ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

風と虚無の使い魔-18

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匿名ユーザー

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一行はラ・ロシェールの高級ホテル、「女神の杵」の1階の酒場「ジョディ・ターナー」で休めていた。
ギーシュは酒を飲む余裕も無く、ぐったりとし、ルイズとタバサは嗜み程度にグラスをたまに傾けていた。
キュルケはトリステインワインの利き酒をし、ルイズからこれは任務だと窘められるが気にしない。
ワムウは暖炉の前のソファにどっかりと座っている。

明日の乗船のために桟橋へ交渉に行っていたワルドが帰ってくる。
「アルビオンに渡る船は二つの月が重なる今夜の『スヴェル』の月夜のせいで明日
最も大陸とここが近づく。軍船でもない限り、短い距離でアルビオンの高度まで上がれるだけの
馬力も、大陸の周りを一周して入るだけの風石を積むスペースも確保できないそうだ」
ルイズが声を漏らす。
「そんな…急ぎの任務なのに…」
「慌てることはないさ、明日明後日でアルビオンが落とされると決まったわけではない」
ギーシュは一日いっぱい休めるとわかり、ほっと一息つき、酒に手を出す。
「ちょっとギーシュ、飲みすぎないでよ」
ルイズが釘をさす。
「酒は百薬の長ともいうだろ、体の調子を明後日には戻さないといけないし」
「良薬は口に苦しよ」
「いいじゃないか、ここの酒の一覧を見てみなよ。見ただけでよだれズビッ!だよ」
「ちょっとワルド、こいつになにか言ってよ」
「じゃあ彼が酔いつぶれる前に酒場は引き上げて部屋に行くとするか。
部屋割りはミス・タバサとミス・キュルケで一部屋、もう一部屋はギーシュくんとワムウくん、
あとの一部屋は僕とルイズで構わないかね?」
ワルドは一行に提案するが、彼と同部屋だということにルイズが異議を唱える。
「そんな、ダメよ!わたしたち結婚したわけじゃないんだから!」
しかしワルドは首を振る。
「大事な話があるんだ」


高級ホテルの最上級の部屋だけあって、かなり上等なたたずまいであった。
ロマリアと小さく書かれたセンスのいいテーブルにワルドはつく。
「一杯どうだい、ルイズ」
これまた上等なワインをグラスに惜しげもなくついでいき、ルイズはグラスをテーブルに置く。
「二人に、乾杯」
ルイズは俯いたままグラスを掲げ、小さく高い音が響く。
「姫殿下から頂いた手紙はちゃんと持っているかい?」
「もう、子供扱いしないで」
ルイズは大事そうに包装されている手紙をポケットから取り出す。
「おやおやルイズ、煌びやかなのはいいが、
敵が狙ってきたときそれが目的のものだとすぐバレてしまうよ?」
「心配しないで、本命はこれの下だから」
その包装された手紙の入っていたポケットの裏側に、質素な手紙が縫いこまれていた。
「…ずいぶん、用意周到だね、ルイズ」
「一日あればこれくらいは学園でも用意できるわよ」
「いや、そうじゃなくて…なんというか、失礼かもしれないけど君は、なんというか正直すぎるからね。
筋を通すと決めたら回りも見ずに駆けていくような…そこが君の魅力でもあると思うけどね」
「最近裸足で薄氷の上を突っ込むような奴にあってね、
走る前に靴を結ぶくらいはしておこうと思うようにったのよ」
「なんだか色々あったみたいだね、もしかしてそれはあの使い魔のことかい?
彼ならその上、炎のスクウェアでも持ってこないと止められないだろうね。
なんたって彼は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』だからね」
ルイズは限られた人間しか知らないそのことを聞かされ、驚く。
「ワルド、知ってたの?」
「どうやらその反応なら間違いじゃなかったみたいだね。野盗どもに襲われたとき手に描かれてあったルーンをみてね、
もしかしてと思ってさっき桟橋で交渉するついでに立ち寄って調べてみたんだが大当たりのようだね。
あれは誰にでも持てる使い魔じゃない、きみは他人には無い特別の力を持っているんだ」
「そんな、冗談はやめてよワルド。爆発を特化して一握りの火薬でも身に付けろって言うの?そんなのごめんだわ」
「そうじゃない、君はまだ目覚めてないだけさ。きみは始祖ブリミルのような歴史に名を残すメイジになるような気がするんだ」

ワルドの熱い口調に、お世辞以上のものを感じ取り、ルイズは俯く。

「なあルイズ、この任務が終わったら結婚しよう」
「へ?」

突拍子の無い、しかしルイズにとっては衝撃的な一言に顔を上げ、呆けた声と顔を見せる。
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。いずれは国にさえ影響力を持つような、このハルケギニアすら動かすような
貴族になりたいと思っている。それには君が必要なんだ」
「そ、そんな…まだ早いわ…」
「君はもう十六だ、もう子供じゃない。自分のことは自分で決められる年齢だ」

その真剣さに押され、ルイズは少し考えた後、口を開いた。
「で、でも…私はまだそんなあなたに釣り合うような立派なメイジじゃない…父上、母上から町の商人まで
皆に認めてもらえるようなメイジになってないのし、ならなくちゃいけないの。もちろんあの使い魔にも」

「それじゃあ、もう寝ようか。さすがにこれだけの強行軍だ、疲れただろう」
そういってワルドは腰に手を回し、唇を近づけてくる。
しかし、それをルイズは押し戻す。
ワルドは苦笑いをうかべ名残惜しそうに手を離す。
「少し急ぎすぎたようだね、じゃあ寝ようか」

部屋の光は一つに重なりかけている月だけになった。


月は沈み、日が昇る。
ワムウとギーシュの部屋にコンコン、とドアを叩く音が響く。
「どなたでしょーか」
ギーシュが顔を出す。
そこには羽帽子をかぶったワルドがいた。
「あれ、出発は明日でしたよね?」
ワルドはハハハと笑う。
「いやいや、これは任務関係じゃないんだ、あのワムウといったね、ルイズの使い魔に興味があってね」
「ああ、ワムウならいませんよ」
「へえ、ずいぶん早起きなんだね」
「いやいや、昨晩からこの部屋にはいなくて」

ワルドが怪訝な顔をする。
「なに?ではどこにいってるんだね?」
「普通の人間の部屋や寝床ではあわんから適当に探してくるといって窓から街へ」
ワルドは悩みこむ。
「ふむ、彼は見た目によらず火遊びが好きなのかな?それとも見た目どおり酒でも飲み歩いてるのか…」
「どちらも違うと思いますよ、彼は女どころか人に対してまともに接しませんし、酒なんか飲んでるところはみたことないですし」
「ふむ、そうか…すまなかったね、ギーシュ君」

ワルドは頭を抱えながら一階の酒場へと降りていく。
驚いたことに、すでにワムウが暖炉の前のソファに腰掛け、本を読んでいた。
「おはようワムウくん」
「なにか用か?」
「ふむ、君は文字が読めるのか。人間ではないようだが人語を解するし…識字はどこで習ったんだね」
「3時間前からこの剣にわからん部分を聞いていた」
壁にはオレっちこんな屈辱的な役立ち方初めてだよと涙声でこぼすインテリジェンスソードが立てかけられていた。
「ふむ、インテリジェンスソードか。しかし、剣に聞いたんじゃ効率が悪いだろう。いくらなんでもその本は早すぎないか?」
「ラテン語に似ている部分もあったんでな、この程度の本はもう読める」

貴族として教育を受けてきたワルドでさえもちょっと敬遠したくなるような厚さの本で、どうみても児童向けや
教育用として適さない物であった。
「君、ぼくをもしかしてからかってるのか?」
「なぜ俺がお前をからかう必要がある」
「…じゃあこの文はなんと読むんだね?」
「『昨今のアルビオン大陸の風石の貿易戦略と歴代王の傾向について』」
「ここは?」
「『トリステインに幽霊が出る――産業革命という幽霊である』」
「…じゃあこれは?」
ワルドは手元にあった紙に筆を走らせる。
「『いいもわるいもメイジしだい、ゴーレムゴーレムどこへいく』」

ワルドはあっけに取られる。
「亜人だっていうのになかなかの知能だね、人間のようじゃないか!」
「人間と我々を比べるな、覚えるだけが知能じゃないだろう」
「しかし驚いた…あの伝説の使い魔『ガンダールヴ』の上に数時間で文字を覚える知力とは」

ワムウが首を傾げる。
「『ガンダールヴ』?俺が読み漁った中にはそんな言葉はなかったが…一般的な語なのか?」
ワルドは明るく笑う。
「なんだ、君は知らなかったのか。始祖ブリミルはわかるかな?」
「ああ、東方に住む強力なエルフの集団に比肩しえる程の能力を持ったメイジらしいな、
それ以外のことが書かれている物もあったが神格化されているためか誇張が多くて信頼できん」
「『ガンダールヴ』とはな、その始祖ブリミルが従えていた四体の使い魔の内の一体で、どんな武器も操ったといわれている」
「そうだそうだ相棒、まさか『ガンダールヴ』に二度も握られるとは思わなかったぜ」
壁のデルフリンガーが口を挟む。

「ふむ、君は以前にも『ガンダールヴ』に振るわれていたのかね?」
「おう、いやーあいつはすごい奴だった。今度の相棒はそれ以上にすごいオーラがただよってるんだぜ、
さっき言ったとおり相棒は武器を操れば今にも増して身体能力があがるんだぜ?」
「ハハハ、剣のクセに持ち主よりよく話すじゃないか、そこでだ、ちょっと手合わせしてみたいんだが」
「手合わせだって?俺とお前がか?」
「軽い決闘みたいなものさ、もちろん僕は杖を使う。君もその剣を使うといいさ」
「よーし相棒、やっと俺の出番か、見せてやるぜ俺のすごさを!」
しかし、ワムウは乗り気ではない。
「明日アルビオンに行くんじゃなかったのか?」

ワムウの発言に再びワルドは明るく笑う。
「言ってくれるね、しかし安心したまえ。多少の怪我なら近くの治療師に頼めばいい」
「その治療師とやらが胴体と首が離れても助けられるか、腹に穴を開けられても助かるほどお前が丈夫ならいいだろう。
そんな覚悟もなしに決闘を挑むのか?『軽い決闘』だと?貴様は戦い、ひいては戦士を侮辱しているのか?」
「これでもグリフォン隊隊長、奇襲ならともかく錆びた剣の使い手に真正面から一撃でやられるなんてことはないだろうさ。
それより僕は風のスクウェア、気をつけるのは君のほうじゃないか?風は急には止まれないよ」
「だ、誰が錆びた剣…」
デルフリンガーを鞘にしまい、ワムウはソファから立ち上がる。
「いいだろう、そこまで言うなら少々遊んでやる、貴様ごときには軽い決闘すら相手にはしない」

ワルドは少々険悪な目でワムウを見据える。
「まあ、なんとでもいうがいい。中庭決闘に丁度いい錬兵所がある。ついてきてくれ」

日差しがさす中庭。
ワムウにはあまりいいコンディションとはいえなかった。

先についていたルイズが決闘すると聞き、止めようとする。
「ちょっと中庭に来てくれって、決闘ってなによ!今はそんなことしている場合じゃないでしょう!
両方ともやめなさい!特に、ワムウ」
「彼が言うには決闘でもないよ、ただのじゃれあいさ」
「そうじゃなくて、えーと…その…」
ルイズはワムウを止めるのは無理だと考え、次にワルドのプライドを損ねることなく止める発言を考える。
しかし無常にも彼女が考えている間に両方の準備は整ってしまった。

ワルドは威勢良く叫ぶ。
「では、始めよう!」
ワルドは杖を片手槍のように構え、ワムウに向ける。
ワムウはワルドに向かって、歩き出す。
「余裕なのはいいが、メイジ相手に少し悠長じゃないかい?」
杖から風の刃が数個飛び出す。
ワムウはその間を最小限の動きでかわし、スピードを落とさず歩きつづける。

ワルドは顔色一つ変えずに、もう一度何発か風の刃を放ちながら今度はワムウに接近する。
「遊びだからといってメイジに詠唱させたまま近づけるのは危険だ、覚えておきたまえ!」
言い終えると同時に2メイル程の距離で先ほどより大きい刃を放つ。
確実に当たると思ったが、その直後。

ワムウはその刃をかいくぐり、前にステップする。
2歩目の足が着地すると同時にワルドの脇腹にデルフの柄を叩き込む。
ワルドがくぐもった声を出したと同時に、彼は顔面に回し蹴りを食らい、気絶した。

「決闘ごっこだからといって戦士に無防備のまま近づくのは危険だ、覚えておくんだな。
まだギーシュの方がマシだったな、しかし、15行とは情けないぞ、隊長殿」

もちろんその声は彼には届いていなかった。
ルイズの激昂した声を無視し、ワムウは中庭を出て行った。


To be continued.


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