ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-49

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「・・・何やってんだ、おめーら」
部屋の扉を開けたまま、肩にデルフリンガーを担いだ状態でギアッチョは
しばし固まった。
厨房でルイズ達と別れてから数時間を剣の訓練に費やし、今戻って来た
彼の眼に飛び込んだものは、
「あ、おかえりギアッチョ」
「お邪魔してます」
足りない分はキュルケあたりの部屋から持ってきたものか、しっかり
五人分揃えられた椅子に座り円卓の騎士よろしく丸テーブルを囲む
ルイズ達の姿だった。
「シエスタの嬢ちゃんまでいるじゃねーの 今日は半ドンか?」
やけに俗な言葉でデルフがギアッチョの疑問を代弁する。シエスタは椅子を
引いて立ち上がると、律儀に礼をしてからそれに答えた。
「はい マルトーさんに掛け合ったら快く許してくださいまして」
「・・・理由はそいつか?」
ギアッチョはテーブルの上に丁寧に広げられた数枚の地図に眼を向ける。
「ロマンだよギアッチョッ!!」
両手で勢いよく地図を叩いて、ギーシュが興奮した面持ちで声を上げた。
「見たまえ!宝の地図だよ!宝、財宝、進化の秘法!」
「ああ?」
「宝探しは男のロマンさ!男に生まれたからには、心躍る冒険の一つや
二つ夢見て当然!いや、見ないでどうするッ!!」
「あんた毎日冒険してるじゃない」
主に女性関係で、と突っ込むルイズの言葉も、熱苦しい情熱を振りまいて
語るギーシュの耳には届かないらしい。キュルケはやれやれという風に首を
振ると、一人と一本に説明を始めた。
「ほら、折角こんな関係になったんだしシエスタも入れてどこかに
遊びに行こうって話になったのよ それで、最近私が買った地図のことを
思い出してね」
「貴族の割に野趣溢れる選択だな・・・こういうなぁ人を雇って探させる
もんじゃあねーのか?」
「貴族と言っても私達は所詮子供だしね、大金持ってるわけじゃないのよ
それに、ま・・・ギーシュじゃないけど、ちょっと夢があっていいじゃない?」
ギアッチョはもう一度並べられた地図に眼を落とす。どれもこれも、いかにも
作り話じみたうさんくさい代物ばかりである。胡乱な視線に気付いたらしい、
タバサが本をめくる手を止めずに口を開く。
「・・・確率は低い でも伝承や噂と矛盾する内容は見当たらない」
「行ってみる価値はある、っつーわけか」
桃色の髪を揺らして、ルイズがギアッチョを見上げた。
「・・・ダメ?」
「何でオレに許可を求めんだ ・・・ま、いいんじゃあねーのか」
「見たとこどれもそう遠くはなさそうだしな」地図にルイズ達がつけた
印を見ながら応じる。「死なねー程度に頑張って来な」
「何言ってるの?あなたも行くのよ」

「・・・何?」
キュルケの言葉に、ルイズのベッドに無造作に下ろしかけた腰を一瞬止める。
「同行」
「おめーらで行きゃあいいだろーが」
「皆で行くからいいんじゃないか!」
「だからおめーらで行けば・・・」
「ダメよそんなの!皆で行くんだから、ギアッチョがいなきゃ意味ないわ!」
五人は喧々囂々主張を交わす。この数日を特に鍛錬に充てるつもりの
ギアッチョとしては、それが潰れることは歓迎出来ない。一方ルイズ達は
誰か一人欠けても意味が無いと主張し、彼らの議論は中々収束しない。
「・・・あのっ」
おずおずと声を掛けたシエスタに、全員の視線が集中する。慌てて机上の
地図を一枚掴み、ギアッチョに差し出して言った。
「これ、『竜の羽衣』って宝物の地図なんです」
「・・・?」
「さっき話してたんですけど、これ実は私のひいおじいちゃんの持ち物で」
「おめーの故郷か?そりゃあ奇遇だな」
「はい、それで・・・あの ・・・何にもない村なんですけど、一つだけ
――とっても綺麗な草原があるんです 私、ギアッチョさんにも見て
貰いたくって」
「・・・・・・」
「・・・ダメ、でしょうか」
ギアッチョの冷たい双眸が、シエスタの不安げな瞳を捕える。
「・・・・・・しゃーねーな 保護者が必要だってことにしとくぜ」
小さく溜息をつくと、両手を上げて降参の意を示した。同時に、その場が
わっと歓喜に沸く。
「よく言ったッ!それでこそ男だよギアッチョ!」
「おめーに男がどうとか言われたくねー」
「お手柄よシエスタ!」
「きゃっ!?だ、ダメですミス・ツェルプストー!」
再びロマンを語り出すギーシュの横で、キュルケがシエスタを抱き締める。
珍しくというべきか、歳相応にはしゃぐ彼らだったが、
――あ・・・・・・
嬉しそうに笑うシエスタと、その視線の先にいるギアッチョに――ルイズの
胸はちくりと痛んだ。すぐに理由に気付いて、それを吹き飛ばすように彼女は
強く首を振った。

「それじゃ、明日はちゃんと起きるのよ」
「わ、分かってるわよ!」
キュルケ達を見送りに出た廊下。今朝のことが頭をよぎり、ルイズは思わず頬を
染めて返答する。一瞬怪訝げな表情を浮かべたキュルケだったが、自室の扉を
開くと特に詮索することも無く手を振った。
「そ、じゃあ二人ともお休みなさい」
「お休み・・・また明日」
「じゃあな」
無理矢理見送りに引っ張り出したギアッチョと三人で挨拶を交わし、キュルケは
あくびをしながら扉を閉めた。同時に、ルイズが同じく自室の扉を開ける。
「さ、わたし達も早く寝ちゃいましょ 明日は早いんだから」
ギアッチョは声を出さずに、肩をすくめてルイズに応えた。

ぱたり、と扉が閉まる。その音に被せて、
「・・・ギーシュ・・・」
廊下の角に姿を隠して、見事な金糸の髪を持つ少女は――怒りと不安と悲しみの
入り混じった声で恋人の名を呟いた。


ニ脚に戻った椅子に腰を下ろして、ギアッチョは最近見方を覚えた水時計を
覗く。もうすぐ深夜に差し掛かる頃合だった。中々スケジュールが定まらず、
夕食を終えて入浴を終えた後も六人はあれやこれやと打ち合わせを続けていた。
もっとも、その半分以上は他愛の無い雑談に割かれていたのだが。
「ほら、さっさと寝るわよギアッチョ!寝坊なんてしたら許さないんだからね!」
「・・・随分と楽しそうじゃあねーか」
「そ、そう見える?」
「見えるも何も・・・っつーやつだ」
二人は背中を向けたまま会話する。
「おめーがそんなに笑顔でいんのは見たことねーからな」
「えっ・・・ええ?」
ぺたぺたという音がギアッチョの耳に届く。大方、今頃気付いて反射的に自分の
顔でも触っているのだろう。
「・・・単純なガキだな」
「ぅ・・・わ、悪かったわね・・・」
自分の行動を見透かされたと気付いたらしい、ルイズは小さく拗ねた声を出す。
「・・・別に、いいんじゃあねーのか」
「え?」
「おめーらみてーなガキがよォォォ~~~~、小難しいことばっか考えてて
どーすんだっつーのよ そうやってあいつらと笑ってるほうがよっぽど歳相応
だろーが」
毎度巻き込まれるのは勘弁だが、と小さく付け足して、ギアッチョはフンと
鼻を鳴らした。
「・・・そ、そう・・・」
若干の沈黙が場を支配する。微かに衣擦れの音が聞こえた後、
「・・・もういいわ」
着替えの終了が告げられた。といっても、ギアッチョは何ら興味を示さずに
黙り込んだままだったが。
「・・・あの」
「何だ」
ベッドの上に座り込んだまま、ルイズはどこか眼を泳がせながら問いかけた。
「わたし・・・笑ってたほうが、いい?」
「・・・・・・」
ギアッチョは肩越しにルイズを振り返る。
「・・・まぁ 年中辛気臭ぇ顔されるよりゃあよっぽどいいだろ」
何とはなしに軽い答えを返すが、ルイズの表情は予想に反して緊張したまま
だった。既に薄く染まっていた頬を更に赤くして、毛布をいじりながら口を開く。
「・・・・・・じゃ、じゃあ」
「まだ何かあんのか?」
「わっ、わわ・・・笑ってたほうが、か、か、かか・・・可愛い・・・?」
「・・・・・・ああ?」
コントよろしく椅子からずり落ちそうになった身体を何とか持ち直す。
「バカかてめーは」とあしらおうとしたが、ルイズが存外真面目な顔でこちらを
見ていることに気付いて、ギアッチョは思わず言葉を飲み込んだ。
物の本によれば、弟子の質問にどう答えるかで師匠はその真価が問われると
言う。しかしこのような場合に一体何と答えて然るべきなのか、ギアッチョには
皆目見当がつかなかった。
――そもそも、こいつは何を求めてやがるんだ
片手で特徴的な髪をいじりながら、ギアッチョは改めてルイズに眼を向ける。
毛布を抱き締めた格好で、ルイズは上気した顔に不安げにも期待するようにも
見える色を浮かべている。
自慢ではないが、生まれてこの方連想ゲームや伝言ゲームに勝った試しなど
一度とて無い男である――最も、敗北よりもブチ切れてゲーム自体を台無しに
したことのほうが多いのだが――、ルイズの心の機微など解ろうはずもなかった。
「あー・・・」
何と言っていいものか、ポーカーフェイスの下でギアッチョは白旗を揚げたい
気分だった。――その時。

コンコンと、扉を小さく叩く音が聞こえた。

「夜分遅くにすまんの、ミス・ヴァリエール 起こしてしまったかな」
扉の向こうに居たのは、誰あろうオールド・オスマンその人であった。
「い、いえ・・・大丈夫です それよりもこんな格好ですいません、今着替え――」
「いや、それには及ばんよ 忘れておったこちらが悪いんじゃからの」
「忘れ・・・?」
小首をかしげるルイズに、オスマンは古びた一冊の本を差し出した。
「本来ならば昼に渡すべき物だったんじゃが・・・いやすまぬ、職務に忙殺
されてすっかり忘れておったのじゃ」
「それは・・・ご苦労様です」
とりあえず受け取りながら、学院長に労いの言葉をかける。ミス・ロングビル
――土くれのフーケがいなくなってから、まだ新しい秘書は雇っていないらしい。
それでは忘れてしまうのも仕方が無いだろう。
「・・・それで、これは・・・?」
「うむ それはの、『始祖の祈祷書』と呼ばれる古文書じゃ」
「始祖の――こ、国宝じゃないですか!」
それがどうして、とルイズが疑問を継ぐ前に、オスマンは静かに説明を始めた。
「アンリエッタ王女が、この度目出度くゲルマニア皇帝との結婚を執り行う
こととなった」
「・・・・・・!」
ルイズは絶句する。こうなることは分かっていたはずなのに、刺すような痛みが
彼女の心を抉った。オスマンは数秒ためらうように沈黙したが、やがてゆっくりと
説明を再開する。
「おぬしも聞いたことはあろう トリステイン王室の伝統では王族の婚儀の際に
貴族から一人の巫女を選出し、その祈祷書を手に式の詔を詠み上げさせる慣わしが
あるのじゃ」
「ま、待ってください!それは――」
「うむ 王女はおぬしを巫女に指名した」
「姫様が・・・」
ルイズはハッとして顔を上げた。こっそり左右に目配せすると、オスマンは
ルイズを見返して言う。
「望まぬ結婚じゃ、王女も――おぬしも辛かろう しかし、ならばせめて親友に
祝ってもらいたいのだろうとワシは思う ・・・どうじゃ、引き受けては
くれんかの」
元より選択肢など無い。数多いる貴族の中から、アンリエッタはこの自分を選んで
くれたのだ。一体どうしてそれを拒否出来ようか。
「・・・謹んで拝命致します」
始祖の祈祷書を両腕に抱いて、ルイズは静かに一礼した。

「・・・・・・どうしよう」
「何がだ」
扉の閉まる音に重ねて、ルイズは弱った顔で呟いた。
「聞いてたでしょ?詔の内容はわたしが考えるんだって」
「みてーだな」
ギアッチョはさして興味も無いと言った風に返す。
「わたし、そういうの苦手なのよ 全っ然思いつかない」
「・・・受けちまったもんはしょうがねーだろ」
「それはそうだけど、しかもそれを国賓の貴族達の前で詠み上げるなんて・・・」
「考える前に弱音を吐くんじゃあねーよ」
「うう・・・」
ギアッチョのあまりの正論にルイズは言葉も無く溜息をつく。
「何にせよ今日はもう寝とけ」
「・・・うん」
言いながら寝床へ向かうギアッチョに習ってルイズもベッドへ足を向けるが、
ふと立ち止まって後ろを振り返った。
「・・・ねえ、ギアッチョ」
「何だ」
「・・・・・・やっぱり、ベッドで寝たい?」
「・・・今更だな」
毛布を広げながら、ギアッチョは首だけをルイズに向けて答えた。
「そりゃあよォォ クッションよりも硬い床が好みなんてヤローはそう
いねーだろうぜ」
「――そう・・・よね・・・」
悄然と俯くルイズに、フンと鼻を鳴らして言葉を重ねる。
「別に何とかしろたぁ言わねーよ 金もスペースもねぇのは分かってんだ
こういう所で寝るのは慣れてるしな」
事実、ルイズに金は無かった。昨日の自分とギアッチョの治療費に加えて、
キュルケ達の反対を押し切って彼女らの分までを負担していたのである。今の
ルイズの財布では、今日の糊口を凌ぐことすら難しかった。そんな現状を
把握した上での発言だったが、
「ん・・・」
いつまでも床で寝させていることへの罪悪感からか、それを聞いてルイズは
複雑な顔をする。

「・・・・・・あ、あの」
しばし言おうか言うまかといった仕草を見せた後、ルイズは小さく深呼吸を
して意を決したように口を開いた。
「・・・や、やっぱりいつまでも床なんてあんまりよね だ、だから、その、・・・ベ、ベ・・・」
そこで言葉が止まる。ギアッチョの怪訝な眼差しから逃げるように、ルイズは
俯いて毛布を抱き締めた。
「・・・だからオレぁ別に――」
「ベ、ベベベベッドで寝てもいいわっ!」
ギアッチョの言葉を遮って、一息に言い切った。
「ああ?」
ギアッチョは視線をルイズの下に移す。ベッドというのは――普通に考えてこれの
ことだろう。
「・・・おめーはどうすんだ」
「そ、それはわたしも隣で・・・」
「・・・・・・」
「あ、ちっ、ちち違うわよ!変な意味は全然無いんだから!た、ただあの、昨日
二人で使ってもスペースに問題無いって分かったし、ギアッチョの為にわたし何も
出来て無いし・・・だ、だからその・・・!」
ギアッチョの沈黙をなんと捉えたものか、ルイズはブンブンと手を振って釈明した。
ギアッチョはそれでも少しの間黙考していたが、すぐに顔を上げて口を開いた。
「・・・ならそうさせてもらうぜ」
「これから寒くなってくるかもだしやっぱり床は不衛生だし・・・って、え?」
投げられたのは、ルイズの予想と全く反対の言葉だった。毛布を担いで数度埃を
落とすと、ギアッチョは何の迷いも無くベッドへやって来る。
「えっ、えええ!?ちょちょちょちょっと待って!!まままだ心の準備が――!」
「何の準備だよ」
ルイズの心境も知らず、ギアッチョはあっさりとルイズの反対側に寝転がった。
「とっとと寝るぞ 明日遅刻したくねーならな」
「・・・・・・バカ」
「何か言ったか」
「な、何でも無いわよ!おやすみっ!」
ギアッチョから顔を背けてそう言うと、ルイズもそそくさと毛布に潜り込む。
それを確認して、ギアッチョは静かに眼を閉じた。

――変わったのは・・・どうやらオレだけじゃあねーらしい
静謐に身を委ねて、ギアッチョはぼんやりと考える。勿論、自分は今までの
ルイズの何を知っているわけでもないのだろう。ルイズと共に過ごしたのは、
まだたかだか数ヶ月だ。しかし、その数ヶ月で自分はルイズの涙も笑顔も知った。
だからこそ解る。自分が変わったように、ルイズも変わったのだと。
ルイズの提案を受けた背景にはそういう思考があった。知り合ってすぐのルイズで
あれば、貴族のベッドで平民が寝るなど自分の私物で無くても許しはしなかった
だろう。――だから。昼にシエスタに言ったように、まさか本当に保護者になる
つもりなどは毛頭無いが――ルイズが自分を気遣うならば、それを受け入れて
やるぐらいの度量はあってもいいだろうと、そう思う。
――プロシュートの野郎は、こんな心境だったのかもな・・・
それは、ギアッチョが最も理解出来ないと思っていた感情だった。軽い自嘲を
口元に浮かべて――ギアッチョは今度こそ眠りの底へ落ちて行った。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー