ラ・ロシェールからタルブ村へと続く一本の細い街道。
その街道沿いに、タルブの村からおよそ二時間の距離。
その街道沿いに、タルブの村からおよそ二時間の距離。
そこに、森がある。
この森から、タルブの村人は多種多様の山菜を採取し、村の郷土料理『ヨシェナベ』の材料としていた。
しかし、近頃はこの村に多量のオーク共が出没するようになり、村人はだれもその森に足を踏み入れようとはしなくなっている。
この森から、タルブの村人は多種多様の山菜を採取し、村の郷土料理『ヨシェナベ』の材料としていた。
しかし、近頃はこの村に多量のオーク共が出没するようになり、村人はだれもその森に足を踏み入れようとはしなくなっている。
一度は地元の領主が討伐を試み、ある程度は成功したものの、その野豚共のあまりの数に。さすがの領主も手を焼き、いまだ森は人の手に取り戻されていない。かの森は、いまだオークの天下にあった。
正午。
いつもならばオークが森の奥に篭り、昼寝をしているころ。
オークたちは、この時間帯ならば活発な活動をしないため、旅商人などは、この時間帯に街道をタルブやラ・ロシェールへと駆けていく。
どうか、自分だけは襲われない様に、と願いながら。
いつもならばオークが森の奥に篭り、昼寝をしているころ。
オークたちは、この時間帯ならば活発な活動をしないため、旅商人などは、この時間帯に街道をタルブやラ・ロシェールへと駆けていく。
どうか、自分だけは襲われない様に、と願いながら。
だが。
この日は違った。
いつもは静寂に満ちた森にオークの怒号が響き渡る。
その声の様子たるや、尋常ではない。
この日は違った。
いつもは静寂に満ちた森にオークの怒号が響き渡る。
その声の様子たるや、尋常ではない。
彼らはすべからく怒り狂っていた。
彼らに襲い掛かった、一人の中年のメイジに、血みどろの復讐を果たそうと。
彼らに襲い掛かった、一人の中年のメイジに、血みどろの復讐を果たそうと。
「ファイアーボール」
その中年の男は、自身の敏捷な体ごなしを、群がるオーク共に見せ付けながらつぶやく。
顔を焦がされて一匹のオークがもだえ苦しむ。その隣を、もう一匹のオークが男に襲いかかった。
そのオークが振るってきた棍棒を、男は僅差で回避する。
同時に、オークに対して、全体重をかけて当身を食らわせた。
その中年の男は、自身の敏捷な体ごなしを、群がるオーク共に見せ付けながらつぶやく。
顔を焦がされて一匹のオークがもだえ苦しむ。その隣を、もう一匹のオークが男に襲いかかった。
そのオークが振るってきた棍棒を、男は僅差で回避する。
同時に、オークに対して、全体重をかけて当身を食らわせた。
オークの全長は二メイルほど。無論、男が当身を食らわせても気絶することはない。
だが、攻撃動作中のオークは重心をずらされ、そのオークは背後にいる仲間もろとも無残に転げ回っていった。
その過程で、彼らが装備していた斧などの武器が、彼ら自身に凶器となって襲い掛かる。
だが、攻撃動作中のオークは重心をずらされ、そのオークは背後にいる仲間もろとも無残に転げ回っていった。
その過程で、彼らが装備していた斧などの武器が、彼ら自身に凶器となって襲い掛かる。
「グオオオオオッ!!!!!」
頭目らしきオークが憤りのあまり叫び声を上げた。
もし彼らが人の解す言葉を話していたのであれば、次のような台詞をはいていたことだろう。
「そんな、ばかな」と。
もし彼らが人の解す言葉を話していたのであれば、次のような台詞をはいていたことだろう。
「そんな、ばかな」と。
ふつう、メイジとの戦いは一瞬で決まる。おれたちがやるか、おれたちがやられるかだ。
つまり、メイジの攻撃が成功すれば、おれたちは成す術もなく死ぬ。
失敗すれば、メイジをおれたちが嬲り殺す。
おれたちは生きている。だから、あのメイジの攻撃は失敗したはずだ。
なのに、なぜあのメイジは、まだ生きている? なぜ、おれたちの攻撃がかわされている?
もう、おれたちのなかで戦えるものはほとんどいない。
つまり、メイジの攻撃が成功すれば、おれたちは成す術もなく死ぬ。
失敗すれば、メイジをおれたちが嬲り殺す。
おれたちは生きている。だから、あのメイジの攻撃は失敗したはずだ。
なのに、なぜあのメイジは、まだ生きている? なぜ、おれたちの攻撃がかわされている?
もう、おれたちのなかで戦えるものはほとんどいない。
オークの頭目が、足りない知能を必死に絞っているとき、そいつには、その場に到底ふさわしくない間の抜けた少女の声が聞こえた。
「すごいですね……ミスタ・コルベールは……」
黒髪の少女、シエスタがつぶやいた。
「すごいですね……ミスタ・コルベールは……」
黒髪の少女、シエスタがつぶやいた。
よく見ると、中年の男の後を、二人の男と少女がついてきている。そいつらは闘っていない。
なんだ? あいつら?
それに一瞬気をとられたオークの頭目は、男の魔法によって、無残にも利き腕を折られてしまった。
「グガァァアア!!!」
なんだ? あいつら?
それに一瞬気をとられたオークの頭目は、男の魔法によって、無残にも利き腕を折られてしまった。
「グガァァアア!!!」
そう。いま、オークの集団を相手に、一方的に戦っている男は。
頭脳と頭皮が冴え渡った男、コルベールである。
頭脳と頭皮が冴え渡った男、コルベールである。
かの男こそ、トリステイン学院が、飼い殺……才能の無駄遣……
もとい、ひそやかにあふれ出でる才能を在野で役立てている男だ。
もとい、ひそやかにあふれ出でる才能を在野で役立てている男だ。
「ああ。あいつは、たいしたタマらしいな」
「ええ、オークが相手だけに、豚(トン)でもない……なんちゃって……」
「ええ、オークが相手だけに、豚(トン)でもない……なんちゃって……」
「ははは、おもしろいなぁ……」
「そうでしょう…そうでしょうとも…」
「そうでしょう…そうでしょうとも…」
「……聞かなかったことにしといてやるよ」
「……ありがとうございます。露伴さん」
「……ありがとうございます。露伴さん」
露伴とシエスタはコルベールの歩いてくる後をついていっている。
二人とコルベールとの間には、無数のオークが横たわって、うなり声を上げていた。
すべて、コルベールが戦闘不能にしたものだ。しかし、死亡したオークは誰一人としていない。
それらがいつ動き出してもおかしくない状況の中、露伴は臆せずにあたりを観察していた。
二人とコルベールとの間には、無数のオークが横たわって、うなり声を上げていた。
すべて、コルベールが戦闘不能にしたものだ。しかし、死亡したオークは誰一人としていない。
それらがいつ動き出してもおかしくない状況の中、露伴は臆せずにあたりを観察していた。
露伴は、シエスタの前に立ち、横たわったオークの顔に向かって、何かを描く動作をして見せていた。
シエスタは露伴にくっつく様に、うめき声をあげるオーク達を見下ろしている。
しかし、オークに囲まれている状況なのに、彼女には警戒心があまり働いていない。おびえてはいたが。
シエスタは露伴にくっつく様に、うめき声をあげるオーク達を見下ろしている。
しかし、オークに囲まれている状況なのに、彼女には警戒心があまり働いていない。おびえてはいたが。
「『私は人を襲いません。人の気配を感じたら逃げ出したくなります』……と。これで何匹目だ?」
「たぶん百匹は超えていると思いますよ……」
「おい、コルベール。あとどのくらいいる?」
「たぶん百匹は超えていると思いますよ……」
「おい、コルベール。あとどのくらいいる?」
「私のほうは終わりましたよ」
コルベールは、光る額にかいた汗を、自前のハンケチで吹きながら返事をした。
彼は実にいい表情をしている。
「あなたが処置を施していないのは、あと三十匹ほどですな」
コルベールは、光る額にかいた汗を、自前のハンケチで吹きながら返事をした。
彼は実にいい表情をしている。
「あなたが処置を施していないのは、あと三十匹ほどですな」
露伴がうんざりした様子でうなずき返す。
「こんな面倒なまねをしなくとも……君の魔法なら森ごと一掃できるだろうに……」
「こんな面倒なまねをしなくとも……君の魔法なら森ごと一掃できるだろうに……」
コルベールは驚いた様子で露伴に向き直った。彼の体から、熱気がムンムンと沸いて出ている。
彼が可憐な少女でもあれば、絵にもなったであろうが。残念ながら彼は中年の男だ。
「とんでもない! オークといえども生きとし生けるものです。私はね、ミスタ・露伴。たとえオークといえども、無駄に命をとらない。そう決めているのですよ」
「そうかい」
「それに、オークは本来雑食の生き物です。人を食さなくても、この森ならば十分生きて生けますよ」
これ、豆知識ね、とばかりに付け足す姿は、まさしく教職にふさわしい態度であった。
先ほどの、戦闘鬼(ワーオーグル)すら足踏みさせるほどの殺気は、当の昔に霧散している。
彼が可憐な少女でもあれば、絵にもなったであろうが。残念ながら彼は中年の男だ。
「とんでもない! オークといえども生きとし生けるものです。私はね、ミスタ・露伴。たとえオークといえども、無駄に命をとらない。そう決めているのですよ」
「そうかい」
「それに、オークは本来雑食の生き物です。人を食さなくても、この森ならば十分生きて生けますよ」
これ、豆知識ね、とばかりに付け足す姿は、まさしく教職にふさわしい態度であった。
先ほどの、戦闘鬼(ワーオーグル)すら足踏みさせるほどの殺気は、当の昔に霧散している。
「そうですよぉ。それに、森を焼き払ったら山菜が採れなくなってしまいます!」
シエスタは両方の頬を膨らませながら、メッと露伴のおでこをを小突いた。
シエスタは両方の頬を膨らませながら、メッと露伴のおでこをを小突いた。
そう、シエスタの言うとおり、彼らがこのような行動をしているのは、タルブの村人が再び山菜を取れるようにするためだ。
「これで、例の『竜の羽衣』が無事学院につくのだね!」
コルベールが念を押すように、シエスタに語りかけた。
「はい、村の皆さんも協力してくれますし。村の牛や馬で引いてくれるそうです」
「これで、例の『竜の羽衣』が無事学院につくのだね!」
コルベールが念を押すように、シエスタに語りかけた。
「はい、村の皆さんも協力してくれますし。村の牛や馬で引いてくれるそうです」
彼らがこのような場所でこのようなまねをしているわけは、昨日の夕方に起こった出来事を語るべきであろう。
To Be Continued...