ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔-20

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匿名ユーザー

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キュルケに部屋の交換を断られたワルドとルイズ、彼女の使い魔は番頭の親父に、四人部屋に案内された。
「かなり広いな。このの感じだと、日本の東京ならスウィートクラスといっても通るな」
そう発言したのは露伴である。彼の言うとおり、案内された部屋はかなり広い。
また、壁紙はベージュの地に、茶色の縦線が趣味のよい間隔で描かれていたものだ。
なるほど、四人部屋といっても、貴族のために作られたホテルであるらしい。
部屋の中央に、ルイズの部屋にあるものよりふた周りほど大きい、四角い机がおかれている。
「いや、この広さならイタリアのホテルでもそんなにないと思うぞ」
「もっと狭いかと思ったけど。この程度ならあまり不満はないわね。ちょっとは安心したわ」

部屋の入り口から入って右側に、シングルベッドが四つまとめて配置されていた。
二つずつ縦に、互いに頭が向き合うように配置されている。
また、左側はちょっとした広間として利用できるようで、背もたれつきのソファーが二つ対面するように並べられている。背もたれは赤い絨毯地で、足載せも完備。
この部屋は中庭に面した三階なので、ソファーにくつろげば、窓を通して、中庭が見ることができた。だが、中庭は物置になっているようで、部屋の眺めはあまりよろしくはない。
入り口の正面、反対側に暖炉も備え付けられていた。店番はそこに向かっていくと、自分の懐から火打石を取り出し、同じく懐から取り出した紙屑に火をつけた。そこでかがみこんで、暖炉に火をくべようとしている。

「明かりは必要ないと思うがな」ブチャラティは部屋の壁を見ながら店番の背中に話しかけた。
ブチャラティの見る方向の壁には、魔法で点灯する、学院にあるものと同じタイプのランプが二メイル間隔で均等に配置されていた。
明かりならば、暖炉の火を使わずともそれで十分なはずである。

だが、店番の男は暖炉に屈みこみながら、なおも作業をやめない。
手馴れたもので、すでに種火はつけおわり、鞴で薪に火を移している。

「いえ、ラ・ロシェールの夜はこれからが冷えますんで」
要は山岳地帯なので、気温の落差が激しいらしい。
店番は、これは地元のワインですと言ってひとつの瓶をテーブルに置いて退室した。
これで体を温めろ、という事らしい。

「なるほど、シャトー・ツェッペリンの赤か……」
露伴がその瓶の銘柄を確認しながら、ラベルをスケッチしている。
「それは、この地元のワインね。結構やわらかい、飲み易い味わいのはずよ」
「ルイズ、君の体力は大丈夫か?」
ブチャラティはそういいながら、暖炉に一番近いベッドに自分の荷物を置いた。
「大丈夫よ、ありがとうブチャラティ。かなり疲れてはいるけど、この後お風呂に入るぐらいの余裕はあるわ」
ルイズはそういいながら、ブチャラティの隣、壁際のベッドに腰掛けた。
彼女はそういっているが、見た目にはかなり疲れているように見える。
今にもベッドにもぐりこんで熟睡したいのを、彼女は貴族のプライドで我慢しているようだ。
「そうか。だが、休めるうちに休んでおくべきだな。風呂からあがったら、ワインでも飲んで体を温めてから、すぐに眠るといい」
そのようなやり取りを尻目に、ワルドが二人の背後から話しかけた。
「ルイズ、話がある」
ワルドはそういいながら、早々に自分の荷物を入り口の傍らにおいてあるベッドの側に置いている。彼の目は真剣だ。
「ならば、ルイズが風呂に入った後にたらどうだ? 彼女は疲れているようだ。大事な話なら、そんなに急がずに、落ち着いてから話したほうがいいだろう」
「そうね。それで良いかしらワルド? そのほうが私、あなたのお話をじっくりと聞くことができると思うの」
「あ、ああ。それじゃあ、僕達男性陣も旅の垢を落とすことにしようか」
ワルドはそういいながらも、心残りがある調子で部屋を出て行った。
「ワルドの話? いったいなんだろう……」
ルイズは一人ごちながら、部屋の隣にあるという女性用の風呂に向かっていった。


