1の射程距離外にいるのか。それともACT1にも見つからないほど、うまく隠れているのか。
どちらかというと康一は隠れているんじゃあないかと感じた。
「でも案外悪くないんだよなァ」

康一の主語が無い言葉。
『何がじゃね?』とオスマンは聞いた。
「いや、さっきオスマンさん使い魔の目で見ているって言ったじゃあないですか。
それなんですよ。目で見ているってのは案外悪くない感じなんですよ」

オスマンの代わりにモートソグニルが首をかしげた。
『どーいうことじゃね?ワシには言っとる意味がよく分からんのじゃが…』
「だから直接敵はこっちをみているんじゃあないかって事なんです。
オスマンさん、僕達が角を曲がった時にちょっと攻撃が止まったじゃあないですか。何でだと思います?」

問われてオスマンは詰まった。確かにそうだ。なぜ攻撃が止まったのか。
答えられないオスマンに康一は自分の考えを明かす。
「多分あの時、敵は少しの間でしたけど僕たちの位置を見失ったんです。
そうじゃないと今まで正確に僕たちを狙ってた敵が、急に攻撃を外す理由が無い」

つまり角を曲がった事で、視界から康一たちが消えて攻撃を外したという事か。
『確かに…言われて見ればそうじゃが。たとえそうだとしても、何処から見ているのかが分からん。
敵が何処からこちらを覗いているのか分からなければ打つ手が無いぞい』
そもそも敵が自分の目で康一たちを見ているとすれば、居場所はすぐ近くだ。

そんな場所にいる敵に気付かない筈が無いのに。
「何か見落としがあるはずなんです。その見落としがあったから、今こうして狙われているんです。
きっかけがあればスグにでも謎が解ける筈なんだっ」
康一の面持ちが俄かに鋭くなり、体に力がこもった、その時。

カチャン。

「ん?」『何じゃ?』
背後で物音がした。康一は振り向いて見る。
「ああ、これって。さっき砕いた剣の欠片がまだ服にくっついてたみたいですね」
康一は床に落ちていた、磨きぬかれた金属の欠片を手に取った。

「こうして見ると結構綺麗なモンなんですけど」
確かに窓から差し込む僅かな月明かりを反射して輝く姿は、中々味があるようにも見える。
これで形が整っていれば装飾品に見えなくもないだろう。
しかし何気なく欠片を眺めていた康一が、はたとして呼吸を止める。

「……もしかして、そんな単純な事?」
『どうしたんじゃね?』
オスマンが康一の雰囲気を察して尋ねた。
「いやでも、なんか、僕たち、ちょっと深く考えすぎてたのかもしれないですよ」

少し拍子抜けしてしまったような康一の物言いにオスマンは眉をひそめるばかりだ。
そして康一は静かにこう言った。
「オスマンさんたちに、ちょっとばかり頼みたい事があるんですけど」




「さーてと、ここにエレオノールさんを置いていくのは気が引けるんだけど。
僕と一緒じゃあ危ないからしょーがないかぁ」
康一は倒れるエレオノールを周りの衣装で隠した。
作戦では一人で身軽に動く必要があり、それにはエレオノールを一人にするしかないからだ。

すでに腹は決まっている。康一は背後にスタンドを発現させた。
そして僅かに一呼吸置いて、走った。
ドアを蹴り破るように開けて、脇目も降らず康一は廊下を駆け抜ける。
同時に剣が天井から不気味に生えてきた。

「さすがにこれで僕を倒せるとかは思ってないだろうけどね」
身に降りかかる殺意のこもった剣雨の嵐。
しかし康一はそれをスタンドで防御することもなく回避。
何度も見た攻撃など、身軽になった康一には簡単に避けられた。

しかし剣の雨は尽きない。それどころか更に数を増して降りかかってくる。
「まだまだッ!」
康一は更に加速。そして身を投げ出すように剣からのがれる。
さすがに何本かは康一の体を掠めるが浅い傷だ。

しかし足は止めない。まだ走っていなくては、この敵は倒せない。
そして先へと進もうとしたその時、康一は足元の異変に気付いた。
「これは…ッ!」
それは鋼で出来た模造の樹木のように見える。

だが枝の成長の速度が半端ではない。樹の命を削るかのような、激しい成長。
何と康一が今回避した剣から、新たな剣が枝のように伸びているのだ。
幾つもの床に突き立った剣から伸びる剣。
それは康一の行く手を阻むように康一を取り囲む。

何か仕掛けてくるだろうとは予想していた康一だが、さすがに意表を突かれた。
今まで上からの攻撃に気を配っていた神経は、下からの攻撃には対処しづらい。
だがここで止まっていては良い的にしかならない。
「これはさすがに覚悟を決めるしかないかな~~~~ッ!!」
いつの間にか床には剣の枝が張り巡らされているが、康一は負傷は覚悟で跳躍した。

「だあああッ!」
何とか剣の枝が少ない場所を見つけて跳んだが、負傷が無いわけではなかった。
叫びで痛みを誤魔化すものの、体を防御した腕や肩から血が滴る。
だが幸い行動不能ではない。

体を起こして周囲を見ると、今度は剣の樹木から葉っぱが生えていた。
さすがに見間違いかとも思ったが、どうにもこれは現実だった。
「剣の枝から、幾つも小さな剣が…生えてきてる」
短剣ともいえない小さな刃が、剣の枝から葉っぱのように無数に突き出ているのだ。

城の廊下に生まれた無数の剣樹。こんな時でなければ、中々圧巻の光景だ。
康一の判断は早かった。即座にその場に臥せて頭部を防御。そして。
音も無く、小さい無数の刃が剣樹から打ち出された。
いくらスタンドがあってもコレだけの数の刃を叩き落すなど早々出来るものではなかった。

「アグッ!」
一応スタンドで防御はしたものの、この形態では体の重要な部分を守るのが精一杯。
守りきれなかった部分は幾つもの刃が突き刺さった。
一つ一つは小さい刃だが、数が集まればコレほど殺傷力に優れたものへと変わる。
康一はとっさに伏せたため、背中に刃が多く刺さって、まさにハリネズミと化していた。

「でも確かに、すごく痛いんだけど、死ぬほどの事じゃあない……」
痛みを堪えて康一は呟き、体をゆっくりと起こした。
血がだらだらと垂れていて、本当に見るに耐えない有様だった。
しかし立つこともできないのか、その場で力なく座り込んでしまう。

「でも痛いことは痛いし、何か今日は散々な感じだよなァ」
ぼやくような雰囲気でため息も吐きつつ、康一は言った。
その間にも天井から鋭い長剣が生成され、止めをささんと狙いをつける。
だがそんな事は気にもせずに、康一は自分の手元を見た。

康一の右手の中でコロコロと回る『糸巻き』がそこにはあった。
そしてその回転が止まって、何処に伸びているのか分からない糸の先から、
康一は確かに頼みを果たしたという意思が届いたのを感じた。

「でもこの右手の能力って結構便利だよね。動物相手にこんな糸電話みたいな事までできるだなんて」
言った康一は自分の右手に重なるスタンド『ACT1の右手』を見る。
そのACT1の右手に刻まれた、康一と同じ文様のルーン。
二つのルーンは共鳴するかのように、ぼんやりと明るく輝いていた。

「それじゃあ問題なく敵の居場所を見つけられたんですね、オスマンさん」
『おお、君の言うとおりじゃったよ。今こやつの足に糸を巻きつけてやったぞい』
糸を伝わりオスマンの声がACT1の右手を通して康一に流れ込む。
この糸は仕立て部屋の鏡台の上に置いてあった物だ。

それを糸電話のようにして康一はオスマンと会話をしていた。
「スタンド能力を発現して初めて右手のルーンは発現する。
これって僕がスタンド使いだったから、こういう発現の条件ができちゃったのかな?
まぁ、今はあんまり気にしないでイイか」

敵から攻撃される直前にACT3から聞かされたのはこの事だった。
スタンドの右手を通してルーンの能力が発現する。
単純なようで意外と気付かない盲点。
それはこの敵がどうやって康一たちを捉えていたのかにも当てはまる。

康一は自分の傍に突き立つ剣の、磨きぬかれた自分の顔さえ映す刀身を見た。
その映りこんだ自分は、また別の刀身へと映りこみ、また別へと映る。まるで万華鏡のように。
「反射なんだッ。まるで合わせ鏡みたいに、自分が攻撃するのに使った剣の刀身に映りこんだ、僕たちを見ていたんだッ!
反射を繰り返した剣に映った僕たちを何処からか見て攻撃してきたッ。
僕たちには敵の居場所は分からない。でもッ!反射を繰り返しているなら、僕たちも反射させればいいッ!」

