ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

風と虚無の使い魔-22

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匿名ユーザー

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相手の船が貨物船に近接し、相手の船員が乗り込んでくる。
「空賊だ!抵抗するな!…おや、貴族の客まで乗せてるのか」
ルイズたちを下品に舐めるように見る。
「こりゃあ別嬪だ、どうだい、俺らの船で皿洗いでもやらねえか?」
男は下品に笑う。
「下がりなさい、下郎」
「驚いた、下郎ときたもんだ!」
男は大きくのけぞって笑う。
「おいてめえら、こいつらも運びな、身代金もたんまり貰えるだろうさ」
数人の男が無言で武器を奪い取り、船倉に押し込まれる。


「やれやれ、空賊に襲われるとはついてないな」
ワルドが呟く。
貨物船の船員たちと一緒に狭い部屋に詰め込まれた一行。
「急いでるのに…」

貨物船の船長がガハハと笑う。
「おい、娘ちゃんたち、あんたらも急ぎなのかい?」
「ええ、そうよ」
「だとよ、野郎ども。このバカな空賊どもは俺らの船に乗り込んだつもりらしいが…」
船長は口の中から工具を吐き出し、右手の義手を器用に外す。その義手の中から拳銃が出てくる。
「俺らをわざわざ案内して乗り込まれたってことを教えてやろうじゃねーか!」
船員が歓声をあげる。
一行はポカンと口をあける。
ダービーはトランプをいじって、特に興味は示していない。

船員が工具を受け取り、扉の鍵をこじ開けようとすると、ワムウが横に立ち、扉を蹴り飛ばす。
「な、貴様ら何を…」
ワムウが頭部に一撃を加え、見張りの男二人は一瞬で床に沈む。
「兄さんもやるねえ!」
船員が笑い、倒れた見張りの男の道具を拾い上げる。
「野郎ども!まずは武器庫を襲うぞ!この型の軍船ならおそらく甲板の直下部あたりにあるはずだ!」
船長が船員を率いて、走り出す。
ワムウたちもそれに続く。

「脱走だァーーッ!奴らの脱走だ!」
脱走に気づいた空賊員が叫び、直後に船長に撃たれる。

走りながらワムウが船長に尋ねる。
「船長室はどこだ?」
「なんでそんなこと尋ねるんでい、お兄さん?たぶんそこの階段をあがって大広間を片っ端から探せば見つかると思うが」
「頭を潰してくるのが手っ取り早いだろう」
ワムウは進路を変え、階段を上がっていく。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよワムウッ!」
ルイズが追いかけようとするがワルドが制する。
「君は杖も無い、足手まといになるだけだ。彼なら空賊くらい敵じゃあないはずだ」
ワルドはスピードを元に戻し、ルイズの手を引きながら船長を追いかける。

船員は武器庫とプレートのある部屋の扉を蹴破る。
中に居る空賊は驚いて銃を向けるが、その引き金を引くよりも早く銃弾が空賊の肩を貫く。
「野郎ども、杖と武器を片っ端から集めろ!」
船長は銃で撃たれた空賊の襟首をつかみ、拘束しようとして相手の顔をまじまじとみる。
「お、おめー…アルビオンの兵士になったんじゃねーのか!シャチ!」


「…ってことは…貴方たちは王党派なのね?」
船長の息子であったその兵士は空賊に扮した王党派だということを話し、彼らは一息つく。
が、ルイズだけは一息をつけなかった。
わなわなと震え、その兵士に詰め寄る。
「あの筋肉バカを止めてこないとッ!船長室はどこなの!?」
「え、えっとここが地下ですから…階段を二つあがったフロアの奥に居るはずです」
「わかったわ、ありがとうね!」
ルイズは感謝の言葉もそこそこに、杖をひっつかんで部屋から駆け出す。

ルイズは船長室に行くまでにかなりの人間に会うことになり、一々説明することになると思ったのだがそんなことはなかった。
通路の兵士は倒れ、武器を折られ、呻き声を漏らし、積み上げられていた。
「何なんだあいつは…」
「助けてくれ…助けてくれ…化け物だ、畜生…」
「ザミエル…ザミエル…ザミエル…」
「落ち着いて素数を数えるんだ…」
日ごろの『教育』の成果かどうかはわからないが、とりあえず死者は見当たらなかった。
もっとも、ルイズはワムウが相手を見当たらないようにできることなどは百も承知であった。

おそらく船長室の真下に来たであろう、船の上からは叫び声が聞こえ、床が何度もきしむ。
「しょうがないわね、弁償代はワムウ持ちよ!」
ルイズは上に杖を振り上げ、船の天井を吹っ飛ばす。
いきなり大穴が空き驚いたのか、ワムウが上から覗き込んでくる。
「どうした、ルイズ」
「どうしたもこうしたもないわよ!その人たちは敵じゃないからやめなさい!」
ルイズの心からの叫びであった。


「ハハハ、間一髪助かったよ」
アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーは、気にしなかったように笑う。
「彼があと10人アルビオンにいたら、貴族派に負けていたことはなかっただろうね」
「ほ、本当にすみませんでした!」
ルイズが平謝りする。
「ほら、ワムウあんたも謝るのよ!」
「いや、いいんだ、試すためとはいえ、空賊などと名乗ったんだから反撃されるのは当然だ。
あの戦い振りは驚嘆に値するよ、君の使い魔だけでなく、君の父上もね」
皇太子は近衛兵であったシャチに声をかける。
「ま、誠にすみません!」
若い兵士は地面に手をつける。
「いいといっているんだ、それより君の傷は大丈夫かね?」
「はっ!数日のうちには完治すると思います!」
「そうか、では大事にな」
「失礼しました」

彼を見送った後、ウェールズはこちらに目を向ける。
「それで、トリステイン大使殿はどういったご用件かね?」
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」
ワルドが頭を下げる。
「ふむ、それで君たちは?」
「僕はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵と申します。そしてこちらが
姫殿下より大使の大任をおおせつかった、ラ・ヴァリエール嬢とその使い魔、そして友人たちです」
「なるほど、してその密書とやらは?」
ルイズはポケットの裏側を切り裂き、縫いこんだ密書を取り出し、一礼してウェールズ皇太子に渡す。

皇太子は真剣な面持ちで手紙を読み進め、途中で顔を上げる。
「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い…従妹は」
ワルドが無言で頭を下げ肯定する。
皇太子は最後の一行まで丹念に読み終えると、こちらに微笑んだ。
「了解した。姫はある手紙を返して欲しいということなのだな、そのようにしよう。
しかしながら、今その手紙はニューカッスルの城にあるのだ。多少面倒だが、ニューカッスル城までご足労願いたい。
シャチ、『イーグル』号の案内を頼む」



『イーグル』号は大きく迂回し雲の中を慎重に抜けていく。
ウェールズは向かうべき城の正面から砲撃を行う巨大な船を忌々しげに見つめる。
「あれが貴族派の艦?」
ルイズはシャチに尋ねる。
「ええ、かつての我々のアルビオンズ第一艦隊旗艦、『ロイヤル・ソヴリン』号です。
もっとも、奴らは我々を最初に破った地、『レキシントン』号と呼んでいますがね」
「そう、あの艦の反乱から全てが始まった、我々にとっては悪夢のような艦さ。『レヴァイアサン』号も
『ドレッドノート』号も奪われ、『ヴィクトリー』号は大破。残った船はこの『イーグル』号だけさ」
ウェールズ皇太子が話に割り込んできた。
「この『イーグル』号ではあの艦と殴り合いなどはとうてい不可能さ、だからこうして空賊に扮してこそこそと
通商破壊をするしかなかった。もっとも焼け石に水だがね。だからこうして雲中を通り、
大陸下からニューカッスルに近づく。そこに我々しか知らない隠し港があるわけだ」
艦はアルビオン大陸の下に入り込み、光がささなくなる。
シャチによれば薄々大陸の下に我々の隠し港があることは気づいているということだが、
視界もない大陸の下で座礁や衝突、同士討ちや奇襲の危険を犯すことを考えているのか、
それともこの程度の艦が一隻あったところでどうということはないと考えているのか、あるいはその両方か。
兎にも角にも、この隠し港だけは攻撃を受けていないということであった。

暫くの航海の後、真上に直径三百メイルほどの穴が空いている場所にでる。
「一時停止」
「一時停止、アイ・サー」
「3ノントで上昇」
「3ノントで上昇、アイ・サー」
ほぼ同じ速度でアルビオン兵士が乗り込んでいる貨物船も追従する。

「まるで空賊ですな、殿下」
「まさに空賊なのだよ、子爵」

岸壁に接岸した艦からルイズ達は降りると、背の高い年老いたメイジが近づいてくる。
「ほほ、これはまた、大した成果ですな。殿下」
「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」
ウェールズの言葉に集まった兵士が歓声をあげる。
「おお、硫黄ですと!これで我々の名誉も守れるというものですな!
先の陛下よりお仕して六十年、こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下!」
泣き崩れならが笑う臣下にウェールズも応じて笑う。
「ああ、これで王家の誇りを叛徒どもに示しつつ、名誉の敗北をすることができるだろう」
「栄光ある敗北ですな、この老骨、久々に武者震いをいたしますぞ。して、ご報告なのですがその叛徒どもは
明日の正午に城攻めを開始するとの旨伝えてきました。殿下が間に合ってよかったですわい」
「そうか、間一髪とはこのことだな!」
一しきり笑いあったあと、パリーは一行に顔を向ける。
「して、その方たちは?」
「トリステインからの大使達だ。重要な用件で、王国にお見えになられたのだ」
パリーはなるほどといった顔つきで頷き、こちらに微笑む。
「これはこれは大使殿、私めは殿下の侍従を仰せつかっておりますパリーでございます。
遠路はるばるようこそ、このアルビオン王国へ。この有様で大したもてなしはできませぬが、
今夜ささやかな祝宴が催されますゆえ、ぜひとも出席くださいませ」

こうして、老メイジは頭を下げ、去っていった。
「では、ついて来たまえ、僕の部屋に案内しよう」


To be continued.

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