ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

slave sleep~使い魔が来る-19

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匿名ユーザー

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アヌビス神⑤

ドォォォォン・・・

遠くから爆発音が聞こえる。
「おかっぱさん!今の爆発音って!」
「『爆発』音か…?」
今聞こえたのは確かに爆発がおきた時に起きる音。そう、ルイズが失敗して起こる爆発はこういう音を出す。
イルククゥがハッとしてブチャラティに言う。
「つまり、そこにあなたのご主人様がいるってことよね?きゅいきゅい!」
「だがルイズが爆発を起こしたということは、すでにルイズの身に何かが起きていると言うこと。
一刻の猶予も無い!急げ!爆発音のしたほうに走るぞ!」
ブチャラティは走る。ルイズの危機を救うために。
(おかっぱさん…。あの子を心配している。同じ使い魔の私にはよくわかる…。
私もお姉さまにさっきから何度も問いかけているのに返事が無いのね。きっとお姉さまの身にも何かあったのね!
急がないと!お姉さま待ってて!)
イルククゥも走る。タバサの身を案じつつ。

待ち合わせ場所へ走る三人の耳にもその音が届く。
方角はちょうど自分の向かっている目的地の方角から。
「これは…爆発音?」
真っ先に気付いたのは金髪の青年、ウェールズ。
ウェールズが真っ先にその音に警戒する。
それに続いてマリコルヌ、ギーシュも爆発に気付く。
だが彼らが抱いていたのは別の想像。
「ギーシュ!今のは『ゼロのルイズ』の爆発じゃあないか!?」
「かもしれない!キュルケの言うとおりブチャラティが来ているとしたら当然ルイズもいるだろう。
使い魔のブチャラティがこの町に来ているとすれば用事は普通に考えるなら『ルイズの買い物のお供』だろうからね!
そしてこの爆発音は、彼女も今危険に晒されているということに繋がるッ!」
その時ウェールズが疑問を浮かばせる。
「『ルイズ』?」
「ブチャラティの主人で僕達のクラスメイト、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
ブチャラティを召喚した本人です。」
「ヴァリエール…。ヴァリエール公爵の…。」
ウェールズにはその名前に聞き覚えがあった。
「そうか。いや、急がなくてはな。彼女も助けに行かなくては…。」


ゴロツキメイジチームリーダーとルイズの生き残りを賭けた戦いは佳境に入っていた。
「やった…!ゼロの私がここまでできるなんて…すごい!!」
しかし相手はまだ動くのをやめていなかった。ルイズに負わされた瓦礫のトラップという予想外のダメージで
肉体的にも精神的にもショックを受けているであろう、それでも執念からか動くのをやめなかった。
「ぐ、ううう、ガホッ!がああ!クソッ!なんでこのオレがここまで押されてやがる…!」
荒々しい声をあげ、欠片を引き抜きながら動いているのを見たルイズはまた緊張が走ったのを確認する。
「この…!よくもっ!よくも顔に…ぐうっ!腹に、腕に傷を…!!やせっぽちのチビガキがッ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・!!!!!!!

ルイズもリーダーのその迫力に思わず息を呑む。
「この…鼻持ちならない…温室育ちの…貧弱でやせっぽちの能無しビチグソ野郎の分際で…!
よくもこのオレに傷を…傷を!!!」
リーダーがすごい形相で睨んでくる。
「ぜってぇにバラしてやる!!切り刻んで!五体を引き裂いて!生き肝えぐり出して!
血肉を味わうことで!てめえの残酷な死で清算してやるッ!!BIIIIIIIIIIIIITCH!!!!!!」
再び目の前が赤く染まったような錯覚が起きた。ルイズの目の前の男の狂気がむき出しになる。
その形相にルイズの背筋は縮みあがった。
「なにコイツ!?精神的にキテる…!ヤバすぎるッ!!」


ルイズがブチャラティを探しにふたたび走り出す。
「FWOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
リーダーが目をギョロつかせてルイズを睨む。
ルイズは右に曲がる。そこには階段があった。この階段を曲がれば表通りには近くなる。
「階段…!チャンスだわ!」
「逃がすかよォ!!」
ルイズが大急ぎで階段をあがるが、リーダーは凄い。一気に4段抜かしである。
当然2段抜かしが限界のルイズではすぐに追いつかれる。
「HYAAAAAAAAAAAHAAAAAAAAA!!!!刻んでやるよォ!!」
だがルイズは不意に後ろを向き、
「『レビテーション』!!」

ドカンッ!!

