ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔-19

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匿名ユーザー

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夜も遅くの時刻。
ラ・ロシェールについたルイズ達は、早速、船の発着する埠頭に向かっていった。
「おい、露伴。どー見ても山岳地帯なんだが。
 本当にこんなところに港があるのか?」
ブチャラティが不審そうに口を開いた。それはそうだろう。彼の世界では、船といえば水面を走るもの、と決まっているのだ。
「大丈夫だブチャラティ。僕達が乗るのは、船は船でも『飛行船』さ」
露伴が隣で即座に返事をした。彼は楽しそうな表情をしている。
「ロハンよぉ。なんだかうれしそうじゃぁねーか」
「ああ、今まで飛行船に関しては学院の文献出しか見ることができなかったからな。
 実際にどんな速度で走るのか、どんな質感でできているのか、どんな乗りごごちがするのか! 今から興奮しているさ!」

ラ・ロシェールの、一本の山道の左右に沿って作られた建物を尻目にルイズはどんどん道を登っていく。
そして、ひとつの建物に迷わず入っていった。その建物は『錬金』の魔法で、一枚岩から作られた建物のようであった。
壁は一見滑らかに見えるが、露伴が手で触れると、練成痕である引っかき傷があるのがわかる。
おそらくごく最近になって補修を施したのだろう。
その建物に入ると、中は円形の部屋になっていた。
中空の空洞になっており、螺旋階段が壁に沿って二つ、互いに身をねじりあう蛇のように、果てしなく高く、上方へと続いていた。

ブチャラティが入り口からみて左側の階段に向かおうとすると、ルイズがとめた。
「違うわ、ブチャラティ。そっちは『降り』よ」
そういいつつ、ルイズとワルドは右側の階段を上っていく。
露伴が階段の段数を数えること四百六十九段目、ようやく階段の終点にたどり着いた。
そとに出る扉ががみえ、そこから冷たい風が吹き込んでいる。
「ルイズ、気をつけたまえ」
風にあおられ、少し身をふらつかせたルイズの肩を、ワルドが優しく支えた。
「ありがとう、ワルド」

そう返事しながら、ルイズは目的地である、船の埠頭、『ユグドシラルの化石』を眼前に納めていた。

「おい、露伴。あのでっかい木は何だ? それに枝に船があるぞ。この世界では船は果物みたいに木にはえるのか?」
「いや違うね、ブチャラティ。アレは空を飛ぶ飛行船で、あそこは埠頭なのさ」
露伴はスケッチをしながらブチャラティの疑問に答えた。夜だから、あまり観察できないとこぼしている。
「おめェ。歩きながらスケッチすんなよ」
デルフリンガーの突込みを聞きながら、一向はアルビオンへ行くという、『マリー・ガラント』号へと向かっていった。

「いやあ。戦争のおかげで我々はずいぶんと儲けさせてもらっていますわ」
自身を『マリー・ガラント』船長と名乗る男が豪快に笑っている。

「君。私達はトリステイン国王女の密命を受けている。
 即刻、この船を徴収したい。すぐに出発させろ」

「いや、それは無理ですぜ旦那。この船には今回、最低限の風石しか搭載しない予定なんでね。アルビオンがラ・ロシェールに最も近づいたときにしかたどり着けない分しか確保できていませんよ」
今日の夜は『スヴェル』の月夜である。二つの月が重なる日だ。このとき、アルビオンの周回軌道がラ・ロシェールにもっとも近づくのだ。それに、船長の予定では日の出に吹く『サンタアナ』の熱風を利用して船の初期推力を確保し、極力風石を節約しようと企んでいた。

「私は『風』系統のスクウェアクラスだ。足りない分は私が魔法で何とかしよう」

「そいつはありがてぇが、やはり無理ですな。この船にはいま風石を積み込んでいる途中なんでね。それに船員も町に繰り出してしまっています。そいつらが戻らない限り、船は動かせませんよ」

「それではいつ出発できるようになる? 報酬は弾むぞ」
ワルドの疑問に、船長は豪快な笑いと共にワルドに保障した。
「明日の日の出には必ず。それはお約束いたしますぜ」


「ところで、何かを大量に積んでいるようだが、積荷はなんだい?」
露伴が興味深そうに船の擬装を見て回りながら質問した。
「硫黄だね。今のアルビオンじゃ、同じ重量の金塊で売れるんだよ。これほどうまい話はそうそうねぇな!」
「なら、風石をたくさん積んで、アルビオンとの往復回数を増やしたほうが得なんじゃあないか?」

「いやね、兄ちゃん。普通ならそうなんだがね」
船長は口惜しい感情を隠す気もなく話を続ける。
半年前ごろからガリア産の風石輸入が急に途絶えた事。
「風石も、金塊とはいかなくても、それなりの値段になっちまったんだよ」
「おかしいじゃない? なんでアルビオンの風石を使わないのよ?」
ルイズが当然の疑問を口にした。

アルビオンは巨大な風石の魔力で空を浮遊しているといわれている。
真偽は不明だが、そういわれるほどに風石の鉱脈がいたるところにあるのだ。
この風石の鉱脈のおかげで、アルビオンは主要産業である工業部門の大部分が成り立っているのだ。
「それがですな、貴族のお嬢ちゃん。去年の今頃だったか、アルビオンの王政府が自国内の風石の採掘を厳しく制限したんでさ。何でも、アルビオン大陸全体が少しずつ降下しているらしいとか」

「そうだな。たしか最近見つかった古文書でそれが判明したはずだ。アルビオン大陸は、始祖ブリミルの時代には雲のはるか上にあったらしい。しかし、それが今じゃ大陸が雲に覆われている状態になってしまっているからね」
ワルドが国家の機密事項だといって、内実を自慢そうに打ち明けた。
「そうだっけか? 俺はあんまり思い出せねーからなんともいえねーが……」
デルフリンガーが不可解そうな様子で声を発した。
「そうだよ、デルフ君。そもそもその採掘制限政策こそがアルビオン内乱の根本的な原因なんだからね」

「どういうことだ?」
ブチャラティの疑問に対し、露伴がワルドの先を続ける。

「まず前提として、アルビオンの主要な輸出入項目はなんだ?ルイズ。
 先日コルベールの授業で出たやつだ」
ルイズが何とか思い出し、つっかえつっかえながらも正しい回答を答えることができた。
「ええっと……輸出が造船と木材、製鉄で、輸入が小麦と硫黄、石炭だったかしら?」
「そのとおりだ。よく勉強しているね、さすが僕のルイズだ」
ワルドはそういいながら、ルイズの桃色の髪の毛をなでた。この男、いちいちしつこい。

「話を続けよう。アルビオン国内の風石……貿易船の燃料が国内で賄えなくなったから、自然に輸出入のコストがかかってしまった。中でも、ガリアが輸出関税を引き上げた事もあり、小麦の価格は以前の三倍にまで跳ね上がったらしい」
「なるほど……主食がそこまで値上がりしたんじゃ庶民はキツイだろうな」
ブチャラティがうなずきながら先を促している。

実際はこの時期、きついどころか相当の餓死者を出していた。統計では、王都ロンディニウム在住の下層平民は1/3が死亡したとも言われている。
「その状況で、近頃ガリアが新式の、魔法を使わない製鉄生産方式を開発してね。
 ブチャラティには溶鉱炉といったほうがわかりやすいかな? まあ、そのおかげで、ただでさえ高くなっていたアルビオン産の鉄は誰にも見向きをされなくなってしまったんだよ」

「常識的にも考えろ、ルイズ。いくら戦時中だとしても、それだけじゃあ硫黄が黄金と同価値になるはずないだろう? アルビオンはいまハイパーインフレに悩まされているのさ」
「はいぱぁいんふれ? なにそれ?」
「言ってしまえば、すべての物の値段がとんでもなく高くなってしまうことだね」


『マリー・ガラント』の船長が口を挟んでくる。
「まあ、だいたい兄ちゃんのいうとおりでさ。輸送業者の我々としても、建築費が高すぎて、アルビオンでの船の改装や新築を控えていましてな。そのおかげで、アルビオンの造船工房は次々と閉鎖しているようですぜ」

「で、決定的なのがこの先だ。税金の滞納が急増してね。アルビオンの王政府は軍の給金すら賄えなくなってしまった」
ワルドがトリステイン政府内で手に入れたという情報を披露する。この話は露伴も初耳であった。

「国庫の赤字を補うためにアルビオン王家は上院議会を召集してだ。議会の名の下に教会に対して課税を行ったんだ」
この時代、教会に対しては一切の税金をも徴収しないのがハルケギニア諸国家に共通する暗黙事項であった。
それの禁忌を、アルビオン王政府は破ったのだ。
「当然ながら教会関係者は猛反発。デモの嵐さ。そして、意外なことに、そのデモに空海軍の兵士が参加した」
ルイズはおかしいと思った。彼女は実際にそれを口にして聞いてみた。
「どうして? その人たちは給金がもらえるはずなんじゃないの?」
「そうなんだけどね、僕のルイズ。もし給金をもらえたところで、いまのアルビオンじゃまともな食料を買うことすら難しいだろう。それに、空海軍の隊員はほとんどが平民だ。彼らの故郷は今も飢えに苦しめられている。彼らは小麦の価格の高さを、王家の失政だと感じていたんだ」

「それで『血の虚無の曜日』につながるわけか」
露伴は得心を得たようにうなずいた。
「ああ、鎮圧に動いた王軍もデモ隊も、当初は平和的に話し合いを進めていたんだけど、いつの間にか血みどろの争いになってしまった。そのうちデモ隊は本格的な武装を始めてね。元司教のクロムウェルを中心に、一部貴族も加わって、王家の鎮圧軍に対抗するようになった。かなりの貴族が叛乱軍に回ったからね、今の『王党派』と『貴族派』の内戦に拡大したのさ」

宿『女神の杵』内。

ルイズは疲れたように話を続けた。
「そういうわけで、この部屋を替わって頂戴。私は疲れているし、ここしか二人部屋は空いてないのよ」

キュルケは意地悪そうな笑みを浮かべた
「あなたがどこに何をしに行くか教えてくれたら、換わってあげる」


ルイズは承諾しそうになったが、アンリエッタとの約束を思い出した。
(『あなたは道中、アンリエッタの代行として行動なさい』)
姫様はこのことを、今まで私以外の誰にも話さなかった。
ならば、外国人のキュルケになどは決して話さないに違いない。
「いえ、だめよ。話せないわ。でも部屋は譲ってちょうだい」

「なら、ダメよ」
底意地を悪く言い放つキュルケをジト目で見ながら、ルイズは二人部屋をあきらめた。
「仕方ないわ。ワルド、この際だから四人部屋で我慢しましょう」
「そんな!」
なおも食い下がろうとするワルドであったが、現実は厳しい。
今はルイズの言い分が正しかった。

このまま口論を続けていてもキュルケが部屋を空けてくれる見込みはない。それにこの宿屋は本日活況を呈している。今あいている四人部屋も、いつ満室になるかわからないのだ。

ルイズたち一行と受付の男は、四人部屋に向かって歩き去っていった。


「なんだ。意外と引き際がいいのね」
キュルケは一人つぶやいた。いつものルイズなら、もう少しは突っかかってきてもよさそうなのに。彼女は、ルイズがもう少し粘ったのであれば部屋を譲る気でいた。
キュルケにとって、今日のルイズはなんだか大人びている様に思えた。
「なにか重大なことをしているみたいね」
そう独り言を言いながらドアを閉めようとしたとき、ルイズが一人だけ、こちらにかけてきていた。
「あなた達、どうせ私達についてくるんでしょーが」
「ばれた? てへッ」
あきれた様子で腕を組み、ため息をつくルイズに対し、キュルケはお茶目に自分の頭を軽く拳骨でたたいて見せている。
「しょうがないわね、もう。部屋のことはいいから、明日の朝、日の出の一時間前に宿屋の玄関の外に来て。そこで今回の任務を説明するわ」


「本当?」キュルケの目が光り輝く。
彼女の後ろにいるタバサも、耳を済ませているようだ。
もっとも、タバサの場合は任務の内容よりも露伴のことが気になるようであったが。
「ええ、あまり細かいことは話せないけどね」
ルイズははっきりと返事をした。
「ああ、それと、その説明の後すぐに出かけるから。
 宿のチェックアウトはその前に済ませておいてね」
「ええ、わかったわ」
キュルケは二つ返事で即座に返答した。

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