ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-31

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
始祖ブリミルの子孫である代々のトリステイン王族が住まう王城。
広大な敷地に多大な財を投じて建造されたそれは、見る者を感動させるほど雄大だ。
そんな大きな城の中を歩いて移動するのは、かなりの時間を要する。
端から端まで歩いて何分かかってしまうのだろうか?

とにかくマザリーニと康一は城を駆け回った事により数分で、広間から資料庫へと到着した。
まだ十代の現役高校生であった康一はそこまで息は切れていないが、マザリーニは結構息切れしている。
普段書類仕事ばかりでこれほど走ったのは久しぶりのマザリーニ。
壁に手をついて絶え間なく荒い呼吸をしながら酸素を取り込む彼は、これから毎日15分は軽くでいいから運動しよう、と心に誓っている真っ最中。
歳は取りたくないものですな。

そんな自らの衰えを実感しているマザリーニは何とか、多少呼吸は荒いが普段程度の体力を取り戻す。
「ゼハァー……、ではコーイチ殿。少し見張りをお願いいたします」
マザリーニはゆっくりと歩き出し資料庫の扉をくぐり、康一も促されて後に続いた。
資料庫の中は薄暗い。マザリーニは手近にあったランプを見つけて明かりを灯す。

そのランプを手に持って室内をかざすと、マザリーニにとっては見慣れた、康一にとっては初めて見る光景。
大きな幾つもの棚に、本と化した書類の束が整然と収められている
そんなランプの心もとない明かりで映し出される光景に、基本的に気の小さいタイプの康一はちょぴりブキミだなぁと思った。
雰囲気はマジで夜の学校といった感じである。

「私の記憶通りなら、恐らくこの辺りの書棚に納められて……あったっ!」
ランプ片手に書棚をあさっていたマザリーニが嬉々として叫ぶ。
それを聞いた康一は、見張っている資料庫の入り口からマザリーニに駆け寄った。

「見つかりましたか!?」
康一が聞くと、マザリーニは書類の束をとランプを手近の机に置く。
そしてもう一度書類の束の題目を確認して、重々しく頷いた。
「私の考えが正しいなら、これに間違いありませぬ」

マザリーニは慣れた手つきで、素早く書類の束を捲り出して内容を一枚一枚確認する。
薄暗いランプの明かりでは書類の字を読みづらくとも、そんな事は彼の集中力の前には障害にもなり得ないちっぽけなモノだ。
それほど今のマザリーニは他のものは目に入らないほど、一点を見つめている。
そしてそれは突然。はた、とマザリーニの手が止まる。
彼が見つめているのは『書類の日付』。重要な書類というのは記録の為に日付を記しておくものである。
その日時の日付を彼は探していた。この日付が探していた物であるという証明だ。
「見つかりましたぞっ!」

マザリーニは興奮して康一に向かって叫んだ。
「やったッ!どれですかッ!」
「これです。あと日付が同じ書類が数枚。やむおえず同じ日付になる筈の目的外の書類も作成したのでしょう。
そしてこの日付が同じ書類の中に、我々が探していた書類が眠っている…!」

指差して書類を示すマザリーニが、ギュッと握り拳を作った。
冷静な彼がこれほど興奮するのはかなり珍しい。それほど今の彼は達成感に満ち溢れていた。
「じゃあこの書類の事を調べる前に、早くアンリエッタさんに報せに行きましょうッ!」
それもそうだ。この事はイの一番にアンリエッタに報告しなければならない。

マザリーニは書類の束を小脇に抱えて、ランプを片手に立ち上がる。
ここへ来る途中の廊下はあちらこちらにランプが付いていたが、それでも夜なので薄暗かった。
一度は廊下に立っていた衛士と走っていたという事もあるが、曲がり角で衝突しそうになったぐらいだ。
そのため手に持ったランプは資料庫の備品なのだが、マザリーニは気にせず職権乱用で持ち出す事に決めたらしい。

「では早く姫様へ御報告しに参りましょう」
そう言って小走りで資料庫を退室するマザリーニに、康一もまた続く。
来る時と違って今度はランプに書類も抱えている為、さすがに走って行くのは少し問題があると考えたようだ。

廊下は長い。この夜の薄闇もその感覚を助長させる。
しかも今のマザリーニと康一は、緊急の要件でアンリエッタの元へと向かっている最中。
心理的にも無限とは言わないが、途方もなく長い道のりに思える事だろう。

どの程度移動したのか?一分か?二分か?
時間の感覚も曖昧になるが、康一の感覚では恐らく三分はまだ経っていないように思える。

それ位に康一は移動してきて、ある事に気が付いた。
「ちょっと……待ってくれませんか?………マザリーニさん」
康一は自身の言葉での静止を待たずに、マザリーニの服の裾を掴んで有無を言わさず引き止める。
「むっ。コーイチ殿?一体どうされました?」
急に引き止められたマザリーニは問いかけるが、康一は何も言わずに人差し指を口の前に持ってきた。

「静かに。話しはちょっと待って下さい…」
ズギュゥン!とエコーズACT1が康一の頭に乗っかるようにして出現した。
そして康一の意思で新たな目となったACT1が、薄暗い廊下の宙を疾走する。

向かう先はすぐ目の前の廊下の曲がり角。
(別に僕の気のせいならそれでもいいッ。だけど何だか良くないッ!良くない感じだッ!)
ACT1は曲がり角をすぐさま曲がって辺りを見渡す。
そして分かった。居ないのだ。そこに居る筈の者が、そこには居ない。

瞬間、康一の背中が総毛立った。
人間及び生物は本能的に危機を察知する事があるというが、これがその危機察知能力だろう。
凄まじき恐ろしさ。その恐怖の正体は「死」の恐怖。

この時点での康一には理由が掴めなかったが、彼はその本能に従った。
掴んでいたマザリーニを床に引き倒し、自身は彼にのしかかるようにして床に伏せるッ!
その躊躇のない、僅かな瞬間が生死を分けた。まさに瞬間。

ゴウゥッ!!と、容赦ないエネルギーを持った球体が二人の僅か数十センチ上を通り過ぎたからである。
二人の上を通り過ぎた球体は、そのまま二人の進路方向だった曲がり角の壁に着弾。
球体に込められたエネルギーは、途方もないパワーとなって開放された。
それは夜の静寂を物の見事に破る、爆裂ッ!

「おオぉおおォッ!」
解き放たれた衝撃は、着弾地点が康一とマザリーニからは離れていた為に怪我などの被害はない。
しかしACT1は曲がり角のすぐ近くに居た為に衝撃はかなり受けた。
スタンドは物理的なダメージは受け付けないが、衝撃などはそのままスタンド使いへと通る。

そのフィードバックなのだろうか。康一は頭の中が少しクラクラしていて即座の行動は多少無理がある。
だが今はその無理を通さなければ生き残れない。
康一は気合を自身に叩き込みマザリーニを助け起こす。
「ぅう…これは、一体…コーイチ殿?」
「状況は凄くヤバイ感じみたいですよ、マザリーニさんッ」
助け起こされたマザリーニが見た物は、赤の勢力。
触れれば火傷する、燃え盛る火炎であった。

火炎。火。それはメイジの四系統の一。
つまり先ほどの球体は火炎の球弾。「ファイヤーボール」か「フレイムボール」だろうか。
火は高価そうな絨毯に引火してパチパチと更に燃え盛っている。
その音はヤケに小気味良く、スッと耳にしみ込んだ。

そこまでマザリーニは考えた所でバッと背後を振り向いた。
普段夜は薄暗い廊下だが、燃える炎のお陰で明かりには苦労しない。
揺れる炎の明かりによって映し出される人影。
その数は三。

人影が身に着けている衣服はボロボロであちこちが引き裂かれている。
その裂けた衣服から覗く肌もまたボロボロだ。
至る所にある、赤く腫れ上がったミミズ腫れがとても痛々しい。
しかしマザリーニの頭に最初に浮かんだのは、別の事だ。

それは「こやつ等の衣服は何処かで見たような?」という考え。
芋蔓式に手繰り寄せられた記憶の糸は、即座にマザリーニにこいつ等が誰であるのかを告げた。
「まさか…貴様等、抜け出しおったのか…!」
マザリーニが言った「抜け出す」という言葉で、康一もハッと閃く。

その人影達の顔は前に一度見た。そしてその時もこんな修羅場が繰り広げられていた筈。
コイツ等の顔はまさしく、あの新月の晩に戦った者達。
この城の地下牢にブチ込まれている筈の三人のメイジ達が、表情の無い幽鬼が二人を静かに見つめていた。

僅かな沈黙があっただろうか。だが数瞬の沈黙は破られる。
その者達の内の一人が魔法の詠唱を開始したからだ。
反射的に康一はヤバイと感じてマザリーニを引きずり、未だ炎が燃える曲がり角に向かって走り出す。
しかし魔法から逃れられるほどには動きは素早くない。
詠唱が完成。開放された魔法は氷の矢へと変換され、康一とマザリーニの背後から迫る。
氷の矢は、皮を裂いて肉を貫く。容赦などありえない魔法が二人を襲ったッ!
「エコーズACT3ッ!」
康一は咄嗟にACT3を発現して、その拳と体の面積での防御を試みる。

唸る連弾の拳撃ッ。超人的なパワーの篭った拳はいとも容易く氷の矢を砕くッ!
しかしこの距離で同時に降り注ぐ、全ての氷の矢を破壊出来るほどのスピードはACT3には無い。
当然ながら防御できる範囲には限りがあり、その範囲外の攻撃は二人に到達するッ!

「うぐぅッ!」「ヌおぉッ!」
到達した氷の矢は二人を簡単に引き裂く。
しかし不幸中の幸いなのか、ACT3が二人を体で庇ったお陰で致命傷となる傷は無い。
その為、何とか走ることは可能。逃走は続行できる。

そして二人は燃える絨毯の上を転がるように飛び越し、曲がり角を曲がれた事で敵の視界から姿を消した。
視界に入っていない対象に魔法を掛けるのは難しい。
文字通り、火事場の馬鹿力。これで一旦追撃を逃れる事に康一とマザリーニは成功した訳だ。
しかし当然だが、黙って二人を逃がすほどコイツ等は甘くは無い。

三人は表情を一片たりとも変えずに追撃を開始する。
そう、一片たりとも変わらない。その表情にも、瞳にも、感情は無い。光は無い。
まるで生気を感じさせない三人は、それぞれ同時に走る。チープだが、まるでそれは機械の在り様。

ただ手に持った杖だけが、生きている事を証明するかのように輝いた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー