ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

風と虚無の使い魔-26

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匿名ユーザー

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貴族派の軍が混乱している隙をつき、シルフィードが包囲網を猛スピードで抜けていく。
数発魔法や飛び道具が飛んでくるが、あらぬ方向へ飛んで行くだけであった。

「とりあえず前線は抜けたようね」
キュルケの呟きにタバサが返答する。
「油断禁物」
「そうね、後ろに控えてる部隊もいるでしょうしね…ね、ねえ…心なしかスピード落ちてない?」
「過重なのに飛ばしすぎた」

前方の貴族派の軍がこちらを見上げている。
味方ではないと感づき、竜騎士が二体あがってくる。

ルイズが叫ぶ。
「どうすんのよーッ!この竜のブレスで片づけられるのーッ!?」
「私の風竜は吐けない」
「じゃあ、タバサの魔法は?」
「精神力切れ」
ルイズは振り向いてキュルケ達を見る。
「私も種切れよ」
「僕もさ」
ギーシュは肩をすくめる。
「ダービーさんはなにか持ってないの?もうこの際なんでもいいわよ」
「嬉しいことに完売御礼でね、弁当でもぶつけてみますか?」
ルイズはため息をつく。
「どうすんのよ」
ワムウが立ち上がってタバサになにごとか話しかける。
「スピードをできるだけ落とさず上昇しろ」
タバサは黙って頷き、シルフィードを三十度ほど傾ける。

「ちょっと、急になにするのよ!」
かなりの傾斜になり、滑り落ちそうになったルイズがわめく。

かなり高くあがったためメイジの魔法が届かなくなる。
そのため隊の上空を滞空していた敵の竜騎士がこちらに向かって上昇してくる。
「どうすんのよワムウ!かなり高空に来たからスピードが更に落ち…」
ワムウはシルフィードの背から落ちた。

空中でスレッジハンマーを構え、不幸にも真下にいた竜騎士の騎手に振り降ろす。
嫌な音を立て、騎手は竜から落ちていく。

もう一人の騎士はあまりの出来事にぽかんと口を開けるが、はっとして竜を操り、ワムウに向かってくる。
高速でブレのない軌道であっというまにワムウの背後につく。
射程距離に入り、ブレスを吐いた瞬間、ワムウはいきなり急上昇した。
普通の竜騎士はせいぜいベルトで固定しているくらいで、背面飛行などとてもではないが不可能だ。

しかし、ワムウは普通の竜騎士でも、普通ではない人間でもなかった。
竜の体に潜行しているため、どんな状態からでも落ちることはない。
ブレスをかわせる大きさの逆宙返りを華麗に決め、背後からブレスを放つ。
ブレスのために喉の袋の燃料に引火し、燃え上がっている竜は、焼け爛れ叫び声をあげる騎手ごと落下していった。


竜に乗ったワムウがシルフィードの横にあがってくる。
「最も重かった俺も降りただろう、このスピードを維持できるか」
「やる」
タバサが短い返事とともに頷き返すと、ワムウは高度を下げ、次々とあがってくる他の竜騎士を落としにかかった。


アルビオンを抜け、スピードの遅い火竜から再度シルフィードに乗り換えたワムウ。
「騎馬戦はやったが騎竜戦は初めてだったが…どうだ、レッドバロンも真っ青だっただろう」
「なによ、レッドバロンって」
ルイズたちも、戦場を抜け、いくぶんか気を楽にしている。
ギーシュが笑う。
「レッドバロンはわからないが、レッドコメットにも匹敵するね」
「どっちもわかんないわよ」
ルイズが口を尖らして言う。
「やれやれ、あの赤い彗星を知らないなん…」
「曲がる」
タバサが呟くと同時にシルフィードの体が大きく傾き、数人体勢を崩す。
「きゃああ、落ちるーッ!」
「ぐあッ!」
落ちそうになったルイズはギーシュを思いっきり蹴り飛ばし、なんとか竜の体にしがみつく。
「ぼ、僕を踏み台にした!?」
いきなりの揺れと蹴りが同時に来たギーシュは無様にも落下していった。

「いいのか、助けなくて」
「ギーシュならレビテーションで着地するし、そういえばラ・ロシェールに私たちの馬を
置いたままだったわね…ギーシュ、私の馬もお願いね」
落とした張本人のルイズは、とくに気に留める様子もなく、下に叫ぶが返事はなかった。