不意に天井が崩れる。
ルイズの狙いは上ではみ出ていた屋根。それを爆破したのだ。
「アンタが下!私が上よ!!変態野郎!!」
「なんだとォォォォォォ!!!!」
屋根が瓦礫となりリーダーを飲み込む!!
ルイズはそれを全く躊躇せずこう言った。
「地形の相性を考えて動くべきだったわね。アンタたちゴロツキは魔法で平民にデカイ顔してたぶん、
メイジ同士の戦いはてんでダメね!」
ルイズは伊達に『ゼロ』呼ばわりされていない。気位が高い彼女だからこそ今までの人生常に努力と背中合わせに
生きてきた。ありとあらゆる魔法の知識やその用途は頭の中にいっぱい詰まっている。
失敗だらけで努力家のルイズならではの戦いだった。
彼女が最後の台詞を言い切る前にルイズは階段を上りきる。
(やった!この階段さえ上ってしまえば表通りはすぐよ!)


「貴様が下だ!チビ女がッ!!」
リーダーが瓦礫を振り切りながらそう言うとルーンを唱えて飛び上がる。
「『フライ』で先回りを!?」
ルイズが壁に杖を向ける。
「『レビテーション』!!」
爆音とともに穴が開く。ルイズはすかさず壁の向こうに逃げた。
「機転の…きくヤロー…だぜ!あんな爆発しか能の無いゴミ女のくせに!生意気なんだよォ!!
HEYYYYYHAAAAAAAAAA!!!」
発狂したような声をあげリーダーがそのまま穴へと続く。
だが穴をぬけた先は建物の中。ルイズは逃げたつもりが逆に追い詰められていたのだ。
「しまったっ!!」
「つっかまーえたァ~~。ウヒヒヒヒヒヒヒヒアヘアヘアヘラ!」
杖であるナイフをいとおしそうに舐め、ルイズに切っ先を向ける。
今度こそルイズを殺すために照準を合わせたのだ。
「『エア・カッター』ッ!!」
リーダーがルイズに呪文を唱える。だがルイズはすでに読んでいたと言わんばかりに杖を振るう!
「『レビテーション』ッ!!」
リーダーの攻撃が発射される前に二つ目のカフスを爆破!攻撃をそらす。
だがそれはリーダーの作戦だった。今放たれた風の刃はごくごく小さいものだった。
(あらかじめカフスをぶっ壊しておけばよォ~~。肝心なとどめを妨害されたりしねーよなァ~~!!
壊すのめんどくせーからこっちから爆破させてやったぜ!!)

「しまったッ!!もう攻撃はそらせないッ!!」
「逃げたつもりが建物の中!冷静でいられなかったのはドコのドイツさッ!!
このまままず頚動脈を切ってから…おたのしみはそれからかなァ!?」
ナイフを向けてとどめを刺そうとする。だがルイズの目はまだ生き残ろうと言う意思が消えてない。
このメイジを倒すか!ブチャラティと合流するかが生き残るための道!!
何不自由なく暮らしてきたルイズは今!!初めて生き残りを賭けた試練を乗り越えようとしているッ!!
「まずはこの石をッ!!」
ルイズの次の行動。石を『3つ』投げたッ!!
「『レビテーション』!!『レビテーション』!!『レビテーション』!!『レビテーション』!!」
リーダーの懐に投げ込んだ石が爆発を起こすッ!!
「うぐえッ!!クソッまだやるつもりか?お前にはもう助かるすべは無い、
もう諦めて楽になれば…?」
爆発の影響で起きた煙で一瞬視界が遮られる。そしてリーダーは触覚で感じ取った。
ルイズが煙に紛れて逃げていくのを。
「一時しのぎだ…。こんな手を使って何になる…ハッ!!」
リーダーは攻撃を喰らい一瞬もうろうとなった意識が戻った瞬間やっと気付く。
「4回唱えたはずなのに…。喰らった爆撃は3回?残りの一回で何を爆破した!?」
ルイズが向かう先には!4つめのの失敗魔法で爆破された壁の穴ッ!!
「このあたりには何回も来てるのよ…。この方向に真っ直ぐ行けばブルドンネ街の中央部に出るはずッ!!
「コイツッ!攻撃と同時に退路を切り開いてやがったッ!!生き残るための道を…。追い詰められたことで
生き残るための執念が表立って出てきやがったかッ!!」


しかしリーダーの顔からは笑みが消えない。
「だがよォ~~~。俺だってこの辺りを庭のように歩いているんだぜ?
いくらお前がこの町を歩きなれてるからって結局ここでの戦いをホームゲームにしてるのはこの俺様だぜ?
その道を使えば確かに中央街まで真っ直ぐいけるだろうよ…。途中曲がる道もないからなぁ~。」
ルイズが一瞬振り返ってこっちに向かいながらリーダーがルーンを唱えているのが見えた。
「何?このいやな予感は?私は何か…ミスをしている?」
「その走るスピードなら!こっちの『座標指定』と『呪文詠唱』のほうが圧倒的に速いッ!!『トルネード』ッ!!」
ルイズは遠くから『トルネード』のルーンが聞こえた時に背中がゾクリとする感覚を味わった。
理由は簡単。この逃走経路には大きな欠点があったことに気付いた事で。
目の前にトルネードが立ちふさがったことで自分のミスに気付いたのだ!
「足止めを…しまった!まっすぐ行けば…途中曲がる道がないからこそ!
この道を塞がれたらもう私はこの位置から逃げられないッ!!」
ルイズが壁に杖を向ける。
「『レビテーション』!!」
「グッド!!その瞬間を待ってたんだッ!!お前が避けるために壁を爆破するために!
一瞬横を向いて呪文を唱えるときに無意識に行う『減速』の瞬間をッ!!」
リーダーが走りながら唱えていた次の呪文を開放する。
「くらえッ!『エア・カッター』ッ!!」
放たれたのはまたしても小さな刃。だがその一撃は壁を爆破されたと同時に
ブチッっと音を立ててルイズの右足に当たるッ!!
「ぐッ!……あああッ!!!足がッ!!」
「よし!今の音は右のアキレス腱が切れたなッ!!これでもうお前はちょろちょろ逃げることは
出来ないッ!!やっと追い詰めたぜッ!!」

リーダーが自分の血で汚れたナイフをルイズに突きつけようとする。
「いいかげん…死んでおきなッ!!」
「それは無理だわ。」
ルイズが右足を抑えていた手を離し近くの石を掴みとって軽く上方向に投げる。
重力に引っ張られ下に落ち、体勢を崩したルイズの胸の高さまで落ちた時。

「今私は…今までで一番生き延びる事に必死だから。」

ルイズが再びコモン・マジックを唱える。そして当然のように石は爆破するッ!!
「な、なにいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
ドカンッ!!という爆発音と共に爆破の衝撃はリーダー以上にルイズ自身を襲う!!
だがその衝撃でルイズは逃走経路を抜けて竜巻を回避する。
「ゴホッ!!な、なんとしてでもあの場所に…!行きさえすれば…!!」
だが。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………。

「キレ…てんのか…この野郎…。自分をふっ飛ばしてまで…俺に殺されるのがイヤか…?」
リーダーが目の前に立ちふさがる。
(くっ…。やっと…。あの竜巻をよけて…やっとここまで生き延びたのに…もう…これ以上動けない…。
せっかく…一生懸命あがき続けたのに…!!)
「聞いてんだよ…。俺に殺されるのがそんなにイヤかッて…てめーに聞いてんだよ…!!」
「当然よッ!!」
ルイズが力を振り絞ってリーダーを威嚇する。
「あんたなんかに殺されるなんて…貴族としての誇りが傷つくわ…!
そんな目に会うくらいなら…いっそ自分の力で死んだほうがマシよッ!!」
狂人を前にして彼女はそう言ってのけた。
もう自分の舌を噛む力も残ってないはずのその体で。
周りから馬鹿にされながらもそれでも貫き続けた『誇り』のために。
なにより、今自分を必死で探してるであろう『彼』の行動をその喉が切り裂かれるその瞬間まで
信じているからこそ。
「そいつぁ大層な心意気で。その誇りを粉々に崩せば…さぞかし気持ちがいいだろうなぁ~。」
リーダーがナイフを振りかぶる。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!!!!さようならだじゃじゃ馬女!!せいぜい俺を楽しませろよォ!!」

来てくれる…!!

リーダーの手が振り下ろされる。

――――――きっと来てくれる…!!!


手にしたナイフが一直線にルイズの首へと向かう。



―――――――――――――アイツは…必ず来てくれる!そう…信じさせてくれる…!!

―――――――――――――――たとえそれがどんなに信じられなくてもそれをやってのけるのが『アイツ』だから!!

ルイズの喉に切っ先が。
切っ先がルイズの喉の皮膚を破る。
このまま声帯や呼吸器が切り裂かれる…リーダーはそう信じて疑わなかったが。

「ウリアアアアアアアアアアア!!!」

切っ先が皮膚を切った瞬間、それとほぼ同じタイミングでリーダーのわき腹に一撃が叩き込まれた。




ルイズの目が見開かれる。
見間違えるはずが無いその人物が目の前にいた。
彼女の奮闘はその男がかけつけるまでのコンマ一秒間に間に合ったのだ。
その男の到着はルイズに安堵を起こした。
相手が自分に与えた恐怖は暖かな環境で育った自分には計り知れない物だったのに。
不可能を可能に変えて見せた男が!
優しさと厳しさを合わせ持つ男は駆けつけてくれたからッ!!

「…間に合ったな。」
「ああ、相棒。マジに危なかったようだがセーフみたいだぜ。」

彼が自分を案ずる声が聞こえた。
優しく、暖かい物が心の中に広がった気がした。
「その傷…ずっと戦っていたのか。驚いたな。そしてゾッとしたよ。もしもう少し遅かったら…。
いや、そもそも戦ってくれなかったら…。結局間に合わなかっただろう。
…がんばったなルイズ。本当に…よくやってくれた。」
弱弱しく笑うルイズに彼は微笑み返す。
「あとはオレにまかせてくれ。」
「遅いわよ…。主のピンチにはもっと早くかけつけなさいよね…。ブチャラティ。」


「きゅい!やった!間に合ったのね!!」
イルククゥが後ろから追いつく。
「イルククゥ。ルイズを頼んだぜ。コイツはオレがやる。」
「わかったわ!さあ、お嬢さん!一緒に行きましょう!!きゅい!」
「へ?ブチャラティ!?誰なのこの女!!わっ!ちょっと!急に背負わないでよ!」
ブチャラティが起き上がるリーダーに向き合う。
「コイツがベックの親玉か。ルイズの爆発を立て続けに喰らっている割りに立ち上がるとは
ずいぶん頑丈なようだな。」
「クソッ!こんな時に来るなんて!だが従者が一人増えて何だってんだ!何をそいつに期待してるかしらねーが
そいつからは魔力を全く感じない!ただのメイジ殺しだ!そんなのが来たところで何ができ…?」
リーダーがわき腹に違和感を感じる。わき腹にはジッパーが貼られていた。
わき腹に喰らった一撃がそのままジッパーを発現させたのだ。
「な、なんだコレは!?なんでこんなコトができる!?」
ブチャラティが少しだけ出ていたデルフを完全に抜き、全く躊躇した様子を見せず
みねではなく刃のほうで切りかかる。
「フンッ!俺に斬り合いで挑む気か!?」
リーダーがナイフで受けるがブチャラティはそのまま踏み込む。
全身の力をデルフにこめて『体当たり』の要領でリーダーをレンガの壁に弾き飛ばしたッ!!
「おおおおおおおおおおおおおあああああああああああああッ!!!!!!!」
「こ、コイツ…!なんてパワーを…ガアッ!!アアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ルイズは今この瞬間自分は『とてもツイていた』と思った。
本当に危ないところでブチャラティが間に合ったことを心から本当にツイていたと考えた。
なぜこの局面で自分にツキが回ってきたのか自分でも不思議に思ったほどに。

        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
その幸運はルイズだけのものではなかったからだろうか。

「あ…その壁…!その壁の向こう側にッ!!まさかッ!!きゅい!!」
最初にその何かに気がついたのはイルククゥ。
だがその事に気付いた時にはブチャラティは壁に押し付けたリーダーにさらに大きな一撃を叩き込む。
その衝撃で後ろの壁がぶっ壊れるほどの一撃を。


「いや、その身一つでよくここまで戦い抜いたよ。これほどの健闘、オレは永久にお前を『憶えて』おこう。」
アヌビスの美しく輝く刀身をタバサの細腕でキュルケに向けて振りかぶる。
「タバサ…!!」
だが振りかぶった刀が振るわれる事はなく、

オオオオオオオオン!!!!!

「ぐあああああああああああッ!!!!!!」
「な、なんだぁ!?コイツら…うぐぇッ!!」
ブチャラティが
弾いたリーダーの体がタバサに乗り移ったアヌビスを弾き飛ばす。
「ブチャラティ!?」
キュルケが突然の来訪者に目を見開く。
ブチャラティ、ルイズの両名がそこにいる意外な人物に驚いた。
「おまえ…キュルケか?何をしている?」
「間違いない…キュルケだわ。何でここに「お姉さまッ!!」」
言いかけたルイズの台詞を遮ったのはイルククゥだ。
「やめて!おかっぱさん!!お姉さまが下敷きになってるわ!!このままだとお姉さままで巻き込んじゃう!!」
「お姉…さま?」
最後の一撃でとうとうのびていたリーダーが下敷きにしていたのはキュルケの親友の『タバサ』だ。
「タバサも?ていうかあれ!?アンタお姉さまってタバサが!?」
「あっ。」
イルククゥが口を押さえた。今一瞬明らかにブチャラティがこっちを見て疑いの目を向けてきた。


「なんだオマエらはッ!!あれ?てめーらさっきあの店でデル公を買っていった奴じゃあねえか?」
タバサが起き上がった。まずブチャラティが驚いたのはその小柄な体で大の大人一人ぶつけられてピンピンしていた
と言う点。もう一つはブチャラティの記憶の中のタバサはたしかこんな言葉使いをする子ではなかったという点だ。
「タバサ…?」
「ブチャラティ!!気をつけてッ!!」
傷を抑えてキュルケが起き上がっていた。必死な表情でブチャラティに説明する。
「ブチャラティ!これはスタンド攻撃よッ!!タバサはその刀で操られているッ!!」
「何ッ!?」
すぐにタバサに向き直る。アヌビスがタバサの口でそのまま喋り始める。
「そうか。お前やっぱ『スタンド使い』だな?『タバサ』の記憶では『ブチャラティ』と言う名前らしいが。
…うん?タバサの記憶にはコイツのデータがねーのか?ツイてねーな。」
それを聞いたキュルケが思い出す。なぜタバサが知らなかったのか。
「そうよ!タバサはあの決闘に来ていなかったッ!!あの子にはブチャラティがすごいことやってギーシュを
倒したとしか言ってなかったからッ!!」
しかしそれを我関せずといった感じでブチャラティがアヌビスを睨む。
その殺気に一瞬アヌビスが押されるほどだ。
やがてブチャラティが口を開く。
「…いますぐに、タバサを離してもらえるか?」
「それは無理だな。戦いはまだ続いているんだぜッ!!」
ブチャラティとアヌビスが互いに飛ぶ。
「ブチャラティ!!『アヌビス神』の刃に気をつけて!!そいつはすり抜けて任意の対象だけを斬る能力を
持っているわッ!!そしてそいつは一度受けた攻撃は完全に憶えて二度と通用しなくなる!」
ブチャラティがデルフを叩き込む。アヌビスは冷静にそれを受けとめる。
「相棒!ガードはするなッ!!すり抜けると言うことはアヌ公の刃はガードできねぇッ!!何が何でも攻め続けろ!!」
デルフがそう言うや否やブチャラティが連打する。
「ハッ!どうした!?『スタンド』を使わなくていいのか?このまま続けたところでどんどんお前の動きを
憶えていくだけだぜ!?」



ルイズがイルククゥの背中でギリと歯噛みする。
(どんどん成長するスタンド…。無駄な攻撃をしたら奴に覚えられてしまう…。
ブチャラティはおそらくギリギリまでスタンドを使わない…。おそらくタバサを
傷つけることをためらっているから…。)
「ダメ!お姉さま!やめて!おかっぱさんを傷つけないでッ!!」
イルククゥが動揺してタバサに声を投げかけるがそれは届かない。
その一方、ブチャラティが考えているのは当然タバサを助ける方法。
そのためにアヌビス神を分析することに集中していた。
「キュルケッ!!近くに本体らしい奴は見てないか?」
「ダメよ!町中探したけどそんな感じの奴はどこにもいないッ!!」
(だがこいつの動きは近距離パワー型の物だ。自動追跡型や遠隔操作型にしてはあまりにも動きが複雑すぎる。
まるでタバサ自身が本体のような…。)
ブチャラティはそこまで考えて意見を出す。
(まさか…。いやそうとしか考えられない。)
ブチャラティが一歩離れてアヌビスに言う。
「わかったぜおまえの正体。なるほどな、これではキュルケもわからないわけだ…。
いきなりこういう変則的なスタンドに出会ってしまってはな。」
「え?」
「キュルケ。こいつの本体は探しても無駄だ。こいつに本体はない。こいつは本体が死んでもなお残り続ける
『一人歩き』型のスタンドだッ!!」
「正解だ。こうも簡単に答えにたどりつくとは驚きだぜ。だがわかってどうする?
結局コイツを開放するにはコイツを傷つけるほかないと言うのに。」
「ブチャラティ…!!」
キュルケが怪我を押して立ち上がろうとする。

だがブチャラティはキュルケを止めた。
「動くな、キュルケ。タバサは必ず助ける。」
そういうブチャラティの目に迷いはない。
デルフを上段に構えてアヌビスに振り落とす。
「向かってくるかッ!とうとうコイツを傷つけてまで戦う決心がついたか!」
「いいや!そんな必要はない!」
振り落とされたデルフの刃をアヌビスの刃が受け止めた。その瞬間をブチャラティは見逃さなかった。
「今だッ!!『スティッキィ・フィンガース』ッ!!」
S・フィンガースの拳はタバサの両手首に当たる。タバサのしなやかな両手にジッパーが発現する。
そのジッパーが開いてタバサはアヌビスを『自らの手ごと』落とした。
「何ッ!?こ、この能力は!?しまった!!」
「ウリァッ!!」
ブチャラティはそのまま床に落ちたアヌビス神のみねを思いっきり蹴り飛ばす。
手からアヌビス神が離れて洗脳が解けたタバサはそのままガクンと力尽きる。
「お姉さまッ!!」
イルククゥがタバサを即座に抱えた。ルイズが背中からタバサの様子を見る。
「大丈夫。気を失ってるだけよ。手当てすれば直るわ。」
キュルケがタバサの無事を確認してブチャラティに言う。
「いったいどうして…?」
「一人歩きするスタンドと言うことはタバサを操っているのはあの刀そのものということになる。
だからあの刀を手から離してしまえば洗脳は解けるだろう。だからジッパーでタバサの手ごと落とせば
ほとんど傷つける必要も無くタバサを助けられると言うことだ。」
つまるところブチャラティは自分が苦労したタバサの開放を簡単にやってのけてしまったのだ。
素早く、それでいて華麗で全く無駄なく。
そんなブチャラティを見て彼女は、キュルケは思った。
『なんてカッコいいのかしら…!』と。
「ああ~。ブチャラティ。ねえ、私からひとつお願いがあるんだけど…。私、あなたのことを『ダーリン』と呼ばせて
もらってもいいかしら?」
「無理。」


「もーう、ダーリンのけちんぼー。」
「断っても結局言うのか…。」
「ちょっと!キュルケ!何勝手なこと言ってんの!?」
ブチャラティがふと思い出し、蹴り飛ばしたアヌビス神を見る。
「そうだ…。キュルケ、コイツを封じる方法はないのか?今回はなんとか引き離すことに成功したが、
このまままた誰かに持たせたらやっかいだぞ。」
ブチャラティの言葉にキュルケがハッとした。
しかしその時あることを思い出す。
「でも待って。考えても見ればアヌビスを最初に持ったのは私だけど、なんで私は操られなかったのかしら?
タバサと取り合いになったときもいきなりタバサが洗脳されたわけではなかったみたいだけど…。」
「その辺りに何か奴を完全に封じるヒントがあるんじゃあないか?もう少し思い出せないか?」
キュルケがうーん、うーん、と唸っているうちにルイズが何かに気付いた。
「そういえば…この刀さっき武器屋に寄って見たときは抜き身になってなかったと思うけど、
コレの鞘はどうしたの?」
「それだわ!!」
キュルケが思い出したように大声を出し、ルイズが驚いてイルククゥの背中からずり落ちる。
「イタッ!ちょっと!どうしたのよ急に!!」
「鞘よ!!タバサが操られたのは私達が揉め合った時に鞘が抜けてからだったわ!!もしかしたら
あの鞘があれば完全に動きを封じることができるかも!!」
心配そうな顔で背中に引き上げるイルククゥの背にルイズが戻る。
その時、肝心なことを忘れてたように指摘した。
「で、鞘は?」
「ああ、武器屋に忘れてきたわ…。でもそんなに遠くは無いから今から取りにいけば…。」
そう言いかけたキュルケの顔が青ざめる。
指差す先にいたのは…。

