ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ねことダメなまほうつかい-4

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匿名ユーザー

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 アニエスはワルド子爵を見ておどろきました。
 なにしろワルド子爵は国を裏切ったのがバレて捕まり、今は牢屋にいるはずなのです。
 おどろいて立ち止まったアニエスに向けて、ワルド子爵は呪文を唱えて杖を向けます。
 それを見たアニエスも慌てて銃をかまえますが、その横をキュルケが走りぬけて
 ワルド子爵に向かっていきました。
 そして、走りながらキュルケはワルド子爵に杖を投げつけたのです。
 これにはワルド子爵と、そしてアニエスもおどろきました。
 魔法使いは杖がないと魔法を使えないのですから、ふたりがおどろくのも当然です。
 投げられた杖をおどろきながらも避けましたが、それでワルド子爵は一手遅れてしまいました。

「てめえェェェ!邪魔だッ!どきやがれェェーーッ!!」
「ギニャアァーー!!」

 あっというまの出来事でした。
 キュルケがワルド子爵から杖を取りあげて桟橋から蹴り落としてしまったのです。
 風の魔法に定評のあるワルド子爵でも杖がなくては魔法は使えません。
 ワルド子爵は叫び声をあげながら桟橋から落ちていきました。
 しばらくするとドグシャァァッという、とてもいやな音が地面から聞こえてきます。
 キュルケは自分の杖をひろうと地面を見ながらザマーミロと笑い、アニエスは銃をかまえたまま
 固まってしまいました。
 キュルケを見たタバサは無表情に、ルイズとギーシュはあいまいな笑みを浮かべました。

 ルイズは猫草を抱えながら階段を登ってきたのでとても疲れてしまいました。
 ですから、すこしだけ休もうと猫草をそっと床に降ろしたのですが、それが間違いでした。
 猫草を降ろしたとたんに大きな影がルイズをさらってしまったのです。
 その影はからだの半分がワシで半分がライオンでできているグリフォンという動物のものでした。
 グリフォンはルイズを捕まえてあっというまに飛びさってしまいます。
 その背中には、キュルケに蹴り飛ばされて地面に落ちたワルド子爵が乗っていました。

「…偏在」

 タバサがちいさく呟きました。
 偏在というのは魔法で作られる分身で、風の吹くところならどこにでも作れます。
 ですが、なぜか遍在ではなく偏在と呼ばれています。
 どうしてそう呼ばれているのかだれにもわかりません。
 ギーシュは魔法で浮かんでワルド子爵を追いかけます。
 他のみんなはグリフォンを撃ち落とそうと銃や杖でグリフォンを狙いますが、ふたりのワルド子爵が
 現れて襲いかかってきます。
 ギーシュが空の上で立ち止まり、どうしようかまよっているとタバサが口笛をひとつ吹きます。
 すると、一匹の竜がすごい速さで近づいてギーシュを背中に乗せました。
 その竜はタバサの使い魔のシルフィードでした。

「行って」
「すまない!」

 タバサにお礼をいって、シルフィードに乗ったギーシュはワルド子爵を追いかけます。
 月が雲にかくれていましたが、シルフィードはとても目がいいので簡単にグリフォンを見つけました。
 シルフィードはまだ子どもでしたが、それでもあっというまにグリフォンに追いつきます。
 ですが、ワルド子爵が魔法を撃ってくるのでシルフィードは近づけません。
 逃げるワルド子爵に向けてギーシュは叫びました。

「逃げるな卑怯者!ぼくと戦えーッ!」
「このよわむしー!きゅいきゅい!」

 ワルド子爵はすこしだけ振り向いてギーシュを見ました。
 そして首をかしげると、すぐに前を向いて逃げていきました。
 ギーシュはワルド子爵に向けてなんども叫びましたが、ワルド子爵はもう振り向こうともしません。
 このままではワルド子爵を逃がしてしまうと思ったギーシュは、絶対に言ってはならない言葉を口にしました。
 貴族にはやってはならないことがみっつあります
 家紋に傷をつけること、誇りを汚すこと、父母を侮辱することです。
 そのなかのひとつをギーシュはワルド子爵にやってしまいました。

「バーカバーカ!子爵の母上で~べ~そ~!」
「きゅい!でべそなのね!はずかしいのね!」

 ギーシュの声を聞いたワルド子爵は肩を震わせてグリフォンを止めました。
 ルイズの国の貴族は、ケンカをしても自分が殴られるよりも身につけていた父母からのプレゼントが
 汚されるのを怒るタイプが多いのです。
 ワルド子爵も裏切り者でしたが、そのタイプの貴族でした。

 母を侮辱されて怒ったワルド子爵は顔をまっかにしながらギーシュに向けて魔法を撃ちました。
 ギーシュもシルフィードもいままで見たことがない、とても大きな竜巻です。
 ギーシュはワルド子爵がこんなに怒るとは思ってなかったので、ちょっぴり後悔しました。
 そして、あまりの竜巻の大きさにびっくりしたシルフィードはギーシュが背中に乗っているのをつい忘れて、
 宙返りで竜巻を避けました。
 ギーシュはシルフィードにしがみつきましたが、その背中から振り落とされてしまいます。
 ギーシュは魔法を使うのも忘れて、手をバタバタさせながら地面に落ちていきました。
 そして、ワルド子爵はグリフォンを急降下させてギーシュを追いかけます。
 シルフィードもギーシュを追いかけて羽ばたきますが、ワルド子爵が先にギーシュに追いついてしまいました。
 ワルド子爵はギーシュを串刺しにしてしまおうと魔法を使って杖を剣のように鋭くしました。
 ギーシュは魔法を使って浮かぼうとしましたが、あんまり慌てていたのでマントが脱げてしまいました。
 その脱げたマントがワルド子爵に飛んでいきますが、ワルド子爵は簡単にマントを切り裂いてしまいます。
 ですが、マントの切れはしが目に当たってしまったのでワルド子爵はギーシュの姿を見失ってしまいました。
 ギーシュを見失ってしまったワルド子爵でしたが慌てることはありません。
 ワルド子爵には自分の目が見えなくても、たくさんの戦場をいっしょに戦ってきたグリフォンがついています。
 ワルド子爵はグリフォンに、ギーシュを捕まえてバラバラにしてしまうように命令しました。
 グリフォンはワルド子爵の命令をよく聞いて、ギーシュを捕まえてバラバラにしてしまいました。

「ああ…ギーシュ…」

 ルイズは死んでしまったギーシュを思って泣きだします。
 ワルド子爵は泣いているルイズを見てすこしだけ後悔しました。
 自分の母親と同じくらいルイズのことを大切に思っているからです。
 そして、勇敢にも自分に立ち向かってきたギーシュを称えて黙祷をささげました。
 そうして目をつぶっていると、地面からガランガランと金属が落ちたような音が聞こえてきました。
 人が地面に落ちたならドグシャァァッという音がするはずです。
 その音を聞いてワルド子爵はシルフィードの姿を探しますがどこにもいません。
 ワルド子爵は、ギーシュがシルフィードから振り落とされたのではなく自分から落ち、マントも脱げたのではなく
 目くらましのために自分から脱いだことにやっと気づきました。
 グリフォンがバラバラにしたのはギーシュではなくゴーレムだったのです。
 なぜグリフォンはギーシュとゴーレムを間違えたのでしょうか?
 まずひとつめの理由は、グリフォンのからだの半分はワシでできているので夜はあまり目が見えません。
 それに今夜はスヴェルの月夜で月がひとつしかなく、今は月に雲がかかっていてとても暗くなっているのです。
 グリフォンがギーシュとゴーレムを間違えてしまうのも仕方がありませんでした。
 真上からシルフィードの羽ばたく音を聞いたワルド子爵はルイズを抱えてグリフォンから飛び降ります。
 ワルド子爵が飛び降りるのと同時に、シルフィードがグリフォンに襲いかかって翼を傷つけました。
 傷ついた翼で飛ぼうとがんばるグリフォンを見ながら、ワルド子爵は飛ぶための魔法を唱えます。
 ですがそれよりも早く、シルフィードの背中に乗ったギーシュが魔法を唱えました。

「子爵、その行動はすでに読めています…錬金ッ!」
「こんな空中でなにを…」

 ワルド子爵はそれ以上しゃべることができませんでした。
 ルイズの背中から飛びだした一本の腕に殴られ、そのまま口をふさがれてしまったからです。
 そして、もうひとつ腕が生えてルイズをシルフィードに向けて投げ飛ばしました。
 ギーシュはルイズをしっかりと受け止めます。
 ルイズの背中から生まれた腕は、ギーシュがルイズの身にもしものことがあるといけないと思って
 ナイショでつけておいた造花の花びらから作られたゴーレムのワルキューレのものでした。
 ワルキューレはワルド子爵にしっかり抱きついて締めあげます。
 風の魔法に定評のあるワルド子爵でもワルキューレのちからにはかなわず動くこともできません。
 ギーシュはワルキューレを操るのをやめて、ワルド子爵を魔法で浮かせて地面に落ちないようにしました。
 どうしてギーシュは裏切り者のワルド子爵を助けたのでしょうか?
 その理由はルイズにあります。
 ギーシュはルイズに人が死んでしまうところを見せたくなかったのです。
 これから向かうアルビオン王国では、いまもたくさんの人が死んでいます。
 ルイズもそれを見てしまうでしょうが、それでもできるだけルイズに人が死ぬところを見てほしくないと
 ギーシュは考えたのです。
 今のギーシュを他の人が見れば、甘さを捨てられない貴族のお坊っちゃんと思うかもしれません。
 ですが、その甘さが彼の優しさであり、強さなのです。

 ルイズはギーシュに抱きしめられていることに気づいて、顔がまっかになりました。
 それから、ギーシュの顔を見れないルイズはワルド子爵を見ました。
 ルイズとワルド子爵の目があいます。
 ワルド子爵は目でなにかを訴えるようにルイズを見つめていました。
 ルイズはギーシュに頼んでワルド子爵を近くに引きよせてもらってから、杖をワルド子爵に向けました。
 ギーシュがなにかを言おうとしましたが、ルイズはギーシュの口を指でそっと押さえました。

「ギーシュ、ごめんなさい。でも、わたし…」
「……ルイズ、謝ることはないよ。きみの好きにするといい」

 ギーシュはそれ以上なにも言わずにワルド子爵を見ました。
 ワルド子爵は満足したようにうなずいて、優しい目でふたりを見つめています。
 ワルド子爵は戦いの中でルイズの弱さとギーシュの優しさを見抜いていました。
 ギーシュの持つ優しさが強さにもつながることをワルド子爵は知っていましたが、大切なものを守るためには
 だれかを傷つけなければいけないことも知っています。
 そして、大切に思っているルイズに強くなってほしいと願っていました。
 貴族は国やそこに暮らす人々を守り、導いていかねばなりません。
 優しいだけでは人は守れず、弱くては導いてはいけません。
 ワルド子爵はふたりに貴族としての覚悟を持ってもらいたかったのです。
 国を裏切りはしましたが、ワルド子爵は精神的にも貴族なのでした。
 ルイズはワルド子爵の思いにこたえ、ワルキューレもろともワルド子爵を爆破しました。
 ワルド子爵は風となって消え去りました。
 どうやらあのワルド子爵も偏在だったようです。
 ルイズとギーシュはポカ~ンとワルド子爵のいたところを見つめて、それからおたがいの顔を見て笑いました。

「それじゃ戻ろうか」
「あ、ギーシュ。えっとね、その、あ、ありが……とう」

 小さな声でルイズからお礼を言われたギーシュは笑ってうなずき返します。
 そして、ふとワルド子爵を追いかけているときに他のだれかの声を聞いたことを思いだしました。
 あのときは自分とシルフィード以外にだれもいなかったはずです。
 ルイズがゴニョゴニョと呟いているとなりでギーシュは腕をくんで考えながらシルフィードを見ました。
 シルフィードは疲れているのか汗をたくさんかいています。

「きみ、さっき喋らなかった?」
「きゅい?しゃべってないのね」

 シルフィードがそう言ったのでギーシュはあのときの声が空耳だと思い、深く考えるのをやめました。
 ルイズは自分の世界に入っていたのでなにも聞こえてはいませんでした。

 シルフィードに乗って桟橋に戻ったルイズとギーシュは、キュルケたちが無事なのを見てほっとします。
 キュルケとアニエスはルイズとギーシュに向かって手を振ります。
 ですが、タバサと猫草はふたりに気づかずになにかをやっていました。

「おいしいのひとつあげる」
「ニャ~ウニャ~ウ」
「うそ、おいしいのみっつあげる。うれしい?」
「ウニャ!ニャッニャッ!」

 そう言ってタバサは猫草に干し肉のかけらをみっつ投げました。
 猫草は飛んでくるみっつの干し肉のかけらをじょうずに首を動かしてパクパクとかぶりつきます。
 ちゃんと猫草が食べたのがうれしかったのか、タバサは猫草のあたまをほお擦りしながら撫でました。
 ルイズはタバサと猫草が遊んでいるのを見てムッとしましたが、タバサの使い魔のシルフィードには
 助けられましたし、傭兵たちに襲われて猫草にエサをあげてなかったので怒るのをがまんしました。
 そしてギーシュは、アニエスがうらやましそうな顔でタバサと猫草を見ているのに気づいてしまいましたが、
 見なかったことにして、キュルケにワルド子爵の偏在はどうしたのかを聞きました。

「なんか知らね~けど戦ってる最中に急に消えちまったぜ」

 どうやらルイズが爆破したあとに他の偏在も姿を消したようでした。
 ギーシュはワルド子爵の本当の目的がなんだったのか考えましたが、答えは見つかりません。
 そうして考え込んでいると先に船に乗り込んだルイズたちに呼ばれ、ギーシュは慌てて走りだしました。
 ギーシュが乗り込むと、船長が出発の合図をだして船が浮かびはじめます。
 ラ・ロシェールですこしだけ成長したルイズとギーシュはあらためてアルビオン王国に向けて出発しました。 


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