一悶着二悶着ありながらも、宮廷に到着しアンリエッタの部屋に二人は通される。
「……そうですか、ウェールズ様はやはり父王に殉じたのですね……
それで、ワルド子爵はどちらに?…もしかして、敵の手にかかって…」
ルイズはいいにくそうに俯く。
「姫さま、ワルド子爵は……裏切り者でした…ウェールズ皇太子様は、奴の手にかかって……」
「なんですって…」
アンリエッタは愕然とし、わなわなと震える。
「姫様…」
ルイズが心境を察してか、辛そうな顔をする。
「ゆ……」
「…?」

ガタンとアンリエッタが顔を上げる。
「許しません…絶対に許しませんよ売国奴め!じわじわとなぶり殺しにしてやるわ!
トリステイン総力をあげて新アルビオン兵一人たりとも逃がさないと誓うわ!覚悟しなさい!
即刻アルビオンを奪還します!竜騎士第一連隊長カンダ及び第二連隊長クリハラ、
メイジ第一連隊長ギルガメッシュに伝えなさい、命令は見敵必殺、以上よ!
不運なアルビオン人たちをレコン・キスタとやらの手から解放してあげなさい!」
そういって、机を叩く。

「ひ、姫さま……」
ルイズはあまりの豹変ぶりにオロオロとする。
「姫さまはあまりの出来事に錯乱しておられるのです、私が説得しておきますので、
皆様はどうかそっとしてあげてください」
マザリーニがそう言って、部屋をでるのを促すので二人はそれに従った。

「よくこの国はいままでもっていたな」
「あんた、宮廷内で不敬すぎるわよ。いつもの姫さまとは全然様子が違ったもの。そりゃ愛する……
従兄が自分の任命した裏切り者に殺されたとなれば…誰だって錯乱くらいしかねないわよ」
「ふむ、人間とはそういうものか」
「私もまだよくわからないけどね」

待合室に二人は戻る。数十分たつとアンリエッタとマザリーニがやってくる。
「姫さまは大丈夫ですか?」
「ええ、紫電改のタカを読ませて教育しましたから」
キュルケが呟く。
「ずいぶん偏った政治教育してるのね、トリステイン王家は」
「ちょっとキュルケ、トリステインを馬鹿にしないでよ」
「別に馬鹿にはしてないわよ、あんたこそ一々つっかかりすぎなのよ」
「なによ、あんたみたいな野蛮なゲルマニア人に口出しされるほどトリステインは落ちぶれてないわ」
険悪な雰囲気になりそうなところを、ダービーが咳で遮る。

「そういえば、レンタルしてたハンマーと後払い分のお金を貰ってませんでしたな」
「ああ、そうだったわね…ワムウ、あのハンマー返しなさい」
「うむ、ない」
「ああそう…ってえええええ!どこやったのよ、あれ!」
ルイズがキッとワムウを睨む。
「竜に潜行する際にどこかで放したようだ、運がよければ貴族派の頭上にでも落ちたかもしれんな」
「なにが運がいいよ!どうするのよ!」
「ならば、買い上げて貰うということで」
ダービーが口をはさむ。
「しょうがないわね、いくらなの」
「六百エキューです」
「ああ、わかったわ…ってちょっと待てええええええッ!なによその価格!家が買えるわよ!
ヴァリエール家の三女をボッたくろうっての!?」
「とんでもございません、あれは非常に精密にできているのに、文字通り落ちていた物で、再現することは
不可能なんですよ。あれは芸術品といっても過言ではありません、オーパーツなどといった可能性を考慮すれば
六百エキューは非常にリーズナブル、良心的価格でございます」

ルイズは唇を噛む。
すると、アンリエッタがなにか気付く。
「あら、ルイズ、服の内側になにかはいっているようだけど…」
「そうでした姫さま!その…ウェールズ皇太子様が、アンリエッタさまに渡してくれ、と預かった物です」
そういって、ルイズは風のルビーを渡す。
「ウェールズ様が、わたくしに…」
そう言って、風のルビーを指にはめる。

アンリエッタはルイズを見据え、決心したように言った。
「わかりました、この指輪、六百エキューで買い取りますわ、あなたはそれで彼に代金を払って差し上げなさい」
「そ、そんな姫さま、そんなわけにはいきません!」
「忠誠には報いなければいけません、彼に六百エキュー渡せばいいのですね、彼には払っておきますので
皆様はどうぞ学園にお戻りくださいませ」

「姫さまの婚姻も発表されるし、ほんと激動の数日間だったわね…」
教室でルイズはため息をつく。
「ほんと、私たちもあんな泥仕合に参加する羽目になるとは思わなかったわよ」
キュルケがあくびをしながら言う。
「おい、そこ!口でクソたれる前と後にサーと言え!分かったかウジ虫!」
おしゃべりに気付いたギトーに注意される。

「私たちいない間になんに影響されたのよ、あの先生」
「黒騎士物語でも部屋においとけば来週には変わるんじゃないか?」
ギーシュが口を挟む。
「なんであんたそんなもの持ってんのよ」
「源文先生は全ての男の英雄だからね」
白い歯を見せて笑う。
「初めてきいたわよ、そんなの」
キュルケが気だるげに言うと、ギトーにまたもや見つかる。
「そこ!次喋ったらじっくりかわいがってやる!泣いたり笑ったり出来なくしてやる!」
「はいはい、わかりましたよ先生」
キュルケが不機嫌そうに言う。
「はいではなくサーだ!そして先生ではない、教官と呼べ」
「イエスサー教官」
「それでいい」
満足げにギトーは黒板に戻る。

授業のベルが鳴る。
「授業は終了だ!分かったか豚娘ども!」
と言い残してギトーは教室を出ていった。

キュルケがルイズに話しかける。
「前から思ってたけど、あの先生とびきりのバカね」
「気付くのが遅すぎるわよ」

数分後、次の授業の担任であるコルベールが珍妙な物を抱えて教室にはいってくる。
「それはなんですか、先生」
ルイズが質問をする。
コルベールがしたり顔になる。
「ふふ、よくぞ聞いてくれました。その前に皆さん、『火』系統の特徴を、誰かこの私に開帳してくれないかね?」
視線が校内でも有数の『火』のメイジであるキュルケに注がれるので、しかたなくめんどくさそうに答える。
「情熱と破壊が『火』の本懐ですわ」
「そうとも!」
コルベールはにっこりと笑う。

「しかし、情熱はともかく『火』の司る物が破壊だけでは寂しいと私は常々思っていましてね、
『火』とは文明の象徴!使いようによっては色々と楽しいことができるのです。いいかね、
ミス・ツェルプストー、戦いだけが『火』の見せ場ではありませんよ」
「トリステインの貴族に『火』の講釈を承る道理はありませんわ!
……それで、その妙なからくりはなんですの?」
コルベールは少々気色の悪い笑みを浮かべる。
「うふ、うふふふ、そう、これこそが私の傑作品、愉快なヘビくん試作八号、油と火の魔法を使って
動力を得る、私の発明品ですぞ!」

生徒から質問があがる。
「七号まではどうしたんですか、先生」
「発明に失敗はつきものなのですよ、諸君」
ばつの悪そうに顔をしかめたが、すぐに笑みを浮かべる。
「まあ、ご覧なさい!まず、この『ふいご』で油を気化させる」
コルベールはふいごを踏む。
「すると、この円筒の中に気化した油が流れ込むのですぞ」
円筒の横に開いた小さな穴に杖を差し込み、呪文を唱える。
すると、円筒の中から発火音が聞こえ、それが気化した油に引火し爆発音に変わる。
そして、円筒の上のクランクが動きだすことによって、車輪が回転し、箱についた扉が開く。
そこからギアを介してピョコピョコとおもちゃのヘビが顔を出す。
「どうですか、皆さん!この円筒の中の爆発によって上下にピストンが動いておりますぞ!
これによって車輪が回る!するとほら!中から可愛いヘビくんが顔を出してご挨拶!面白いですぞ!」

教室が静まる。生徒は皆、なにが面白いのだろう、と言いたげな冷めた顔でみている。
「それで、それが何の役に立ちますの?」
キュルケが感想を述べる。
「えー、今は愉快なヘビくんが顔を出すだけですが、たとえばこれを荷車に乗せて車輪を回させる。すると
馬がいなくとも荷車が動くのですぞ!ゆくゆくは、サイボーグに搭載して舌で操作する加速装置に…」
「そんなの、魔法でやればいいじゃない」
モンモンラシーが呟く。
「諸君、よく見なさい!今は点火を魔法に頼っておりますが、たとえば火打ち石などを利用して、魔法なしでも
点火を断続的に行なえるよう改良していけば、魔法なしでも…あ、こら、まだ授業は終わっていませんぞ!」

興奮した様子のコルベールとは対照的に生徒は呆れた様子で、今日の授業は変な機械の自慢話が続くようだと
思い、生徒たちは何人も教室を出て行く。最終的に残ったのは生真面目なルイズだけであった。
「うう、ミス・ヴァリエール、あなたなら私の発明をわかって下さると思っていましたよ…
さ、この装置を自分で動かしてみないかね?」
そういって、コルベールはルイズを促し、成功した試作装置は無残にもバラバラになった。


To Be Continued...


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