「ゲホッ!…ヒヒヒ…ヒャハハハハハハ…!!」

真っ赤に充血した眼球、爆発でボサボサになった髪。
表情だけでその男の狂気は伝わってきた。
リーダーが意識を取り戻していた。
「コイツ…!あれだけの攻撃をくらってまだ…?」
リーダーが這いつくばって喋る。
「よくも…!てめえら…ここまでコケにしやがって…!!ヒヒハハハハ…!
全員皆殺しにしてやる…!!五体をバラバラに引き裂いてやる…!
なあ、わかってんだろォ?『妖刀』さんよォ!?」
リーダーが手にしようとしているのは…アヌビス神!!
「まずいッ!!相棒!!コイツアヌ公を使うつもりだぜッ!!」
「ヒャハハハ…!いい判断だぜ妖刀…!!一瞬でオレの殺人衝動と殺しの技術に気付くとは…!
だからさっき操っていた女の『治癒』でやられる前にオレを治したんだろ!?
気が利くぜェ!ここまですばらしい得物は始めて見た!!」
ブチャラティが止めるまもなくリーダーがアヌビスを手に取ったッ!!

「アッハッハッハッハッハッハッハ!!!!これでてめえら皆殺しだッ!!
桃色のチビも…!おかっぱ頭も…!みんな、みんなブッ殺してやる!!
妖刀!!テメエにオレの体を貸してやるッ!!どうかこのムカつく野郎どもを
殺させてくれェ!!!ハハハハハハハハハハ!!!ヒャハハハハハハハハハハハ!!!!!!…!」

瞬間、リーダーが完全に沈黙した。そして口がまた開かれる…。

「なんてサイコ野郎だよ…。コイツらを殺るために自分の体すら投げ打つとはな!
そして!なんてすばらしい!『タバサ』の体も動きやすかったがここまで刃物で斬ることに特化していて、
なおかつ魅力的なくらい頑丈なボディ!!これほどオレに向いたボディも珍しいッ!!」
ブチャラティの顔に汗が浮かぶ。
「なんて事だ…!復活しやがった!!」



「もはや運命じみた物すら感じる…!!なんだよコイツの記憶…!!
本名”鮮血”の『キャラバン・サライ』だと!?信じられねえ!!
コイツ!500年以上前に妖刀になった時に捨てた俺の名を持ってやがるとは!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!

ブチャラティは胃の中に入れられた鉛を押し込むように唾をのみ、口を開く。
「キュルケ!!タバサを連れて今すぐ安全な場所に避難しろ!!」
「そんな!!一人は無茶よ!!私も!!」
「そいつはやめときな。オレの能力はオレ自身がおまえの情報を覚えているんだ。
一度闘った相手はたとえ持ち主が変わったとしても絶対に、
絶対に絶対に絶っ…
                       ~~~対に負けなああああああああああああィィィ!!」
ブチャラティが再び構える。
「『スティッキィ・フィンガース』ッ!!」
「ちなみに断っておくがッ!!さっきの開放はもう通用しないぜ!!その手はもう覚えたからな…。
スタンド+魔法の妙技、味わってもらおう!!」
「そうか。こちらは片付ける相手がひとまとまりになって大助かりだがな…。」

「いくぜッ!!このキャラバン・サライ容赦せんッ!!」

対峙するブチャラティとアヌビス。
戦いは激化する。
いよいよ昼間の町の恐怖に終止符は打たれる。

                 リタイヤ
『雪風』のタバサ      再起不能       

To Be Contined →


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