ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

外伝-8 コロネのお茶会

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ポルジョル外伝-8 コロネのお茶会

ジョルノはその日、テファ達と離れ一人、ポルナレフが編み出した亀投げによる移動により学園からそう離れていない場所にある一軒の小屋へ向かっていた。
魔法学院は、国からある程度の予算を貰っているが、同時に貴族達と同じく領地も持っている。
過去に行われていた実戦的な授業に、はある程度自然に近く、それに広い敷地が必要だったし、授業で使う教材や簡単な材料、ヴァリエール公爵家などの大貴族の子息も通う為新鮮な食材を生産できる土地も、必要だった。
だが正当な理由から与えられた領地の殆どは、使われていない森ばかりであり…ジョルノが訪れようとしているのは、その森の中にある小屋の一つだった。
その小屋は街道からは少し離れた場所に建てられていた、実質、犯罪者達が使う小屋であった。
勿論、そこへ向かうジョルノも、犯罪組織絡みでの用向きだった。

テファ達よりずっと早く起きて、久しぶりに髪をコロネにセットしたジョルノはその小屋の傍で亀から出た。
余りパワーは強くないゴールドエクスペリエンスで亀を投げていたので、ポルナレフがやってみせた時よりも多少遅いが、馬車よりはかなり早く近くにたどり着いていた。
歩きながら手櫛でコロネを一つの乱れもないようセットし直しながら歩くジョルノの前に、ラルカスが現れ、案内をしていく。

「ラルカス、地下水。トリスタニアでは見事だった。君達二人がいたお陰で被害が減り、全てが良い方に動いた」
「波紋の練習も怠ってはいない。幾多の夜は未熟な私を高めてくれた。NEW私に期待してくれ」

ラルカスの返事は適当な事を言っているようではなかった。
まだぎこちないが波紋の呼吸が、ほんの少しできるようになっている。ジョルノは驚いていた。
遠見の鏡などへの対抗手段をこうじておけば、守るものが学院だけという魔法学院領を選んだのもラルカスだった。
ラルカスは、急速に(組織自体も急速に膨らんでいたが)組織で力をつけていた。ジョルノの護衛であり、幾つかのチームのリーダーの一人であり、参謀だった。

「しかし、今私がトリスタニアを離れていいのか?」
「構わない。今の状況なら残りの者でどうとでもなるし、トリスティンよりゲルマニアやガリアの方が重要だからな。すぐ動けるように今は二人を固定しない方が良さそうだ」

小屋に近づくにつれ、木々の間から目立たない服装をした男たちが姿を見せる。
皆、ジョルノの組織パッショーネの構成員だった。
ラルカスを見て、一定の距離を開ける彼らの間を二人は抜けていく。ラルカスが小声で囁いた。

「表でやりたい放題やってるんで、余裕が出てきたって事か?」
「干拓に失敗した貴族を見つけましてね。場所もいい。条件も、とても良い形で協力関係になれそうだ」

とても良い、つまり…かなり有利な条件を結んだらしいと取ったラルカスも笑みを浮かべた。

彼ら小屋の周囲を警戒する者達を気にせず風雨に晒され痛んだ小屋に入ると、十数名の男女が小屋の中にいた。
ワイン片手に談笑する者、そんな彼らから離れ、観察している者、興味なさ気な態度をしている者。様々だった。
彼らの中心には雪の様に白いテーブルクロスがかけられ、銀で統一された食器が並ぶテーブルがあった。
そのテーブルの周りだけが完全に修繕され、彼らをうっすら浮かび上がらせる程黒く磨き上げられてから固定化の魔法までが施されていた。
ジョルノが踏み込むだけで床が軋む寂れた小屋には、壁などには穴があいている場所もあったがその時間、ちょうどテーブルに差す日差しが、照明を取る為に、わざわざその場所に空けられたのだと告げていた。
ラルカスが小屋にいた全員を呼び、席に着かせる…王都で暴れる魔法を使うミノタウロスの事はその場の全員が知っていた。
だが逆に、ジョルノの事は全く知らない者が多い為、ジョルノが最も上座に当たる席に着いた時、ラルカスが恭しくジョルノを扱うのを見て、集まっていた客達は驚きを隠せなかった。
その日は、アルビオンから進出して以来のパッショーネの会合だった。

「召集に応じてくれてありがとう、(アルビオンからいる人は知っているでしょうが)僕がパッショーネのボスです」

アルビオンから参加している者と、ラルカスだけが平然とし、残りの者は彼らと若すぎる上に汚れ仕事など全く知らないような爽やかさな表情を見せるジョルノを見比べて困惑を素直に表している。
ジョルノは彼らの態度を少し眺めて、落ち着くのを待ってから話し始めた。

「組織は順調に成長している。とりわけ、ここに集まってもらった皆のおかげで…だが、意志は薄まっていくかもしれない。だから君達に来てもらった」

指を二本立てて、ジョルノは真摯な眼差しで席についた者達を見回した。
我が目を疑うような顔をするラルカス以外は、一応皆ジョルノに注目して話を聞いているようだった。

「僕の話は一つ。我々が何より大事にするものは二つだということだ。誠意と家族…後は子供に麻薬は売らないとかちょっぴりの鉄則がありますが、この二つが特に大切です」

ジョルノが言った途端、会場が妙な雰囲気に包まれた。
客達から困惑はなくなり、犯罪を行う組織、それもこの世界には無かった薬品、手段、容赦ない手口で急成長するパッショーネのボスが言う事ではないと言う不満と、間違ってはいないが甘い事をと言う郷愁が半分。
残りは興ざめしたような顔を見せる客達をジョルノは見回す。

「…? もしかして余り納得して?」

ジョルノは最後まで言う事が出来なかった。
突然席についていた者達の半分ほどが杖を抜き、その時点で末席に座っていた男が銃弾をジョルノの脳天と心臓に数発打ち込んだからだ。

「するわけねぇだろこのスカタンがよぉッ」

男はパッショーネから支給された銃、ピストルズNo.5を手に言うと床にツバを吐いた。
自分達よりも早く何発も打ち込んだ、ボスをあっさり撃ち殺した、共感した相手を殺された…理由はそれぞれ違ったが、動揺する他の客達を見回して、男は鼻で笑った。
着弾の衝撃で後ろに倒れたジョルノを見もせずに席を立ち、会場から離れようとした男は、驚愕と純粋な恐怖が混ざったどよめきを聞いて脚を止める。

「コイツは気に入ったから貰っといてやるぜ」

そう言って背を向けた途端、ジョルノの声がかけられた。

「気に入った…この場の誰より速かったな。それに殺す瞬間…汗もかかず呼吸も乱れていない…冷静だ」

目を見開き、男が振り向くとジョルノが先程と変わらない姿、正確には撃たれた心臓の場所だけ穴の空いた服を着たジョルノが、ラルカスのレビテーションで元の席につく。
ラルカスはレビテーションで倒れた椅子をジョルノごと元に戻してから、ジョルノに尋ねる。

「ボス、コイツ消しますか?」
「優秀なメイジ殺しを殺す理由があるのか? 君も席に付けよ? 誤解を招くじゃあないか」

爽やかな笑みを浮かべるジョルノ。男は銃を仕舞うと何も言わず席に戻る。
隣に座っていた初老の紳士が、女物っぽいフリルのついたハンカチを男に差し出す。
一瞬不愉快そうな顔をした男だったが、いつの間にか体から噴出していた汗に気付き、ばつが悪そうにしながらハンカチを受け取る。
あごから流れ落ちていた汗を手の甲で拭うのを待ってジョルノは話を再開する。

「この二つを大切にする理由は、何も僕が優しいからじゃない。それが無駄を省き我々を強力な集団にすると考えるからです。無駄は嫌いなんだ。無駄だから」

感情を排した声で言ったジョルノは料理の用意が出来たという厨房からの合図を見て、頷き返した。

「もう料理ができたようですから他の重要な事はまた手紙などで伝える。熱いうちに食べないと失礼だからな…勿論ちゃんと読むか文字が読める部下に読んでもらって、遵守してくださいね」

識字率が低い為、幹部にも文字が読めない者もいるのでそう、念を押すように言われた客達は頷き、ジョルノが手をあげると給仕が客達へ大きすぎる皿を並べ始める。
客達は首を傾げた。まっ平らな皿には何も乗っていない。訝しがってジョルノの顔を見る彼らの皿へ、ジョルノはあらかじめ生み出しておいた小さな虫達を向かわせる。

「ッ、虫が着やがった」

誰かが気付き、舌打ちして払おうとするのを見て、ジョルノはそれらを黄金に戻した。
その場にいた皆から、特に場違いに着飾った女から一際大きな歓声があがる。
他の者達の皿へと飛んだ虫達も、次々に能力を解除され、元の姿へと戻っていく。
生命から金塊や握り拳大の宝石など、彼らが現在活動している場所で高値で取引される品々へと戻っていく。
驚愕や疑心暗鬼に囚われる客達を観察しながらジョルノは言う。

「まずはそれを受け取ってくれ。僕が今貴方方に見せられる誠意だ。皿の上に乗らなかった物は皆の足か荷袋に既に入れてある」

勿論それらも虫の姿を取って入り込み、今物質へと戻っている。
誰かが『先住』といったが、ジョルノはそれを首を横に振って否定した。
だが彼らは、ジョルノの否定には納得しなかった。
系統魔法でこんな現象を起こせる魔法と言えば、彼らは『錬金』しか知らない。
しかし、『錬金』で金をちょっぴり作り出すだけでも、スクエアクラスのメイジでなければならないのだ。
そうでなければ、全ての貴金属や宝石類などは、現在の価値より遙かに低い価値になっていただろう。
ジョルノの方は、この世界の人間は系統魔法で説明できない不思議な現象は『先住』なのだろうと考え、それ以上何も言わなかった。
ジョルノとて、もしこの世界に召喚された時周りがメイジだらけなら、系統魔法を『スタンド能力』と考えただろう。

「そんなことどうでもいいわッ。ほ、本当に受け取っていいの? 返さないわよッ?」

一際高い歓声をあげた女が、そんなことはお構い無しに金塊を抱えながら言う。ジョルノは頷いた。
手に入れたシマの一つを、うまく切り盛りしているその女性が取ったその行動が、他の面々の警戒も少し緩めた。

「使い道は自由だが、それの多くは(方針などを伝える手紙にも詳しくは書くが)街を手に入れる為や同じく部下達に振舞ってやってくれると嬉しい」

女がイヤッと言うのに誰かが苦笑し、嘲るような顔を見せた。
剣呑な空気にしかねない態度に何人かが顔を顰めたが、彼も女と同じくそんなことを構わずに言う。

「お前は懐に入れりゃいいんじゃねぇの? まぁ、次はこんな席にはいないかもしれないがな」
「…!? ボスッまさかこれも試験だとか…」

嘲る男の隣に座る禿げ上がった頭とは対照的な髭を蓄えた男が尋ねると、ジョルノは首を振った。
数名がそれに笑みを浮かべ、女が自分を嘲った男に嘲笑を向けた。

「ほら、違うって!」

嘲笑を向けられた男は、それを鼻で笑い、席に着く時に脱いだ帽子を深く被る。
その態度に機嫌を損ねる者達へ、ラルカスが静に言った。

「臨時収入で懐を暖めた者と自分のチームを強化した者、今後の成果は自ずと変わると言う事だ」

解説を受け、苦虫を噛み潰したような顔をする者らを見てラルカスはため息をついた。
ラルカスとしては「んなことどうでもいいから飯にしようぜ」というのが本音だった。
短い付き合いだが、ため息をつく牛の顔を見てなんとなくそれを察したジョルノは、まだ女と帽子を被った男二人を見て言う。

「それくらいにしてください。これから食事なんですからね……あぁ、罰として二人には何か面白い話でもして食事を盛り上げてもらいましょうか?」

慌てて帽子を取ったり、愛想笑いを始める二人。
ジョルノはやれやれと、一部の人間には…主に牛男やこの場にはいないイザベラなどが、爽やかなのは変わらないが背筋に氷を突っ込まれたような気分、になる表情で首を振った。
そして給仕が地元トリスティン産のワインを注いだグラスを並べていき、程なく全員に行き渡る。

「パッショーネの皆と、我々の今後、そして先人達に」

自分に影響を与えた者、自分を押し上げた者達を想って乾杯をする。
その時垣間見せた切なさに、各々誰かを思い起こしながらグラスを掲げ、酒を煽った。
その後料理が運ばれ続け、その中にはジョルノがレシピを書いた故郷の料理も入っていたが、ジョルノはただワインを煽っていた。
だが胸中のせつなさを忘れるのは、始まった宴の間にはできそうになかった。


夕暮れ近く会食も終わり、途中から一人、また一人と減っていった参加者の最後のメンバーが消えた。
ジョルノも馬車へ戻る為移動をはじめ、ラルカスだけはジョルノの後をついていく。
オールドオスマンの遠見の鏡で覗かれないように何度目かの対抗魔法を使いながら、ジョルノに会食での行動について進言した。
森の植物が邪魔で横に並ぶ事は無理だったので背中へ向けてだが。

「撃たれた時はひやりとした。今後は止めてくれ」
「あれが魔法なら不味かったな」

苦笑するジョルノにラルカスは表情を硬くする。歩くのに邪魔な枝の下を潜らず、面倒になったラルカスは枝を折った。
ラルカスにしてみれば波紋をもっともっとジョルノから学ばなければならないし、少しずつだが、ジョルノに惹かれてもいる。
それがこんな詰まらない事で失われてしまうのは、余りにも惜しかった。

「…ボス、まさか最初から撃たれる気だったとか?」
「予想はしていました。彼以外なら防いでましたしね」

あの場に出席していた者の中で銃を使うのは彼だけだ。
他の者に魔法を使われていたら、例えば…炎で肉を焼かれたり風の刃で切り裂かれてしまっては、流石に治す事はできないだろう。
軽く言ってくるジョルノに、一瞬ラルカスは絶句する。
胸中で沸々と怒りが沸いていた。コロネ野郎は自分を薄暗い洞窟から、日の当たるこちらへと連れてきておいて何を馬鹿な事をしているのか?
ラルカスには、先を歩くジョルノがかなりクレイジーな野郎に見えていた。

「いつか死ぬぞ。一歩間違えば今日だって死んでいた」
「予想していたと言った。あんなのは命を賭けたとは言わない」
「しかし!」

それでも食い下がるラルカスに、ジョルノはポケットから硬貨を一つ、取り出してラルカスに投げた。
受けとったラルカスは最初、表情を曇らせていたが、次第にその牛の顔が驚愕も露にし、小刻みに震えていく。
ラルカスの手の中にあった硬貨が、徐々に人間の腕へと変化していったのだ。
足を完全に止め、腕とジョルノを交互に見るラルカスに、ジョルノも足を止めて振り返る。

「予想していたと言うことは…体のパーツは既に全部用意してあったということです。君の魔法があれば、首から下を総取替えする事位なら容易に可能だろうな」

ラルカスの手の中で、腕がまた硬貨へと戻っていく。
戻ったそれは肉の柔らかさや、生暖かさ、微かに脈打ちさえしていたものとは全く別物の、金属の塊だ。
震える手から、ラルカスは硬貨を落とす。
全くおかしなところなどない硬貨に戻ったが、先程人間の、ジョルノの腕へと変わっていくのを見たラルカスは、嫌悪感を感じていた。
掌にも汗がにじんでいる。

「…アンタ、本当に人間か?」

あっさりと言うジョルノを、一層畏怖せざる終えないラルカスが呟いた。
ジョルノが何か含む所があるようにも見える笑みを見せる。

「案外吸血鬼とかかもしれませんよ?」

言うと、十分に離れたと考えたジョルノは亀を生み出し、初めて亀の中に入り驚くラルカスを他所に来た時と同じ方法で馬車へと向かう。
亀で移動を始めて少ししてから、ジョルノは思い出したように二人に言う。

「ところで、地下水。一つ質問がある」
「なんだ?」「君が知っている最も古い意思を持ったマジックアイテムを教えてくれ」
「…はぁ?」

地下水はラルカスの体を操り、耳を疑うような素振りを見せたが、聞き返すのは止めておいた。
ジョルノが以前無駄なことは嫌いなんだとか、言っていた事を思い出したからだ。
一応、すぐにその返事は浮かぶので答えようとする地下水に、ジョルノは自分から理由を話し始めた。
余りに不躾だと考えたのかもしれない。テファ達の下へ戻る為、自慢のコロネを解きながらジョルノは言う。

「今まで最新の技術などを集めるようにしていたんですが、ハルケギニアは余り進歩がありませんからね。
逆に昔を遡ってみた方が何か発見があるかもしれない。その点、君達は長生きだ」
「だけど所詮俺らは武器だぜ? ボスが知りたいような知識を持ってるとはかぎらねぇ」
「当てが外れても構いません。単なる思い付きですからね」

余り期待しないよう、言い含めるように言う地下水に、鏡の前で髪を黒くしながらジョルノは頷きかえす。
ジョルノが始めた商売とて全てが売れているわけではないのだから、余り強く期待はしていなかった。
地下水は少し考える素振りを見せて、ジョルノに教える。

「…ご同類はあんまり知らねぇが、一本、ブリミルの時代から生きてる奴を知ってるぜ。名前は”デルフリンガー”、魔法を吸収する能力を持ったインテリジェンスソードさ。
できたばかりの頃魔法が吸収されまくって酷い目にあったぜ」
「グラッツェ、早速、探してみる事にしましょう」

礼を言って、ゲルマニア貴族ジョナサンの髪型へと髪をセットしなおしたジョルノはソファに腰掛ける。
その間も亀はゴールドエクスペリエンスに投げ続けられ、高速で移動していた。
壁にかけた時計を、ジョルノは見て考えた。今後の組織の行動、カメナレフのこと、思い切って二人にしてみた彼女らはちゃんとやっているだろうか?などと。

「そろそろテファ達は入浴しているかもしれないな」
「達?」

ピクリと微かに反応を示して、少し鼻を膨らませた牛男が尋ねた。
成長したんじゃあないのかとか色々突っ込みたかったが、宴の間酒を飲み続け、ほろ酔いで微かに頬を赤くしたジョルノは素直に答えてやった。

「最近年上の貴婦人を拾ったんです」
「ボス、あんた疲れてるよ」

ボスは無駄ァッを一発叩き込んでおいた。
この牛男、余り成長していないかもしれない。


あ、ありのまま今見たことを話すよ!
馬が駄目になったから、仕方なく私はネアポリスと一緒に行くことにした。
一人旅よりはまぁ、退屈はしないだろうって思ってたんだけどネアポリスの奴、馬車の中でも仕事だとか言って手紙を書いてばっかりいる。
時々デザインを思い出すようにしながら描いたりして、いい気なもんさ!
今日も朝からコソコソ何処かに消えちまって、ネアポリスが連れてる女と二人きりになるし……
それでも優しい私は、仕方ないからそいつを少し苛めてやるくらいにして、夕暮れ時、ゲルマニア人にしては風呂好きらしいネアポリスが、私の仕事だとか言ってる風呂の用意をしてやった。
まったく、私に水魔法まで使わせて粗末な風呂を拵えるなんて!
そう考えながら、最初の夜たかが水を操って浴槽に移してやっただけで喜んでいた二人を思い出して苦笑する。
ゲルマニアの程度が知れるよ。
当然入れた後、私が初めに入った。あいかわらず本当に狭いし召使もいないし最低だった。

そんな時、退屈だった私の視界に、ティファニアとかいう辛気臭い娘が入った。
ネアポリスが誰かから預かってるらしいソイツは、なぜかは知らないけど落ち込んでるみたいだった。
こっちは風呂とも言えないようなものを作るのに魔法までつかったというのに、辛気臭い娘だよ。

そう思った私は水を操り、頭を水で覆ってやったんだ。
簡単な水の魔法で、汲み置きしてあった水を操ってテファニアの顔に被せる。
それだけで息ができないし、突然やられると気が動転して対応する事も無理ときた。
退屈な宮廷暮らしでも召使相手に時々やっていたことだ。

だがその結果を見て、私は絶句するしかなかった。
思っていた通り、呼吸ができなくてティファニアはもがき、ずっと被っていた帽子が落ちたんだ。
テファの端整な素顔が良く見え…帽子の中に隠されていたティファニアの耳が見えた。
耳は、細長い…エルフのものだった。
生まれつき耳がちょっと長いとかそんなちゃちなもんじゃない。聖地に居座るという恐ろしい怪物の特徴だった!
私はパニック状態に陥り、あわてて風呂から出た。
服を着ている時間なんて無い。タオルで体を隠してティファニアにかけた魔法はそのままにして逃げれば、いや!
逃げようとした私は足を止めた。

エルフ相手にたかが水で顔を覆うだけでどうにかなるの!?
そんな疑問が心に浮かんだからだ。

逃げれば見逃してくれる?
ついこの前にネアポリスが撃退した刺客のこと、そして笑顔の父上が脳裏に浮かんだ。
馬鹿な話だよ!

あたしは震えながらもがくエルフへ目を向けた。

旅に出る時に用意した小さな杖をエルフに向ける。
まだ汲み置きしてある水は攻撃に使うには十分な量があるはず…私が魔法で操った水が生き物のように蠢き、エルフへと襲い掛かる。

練習が足りなかったせいで余り精度は無い。傷つけたのは手足だけだ。
舌打ちする私の目の前で、水の中で泡を吹くだけだったエルフの血が出て倒れた。

ふんっ薄汚いエルフはトライアングル十人をも上回るって話だけど私にかかればてんで大したことないね!

だがまだエルフは足を怪我しただけだ…息がある。止めをささないとね。
更に水を操る。私の精神力だと、余り乱発は出来ないから慎重に狙いをつけなければならない。
そうだね…あの無駄に馬鹿でかい胸を一刺しにすればいい…!

ったくネアポリスも気付かないなんて間抜けだよ!
それとも心を操られてるのか…どっちにしろ間抜けだね。
今朝どこかへコソコソ出かけていっていたネアポリスが、今頃になって顔を出す。
戻ってきてすぐ、エルフが倒れた音でも聞きつけのか、服装はいつもと少し違っていた。
コイツが戻ってきたら、何を話そうかとか考えていたんだけど、今はコイツをどうにかすることで頭が一杯だ。
唇を舐めて、狙いを絞っていく。狙いは後もう少しで定まる。
ネアポリスが一瞬顔をしかめて、足早にこちらにやってくるのが見えた。
私は、ネアポリスに見せ付けるように水を凍らせて鋭い矢を作り、体に比べ不自然なほど大きな胸へを放つ。
だが、矢は唐突に砕けた。

「はぁ…!?」

驚いた私は、目を細めてネアポリスを見る。
エルフは、まだ水を取ろうと馬鹿みたいにもがいてるだけだ。無駄だけどねと私は鼻で哂う。
だが、とすればこんな事が出来る奴は、ネアポリスしかいない。
そう考える間に、ネアポリスは更に不思議な力で(杖を使ってないから魔法じゃない!)なんとエルフの顔を覆っていた水を弾き飛ばした!

「何するのさ!」

叫ぶ私には目もくれず、ネアポリスはエルフを抱き上げた。
素早く、そして父上が大事にしている庭で働く庭師達が、丹精込めて育てた花を扱う時のような柔らかい動きだった。
速くとも大事な花を壊さないように扱う彼らが、イザベラの気まぐれに巻き込まれ、チョッピリ傷ついたバラを確かめていた時のようだった。
私は自分の歯が軋む音で、やっといつのまにか歯を食い縛っていた事に気付いた。
このムカつきの理由はよくわからない…当惑する私と同じくエルフを抱き上げたネアポリスも何か困惑しているようだった。

「ベネ、大したことはないよう…?」

いいかけたネアポリスは、信じられないような顔をしていた。
エルフの傷に触れ、どういうわけか知らないけどそこが光ると、傷は跡形もなくなっていた。
それに驚く私を置いて、まるで私なんかいないような態度で冷静に治療しながら、ネアポリスは呟いた。
エルフが咳き込んで、水を吐く音。それと、その声だけがよく聞こえる。

「この僕が、今ホッとしたのか?」

それを聞いた私は、我知らず叫んでいた。

「ネアポリス!そいつから離れな!そいつは、エル」

私は吐き捨てるように、警告しようとした。だが、顔を殴られたような感じがして最後まで言うことはできなかった。

「(…説明は後でしてあげますが)貴女が、泣いても」

また一撃、離れているにも関わらず私は(殴られたのは初めてだから多分だけど、)殴られたような衝撃に襲われる!
ネアポリスは一歩も動いていないし、杖も構えていない…見当はつく。
『先住の力』なら、こんな事もできるはずだけど…体が痛むし、視界がぼやけていく。

「殴るのをやめない…!」

何より速すぎた。
2発目か、三発目で私は意識を失った…

「まさかな。トラブルを防げなかったという責任感、それだけのことだ」

イザベラを、ゴールドエクスペリエンスで気絶させたジョルノは小声で呟いた。
腕の中でのテファが言う。ジョルノの呟きを聞いていたかは、うやむやにして。

「じょ、ジョルノ…止めてもうクリスは」
「わかりました。クリスを寝かせてきますから今度はテファがお風呂を使ってください。少しは気が晴れるでしょうからね。その後は暖かいコーヒーでも飲みましょう」

横で血が飛んだりしても、あくまでも爽やかなジョルノに戸惑ったようにテファが言う。
するとジョルノは、一層爽やかな笑顔を見せて、イザベラが操った水で濡れ、テファの顔に張り付いた絹糸のような細い髪を指で梳く。
テファを立たせてから、ジョルノは意識を失ったイザベラを抱き上げて馬車へと戻っていった。
イザベラがタオル位しか体を隠すものを持っていないことに気がついたのは、テファが言われたとおり湯に浸かり、少しした後だった。
少し慌ててテファは風呂から上がると、上着を脱いだジョルノがラルカスと二人で何か話していた。
多分、上着は馬車の中、イザベラにかけられているんだろうなとテファは考えた。
コオオオォッとか言ってたラルカスが、足を止めていたテファを見てサッと立ち上がる。
その視線は、確実に湯上りでしっとり濡れた髪や服が張り付いた胸元を見ていた。

「コオオオッ…テファ殿、久しぶりでござる…コオハァハァ、ハッ!?」
「地下水、こいつを少し眠らせていてくれ」

ジョルノが言うと、ラルカスは頷き返し何処か哀愁を漂わせた横顔を見せながら、火にあたり始める。

「本能に正直すぎだぜ相棒…」

そうぼやく牛男に苦笑して、ジョルノが良い匂いを漂わせるコーヒーを片手にテファの方へ歩いていく。
持っていたコップは二つ。片方をテファに渡したジョルノは言う。

「今晩からまたラルカスと、暫くの間一緒に行動します。後でクリスにも言うつもりですが、少し気をつけてくださいね」
「? わかったわ。でも何に気をつけるの?」
「…男は皆等しく女好きなんです。特に彼はまだ理性が」

テファが完全に理解したようには見えなかったが、ジョルノは詳しく言うのは止めておいた。
余りにも馬鹿馬鹿しいし、今度マチルダに頼めばいいだろと軽く考えていた。

そんなことをしていたので…
イザベラが一人馬車の中で目を覚ました時、その時の事を思い出し嗚咽を漏らした…
その時、ジョルノが服を着ていなかったので肩にかけておいた上着から、組織に関係のある手紙が零れ落ちたことには、誰も気付かなかった。

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