ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第三章 誇りを賭けた戦い

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第三章 誇りを賭けた戦い

ルイズの暴走による被害は意外にも大したことはなかった。
中庭が広かったことと、ルイズ自身が頭に血が上らせていたため、爆発の狙いが正確でなかったことが幸いした。
しかし、リゾットは困っていた。
「三日間、食事抜き!! 自分の立場をよく考えなさい!」
あの後、理性を取り戻したルイズはリゾットに指を突きつけ、そういったのだ。
リゾットは勘違いを解こうとしたが、今のルイズに何を言っても火に油を注ぐだけだと思い、やめた。
とはいえ、流石のリゾットも三日間もの絶食は辛い。
「仕方ない……。やはり自分で確保するしかない……か」
リゾットは考えた末の結論を出すと、中庭から歩き出した。
まずは惨事の元凶となった洗濯板を探し出し、次に食事を確保するために。

厨房の位置は食堂で給仕する召使いたちの出入りから予め検討をつけていた。
リゾットが元いた世界ですら、金持ちの屋敷には使用人が住み込んでいた。
ましてこの中世的価値観のこの世界において、住み込みの使用人がいないはずはない。
このリゾットの読みは当っており、程なくして彼らの洗濯場らしき場所に出た。
目当ての洗濯板、そして桶は井戸端にあった。しかし周囲に人がいない。
無断で借りると面倒になるかもしれない。人影を求めて建物の角を曲がる。
その瞬間、空を巨大な影がよぎり、リゾットは空を見上げた。一匹のドラゴン(?)が学院へと飛んでいく。

(あれも…誰かの使い魔か?)
ドラゴンの背中に人影があったことからそう推測するのと、軽い衝撃を感じるのは同時だった。
「キャッ!?」
小さな悲鳴が上がり、何かが空を舞う。それが何枚かの皿だと認識すると同時にリゾットは手を伸ばし、残らず空中でキャッチする。
足元を見ると、メイドの格好をした少女が使用済みらしい皿の入ったタライを抱えて座り込んでいた。
「すまない…。余所見していた……。大丈夫か?」
皿をタライの上におき、少女に手を貸して立たせてやる。
「あ、ありがとうございます。私も余所見していて……ごめんなさい…」
どうやらこの少女も空を飛ぶ竜に気をとられていたようだ。立ち上がった少女はリゾットの左手のルーンに気づいた。
「あら…?貴方、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう…」
「リゾットだ。……突然で申し訳ないが……、あちらの洗濯の道具一式を借りる許可をもらいたい。それと……厨房の責任者に会わせてもらえないか?」

シエスタというメイドの少女の案内で、リゾットは厨房に向かっていた。
(なお、彼女が運んでいた使用済みの皿は水につけて洗い場においてきた)
その道すがら聞いた所では、やはり彼女たちは学院に住み込みで働いているらしい。
召喚で呼び出された平民の使い魔の噂はすでに彼らに届いているという。
(閉鎖された環境では情報の伝播速度が速い…ということか)
そんなことを考えている間に、厨房に着いた。

コック長のマルトーに会うと、リゾットは事の次第を説明した。
「つまり、お前さんはその貴族の使い魔だが、勘違いで食事を抜かれることになったわけか」
「彼女が全面的に悪いわけではないが、大筋ではそうなる…」
「まあ、かわいそう…」
「け! 勝手に人を使い魔にしてこき使っておいて、何が罰だ! 魔法を使えば何をしてもいいってのかよ!」
二人は大いにリゾットに同情したようだった。特にマルトーは貴族嫌いらしく、怒りが覚めやらぬ様子だった。
「ならリゾットさん、食事が抜かれたときはいつでも来て下さいな。私たちが食べているものでよかったら、お出ししますから」
「いや……ただで食事をもらうわけにはいかない……。俺に何かできることがあれば言ってくれ…。手伝おう」
「そんなのいいんだよ。どうせたくさん作るんだから、一人くらい増えたって大したことぁない」
リゾットは首を振った。リゾットとて、この世界にきて初めてまともな人間に出会え、親切にしてもらったことに喜びを感じないわけではない。
しかし、ただで施しを受けるのはリゾットの考えに反する。使い魔の仕事に差し障りがない程度であるが、彼女たちの手伝いをするつもりだった。
「やれやれ、融通の効かない奴だな…。まあ、悪くはないが」
マルトーはあきれながらもリゾットに好感を抱いたようだった。
「でしたら、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな」
シエスタの提案にリゾットは頷いた。

そんなわけで、リゾットは今、片手にケーキの並んだ銀のトレイを持ち、使用人の制服を着て食堂に出ていた。
ケーキを貴族たちに配るシエスタについて回る間、貴族たちは誰もリゾットがルイズの使い魔だと気づかなかった。
リゾットは使用人の制服を着ていたし、元々彼らは使用人など見ていないのだ。二人は特に問題なく、貴族を順々に回っていった。
金色の巻き髪に造花の薔薇をフリルのついたシャツのポケットに刺した貴族がいた。プロシュートの言葉を借りれば如何にも「マンモーニ」である。

周囲の友人たちは今、そいつが誰と付き合っているか、というような話に花を咲かせている。
世界は変わっても人間の興味関心の向く先はあまり変わりないらしい。
二人がその集団に近づいていくと件のマンモーニのポケットから香水の入った小瓶が転がり出た。
「シエスタ、少し待ってくれ」
断ると、リゾットは屈みこんでそれを拾った。もしもこの場にいるのが女性関係の機転が利くメローネならば、揉め事を起こさずに済ませたかもしれない。
だが、ここにいるのは不幸にもリゾットである。あまり深く考えず、小瓶を落とし主に突き出した。
「落としたぞ」
「ん? 何だい、それは。僕のじゃあないよ」
「お前のポケットから落ちた。…お前のだろう?」
その途中、周囲が何事かと覗き込んできた。
「おや? それはもしや、モンモランシーの作っている香水じゃないか?」
「ああ、この特徴的な色合いは間違いないな。彼女が自分のために調合している香水だ」
「つまりギーシュは、今、モンモランシーと付き合っているのか」
「違う。いいかい、彼女の名誉のために言っておくが…」
その男…ギーシュというらしい…が何か言いかけたとき、近くの席から茶色のマントをつけた少女が立ち上がり、ギーシュの席にやってきた。
「け、ケティ……。違うんだ、これは…」
ギーシュがケティと呼んだ少女はポロポロと涙を流すと、弁解をしようとしたギーシュの頬を思いっきりひっぱたいた。
続いて巻き毛の少女が立ち上がる。リゾットは彼女を覚えていた。午前中、教室でルイズと言いあいをした一人で、香水のモンモランシーだ。
どうやら彼女がもう一人のギーシュの相手らしい。彼女もまたギーシュの席にやってくると、ギーシュの非を責め、ワインの瓶の中身をギーシュの頭からぶちまけた。
「嘘つき! 二度と顔を見せないで!」
極めつけの絶縁宣言をして去っていく。

沈黙が流れる中、リゾットは何事もなかったように仕事に戻ろうとしたが、呼び止められた。
「どうしてくれるんだ? 君のせいで二人のレディの名誉に傷がついたんだぞ!」
ギーシュはほとんど言いがかりのようなことを言ってきたが、リゾットは無視した。
元の世界にいた時からこういった手合いは無視することに決めているのだ。
「おい、聞いてるのか!」
しかし、あまりにうるさく騒ぐのに根を上げ、リゾットは振り返った。
「君は確かミス・ヴァリエール…の…」
特に威圧したわけではないが、長年修羅場をくぐってきたリゾットの視線にギーシュは一瞬ひるんでしまう。
「騒ぐな…。もうお前などどうでもいい。さっさと先の二人に謝って来るんだな…。二股かけて申し訳ない……とな」
その言葉に周囲から失笑が漏れる。侮辱されていることに慣れていないのか、ギーシュは怒りで顔を歪めた。
「ミス・ヴァリエールは自分の使い魔に躾もできないみたいだな…。いい機会だ。僕が貴族に対する礼ぎゃぶっ!?」
ギーシュは最後まで言い切ることはできなかった。リゾットが無言でギーシュの頬を殴りつけたからだ。
「な、何をするだあー! 許ざっ!?」
今度は鳩尾を膝で蹴り上げられ、ギーシュがうずくまる。リゾットはそんなギーシュの首を右手で掴むと、そのまま吊るし上げた。
ちなみに攻撃を加えている間もリゾットが左手に持ったトレイのデザートはぴたりとも揺らがない。見事なバランス感覚である。
この頃になると流石に周囲も騒然となり始めた。だが、静かに怒りを見せるリゾットに、誰も間に入ることが出来ない。
「二股をかけるのはお前の勝手だ。お前の倫理観でやってることだからな…」
首への圧迫を強めながら、口をパクパクさせるギーシュを見据える。
「だが、その結果を他人に押し付けるってのはどういうことだ? 自分のしたことの責任をとる覚悟くらいはしろ、このカスが!
しかもその表情…自分の責任を理解しつつ、それを被るのをビビッて、他人に責任を押し付けようとしている。
貴族だの平民だの言う前に人間としての誇りがないのか、お前は? 俺に怒りを向ける暇があったら謝罪して来い!」

冷たく言い放ち、ギーシュを突き飛ばした。
「…ぐ、はっ…」
しばらくギーシュは荒い息をついていたが、すくっと立ち上がる。
「もう許さない…。たかが平民の癖に貴族に手をあげるなんて……」
そう言いつつもリゾットからはなるべく距離をおくように後退している。それをリゾットは冷めた眼で見ていた。
「……俺の仲間にもマンモーニがいたが、奴はそれでも過ちを認め、成長しようと努力していた。……お前はそのマンモーニ以下だな」
「マンモーニ?」
「乳離れもできないような甘ったれたガキ…ってことだ。お前はそれ以下だ」
「ぼ、僕が平民の、それも子供以下だって? 訂正しろ!」
「貴族だろうがメイジだろうが威張っているだけの能無しを俺の仲間より上だと言うわけにはいかないな……。いや、例えお前が誰より有能な人間だったとしても精神面ではそいつ以下だ」
ギーシュはあまりの屈辱、そして痛めつけられた恐怖に震える手で、手袋を投げつけた。
「決闘だ! 訂正するまで痛めつけてやる!」
リゾットは呆れ返り、もはやかける言葉さえないと、『メタリカ』を発動した。
ギーシュの口から剃刀が出現し、舌をずたずたに切り裂く。
「僕は君のように野蛮ではないから食堂を血で汚したりはしない! 用が済んだら広場に来たまえ!」
ギーシュは言い捨てると、ふらふらしながら外へ出て行った。もちろん、剃刀を吐き出してもいない。
「…………」
リゾットはそれを見送り、観葉植物の植えてある土から『メタリカ』でナイフを生成しようとする。
しかしやはり何も起きない。そういえば、『メタリカ』を発現している時に聞こえるあのうめき声も聞こえない。
「スタンド能力を失っている……」
リゾットの呟きは奇妙な納得と確信を持って、ゆっくりと自身の胸に染み込んで行った。


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