ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第三章-02

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
露伴とコルベール、シエスタがタルブの村に旅立ってから二日後の昼のこと。
ルイズとブチャラティは、学院の中庭に置かれたテラス形式の丸机を囲むようにすわり、久しぶりに気楽なお茶の時間を楽しんでいた。
二人と一緒に、なぜかキュルケとタバサもいる。

というのも、ルイズが今飲んでいるお茶は、キュルケが実家から送られてきたものである。
キュルケは自分のカップを空にすると、ルイズに勢いよく話しかけた。
「どう、ルイズ? 今度私の実家が新発売する銘柄『アウグストゥス』は?」

「まあ、香りがよくておいしいけど……なんで私が試飲しなくちゃいけないの?」

「今度この銘柄をトリステインとガリアに輸出したいらしくて。うちの実家としては、外国の貴族の好みを知っておきたいんだそうよ。タバサに飲ませても『うん』としか言わないし」
タバサがキュルケになでられながらうなずく。
「うん。飲める」
タバサはそういいながら、テーブルの皿に載せられたクッキーを手に取った。
まるで、タバサの舌がベルトコンベアーであるかのように、お茶請けを次々に口内に運んでいる。

そのようなタバサを、キュルケはいとおしい妹を見るような気持ちで眺めた後、彼女の本命である、ブチャラティに話しかけた。
「ほかのみんなも、私の家に遠慮しちゃって、『おいしい』としか言わないのよ。
 その点、あなた達なら正直な感想を聞かせてくれると信じているわ」
「そんなことより、ダーリンはどう思った? おいしい?」
「うん? あ、ああ。なかなかだな」
ブチャラティはそういったが、内心は上の空であった。

彼はすでに紅茶を飲み終わり、別のカップに口をつけている。
「それより、ルイズ。君とキュルケは微妙に仲が悪いのではなかったか?」
よくキュルケの誘いに乗ったな。とブチャラティは思った。
俺が召喚された当時よりは、二人の仲はよくなっているのだろうか?

ルイズは、顔を少しだけ膨らませながらブチャラティに答えた。
「まあ、せっかくお茶に誘われたんだし。たとえキュルケがツェルプストー家の人間だとしても、無碍に断るわけにも行かないしね。ヴァリエール家の貴族としての当然のたしなみよ」

実際のところ、ルイズはこのお茶会をとても楽しんでいた。
彼女はいままでの短い学院生活の中で、誰かにお茶に誘われることなど一度としてなかったのだ。

なぜか?

それはルイズが『ゼロ』であり、魔法の無能さを学生にバカにされていたこともある。
だが、最大の理由はルイズ自身にあった。
彼女がそれをコンプレックスに感じ、僻みともいえる感情を内に持っていたこと。
そして、それを補うかのように、必要以上に、ヴァリエール家の名門さを居丈高に誇っていたからでもある。

このような彼女に対し、誰も彼もが。学院つきの平民でさえも、ルイズの僻んだ様子を見下し、ルイズの無闇に高い家名を恐れた。

だから、ルイズは、ブチャラティ達を呼び出すまで、同じ級の学生達とさえ、必要不可欠な会話しか交わさなかった。罵り合い以外には。
そのため入学した当初、一期生のころは、マルトー親父などには『タバサと双璧をなす無口な子』と思われていたほどだ。
つまるところ、ルイズは徹底的に孤独だったのだ。

「そんなものか」
ルイズのはっきりとした回答に、そう頷いたブチャラティは、マルトー料理長に作らせたという、一見珍妙な飲み物を飲んでいた。
タンポポの根と大豆を煎った後、粉末にしたものに、紅茶のようにお湯でせんじたものだ。

ルイズはそれを見て、あまりいいとはいえない味の記憶を思い出した。
ルイズもちょっとした好奇心で、その黒い液体を飲ませてもらったことがある。
でも、ルイズにはとても苦くて、飲み物とは到底思えないものだった。
それをブチャラティはなぜか懐かしそうに飲んでいる。
ブチャラティの故郷の飲み物なのかしら?
ルイズはそう思い、思わず顔をしかめた。


キュルケはその様子を見て、少し安心した。
ルイズは、ダーリンと露伴を召喚してから、とても明るくなったわ。

それに、なんだか近頃は肩の力が抜けてきている気がする。
キュルケは入学式のときに出会ったルイズの顔を思い出す。

とても今のような穏やかな表情を想像することができないわね。
あのときのルイズは、常に誰かに見張られているような鬼気迫った顔をしていた。
そう。まるで誰かに、同時に、罵られ、脅えられてるような。
そんな哀しい、こわばった顔つきだった。

お父様に、『ヴァリエール家にだけは負けるな』といわれたから、一年間。
たびたびルイズにちょっかいを出してきたけれど、本心から言えば、一期生のころのルイズは、とても陰気で高慢で。はっきりといってしまえば自分にとって一番近づけたくない人種だった。
ルイズが『ヴァリエール家』でなければ、私は今頃ルイズなんて子、すっかりと忘れてしまっているでしょうね。


でも。
キュルケは微笑みながら紅茶をすすりながら、桃色の髪の少女を見やる。
素直にしかめっ面をするルイズが、小憎らしく可愛らしい。

ルイズは強くなったわ。

 フーケのゴーレムを倒したから?

  それとも、アンリエッタ姫の密命を果たしてこれたから?


……いいえ、違うわね。
原因は、あなた。

 ダーリン……いえ、ブチャラティ。

あなたが、いえ。あなたを召喚できたことが、ルイズにとって大きな財産になったのね。
近頃のルイズの態度には、ほのかに自信すら感じ取れる。
洗濯はいまだに自分の手でやっているし、魔法実技の成績もまるで前と同じだけど。
今は学院での生活に、精神的な余裕が見られる。
他の生徒の野次にも、前よりは小粋な返答をしている。


覚えてる? モンモランシーとのこと。
あなた、前は『洪水』なんて、くだらない洒落でしか返せなかったけど。
昨日なんて、「ギーシュの恋人になるくらいなら『ゼロ』でかんべんして」なんて。
思わず噴き出しちゃったじゃない。
つばがかかったタバサに睨まれたのよ、私?


ルイズ。
あなた、ブチャラティを召喚する前は、宿敵の一族が招待したお茶会なんて、意地でも行かないでしょう?
それに、ほかのメイジと話す時間があれば、図書室の個室にこもって、魔道書を読んでいたでしょうね。

一年前のあなたなら。  フフフ……涙を堪えながら、ね。
そう思いながら、ふと、二人を見やる。


不機嫌なダーリンと嫌そうな顔をするルイズ、か。

感情も共有しているのかしら、この二人。
使い魔と主人なんだし、その可能性もあるわね。
だとしたら、ちょっと妬けちゃうわ。


……ん? ダーリンが不機嫌?

「どうしたの、ダーリン? 今なんだか機嫌が悪そうだったけど」
キュルケの質問に乗るように、ルイズも畳み掛けるように質問した。
「そういえばそうね。
 それに、最近ブチャラティは物思いにふけっている時間が多いわ」
「そうか? ルイズやキュルケに気づかれるほどか……
 いや、故郷の食べ物が懐かしくてな……」

ブチャラティが考えるに、召喚されてからこっち、一度もイタリアの料理を食べていない…
ここの物がマズイわけではないのだが、ブチャラティとしては、やはり地元の食べ物が一番しっくりとくる。
いまの時期のネアポリスはさぞ天気がいいだろう。
あの眩しい、透き通るような青空が懐かしい。
今となっては大気の、あの排気ガスの臭ささえ、自ら嗅ぎたいとすら感じた。
「カラスミソースのパスタが食いてェ。せめて、ピッツァだけでも……」


ブチャラティはそこまで考えて、不覚にも涙がこぼれそうになった。

「あら、ピッツァって、あのピッツァ?」
キュルケの思わぬ言葉に一瞬思考が硬直するブチャラティ。

「今、何て言った?」

「だから、あなたの言う『ピッツァ』って、丸いあの料理でしょ?」
「マジか!? マジであるのかッ!?」
急に顔を近づかれたのでキュルケもどぎまぎして答えた。
ダーリンの顔が近くで見られるというのに、なぜか目をそらしてしまう。
自覚なく、利き手の人差し指で自分の髪を巻き、所在無さげに弄っている。

ブチャラティはそのような彼女の肩をつかみ、情熱的に揺さぶった。
「茸とか肉とかを生地に載せて焼くあの『ピッツァ』が!?」
「ええ」
「マルガリータとかマリナーラとか言う、あの『ピッツァ』か?」
「…そう言うメニューがあるらしいわね」
「ベネ!」


「いやいや、落ち着けブチャラティ……ここで『ピッツァ』といっても、アメリカや日本などで売られているらしい、食パンでできた紛い物かも知れん。ここは慎重にならねば……」
ここで下手に期待してしまうと、後々間違いだったときにブチャラティ自身のショックが大きすぎる。

彼はイタリア人らしく、大げさに頭を抱えて部屋の中を歩き回った。
その態度は、標準的なイタリア人の許容範囲内の行動であったが、ブチャラティ自身は普段そのような行動を起こさない。

結果、唖然とする二人の女生徒がブチャラティを凝視することとなっていた。
ちなみに、タバサは本を読みながら、平然とクッキーを食べ続けている。

耐え切れなくなったルイズがキュルケに話しかけた。どこか上の空であったが。
だが、この状況を打破することができたのは結果的に彼女の功績となる。
「……確か、ある村の名産よね?」
「ええ、正確には郷土料理。なんでも、『ピッツァ』専用の釜で焼くみたいよ」
「ディ・モールト ベネ!!!!!!」

そいつは本物だ! とブチャラティの本能が叫んでいる。
彼はアイススケートの選手が演技をするように、背中を思い切りそらして拍手をした。
「ブラボー!! おお、ブラボー!!」

なにか違う人が混じってるぜ……ブチャラティ。

「で、どこにあるんだ? ぜひ行こう!」

「たしか……タルブ村といったかしら?」

タバサの耳がピクリと動いた。彼女は本から目をそらさずにつぶやく。
「私の風竜。乗るの?三人」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー