ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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「アニエス隊長」
 トリステインの王宮の廊下を歩いていたアニエスはその声に足を止めて振り向いた。
「どうした?」
 声の主はアニエスが隊長を務める銃士隊の隊員の女だった。
彼女でなくとも、女王の身辺警護を主な任務とする銃士隊の隊員は全員が女性という異例の形を取っている。
「あ、あの、治安強化の件でトリスタニアの警邏隊との連携や増員の書類なんですけど・・・・・・まだ隊長のサインをいただいていなくて・・・・・・」
 隊員は抱きかかえるようにして書類を持っていた。アニエスはそれを見てすまなそうに言う。
「ああ、すまない。迷惑をかけてしまったな」
「い、いえいえ!だ、大丈夫ですから!」
 緊張した様子の隊員は必至に手を振って問題ないのをアピールしている。アニエスもその必至さにたじろぎながら答えた。
「そ、そうか・・・・・・そうだな」
 呟くと隊員の腕の中から書類を引き抜いてしまった。いきなりの行為に目を見開いてしまう隊員。
「私が代わりに行っておこう。トリスタニアだったな?」
「そそそそんなっ!隊長のお手を患わせることではありません!それに隊長もお忙しいですし・・・・・・」
 しかしアニエスは涼しい顔で笑い、
「なに、任務でこれからトリスタニアの方へ行かなくてはならないんでな。ついでに持っていくだけだよ。君もまだ仕事には慣れないだろう?有事に動けるようたまには休んでおくと良い」
 優しく肩を叩いたのだ。
「引継はミシェルに任せてあるから、何かあったら頼れ」
そして靴を鳴らして颯爽と去っていく。その後ろ姿を見つめながら、隊員はほぅ、とため息を付いた。そこへ影から様子を見守っていた他の隊員が二人、駆け付ける。
「ちょっとちょっとぉ~~!隊長に優しい言葉かけてもらっていいな~~ッ!」
「ああ・・・・・・もうダメ・・・ステキすぎて平静を保ってられないっ!もう私この服洗わないから・・・・・・」
「いっそのこと『固定化』をかけて貰うというのはどうだろうか?」
 きゃいきゃいと騒ぎ出す三人。
「ほふぅ・・・あの輝く金髪に澄み切った青い目・・・・・・凛々しい目と顔立ち・・・・・」
「あの声で号令かけられただけで痺れるよねー。立ち居振る舞いもいちいちカッコイイし」
「君たち、隊長のよさはそのストイックな性格にもあることを忘れてはいけないな」
「そのうち誰かアタックするかな?」
「えー?でも何だかそう言う空気にさせてくれないよねみんな。なんて言うのかなあ・・・暗黙の了解?」
「アニエス隊長はみんなのもの、か?」
「そうそう!」
「そう言えばこの前の帽子男!アニエス隊長にあんなに構われてるのにすっごいイヤそうな顔してんの!許せない!」
「噂ではアニエス隊長を振ったとか・・・」
「いやいや。あたしが聞いた話ではさんざん弄んでボロ雑巾のように捨てたと・・・」
「や~ん、隊長かわいそー。やっぱりみんなで慰めてあげようよ~」
「身体で?」
「モチのロンで!」
「騒いどらんで仕事しろ」
 三人がきゃいきゃいと騒いでいたところに野太い声が割って入った。三人がその声の方を振り向くと、マンティコア隊の隊長がぬおおっ、と立っていた。
「ド・ゼッサール様!いや、もちろんこれからいくところです」
「あ、おい!ちょっと待て!」
 逃げるように立ち去ろうとする三人を呼び止めて、少し詰まったように喋りだした。
「あー・・・その、だな・・・アニエスはどこにいるかわからんか?」
「隊長・・・・・・ですか?でしたら先ほどトリスタニアに出向かれましたが」
「む・・・そうか。ならば副長はどうした?」
「ミシェル副長なら高等法院長に呼ばれて今はいないようですが」
「そ、そうか・・・・・・仕方ない、行っていいぞ」
 許しが出た途端に三人は走り去っていった。「そう言えばミシェル隊長もいいよねー」と聞こえたがよくわからない事にした。
「女三人寄れば姦しいと言うが・・・・・・」
 ゼッサールは首にかいた汗を拭う。どうにも今の若い娘と話すのは難しい。
「ジェネレーションギャップを感じるとは俺も年をとったかな・・・・・・」
「何を言っている?」
 いきなり後から声をかけられたが、ゼッサールは驚かない。誰の声かは解りきっていたからだ。
「もう練兵はすんだのか?」
「我がヒポグリフ隊は集中力も世界一ィィィィッ!密度が違うわッ!」
 ヒポグリフ隊の隊長が手を上げて答える。相変わらずのテンションだ。
「でもお前、この前お前のところの副長と銃士隊の娘が楽しげに歩いているのを見たが、女にかまけていて良いのか?」
「それを言うならお前の所のやつだって裏で密会してたって言うぞ」
 二人は顔を見合わせて苦笑した。ゼッサールがため息をつくと、隊長がその肩を叩く。
「ま、若い奴らに任せておけばよかろう、そういうのはな」
 わっははは、と笑いながら歩き去っていく旧友の背を見つめながら、ゼッサールは先ほどから気になっていたことを心の中で反芻する。
(しかし、高等法院長が?確か大の平民嫌いだったと思うが・・・・・・)

 高等法院長執務室。
 普段は法の番人の最高位が机に向かっている場所だが、今日その場所には二人の人間がいた。
 窓の外を眺めながら後ろ手に腕を組む貫禄のある男が一人。
 そして、その男に向けて跪き、傅く騎士が一人。
 男は窓枠をなぞりながら、騎士に質問した。
「それで、銃士隊での動きの方はいかがしておる?」
「は、銃士隊自体には動きはありませんが、アニエス隊長が女王陛下直々に任務を貰ったそうです」
 顔を上げて答えた騎士は、驚くことに女だった。紫がかったショートカットに、気の強そうな眼差しはどこかアニエスを連想させる。その服装もアニエスのものと大差はない。
 それもそのはず。この女騎士は銃士隊の副長であるのだから。
「ふむ・・・・・・で、その内容は?」
「それは・・・・・・その・・・・・・」
 男は女騎士が言い淀むと、体を室内に向けて歩み寄ってきた。
「ミシェル。君が言いにくいのも解る。自分の隊の極秘事項だ。だが君がその銃士隊に入ったのは何のためだったかを思い出してみなさい」
 その言葉にミシェルと呼ばれた女騎士は拳を握りしめた。
「君の父上が王宮の何者かによって汚職の濡れ衣を着せられ、貴族の地位を剥奪された。追いつめられた父上は自害し、母上も・・・・・・」
「リッシュモン様・・・・・・わたしは・・・・・・」
「さぞ辛かったであろうなあ。だから君はこうしてこの王宮に、平民として潜り込んだのであろう?お父上とは親しく付き合っておったから、そのような悪事をするような人物でないことは私がよくわかっておる。
そして、その仇をとるためには、君の持つ情報と私の力を使えばより早くたどり着けるはずだ。私とてできるものなら仇をとりたいのだ」
愛を説く僧のように、優しく諭すリッシュモンに、ミシェルは心の底から感激し、感謝した。そして口を開く。
「アニエス隊長は首都トリスタニアでの昨今の治安悪化とある『組織』の関連性の調査に向かったとのことです」
「なんと、まことか!」
 リッシュモンはふむ、とか、ううむとか呟きながら顎に手をやる。
「いや、実はだな、最近怪しいと踏んでいた大臣とその『組織』との間に繋がりがあるという情報を掴んだのだ」
「それではッ・・・!」
「待て待て、焦ってはいかん。あくまで情報だ。ここは隊長殿に調査を進めてもらい、しっかりとした証拠を掴んでもらえばいい」
 やおら立ち上がったミシェルをリッシュモンは静かに諫める。たとえ初対面の相手でも、疑うことなく信じてしまうであろう優しい微笑みを浮かべてミシェルの肩を叩いた。
「我々の仇までもう少しだ。これからも銃士隊や魔法衛士隊の動向は逐一知らせてくれ」
「はい。王宮での事情に精通したリッシュモン様のお力のおかげです」
「うむ。私も力を貸さぬ訳にはいかぬからな。しかしこんな孝行娘を持って、天国のお二人もさぞ喜んでおることだろう」
 ミシェルは最敬礼を取り、リッシュモンの執務室を後にした。
「――――天国、か」
 後に残ったリッシュモンは懐の杖を一振りした。机の上の羊皮紙が一枚と羽ペンがふわりと手元に飛んできた。そこに何事かを走り書きをすると、鳥籠の中のフクロウにくわえさせて窓から放した。
 その軌跡を追うでもなく、リッシュモンは椅子にどっかと腰を落とす。背もたれに体重をかけて天上を仰ぎ見た。
「いくら払えば閻魔は天国に連れて行ってくれるかな・・・・・・」
 そこに人がいれば、リッシュモンのその笑みに思わず背筋を冷やしたことだろう。
天を仰ぐその顔には、先ほどまでの暖かい笑みなどそこにはなく、ドス黒い闇に彩られた笑みが張り付いていた――――

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