ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

罰を負った使い魔

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匿名ユーザー

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アルビオン王国の片隅にある、ウエストウッドの村
そこにある家の一つで、ルイズは眠れないまま寝返りを打っていた
考えるのは、先日再会した自分の使い魔のことである
自分を救うために、七万の軍勢に立ち向かった彼は、
死にかけていたのを……いや、一度死んだのを、この村に住む
ハーフエルフの少女の力によって、救われたという
その生存を絶望視されながらも、彼が死んだなどと、信じたくはなかったから、
ルイズは彼を探しにアルビオンへ出向いた

彼と初めて出会った日のことを思い出す
『使い魔』召喚の儀式で呼び出してしまったのは、
両手両足を拘束され、喉奥まで猿轡を飲み込んでいた平民
猿轡を解いた瞬間に、彼は「殺さないで」と叫んだ
彼はひたすら、幻影と幻聴に怯え、口からは
殺さないで、助けて、許して、という言葉だけが溢れてくる
とりあえず、医務室へと運ばれた彼とマトモに会話が出来たのは翌日のことだった
一旦、落ち着いたらしい彼と会話をするが、
ありえないことばかり話す彼に、ルイズは自身が狂人を
召喚してしまったのだ、と激しく落ち込んだ
彼と、コルベールと三人で話し合って出た結論を思い出す
  • 彼は、遠い場所で暗殺業をやっていた
  • 彼は、素性を知られたくない雇用主の素性を探ったため
 彼の友人が殺されていく所を目の前で見せ付けられた
(この際に、狂ったのだろうとコルベールと結論づけた)
  • 救ってもらった恩があるので、ルイズには従う
こうして、彼は彼女の使い魔となったのだ

事実、彼は彼女によく仕えた
「死ぬところだったのを、お前に救われたのは事実だからな。
 『恩には恩を、仇には仇を』……俺の、元の仲間の口癖だ」
懐かしそうに、悲しそうに言う彼にルイズは尋ねたことがある
「元の世界へ、帰りたい?」
彼は困ったような顔で、首を横に振った
「今更、どの面下げて帰ればいいんだ?
 俺とあいつがやったことで、チームの奴らが、
 どんなひどい目に遭ってるか、分からないのに」
彼は何処までも、仲間のことを思い遣っているのだと、
自分のことは、仲間の前では二の次なのだ、とルイズは思わざるを得なかった
それでも、どんなに魔法に失敗しても自分を蔑まない彼を、
香水を巡るイザコザから、決闘騒ぎを起こした自分を守ってくれた彼を、
土くれのフーケ討伐任務で、自分を守ってくれた彼を、
自分を裏切った元婚約者のワルドから、自分を守ってくれた彼を、
七万の軍勢から、自分を守ってくれた彼を、
あらゆる敵から、自分を守る『盾』となってくれる彼を、
ルイズは大切な人だと、傍に居て欲しいと思わざるを得なかった

「……決めた」
ルイズは、ある決心を胸に、ベッドからそっと降りると、ある人物の部屋へ向かった
コンコン、とドアをノックすると中から声が返る
「こんな夜中に、だぁれ?」
「私……ルイズ」
「え?!」
慌てたように扉を開いたのは、ハーフエルフの少女だった
流れるような金の髪、透き通るような白い肌、……大きすぎる胸
美しいなあ、と妙に場違いなことを一瞬考えて、ルイズは頭を振った
「ティファニア、だったかしら?……あなたに、お願いがあるの」
「え?あ、あの、私に?」
寝起きで頭がぼうっとしているらしい少女は、困惑している
「そう。あなたにしか、できないこと。杖を持って、付いてきて」

彼女の手を引いてやってきたのは、村の外れの方の家屋だった
中からは、うぅ、と苦しそうな呻きが漏れ聞こえてくる
「……あいつは、ここでもずっと、ああなのね?」
ルイズの問いに、テファは困ったような顔で頷いた
「ええ……。うなされてる理由を、どうしても教えてくれないんです。
 迷惑になるから、ってこんな村外れの小さな小屋で眠って……」
その言葉に、ルイズも悲しそうな顔をしたあと、
小さくアンロックの呪文を唱え、扉を開ける
コモンマジックすら使えなかった自分が、コレを使えるようになったとき、
彼が喜んでくれたことを思い出し、鼻の奥がツンとする
扉が開いた瞬間に、弾けるように飛び起きた彼を、ルイズは見つめる
「……まだ、眠れないのね?」
「ルイズと……テファ?どうしたんだ、こんな夜中に」
目の下に出来た隈は、彼が長いこと深く眠っていないのを如実に示す
「いつも、いつも、いつも、そう」
ルイズは、その場の全員に言い聞かせるように呟く
「あんたってば、いつも眠ることができなくて、うなされてる
 いつだって、こっちのことも考えずに、一人でうなされてる」
「……すまない。出来るだけ、声はあげないようにしてるんだが」
「そういう問題じゃないわ!!」
声を荒げるルイズの目には、涙が浮かんでいる
「迷惑なのよ、あんたが見る悪夢を、私も何度も見せられた!
 あんなものを見るのは、もうたくさん!!」

目の前で切り刻まれる彼の親友 輪切りにされた死体は額に入れられ
仲間達の下へと送り届けられていく
親友の死に気づいた仲間達は、彼ももう生きてはいまいと結論づけ、
『ボス』へと復讐を近い、その時を待つ
だが、それを果たせないまま、仲間達はその数を減らしていく
体中を撃ち抜かれ、毒のようなもので体を溶かされ、
鉄の箱の乗った車輪に潰され、体をバラバラにされ、
蛇の毒に舌を灼かれ、鉄の彫刻で首を串刺しにされ、
ボスの顔をみることも、相打ちになることも許されず、殺されていった
彼は、毎夜毎夜、その夢を見ているのだと、気づいた
うなされる彼の言葉を聞く限り、最初は親友の死だけだった
しかし、気がつけば、呼ぶ名前は一人ずつ増えていた
その度に、彼の苦しみは、増している
八人から増えなくなったところで、もう誰も居ないのだと悟った


「だから……だから、忘れなさいよ」
ぎゅ、と杖を持たない方の手でテファの腕を握り締める
「彼女の『虚無』で、忘れさせてもらいなさいよ!!
 あんたの、仲間達の死に様を!!忘れて、ゆっくり眠りなさいよ!!」
その言葉に、彼はハッとして、ルイズを見つめ、いつものように、悲しい笑顔を見せる
「心配してくれているんだな、ありがとう、ご主人様。
 でも、俺は、忘れない。俺は、あいつらの死を背負って生きていく。
 それが、たった一人、生き延びてしまった『罪』に対して、俺が背負うべき『罰』なんだ」
「……馬鹿……ッ!!あんたの仲間が、そんなこと、望むと思ってるの?!
 リゾットが、ギアッチョが、メローネがプロシュートがペッシが
 イルーゾォがホルマジオが……ソルベが!!」
ソルベ、という名を聞いた瞬間、彼の表情が変わる
「それは……」
彼は、目を伏せ、呼び出される直前のことを思い出す
目の前で切り刻まれる親友は、自分が鏡に吸い込まれる瞬間に『生きろ』と言ってくれた
その願いを叶えてくれたからこそ、ルイズに仕えている
「それでも、……俺は、忘れない。忘れたくない 俺は、『罰』を負っていきなきゃならないんだ!」
死に様を忘れれば、彼らの死を、誇りを否定することに繋がるのではないかと、
彼は恐怖し、声を振り絞るようにして、叫んだ
「……馬鹿、もう、知らない……ッ!!」
「え、あ、あの、ルイズさん?!」
何が何だか分からないままのテファの手をひいて、
ルイズはその小屋を出て行った

その後、やることもなく目を閉じた彼と、泣き疲れて眠ったルイズは、不思議な夢を見た
何処かの部屋で、ルイズと彼は、幾度もあの悪夢に出た仲間達と顔を合わせていた
その中で、『リゾット』が、ポツリと告げた
「……お前には、俺達の死を乗り越えて欲しかった」
それに続いて、仲間達が次々と言葉を発していく
「だからこそ、俺達の死に様を見せた」
「けど、お前には、ちょいと重すぎたかもしれねえなあ」
「つーわけで、俺達はもう行くわ」
「そこのシニョリーナを泣かすんじゃねえぞ?」
「すいません、迷惑かけちまって……」
「そいつのこと、よろしく頼むぜ」
そう言いながら、一人ずつ扉の方へと向かう
彼の隣に座っていた親友が、ゆっくりとソファから立ち上がると
彼を挟んで反対側に座っていたルイズに、微笑む
「……お前みたいな優しい奴が、こいつの隣に居てくれて、よかった
 じゃあな、達者でやれよ?俺達全員の分まで、幸せに」
扉を開き、一人ずつ、光の中へ消えていくのを見送りながら、彼は叫んだ
「……お前達の死にうなされることがなくなっても、
 俺は、絶対に忘れない、忘れないからな!!」
彼は、泣いていた。ルイズも、一緒に涙をこぼしながら、叫んだ。
「あなた達のこと、私も忘れない!こいつが生き残ったのが『罪』だというなら、
 こいつが、忘れないことが『罰』だというなら、私も、忘れない!!
 だって……、使い魔とメイジは、一心同体だから……」
最後の一人が、彼の親友が消えていく段になって、彼女は殊更大声で叫んだ
「ジェラートは、私の使い魔だから……ッ!!」
安心したような微笑が、光の中に溶けていくのと同時に、二人の意識は、ゆっくりと覚醒していった

以降、悪夢にうなされることもなくなった彼は、今までより更に、その力を振るうようになった
やがて、伝説の虚無のメイジ:ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの傍らには、
常に伝説の使い魔である『ガンダールヴ』:ジェラートが
寄り添っていたと、伝承には残ることとなった
あらゆる武器を使いこなし、あらゆる敵から主を守った彼の背後に、
八人の男達の幻が有ったとも、伝えられている……


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