ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔-26

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匿名ユーザー

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アルビオン浮遊大陸。
正午まで後三十分。
ニューカッスル城下で…

 アルビオン王国軍、最後の工兵小隊の残余、およそ十名が城壁の一角に群がり、城壁にかけられた『固定化』の魔法を解除していた。
城門の右方、およそ二百メイルの位置である。
彼らの背後、練兵所前の広場には砲兵を除いたアルビオン軍の全兵力が集結していた。
この二百余名は、全員騎馬上にある。
メイジは杖を、そうでないものは槍を抱えている。志願した平民も混じっている。
中には初めて馬に乗るものもいるらしく、熟練した者に手綱捌きを教わっていた。
頭上には、断続的に砲弾が飛翔している。
ニューカッスル城の砲兵が城壁に取り付けられた砲で試射を行っているのだ。

雲が出ている。が、晴天に近い。
ウェールズは天候をもう一度確認すると、ひそかに気合を入れ直した。
貴族派の空軍は、半島の反対側から楽しそうに嫌がらせの砲撃を続けている。
見通しは良いが、城からの迎撃を恐れて、敵艦隊は自分たちの行動を視認できるまでは近づいていない。
どうやら敵空軍の艦長は無謀なことをしない性格らしい。
ラッキーだ。いや、そもそもこの状況になる時点で運は最悪じゃないか?
ウェールズはそう考えつつ、部下たちに向かって口を開いた。
「すまんな。こんな無茶な用兵しかできない僕を許してくれ」
そう詫びつつも彼は、母に悪戯を見つかった悪童のような表情をしていた。
攻撃目標は城門前に展開しているアルビオン地上軍。その司令部である。
騎兵だけが持つ突進力で敵陣地を突破、そのまま敵の指揮系統を引き裂く作戦であった。
アレだけの大軍。敵の指揮系統が混乱すれば、攻撃する余裕すらなくなる。
ウェールズら幕僚の計算が正しければ、彼らがその混乱を収拾する時間は、およそ三日。
それだけあれば、ニューカッスル城に帰還しているはずの『イーグル』号でこの城を脱出できる。

「何をおっしゃいますか陛下。
いくら陛下でも我々から名誉を奪うような真似は許しませんぞ?」
ウェールズの隣にいる中年のスクェアメイジが、自分の白い口ひげをなでながら笑う。
その口調は、わが子の悪意のない悪戯をやさしく叱り付けているようでもあった。
「そうですぜ。ご主人のいうとおりでさ。陛下はただ、こうお命じになってくだせぃ。
 『貴族派のクソッタレ共をブッ殺せ』ってね!」
彼の側で頼りなく馬を御している若い平民が応じる。左足の膝から下が無い。また、全身鎧がサマになっていない。

「それにですな」
「近頃の篭城戦では味方の血しか見とらんですしなぁ。久々に腕が鳴りますわい。
 のう? ライオネル?」
そう言いながら、彼は右目に包帯を巻いた、黄色い風竜の鼻を愛おしそうになでた。
「ぐぁるるる…」
主人の問いかけに、使い魔はうれしそうに鳴き返す。
その包帯に滲んだ血は、遥か昔に乾ききり、ドス黒く変色している。


「そうか…」
「ありがとう、コンスタブル伯。それとマイケル君」
「こいつぁありがてぇや!
 国王様が平民に声をかけてくださる事だけでもありがてぇのに、
 あっしの名前まで知ってらっしゃるとは!
 おとつい死んだデブのプリンスのヤロウにも自慢できるってヤツですぜ!」
「いい加減黙らんか!このバカタレが!」
「へいへい…っと」

「私の使い魔により、最新の敵の情報があります」
そのように報告したのは老メイジのパリーであった。
「敵方に目立った動きはなし。彼らは、もう勝ったと思っているようです」
「そうか、ならばひとつ教育してやるとするか」
 ウェールズが次の句を告げる。
「傾注!」

「アルビオン国王たる余が命ずる!
 我等に仇成す者を打ち滅ぼせ!司令部将校は一名たりともこの地より生かして返すな!」
「「はッ!」」
「「応ッ!」」

「戦闘隊形にうつれ」
「へへっ。悪いですが、一番槍は頂きやすぜ」
重武装した、平民とドットクラスのメイジ達がウェールズを中心に楔形をなしていく。
「陛下を差置いて抜け駆けとな? さすがはワシの召使いよ!」
そのすぐ後ろに、ラインクラス以上のメイジ達が二列の縦列陣を形成した。
国王を先頭とした、矢印型の陣形が整列された。
「ぐおおぉぉッ!!」
陣の側面を使い魔たちが援護している。

正午まであと二十五分。

「テッ!!」
号令とともに射手が馴れた手つきで着火する。
レコン・キスタ地上軍攻城陣地の方向へ、轟音とともに多量の砲弾が降り注いでいく。
ニューカッスル城から本格的な砲撃が始まった。
それと同時に城壁の一部が『錬金』の魔法により砂の山と化す。
「閣下。後五分で突撃路開通します」
工兵隊を指揮している上等兵が声を張り上げて報告した。
砲弾の着弾音で、叫び声を上げなければ届かないのだ。
彼らは城壁の一部を爆破し、そこから部隊が通れるように多量の砂を掻き出している。


ニューカッスル城のすぐ近く、側面を森に囲まれた丘の上に設置された天幕から、その砲撃を注意深く見守っている男がいた。彼はレコン・キスタ陸軍ニューカッスル方面軍集団の総司令官、ドルド卿である。
「この砲撃をどう思う?」
ドルド卿は隣にいる副官に尋ねた。いや、自らの認識を確認した。
「最後の悪あがき……と思いたい所ですが、敵はあのウェールズ公です。
何か仕掛けを施しているかもしれませんな」
副官が自分の意見に近いことに満足した彼は、城門を注視するよう命じた。
「左右の城壁は土煙で全く見えませんが、正面の城門が開くかどうかはなんとか視認できます」
副官が保障した。いまのところ、砲撃でレコン・キスタ側の被害は皆無である。
なるほど、王党派の攻撃は事前に察知できるということか……
ドルド卿は、副官の目の付け所にすこしだけ好印象を持ちながら、彼に命じた。
「念のためだ。第一線の兵には豪に下がらせることを徹底させろ」
最前線の部隊には退避用の塹壕を一線掘らせている。
彼らは壕にこもっているし、そもそも奴らの砲弾は陣地まで届いていないのだ。



正午まであと二十二分。

「突撃路開通しました! 」

「諸君! 始祖ブリミルの加護があらんことを!」
「「「始祖ブリミルの加護があらんことを!!!」」」

「余は常に諸氏の先頭にあり!」
「総員!早足!」
一筋の突風が戦場を駆け始めた。

 ニューカッスルの砲兵が全力で弾幕を張っている。連続射撃。
 砲撃が済むと、装填員が砲口を清掃し、砲弾の装填作業を始める。
 照準手は装填の終わった砲に取り付き、照準を変更している。
 班長と射撃手は既に照準済みの砲に移動している。
 大砲の七段撃ちである。
 「3…2…1…テェッ!」
 目標はウェールズ達の前方十メイル。砲の照準は、少しずつ射程距離を伸ばしている。



 砲弾の着弾が、ウェールズ達を戦場へ導いていく。
 ウェールズの号令が新たに飛ぶ。「早駆けッ!」

 彼等は塹壕線十メイルの距離まで敵の視界に入ることはなかった。
 いまや味方の援護射撃は敵塹壕の線上に降り注いでいる。
 「敵だッ!」
 壕から顔を出し叫んだ敵兵はしかし、王党派の斉射した銃の弾丸によって倒れた。
 「散兵にかまうな! 速度を保て!」
 ウェールズはそういいながら、塹壕の掘られていない通路を風のように駆け抜けていく。
 両側の塹壕から、潜んでいた傭兵たちが飛び出してくるが、王党派の軍はすでにその場を駆け去っている。
 傭兵達は、過ぎ去った馬の蹄の轟きを聞くことしかできなかった。 

 敵の第一線を突破した。
 同時に、ウェールズは前を見据えたまま、背後にいるはずのメイジ達に命令を発した。
 「偏在に陽動を開始させろ!」


 馬上の平民が、唖然として立つ貴族派の指揮官の胸を槍で貫く。
 最前列に作られた槍衾には、いくつかの死体が串刺しになってウェールズたちの向かう先を指し示している。
 許容のないウインディ・アイシクルの魔法で、戦場を右往左往する敵を暴力で進路上から吹き飛ばす。
 一瞬だけかけられるレビテーションの詠唱で、敵兵が馬の速度で彼らの進行方向に吹き飛んでいった。
 大型の使い魔が、慈悲もなく混乱したままのメイジをなぎ払う。
 もはや、彼らに許容の文字はない。
 「陛下! 十時の方向!」
 その槍兵が指し示す先には、二千名程の鉄砲隊が横陣を組みつつあった。
 横陣の後方に、敵司令部の天幕の威容が砂煙越しに見える。

 すでに王党派の騎馬戦力は、出撃前の三分の一にまで減衰している。
 だが、ウェールズは確信した。
 「この消耗率ならばいける! われに続け! あの隊を突き崩す!」

 レコンキスタ司令部本陣は喧騒に包まれていた。
 司令官に、副官と伝令達がいっせいに話しかけてくる。
 「そこらじゅうから魔法がふってきます!」
 「この優勢下で包囲されたとでも言うのですか?!」
 「報告! 司令部付鉄砲隊第二連隊壊乱の模様!」
 ドルド卿は、最後の言葉にしか反応する時間的余裕がなかった。
 「んなもん見りゃわかるわッ!!」
 この副官はそんな事しかできんのか!
 帝都の奴等め、無能な人間ばかりよこしやがった!
 司令官は、そんなことをやくたいもなく思い浮かんだ自分を責めた。
 今はそのようなことを考えている場合ではない。何かして司令部の壊滅だけは防がなくては!
 そのような思考の元に、新たな伝令の兵が話しかけてきた。
 「総予備の傭兵達が攻撃の許可を求めています!」
 「許可しろ! 司令部要員に伝達! 方陣を組め!」

 鉄砲隊の散発的な射撃により、王党派の櫛の歯が抜け落ちていく……
 ウェールズは、前方に彼目掛けて鉄砲の照準を合わせている敵兵がいることに気がついた。
 その鉄砲の筒の黒点が見える。狙っているのは自分だ!
 そうウェールズが直感したとき、彼の視界が、併走していた馬とそれを操る平民にさえぎられた。
 誰かがウェールズの進路方向すぐ前に抜け駆けしたのだ。
 「お先ッ……」
 どこかで聞いたような声が聞こえたと思うまもなく、再びウェールズの視界が良好になる。
 彼の前方を走っていたものは狙撃されたようだ。
 そして、先ほどウェールズを狙っていた銃兵はうずくまっていた。
 その胸に、投擲されたらしい槍が突き刺さっている。


 銃弾が、魔法が、雨として玉石もろともに打ちのめす。
 「へいk
 ウェールズは魔法で風の防壁を作ったが、それも気休めにしかならない。
 この場を暴れまわる爆風や火炎で、もはや彼は目を開けていることすら難しい。
 それでも、ウェールズは鉄砲隊を怒鳴りつけているメイジの一団を斃す事に成功していた。
 敵の鉄砲隊は指揮官を失い、散逸した。


 「ここが要所だ! 気を緩めるな!」
 ウェールズが馬上でそういいながら後ろを振り返る。

 しかし、彼の背後に駆ける者は、すでに、誰もいなかった。
 敵司令部まで、あと六メイル。
 この時点でウェールズの意識は途絶えた。

いまだにところどころに立ち上る煙が、一時間ほど前にあった会戦の凄まじさを象徴していた。
「味方ごと焼き払うとは! 貴様、気が狂ったのか?」
ドルド卿は、戦場の焼け跡を見ながら、この現象を引き起こした男に詰問した。
総予備の傭兵隊。
数は劣るが、隊員すべてが『火』系統のメイジで構成されている。
『敵味方を焼いてから挨拶するのがモットー』という、きわめて悪評の高い傭兵隊である。
「何をおっしゃる、司令官殿。我々は司令部壊乱の危機を救ったのだ」
クックックッ…………
傭兵隊長から不快な笑みがこぼれる。
「それに、第二連隊はあの王子の手で壊滅していた」

盲目の彼は、いまだくすぶり続ける黒煙に向かって深呼吸をした。
「ああ、とても良い臭いだ」



 太陽が西の地平に隠れようとしている頃、空中巡洋艦『イーグル』はトリステインに無事到着していた。
 ラ・ロシェールの埠頭にゆっくりと進入して行く……
 放たれた舫により、船は港に横付けされた。
 「はやく避難民をおろせ! 一刻も早くアルビオンへ出航するんだA」
 船長のいらだった掛け声の下、船員があわただしく船中を動き回っていた。

 ラ・ロシェールではたくさんの避難民がひしめいていた。
 亡命しているのは貴族だけではない。平民もいた。
 かすれた声が、どこかの路地からともなく漣のように響いている。「水を…」「傷薬はどこに売っている?」
 誰もがつかれきった表情をしている。
 それは、街に立ち寄ったルイズ達一行にも該当していた。
 「亡命の方はこちらにお並びください!」
 役人らしき若者が声を張り上げている。
 貴族と平民。別々に列を作っている。

 そのとき、アルビオンの王族の旗をひらめかせた『イーグル』の甲板に、一人のトリステインの貴族が埠頭を渡ってきていた。その男は多少尊大そうに、だが、他人の不幸を悔やむ顔つきで船長に話しかけた。

 「まことに遺憾ながら、この船をアルビオンに帰らせるわけにはいかんのだよ、君」
 「何だと?!」

 「先ほど我々トリステインの王政府の『遠見の鏡』が、ニューカッスルの陥落を確認したのだ」
 船長の目が驚愕とともに、その瞳のなかにあった力強い光が失せていく。
 自分のことをマザリーニ枢機卿と名乗るその男は、ウェールズが生死不明になった事を船員たちに告げた。


その戦闘から三日後。
トリステイン王宮についたルイズたちは、アンリエッタに報告していた。
ルイズはアンリエッタに手紙を差し出した。

「任務、ご苦労様でした。ルイズ」
アンリエッタがぎこちなくうなずく。
彼女はすでに、王宮内の『遠見の鏡』に移されたニューカッスル城の戦闘の様子をおぼろげながらも目撃していた。
あの状況では、ウェールズの生存を期待するのは愚かというものであろう。
マザリーニがアルビオン内に放っていたという間者、『草』の報告もそれを裏付けていた。
アルビオン中に布告されていたウェールズの懸賞金が取り消されたのだ。

「ウェールズ閣下は、最後に『できるだけ生きて姫様の御前に参上する』といっていました」
「そう、なの」
ルイズがウェールズの言葉を伝えたが、アンリエッタはうつろに聞き流すことしかできなかった。

露伴が口を挟む。
「あと、ロリドのアホ面が貴族派の裏切り者だったんだ」
「なんですって?! どういうことですの?」
アンリエッタの驚愕に向かって、ブチャラティが話の後を引き継いだ。
「そうだ。彼は最初からアンリエッタの手紙の存在を知り、狙っているようだった。そうだな、露伴?」
「……そうですか……ワルド隊長が行方不明になっていたので、グリフォン隊に行方を捜していたのですが……」
アンリエッタが絶句する。彼女は相当に絶望しているようであった。
まさか王政府の親衛隊からも裏切り者が出ているなんて……
彼女は、ルイズ以外のメイジという貴族がすべて信じられない気持ちになりつつあった。

彼女の沈痛な気持ちを代弁するかのように、一同は沈黙を強いられたような気分になっていた。
が、空気の読めない剣が一振り。
「なるほど。ワルドの奴、『アンリエッタに命じられた』とかいってたけどよ。ありゃ嘘で、独断で行動してたんだな! 食えねえ野郎だぜ! なあ、相棒!」ゲシィ!

「そうですか……皆さんお疲れ様でした。皆さんには後日、王宮から相応の報酬を用意いたしますわ」
「いえ! 姫様、そんなものいりませんわ!」
ルイズが驚いたように首を左右に振る。彼女からしてみれば、アンリエッタにこれ以上の負担はかけさせたくないのだろう。
その様子を見たアンリエッタが、涙ぐみながらルイズに微笑みかけていた。
「ありがとうルイズ。今は、あなたのそんな言葉が一番うれしいわ」
しかし、彼女が自分の顔に貼りつかせていた笑顔に、ふた筋の小川が形成されているのが見て取れる。
だが、その事実を、一同の誰も指摘することができなかった。





 ニューカッスル平原での決戦から一週間後。
 トリステイン王政府はアルビオン王国の滅亡を公式に宣言することになる。

 ハルケギニアの歴史学上、一般的にこの宣言を持ってアルビオン内戦が正式に終息したとみなされている。




味も見ておく使い魔
第二章『戦争潮流』fine...

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