康一の傍らに浮遊するエコーズACT1の能力は音を操る事。
数多くの剣の群れの中から、自分の姿を敵の元へと届ける一本を探し出すなど、この短時間では不可能。
しかし何も反射するのは姿だけではない。音もそれは同じ事。
正確に合わせ鏡のように、角度を合わせて反射を繰り返すなら、音もその反射に乗せる事が出来る。

しかしヘタに音を反射させては敵に気付かれる恐れもあり、何より戦闘中に音の反射を繰り返す剣を見つける事は難しかった。
だから康一はオスマンたちに頼んだのだ。人間を遥かに超える感覚を持つ。
オスマンとモートソグニルなら、音の反射を捉えて敵の居場所を発見できる。
そのために康一は自分の体のみで剣をかわし、発見するまでの時間を稼いでいたのだ。

「でもさすがにスタンド無しで真剣を避けるとかは二度としたくないなぁ」
『おっ!どうやら、こやつが自分に巻きついた糸に気がついたらしい。早くとどめを刺してやれい!』
オスマンが状況を知らせてくれる。そろそろ決着の時だ。
「分かってますよ。エコーズACT2ッ!!」

康一の傍らに形態を変えたACT2が現れた。
しっぽ文字に「ドッグォンッ」と爆発音の文字を記す。
そしてACT2はそのしっぽ文字を康一の手から伸びる糸に貼り付けた。
糸は音の効果を表し、まるで爆弾の導火線のように、糸が巻きつけられたモノにエネルギーは向かう。

ただ連絡を取り合うためだけに、康一は糸を用いていた訳ではない。
敵を見つけたならばスグに反撃を加えられるように。
敵と直接繋がる糸で音の効果を伝えられるようにするためだった。
音の伝わる速度は半端ではない。敵は糸を足から外す間もなく、そして――炸裂。

ドッグォォンッッ!!!

けたたましい炸裂音を響かせ、康一は自分の能力が届いた事を肌で感じた。
ばらばら、と少し前方で崩れ落ちる廊下の壁。その中から覗いた、囚人服のメイジの姿。
つまり魔法を使って、壁の中に空洞でも作り隠れていたのだ。まるでモグラのように。
「なるほど。確かにそれならACT1の目から隠れていられる。
色々間違えてるけど、その執念深さは本当に凄いと思うよ。いや、ホント」

体の芯を失って、崩れ落ちるメイジ。足に巻きついていた糸は爆発音の衝撃で千切れとんでいた。
それを見た康一はゆっくりと体を起こして立ち上がる。
「あたたた…。エライ時間とられちゃった。コイツはとりあえずほっといて、早くマザリーニさんの所へ行かなきゃあ」
康一は倒れるメイジに背を向けて、突き立つ剣を掻き分けて進む。

だが、僅かに背後のメイジの指がピクンと動き。その血走った目が、皿のように見開かれた。
「きいいいいイィィィィええええエエエエエエエエエエッッ!!」
耳を、食い破るかのような奇声を上げて、待機中だった魔法が発動。
康一の頭上で半ばまで生成されていた剣が、再び動き出す。
そして剣が康一をまた襲おうかという、その時。

ドッグォォンッッ!!!

再び、炸裂。
「アッバッダアアアアッ!!」
爆発音を受けて、またもや吹き飛ぶメイジ。
その足には康一の、左手から伸びる糸が巻きついていた。
ずん、とメイジが廊下に沈む。

康一はそれを振り向きもせずに進みながら言った。
「気絶してるんなら、ほっといてもいいかと思ったけど、そのまま大人しくしてないんじゃあしょーがないよね」
そして右手と左手から一個づつ糸巻きを手放す。
その光景を廊下の隅っこで、オスマンとモートソグニルはじっと見ていた。

(嘘つきおって。はなっから、気絶しようがしまいが必ず二発目をくらわせる気だったんじゃろうが……
康一君。本気で頼りになるが、同じぐらい本気で恐ろしい奴じゃよ)
こうしてオスマンの絶対逆らってはならない人物像で、はれて康一はトップに輝く。
そしてモートソグニルは動物的な勘で、康一の事をオスマンより上の存在と認識するようになった。

オスマンとモートソグニルは慎重な協議の上、微妙に距離をとってから康一の後を追っていった。


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