「ふう、さっぱりしたわね」
ルイズが個室に付いていた風呂からあがり、宿屋備え付けの白いローブに着替える。
綿の感触が心地よい。
ルイズがさっぱりとした気分で部屋に戻ると、男三人はすでに寝巻き姿で机の周りを囲むように座っていた。
「待った?」ルイズは髪をバスタオルで拭きながら皆に聞いた。
彼女は自慢の髪の毛を洗っていたので、いつもより入浴時間がかかってしまっていた。
「いや、そうでもないさ、ルイズ。俺たちもさっき部屋に帰ってきたばかりだ」
ブチャラティが、机に置かれた四つのグラスにワインを注ぎながら答える。
彼らも共同浴場から帰ってきたばかりのようだ。

「ちなみに、女性用の浴室はどんな感じだったか?」
露伴の質問に、ルイズは目をぱちくりさせながら答えた。
「どんなって言われても…普通の小さなバスに、シャワーが付いていただけよ? 今回は小さな個室の風呂を使ったし」

「そうか…」露伴はあからさまに残念そうな声を発した。なぜか失望している。
彼がこのような質問をしたのは理由がある。
男三人は大きな共同浴場を利用したのだが、これは宿主自慢の大きな複合施設になっていた。
全面大理石の床に、暖めた蒸気を循環させた快適な気温管理。さらにプールほどもある大きさの浴槽の周りに、従業員が常時二人以上付いていて、宿泊した人には無料で垢すりをやってくれる。おまけにサウナまであった。
男性陣とルイズの入浴時間がそれほど違わなかったのは、露伴がそこで即席の取材を行っていたからだ。


四人は机を囲んで座り、宿の親父が持ってきたワインを飲んでいた。
なぜか部屋には沈黙がある。ワルドは話があると自分からいっておきながら、話しづらそうであった。彼は露伴たちをチラチラと見ている。
先に言葉をつむぎだしたのはルイズだった。

「ねえ、ワルド。あなたと最後に会ったのは……」
ルイズはワルドに言いかけ、ハッと口をつぐんだ。
しかし、言われた当の本人は特に気にした風でもなく、ワイングラスを傾けながら先を続ける。
「君と僕が最後にあったのは、僕の父上がランスで戦死して、その葬式を行っていたときだったね」
「ええ、そうね」
ルイズは罪悪感で声を鈍らせている。
「いいんだ、ルイズ。あの時から、長い年月が過ぎた。僕の父上は立派に貴族としての義務を果たした。
それについては誇りを抱いているし、父上が死んだ悲しみは時が癒してくれたよ。だが、君の美しさは時がたっても変わっていない。いや、ますますかわいらしくなったよ」

「そんな、こと、ないわよ」
顔を赤らめたルイズは、それを隠すかのようにワルドに向かって語りかけた。
「あ、あなたはあの後どんなことをやっていたの? 私、あの後あなたの領地に何度か行ったのよ? でもあなたは全然実家に帰ってくることはなかったわ」
ワルドは顔をほころばせ、ルイズの頭をなでながら微笑んだ。
「そうだね。僕はあの後すぐにトリステインの魔法衛士隊に入隊したんだ。軍務が忙しくてね、領地にはまったく帰れなかったんだよ。いまだに屋敷も執事のジャンに任せっぱなしさ。まあ、そのおかげで隊長になれたけどね」
「そうだったの」
「そうさ。なにせ、家を出るときに決めていたからね。ルイズ、僕は立派な貴族になって君を迎えに行くってね」
「え…?」
ルイズは心底驚いた。家が隣同士でもあり、どちらも由緒正しい家の出であることもあって、ルイズとワルドの両親は、二人の婚約を決めていたのだった。
しかし、当時は二人とも小さな子供。婚約といっても、戯れに交わした約束のはずである。
実際、ルイズはワルドに言われるまでそんな約束があった事すら完全に忘れていた。
「そうさ、ルイズ。僕にとって、君との婚約話は真剣だったんだよ。無論、今もね」

今、なんていったの?
そういおうとするルイズの機先を制し、ワルドは言った。
「だから、ルイズ。この旅が終わったら結婚してくれ」
「ええ?」
ルイズは再度驚いた。驚愕したといっても良い位か。
彼女は年頃の乙女であったし、素敵な新婦の姿にあこがれることもあった。

だが、彼女は学生であったし、結婚なんてまだまだ先の事、と思っていた。自分が結婚するなどとは現実感がいまいち沸いてこない。
ルイズは、目が覚めていながら何か妙な夢を見ているような気分を抱いた。
ワルドとはいい思い出しかないが、それは恋愛感情なのだろうか?
ルイズにとって、ワルドは憧れなのか、恋心なのか、いまひとつ自分の気持ちがわからない。

ルイズにとってワルドはいい人である。それは間違いない。
だが、今までろくにあっていない人物であったのも確かだ。
それなのに、いきなり結婚などと……
彼女はこのときどう返事をすればいいのか、どのような表情をしていいのか判らなかった。

ルイズは二人の使い魔を盗み見た。
「なあ露伴。この世界じゃルイズの年齢で結婚するのが普通なのか?」
「さあ、そこまでは僕にもわからないな。なんとも言えないが、ワルドの口ぶりからすると貴族連中の間では珍しくはないんじゃぁないか?」
完全に他人事である。特に露伴は。じつに気楽な表情がなんとも憎たらしい。

「で、でも。私なんかじゃ魔法衛士隊の隊長はもったいないと思うわ。私みたいなろくに魔法が使えない小娘なんて相手にしても……」
「違うんだルイズ。君は自分の本当の力に気が付いていないだけなんだ」
ワルドは自分のグラスに二杯目のワインを注ぎながら語る。
「君は失敗ばかり繰り返して、二人のお姉さんといつも比べられていたね。
 でも違うんだ。君は特別なんだよ。スクェアクラスになった今の僕にはわかる」

「そんなことないわ。私はマトモな使い魔も召喚できなかった落ちこぼれよ」
照れたように否定するルイズに対し、ワルドは大げさとも言えるほどに頭を振った。
「違うさ。君の使い魔達、彼らのルーンはどんな意味を持つか知っているかい?」
「いえ、そういえば知らないままにすごしてきたわね」
ルイズは、召還の儀式を行っていたとき、コルベール先生が興味深そうに印を見ていたのを思い出した。
あの博識なコルベール先生も一見ではわからないようだった。かなり珍しい印であることは想像できたが、今まで深く考えたことはなかった。
「アレは『ガンダールヴ』のルーンさ。伝説の使い魔の印さ」
「『ガンダールヴ』?」
「そう、始祖ブリミルが用いたという、伝札の使い魔を君は呼び出したんだよ」

「……平民よ? ドラゴンでも幻獣でもない、ただの一般人よ?」
「『スタンド使い』がただの一般人といえるかい?」
ワルドの一言で、使い魔の二人はようやく話を真剣に聞き始めていた。
「おい、ワルド君よ。君には僕達のスタンドを見せていないはずだが?」
「いや、僕のルイズが召喚したからね。君達がただの平民ではないとは、簡単に想像がつくさ」
「だが、俺達がここに召喚されたときは誰一人として『スタンド』は見えていてもその概念を知るものはいなかった。お前は何故『スタンド』の存在を知る?」
ブチャラティが口を挟んできた。いつの間にか警戒態勢をとり、ワルドを自身のスタンドの射程内に納めている。
ワルドは少し時間の間をおくと、罰の悪そうに頭をポリポリと掻いた。
「しょうがないな。これは王政府の機密事項なんだが……五年ほど前から、系統魔法でも先住魔法でもない、不可思議な力を持つ平民がトリステインとガリアの国内で確認され始めた」
「で、それでどうしたんだ?」
露伴は次を促している。彼は薪をくべて暖炉の火を調節していたが、意識は完全にワルドの話にあった。

「彼らはその能力をどうやって手に入れたのか、どうしてその能力を持っているのかは王政府は解明できなかった。だが、彼らは自分たちのことを『スタンド使い』と名乗っていることが判っている」
ワルドは二人に向けて微笑をたたえた。敵意がいないことを示すため、両手を自身の杖から離したまましゃべり続けている。
「君達は魔法が使えない。だから平民だ。だが僕には、君達には得体の知れない自信を持っているように感じた。だからカマをかけてみたんだが……
 どうやらあたったようだな」
「僕達はつまり、してやられたというわけか?」
「そのようだな」
一気に場の空気が弛緩する。そのときになって初めて、今まで空気が張り詰めていたことにルイズは気づいた。
それほどまでに彼女はワルドの申し出に驚いていたのだ。
ルイズは、とりあえずこう答えるしかなかった。
「いまは、考えさせて。ひとまずこの旅が終わるまでは」
「それじゃ、だめ?」
おずおずと言い出した許婚者にワルドは、ほっとした風に微笑んだ。
「そうだね、そうしよう。この話は僕達にとっても唐突過ぎたようだね。でも、僕は 君が『うん』と返事をしてくれると信じているよ」

「と、まあ。今日の話はこれぐらいにして、明日に備えて寝ようか」
ワルドはそういいながら、みなに自分の左腕を見せ付けた。
彼は手首に腕輪をしていて、腕輪の中には円盤型のガラスがはまっている。中に水と、三本の針が入っていた。また、その円盤には金属製の突起物がひとつ付いている。
なにかのマジックアイテムらしい。

「これ、ひょっとして腕時計か?」
「そうさ、少しばかり高かったが」
ワルドが露伴の質問に答えながらその突起物を回すと、今まで無秩序に浮かんでいた三本の針が規則的に動き始めた。
しばらくすると、針が正確に時を示しだす。


「もうこんな時刻だ。明日は早いことだし、もう寝ることとしよう」
「そうだな。明日は早いし、僕は船の取材を存分にしたい。もう今夜は寝よう」
ルイズの複雑な気持ちなど露知らず、露伴はそう言いながら、ワイングラスに残ったワインを一気に飲み干すと、さっさと自分のベッドに入ってしまった。

露伴とワルドの寝息がかすかに聞こえる。彼らは熟睡しているようだ。
ルイズはまったく眠れなかった。ワルドのあの話がされてからずいぶんたつというのに、まだ心臓がドキドキ高鳴っている気がする。

「眠れないわね」
そういいながら布団をどけて起き上がったルイズは、ブチャラティが寝床にいないことに気が付いた。
よく探してみると、部屋のソファーに誰かが座っていた。重なった月の光に照らされた中、ワイングラスを傾けながら外を眺めている。ブチャラティだ。

「ブチャラティ? あなた眠らないの?」
「いや、眠るつもりだったんだが、今夜は月夜が綺麗でね。少しだけ眺めていたら皆眠ってしまった。それよりルイズはどうした?」

ルイズが寝巻きのローブ上に学院のマントをはおり、ブチャラティの隣に、向かい合う形でソファーに腰掛けた。少し肌寒い。
窓を見上げると、彼の言うとおり、上空で重なった月が幻想的な光をたたえているのがみえた。
青白い光がなんとも形容できない幻想的な気分にさせてくれる。
「ブチャラティ。私、なんだか眠れなくて」
「明日は早いぞ、疲れているんだから君はなるべく休んでいるべきだ」


飲むかい? とばかりにワインボトルを傾けたブチャラティに対し、ルイズはうなずいて自分のグラスを取り、彼のほうに突き出した。
二人を、窓越しに月光が照らす中、ルイズはおずおずと語りだした。

「ブチャラティ。私はワルドの求婚にどう答えればいいと思う?」
ブチャラティは彼なりに深く考えた末、彼の前方のソファーに座りこんでいるルイズに向かって、真剣に答えはじめた。
「うーん。俺はそっち方面の話は苦手なんだがな……ルイズが思ったことを正直にワルドに言えばいいんじゃあないか?」
「正直私にもわからないのよ、ワルドのこと……私が彼をどう思っているのか……彼はとてもいい人よ…でも、それは好きとか嫌いとかじゃないような気がするの。
 うん、どちらかといえば憧れかな…」

ルイズはそういいながら自分の言葉に驚いていた。
そうか。私、ワルドのことをそう思っていたのか……そうなんだ……

……私が本当に『好き』なのは……ひょっとして……?

ルイズの眼前に、彼が先日アンリエッタの前に跪き、手の甲に口付けをしている光景がフラッシュバックされるように再生された。
同時に、そのとき、自分がどういう感情を抱いたのかも思い出していた。

「ルイズ。ひょっとして、今君には誰か他に、気になっている人物がいるんじゃないか?」
突然のブチャラティの指摘の前に、ルイズは思わずブチャラティの目をマトモに見てしまった。
知らず知らずのうちに彼女の頬が赤くなる。ルイズはつい、ごまかすように夜空を見上げた。重なった月が儚げに輝いている。
「そ、そんなんじゃ……ないわよ」
「そうか? まあ、要はきみが正しいと思った道を選ぶべきだ。身分の丈がつりあわないとか、年齢に差がありすぎるとかは気にすることはないんじゃないかと思う。
 君がどの道を選んでも、俺は君の味方でいるつもりだ」

そう、とうなずくルイズを尻目に、ブチャラティは立ち上がって大きく背伸びをした。
もう寝るつもりらしい。

「ブチャラティ」
ルイズは、寝床の向かおうとする彼の背中に声をかけてみた。

「なんだ?」

「その……ありがとう」
「なに、これくらいお安い御用だ」

ルイズはちょっと気取ってワイングラスを傾けた。今なら気分よく眠れそうな気がする。
彼女は重なった、『スヴェル』の月を見ながらそんなことを考えていた。
暖炉の薪の、パチパチとはぜる音が、ルイズの周りの空間を優しく包み込んでいた。

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