ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔-21

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匿名ユーザー

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次の日、ルイズとその一行は、日の出三十分前に宿屋のカウンターでチェックアウトをしていた。

この間も、ブチャラティは外の様子を油断なく観察している。
日の出よりも前なので、あたりはあまり明るくないが、宿屋の外を走る街道には人っ子一人いない事くらいはブチャラティの肉眼でも確認できた。
また朝も早いこともあり、宿屋の受付付近にはルイズたちと番頭しかいない。

「そういえば、キュルケたちはどこにいるのかしら? てっきり私達に付きまとうと思ったのに」

宿の手続きをしているルイズが、番頭にキュルケたちのことを聞いてみた。
番頭が言うには、昨晩一番良い部屋に泊まった二人組は、ルイズたちよりも早くに宿をでていったらしい。
「で、その二人はどこに行ったの?」
「さ、さあ。そこまでは……私どもにはわかりかねます」
番頭は恐縮した様子で頭を下げた。この男は、どうやらメイジという人種と話すのが苦手らしい。ところどころにドモリ癖もあるようだ。
「あきらめて学院に帰ったのかしら?」
ルイズは奇妙に思った。
私の知っているキュルケなら、この任務の『秘密』に興味を持って、どこまでもしつこくついてくると思ったのに。急な用事でもできたのかしら?


「さ、そのような些末なことは気にせずに出発しようじゃないか」
一瞬だけルイズの脳裏に浮んだ疑問は、ワルドの快活な言葉によって忘却のかなたに押しやられた。

夜明け前の街道を、一行は桟橋に向けて歩いていく。
町の人々は、ほとんどがまだ眠っていっるようだ。道行く人間は今のところ見当たらない。
動くものは、道の向こう側から一匹、赤い首輪をした三毛猫が歩いてくるのが見られる程度である。
日の出にはまだ早いが、うっすらと日の明かりが空を照らし、東の空にはやや明るさが見え始めている。
道の両側にたつ家の壁が、やや青みを持った色を一行の視界に映し出している。


「この調子なら、順調に船に乗ることができそうだな…………うん?」
ブチャラティが話の途中で口を閉じ、前方に注意を向けた。
どうやら埠頭へ続く塔の中に、なにやら気配を感じているようだ。
「ワルド、露伴。あたりを警戒してくれ。どうも塔の内部がおかしい。どうも静か過ぎる。誰かが潜んでいるようだ」

声をかけられた二人は無言でうなずくと、塔の入り口、門の両面に忍び寄り建物の内部を盗み見た。一見、何の異常もないように思える。
「特に異常は見られないようだが?」
小声で話しかけた露伴であったが、その言葉はワルドに否定された。
「いや、ブチャラティの言うとおり、この塔の内部の静けさはは異常だ。おそらく塔の内部には『サイレント』の魔法がかけられているに違いないよ」

そういいながら彼は自分の杖を引き抜き、戦闘行動が可能な体制に入っていた。
さすがは魔法衛士隊の隊長らしく、自身の背後にも警戒を怠ってはいないようだ。

「まさか、アルビオンの叛乱軍の妨害かしら?」
ルイズはそういってみたが、同時にその仮定に疑問を抱いてもいた。
私が姫様から任務を引き受けたのは僅かに二日前。貴族派がそれをかぎつけ、何らかの妨害工作を画策しようとしたとしても、あまりにも手際がよすぎる。
もしかして……姫様の周りに裏切り者が……?

「その可能性が一番高いが……どちらにせよこの塔を上らなければ船には乗れない。突っ込むぞ!」
ブチャラティの号令によって、各々周辺を警戒しながら塔の中に進入していった。

……なんだ。なにもないじゃあないか
露伴がそう思った瞬間。
彼はブチャラティの体当たりによって突き飛ばされた。
床に身を横たえる形となった露伴が見ると、かつて自分が立っていた場所に、高さ五メイルはあろう岩の塊が突き刺さっている。

ルイズが上を見上げ、指差した。同時に何か言っているが、サイレントの静寂の中では一行は何も聞くことはできない。
だが彼女の指差す方向、塔の出口付近に女性らしい人影がいることは全員が理解できていた。
ワルドが杖を振りかざすと、その人影の周りに無数のつむじ風が舞い上がった。

その瞬間、突如として周りの音が戻ってきた。あたりに風の轟音が響き渡る。
「チィ! 『風』系統のメイジかッ! ここじゃあ分が悪いね」
女の声が、階段の上から響き渡った。

「その声は……ミスロングビル。いや、『土くれのフーケ』!」
「そのとおりさ! 私は『あんた』に対しては攻撃できるみたいね、ロハン! あんた達から味わった屈辱。今から晴らさせてもらうよ!」
露伴の叫びに、律儀にも返答しながらフーケらしい女は杖を振りかぶった。
「いい腕だ。しかし、遅いな」
彼女の魔法は、最後まで唱えられることはなかった。
ワルドの唱えた魔法『エア・カッター』が、彼女の体を再度引き裂いたのだ。
「くッ! 後は任せたッ! 仮面の旦那ッ!」
彼女はそういうが早いか、『土くれのフーケ』は塔の出口から逃げ出していった。
「撃退したのはよかったが……いったい彼女は何がしたかったんだ?」
「たぶん、僕が彼女に仕掛けた『天国の扉』の限定能力が知りたかったのだろうさ」
ルイズはほっと一息をつき、階段を上り始めた。が、なにか自分の様子がおかしい。
何かの乗り物に乗っているような……
いえ……私の体が浮いてる?
「「ルイズッ!」」
そう叫んだ彼女の使い魔達が階段を駆け上っているが、その速度よりも中央の吹き抜けを浮遊していくルイズの身体の速度のほうが圧倒的に早い。
彼女の体はあっという間に塔の出口まで上りあがってしまった。
塔の出口、ルイズが見下ろす位置に白い仮面をかぶった男が彼女に杖を向けている。
ルイズの身体がその男に吸い寄せられるように泳いでゆく。
彼女は精一杯もがいたが、『レビテーション』の魔法はその程度で破れるようなものではない。
捕らわれてしまうわ!
ルイズがそう思ったそのとき、彼女の身体全体を、白い衣服が優しく包み込んだ。
正確には、ワルドの二つの腕だ。
彼は『フライ』の魔法を使い、彼女にかけられている『レビテーション』の魔法を振り切れるほどの速度でルイズに抱きつき、仮面の男の魔法を破ったのだ。
「大丈夫かい?」
そうやさしく微笑んだ男の、次の行動は、誰にとっても意外なものであった。
自分にかけていた『フライ』の魔法を解いたのだ。
重力にとらわれゆく二人。
両名の肉体が、とも奈落に落ちていった。
「きゃあぁぁぁ!」
ルイズが恐ろしさのあまり出した声が、塔の薄暗い中空に飲まれていく。
仮面の男にとっても、ワルドのその行動は意外だったようだ。
彼はあわてて自身に『フライ』をかけ、二人の後を追った。
ワルドは完全に落ち着いていた。
なぜならこの状況こそが、彼の望んだ状況であったからだ。
「大丈夫だ、ルイズ。君は僕が守る」
ワルドは抱きかかえたままルイズに、やさしく語りかけた。
彼の吐く白い息がルイズの頬にかかっている。
ワルドは後を追って降下する仮面の男に対し、『ウインディ・アイシクル』を唱えた。
その瞬間、塔内の水蒸気が一本の槍となり、仮面の男に向かって飛んでいく。
仮面の男は魔法で飛行している。そのため槍を魔法で防ぐことはできない。
男はワルドの予想通りの回避行動をとった。
「ブチャラティ、ロハン! ルイズは任せろ! 君達は男の相手をを頼む!」
すなわち、二人の使い魔が上っている、壁面の階段へ身を寄せたのだ。
「ああ、まかされたよ……」
仮面の男のすぐそばにまで到達した露伴がつぶやく。
ワルドは、『仮面の男』がちょうど二人のいる辺りに移動するよう、氷の槍を発射するタイミングを合わせていた。
『ヘブンズ・ドアー』!!!
露伴が、逃げるそぶりを見せた男の前に自分のスタンド像を出現させた。
その像を見た仮面の男は意識を失い、『本』になる。ハズであった。
「何ッ?」
彼にしては珍しく、露伴の口から驚愕の言葉が漏れ出でている。
それもそのはず、仮面の男は何の変化もなく平然とその場に立っていたのだ。
露伴が驚愕していたのは時間にして一瞬。
だが、戦闘の途中では十二分すぎるほどの時間だった。
具体的に言うと、仮面の男がひとつの魔法を唱えられる程度の時間である。
「オレを構えろ! 露伴!」
剣の叫びもむなしく、空気の塊が露伴の身体を横殴りに薙ぎ払う。
露伴はまるでボクサーに殴られでもしたように、なすすべもなく吹っ飛んだ。
その体の先には、奈落。はるか下には塔の入り口と、小さな地面しかない。
「露伴! これにつかまれ!」
反対側の階段を上っていたブチャラティが自分の腕をジッパーで切り離し、中に放り投げた。
露伴は自分の中にかろうじて残っていた意識で、それにつかまる。
その様子を尻目に、仮面の男は悠々とその場を飛行して逃げ出してしまった。
「二人とも大丈夫?」
露伴を奈落から引き上げている中、ブチャラティの背中に息切れしかかったルイズの声がかけられた。
彼女はワルドと二人で階段を上ってきたようだ。
「大丈夫だ。男は逃げたし、俺達は二人とも無事だよ」
「それにしてもあの男、相当やるようだな。スクウェアクラスのメイジかも知れん。
 ならば、君達二人はルイズを守りきれないかもしれないな」
感慨深げにそうつぶやいたワルドの言葉は、ルイズの胸にいやに鮮明に残ったのだった。

その後は、皆無事に『マリー・ガラント』号に乗り込むことができた。
船長は今しがた起こった戦闘騒ぎにはまったく気がついてはいないようであった。
「ちょうどいい時間に来なすったね。いつでも出向できやすぜ」
露伴たちは船の甲板、船首に向かった。船長に、そこからの眺めがいいと教えられたからだ。
船首の無効から、昇り行く赤い太陽が見える。日の出だ。同時に、猛烈な熱風が船体の下から吹きあがった。
「野郎共、出航だ! もやいを解け! 帆を張れ! 風力嚢、ベント開け! 
 機関、微速前進! アップトリム五度!」
船長の矢つぎばやの指令に、船員たちが機敏に作業を開始する。同時に、各部署から伝令管を通して報告の返答が寄せられる。
船体がふわりと羽毛のように浮き上がった。ルイズたちは思わず近くの縁につかまっていた。
「すごいな。思ったよりも軽快に動く物なんだな」
露伴が感嘆している。しかもこの男、この瞬間も船員の作業の様子を取材していた。

「さて、諸君。アルビオンまでもう一息だね」
ワルドが船長に聞いた所よると、この船は港町ロサイスまで行くとの事。
「その後はどうするの?」
ルイズは聞いた。それはそうだろう。彼女達は、ウェールズがアルビオンのどこにいるか皆目見当がつかないのだ。
「大丈夫さ。僕のルイズ。ロサイスはアルビオンでも有数の軍港だ。そこなら、最新の戦況を聞くことができるだろう。聞き込みをすれば、簡単に王子の居場所を特定できるさ」
ワルドの励ましをうけ、ルイズはちょっとだけ気が楽になった。
ルイズは浮かんだ船から身を乗り出し、ラ・ロシェールの町を見下ろしてみた。

日の光に反射した町並みが金色の色をなしており、とても美しい。
彼女はこのとき、確かに平安の心を抱いていた。
「みて、ブチャラティ。あの町がもうあんなに小さくなっているわ」
「そうだな。こうやって見ると、地上で見て回ったときよりもきれいだ。
 それに、朝日がとても美しい」
二人は船首で寄り添い、つかの間の安らぎを満喫していた。
少なくとも、この瞬間までは。

「あんにゃろ! 私を思いっきり攻撃しやがったわよ!」
土くれのフーケは激怒していた。
今回の作戦の目的はたった一つ。あのワルドとか言う男に手柄を立てさせる事。

ワルドの行動に対し、ルイズたちに信頼と安心感を植えつけることだ。だから、予定では、フーケは彼の魔法攻撃によって驚いた振りをし、そのまま退散する計画であった。しかしワルドはフーケを容赦なく攻撃してきていた。

フーケは胸糞悪く先ほどの戦闘を回想した。
もしも自分の防御魔法がうまく発動しなければ、私は悪くすれば致命傷を負っていただろう。
彼女は隣に立つ仮面の男に、ワルドとか言う男に対する不満をぶちまけた。
彼女は心底あの男のことが気に入らないようである。
「まったく、あの野郎はいったい何なんだろうね。それにありゃきっとムッツリスケベに違いないさ」
「どうしてそう思う?」
『土くれ』の傍らに立つ仮面が執拗そうに聞いてくる。なぜか不機嫌そうだ。
彼のこめかみの血管が、ピクピクとうごめいている。

「だってさ。ルイズの信頼を勝ち取るためにこんなチンケな策を弄するあたり、 小物臭がプンプンするじゃないかい。
それにアイツは始終ルイズに色目を使っていたよ。まったく、見苦しいったらありゃしないね」
「ほ、ほう。そうか」
「どうしたのさ、そんなに怒って? まるであんたが侮辱されたみたいだよ?」
「私は怒ってなどいない!」
だが、それが嘘であるらしいことは誰の目にも明白であった。

「ところで、私はこれでお役御免かい? そうだとうれしいけどねえ」
話を変えたフーケに対し仮面の男は憎憎しげに頭を振った。
「いや、君はアルビオンに渡れ。貴族派の首領、クロムウェル殿に会ってもらう。
 『土くれ』の仕事はまだまだ終わっていないぞ」
「そうかい。人使いの荒いお人だねえ。ま、給金がそれなりにもらえればそれでいいけどねえ」
ため息をつくフーケに対し、仮面の男は怒りの感情を抑えながらはき捨てるように命令を下した。
「ああ、私は今決めたよ。お前にはとことん働いてもらうことにした」

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