ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-35

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匿名ユーザー

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康一達が居た部屋は、もはや大規模災害の跡地と化していた。
魔法による破壊は全てを薙ぎ払った上で粉微塵に砕いたのだ。
壁には幾つも風穴が空き、明らかに見通しがよくなっている。
バラバラと天井から塵のような物が落ちてきた。
まるで廃墟のようなその部屋に、この惨状の元凶等が姿を現した。

三人のメイジが、ジャリッと元が何なのかも分からぬ破片を踏み潰す。
会話は無かった。いや、そんな必要は無いらしい。
三人は何を言うでもなく、まるで一つの意思に統括されたかのように、行動している。
全員が全員を補完しあって行動している。一筋の乱れも無い、見事だった。不気味な程に。

そんな中、一人が「ディティクトマジック」を発動。
探知の魔法は、この場にある全てを使用者に教える効果を持つ。
康一達が今この部屋の何処に居るのか。全てを教えてくれる、ハズだった。
僅かに体が揺れた。それは驚きか、疑問か。

いないのだ。康一達はこの部屋で生きてはいない。
だが、またこの部屋で死んでもいなかった。
魔法で死んだとしても死体ぐらいは残る。それも二人分なら必ず。
たとえ火炎で爆散しようと、氷弾で穴だらけになろうとも、鉄槌で踏まれたカエルのようになろうとも、だ。
つまりこの部屋に死体が無いという事は、どこかに隠れたか逃げた、という事になる。

一人の探知が全員に教えた。まだ狩りは終わっていない事を。
あくまでも戦闘態勢のまま、一人が探知を続行。
隅から隅まで無表情に調べつくす様はまるで、本当に、機械だ。
まるで感情が見えない。僅かに動揺のようなものは見られるが、それも儚い。

しかし探知は部屋の中に何も教えない。何故か。
探知は範囲を広げて続行される。その範囲が部屋の外にまで及んだとき、また体の揺れ。
窓を見る。魔法の衝撃でガラスが吹き飛び、端に残った欠片が付いた窓。
窓は開ききっていた。衝撃で全開になってしまったのだろうか?

だがそれならメイジが窓に目を向ける理由が無い。
ゆっくりとメイジは窓へと近づき、そこからの世界を見下ろす。
見下ろすその先。フワリ、と柔らかくカーテンが舞った。
それだけで何があったのか、その者は全てを悟った。

二階層下の窓らしい。この部屋のほぼ直線下にある窓からカーテンが顔を覗かせていた。
カーテンは窓の内側に取り付けられる。つまりこの窓は今は開きっぱなしの状態にあるという事。
一応下の地面も見てみるが康一達の姿は見えない。
暗いので足跡があるかどうかまでは見分けられないが、これでハッキリした。

逃げやがった。あの必死とも言えるタイミングで、この窓から飛び降りたのだ。
女を抱えて、瀬戸際に生き延びやがった。
そして二階下の窓にどうやったのか分からないが飛び込んだ。
あの残った時間でメイジが完全なレビテーションを使うのは不可能に近かった。

不完全な浮遊なら、勢いを殺しきれずに地面へ激突する。
しかしどうやらそんな事も無く、階下の窓から別の部屋へと飛び込んだのだ。
魔法の技ではない、とその者は感じる。
どうも不可視の攻撃をしてくるし、挙句にどうやったのかこの逃げ方。

あの使い魔の少年の能力だろうとアタリをつける。
しかしこのまま悠長にしている時間は無かった。時間を与えるのはとてもマズイ。
与えれば与えるだけ相手の有利に状況は進んでしまう。
一刻も早く、命を刈り取らなければならない。

窓を覗いていたメイジは錬金を詠唱。対象は自分の立つ床に設定。発動。
足元のガラクタごと床は錬金によって塵芥と変わり、その上に乗っていたメイジごと自重で階下へと抜け落ちる。
すたん、と軽く階下に降り立つと更に一度錬金を詠唱。
しかし今度の対象は足元ではない。ばすん、とメイジの足元から30cm程前の床に穿たれる穴。

そして探知を発動。その探知の結果によると、どうやら康一達は階下の部屋にはいないようだ。
当然だが康一達もゆっくりとしている訳では無かったらしい。
一人でメイジは穿たれた穴から落下。


――――――逃がしはしない。




康一は死んだ。


正確には康一はあのままでは死んでいた。
一体どうすればいいのか?目前の死に康一は対応しきれなかった。
あまりにも考える時間がなかったし、完全な手詰まりだったのだ。
だからその状況を打破するには他の要素が必要だったのだ。
そしてそれは死の目前に起こった。



康一の思考がマトモに回り始めた時はすでに手遅れだった。
いや、エレオノールを見捨てれば康一は助かっただろう。
今から床をACT3でブチ抜きそこから逃げるとしても、意識のないエレオノールを階下に落とし、康一自身も降りるには時間が足りない。
かといって自分の命惜しさにエレオノールを見捨てて逃げることなど、はなから康一の考えの中には無い。

残る手は一つだけだった。それしか残らなかった。
康一はそれを実行しようとACT3を操作する。と、その時。
『こっちじゃ!早うこっちへくるんじゃ!!』
何処かしわがれた声が聞こえてきたのだ。

部屋に自分とエレオノール以外の人間はいない。幻聴だろうか。
そう考えるも、康一には何か呼び声に力を感じた。
僅かにエレオノールの長い金髪がなびいた。風が、吹いている。
いつの間にか窓が開いているのだ。そこから空気が部屋の中へ入り込み、風を生み出している。

『飛べぃ!』
また声が何処からともなく康一の耳に届いた。
間違いなく幻聴ではない。ハッキリとした意思を感じる。
声はどうやら窓から飛び降りろと言っているらしい。飛べば地面に真っ逆さまだろう。
エレオノールをACT3で抱えて窓から飛び降り、その後ACT2のボヨヨオォンの文字を地面に貼り付けるには時間が足りない。


だが自分一人ならエコーズの能力で助かる。


瞬きする間の無いほどの時間で康一は決断した。
まさに渾身の力を込めて彼は飛んだ。何故なら、このままでは魔法で死ぬからだ。
しかし飛べばエレオノールはペシャンコになってしまうだろう。
だから、助かるのは、彼女であるべきだ。

康一の後を追随するACT3の腕にはエレオノールが抱えられていた。
エレオノールが自らの意思で死ぬのならともかく、自分に付き合わせて死なせる訳にはいかない。
声の主が何を思って飛び降りろと言っているのかは分からないが、少なくともACT3で墜落から守ればエレオノールは助かる。

「だからこの人は助ける。死ぬのなら僕のほうだ。つまらない意地かもしれないけどッ、僕はッ、そうするッ!」

但しやすやすと康一は死ぬ気はない。重傷かもしれないが生き延びる。
生き延びて必ずアンリエッタを守りぬく。故郷に、杜王町に帰るのだからッ!
そして康一は声の言う通りに窓から、その身を投げ出した。
ACT3もエレオノールを抱え、康一の後に続く。

宙に身を躍らせた康一は、遠い彼方にある地面を視界に捉えて、その目を見開いた。
それとほぼ同時に、部屋の中で魔法が炸裂。爆音と共に衝撃が宙を舞う康一達にも伝わる。
「ああぁぁあああぁぁぁッ!!」
叫びながら落下する康一。当然だがACT3はエレオノールを抱えているため康一にまで手は回らないのだ。

生き残る為の細い命綱。それは自身の肉体のみで掴み取らなければならない。
近づく大地。正直言って何も考えられない。
ACT3の操作さえも放りだして、ただ一点に集中する。
本当に掴めば千切れてしまうかもしれない、命綱に。

手を伸ばす。伸ばすッ。伸ばすッ!
届くか届かないかの、本当にギリギリの瀬戸際を康一は渡る。
そして――――――触れた。
指先で感じた柔らかい布の感触。その頼りない命綱に、手が届いた。

カーテンだ。帆船の風を受けて張った帆のように、それは多きく広がっていた。
康一は何も考えずに掴んだ。鉛筆などベキリとヘシ折れる程の握力で掴んだ。
がくん、と体が揺さぶられる。落下する力が薄いカーテンで受け止められたからだ。
手に汗でもかいていてしまっていたのか。ずるん、と手が掴むカーテンから滑り落ちる。

「うあぁあッ!」
若干情けない悲鳴を上げながらも、しかし更に康一は手に力を込めて生命線を繋ぐ。
「あぐ!」
次いで体を激しく打つ衝撃。体が痛みを訴える。窓のへりに体が打ちつけられたのだ。

体を打った衝撃が柔いカーテンにまで伝わる。
ぶちり、と繊維が千切れるような嫌な音が康一の耳をうった。
元々二階上から飛び降りた康一の体を、千切れもせずに繋ぎとめたこと事態が驚き。
カーテンを止める為の金具が外れてしまってもおかしくは無かった。

だが幸運。康一はその低い身長のお陰で、体重が軽かった。
康一の親友である体格のいい彼等なら無理だっただろう。
しかしこの軽い体重が康一の命を救ってくれた。
何とかカーテンは持ちこたえてくれ、康一は宙吊りとなる。

『康一様、早ク窓カラ部屋ノ中ニ入ッテクダサイ。
ソノママデハ、イズレ地面ト熱烈にキスする事ニナッチマイマス』
「う…ああ、そうだね。微妙に手が痺れてるから早くしないと」
康一は空中でエレオノールを抱えるACT3に促され、足を窓のふちに掛けて力を込める。

「よっと。………はぁ~~~~~。助かったァ…」
窓から転げ落ちるように部屋に飛び込み、床に寝転がる康一。
体が虚脱状態に陥ったかのように力が入らない。
いつの間にか荒くなっていた呼吸を整えて、酸素を体にめぐらせる。

『確カニ。ドーダコーダ言ウワケデハナインデスガネ、今回バッカリハ死ンダト思イマシタ。S・H・I・T』
康一の横でACT3が冗談にならない軽口を叩く。エレオノールは床に転がっていた。
何とか呼吸を整えて康一が体を起こす。
「でも一体誰だったんだろ?声が聞こえたと思ったら、いきなり窓から飛び降りろなんて言われるし。
本気で危ないところを助けてくれた訳だから敵じゃあないと思うんだけど」

『私ニモ聞コエマシタ。何カ爺クセー声デシタネ。
シカシ声ガ聞コエタ時、アノ場ニハ私達以外ノ者ハイマセンデシタ。
遠クカラ魔法デ声ヲ飛バシテキタンデショーカ?』
実際康一もACT1で同じような事が出来るのだから、魔法でそれが出来てもおかしくは無いかもしれない。

「でもそれだとこの部屋と、さっきまでいた部屋の窓が開いていたのが説明できないんだよなァ~。
実際にその場所に居ないと魔法を掛けるのは難しいって、確かアンリエッタさんから聞いたんだけど」
もちろん難しいというだけで不可能と言う訳ではないが、それでは多少不自然だ。
しかし魔法に疎い康一にこれ以上の推察ができる筈も無い。

「分かんないモンはしょーがないし、僕等が死んでないって上の奴等が気付いたら、
追ってくるだろうから今はさっさとこの人を連れて逃げた方がいいか」
『マ、ソンナモンデショーネ。逃ゲルガ勝チデス』
何でそんな諺をスタンドのお前が知ってるんだという突っ込みは無し。

しかしマザリーニを逃がす為に敵を足止めする筈が、こちらまで逃げることしか出来ないとは。
あの足のケガでは追いつかれるのは時間の問題かもしれない。
いつまでもこうしている訳にはいかなかった。康一はACT3を操作してエレオノールを抱える。
そして脳裏にこの階の地図を広げて、まず人のいる所へ行くべきだと判断し、部屋のドアノブへ手を掛け、ようとした。

『おぅい、待っとくれんかね』
妙にノンビリとしたようなしゃがれ声。
康一は咄嗟に振り向き、ドアを背にして背後を確認する。
部屋の中は暗かったが、多少暗さに慣れた事もあって見渡すのに問題はない。しかし。

「どこに、いるんだ?」
『私ニモ居場所ハ分カリマセン。幽霊ジャアアルマイシ。BEEITCH!』
見つけられないのだ。さっき助けられた時と同じく、声はしたが姿が見当たらない。
本気で幽霊のような感じだが、しかし康一は恐ろしさを感じなかった。

以前本物の幽霊に出会った事が幸いしている。でないと普通にビビッていただろう。
しかし命の恩人らしいとは言え、姿が見えないのは不気味である。
「いるならさっさと出てきてくれないかな?助けてもらったのは感謝してるんだけど、今は時間が無いんだ」
さすがにこれ以上時間を食ってはいられないと、康一は声に問いかける。すると。

『ほほっ!やはり聞こえておるのかね。いや、長生きはするもんじゃのー』
問いかけに反応はあったが、やはり出てくる事はない。
それに何となく話をしている事を楽しんでいるフシがある。
さすがに康一も微妙に気が抜けてしまった。

「……行こうか」『同感デス』
もう康一は声を気にせず、行ってしまう事に決めたらしい。
『いや、ちょっと待って!マジ御免なさい!ほらここじゃよ、ここっ!』
しかしさすがの声の主も置いていかれるのは嫌だったらしい。

自分の事をアピールして康一を引きとめようと声を張り上げる。
「どこだよ」『潰スゾ』
だが康一とACT3には本気で姿を捉える事が出来なかった。
というかACT3が康一の二面性を微妙に発揮し始めてる感じでちょっと怖い。

『下じゃよ、下!!ワシはここじゃーっ!!』
自身の危機を感じ取ったのかは知らないが、声の主は更に大きく叫ぶ。
「下ぁ?」
何だそりゃあ、と言った感じで康一は下。つまりは床を眺めてみる。

暗い部屋の中に双月の明かりが差し込んでいた。
その中で僅かに小さく影が揺らぐ。錯覚だろうか?
だがその揺らぎは康一に見つめられていると気付くと更に大きく揺らいだ。
まるでそこにいる自身の存在を示すかのように。

「………はぁ?」『………S・H・I・T?』
思わず口癖まで疑問型になってしまったACT3。
彼等が見つめるその先には、小さいが必死に動いてアピールする小さな白い奴。
「…ネズミ?」『…mouse?』

ACT3よ。そこは英語であることに意味はあるのか?
そんな事は気にもせず、床の上で白いハツカネズミは後ろ足で仁王立ち。
体を大きく見せ、康一に気付いてもらおうとする涙ぐましい努力は、酷く愛くるしい。

ぼてっ。

後ろに倒れた。しっぽで支えていたらしいが、さすがに限界があったらしい。
とゆーか、和む。


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