ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は引き籠り-12

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匿名ユーザー

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ギーシュ・ド・グラモンの朝は爽やかに始まる。
誰に起こされる訳でも無くすっきりと目覚め、彼が溺愛する使い魔に朝の挨拶と抱擁を与えてから
清潔感漂う(正し少しばかり趣味が悪い)白の制服に袖を通して、自分の身体に特別違和感の無い事を確認する。

正直一昨日はどうなる事かと思ったけど、まあそこは僕だし
どんな逆境へ追い込まれようと平民に返り討ちにされたと揶揄されようと、華麗に立ち直るのが僕のいい所さ。
調子は悪くない。毟ろ少しばかりの空腹感が健康を感じさせる。
実家に泣き付いて取り寄せた高価な回復薬だけではない、
僕に劣らず優秀な水属性のメイジ、モンモランシーによる献身的な看病のお陰だろう。
こればっかりは、僕の日頃の行いの賜って奴だな。フフ、人徳人徳ゥ!

朝食を食いに行く前にまず身嗜みを整えようと洗面台の前に立ち、ヘアブラシに手が伸びた所で全身が硬直した。

鏡に映る人影は二つ。

振り返る、誰もいない。
再び鏡を見る。先ほどより少し接近した男は、忘れもしない一昨日の『平民』の――――

目が合うと、鏡の男はニヤッと笑った。

「っぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁヒィッ」




ルイズはいい加減激昂していた。


昨日自分がちょっとカッとなったばかりに、イルーゾォは結局丸半日寝込むハメになってしまって、
それについては素直に謝罪してもいい、と思っていた。
それだけでは無い。
どうやら『魔法』を知らないらしい彼に詳しい説明を聞かせてやろうとも思っていたし、
粗末な食事(もっとも、イルーゾォはそれを見た事すら無いが)も改めるつもりだった。

それに、彼は「『尊敬』出来ない奴の為に働く気は無い」と言った。今までは『使い魔は私のために働く』のが当然と思っていたけれど、
ああも真直ぐに主張されてはね除けられる程、私は自分に自信が無い。

『尊敬』に足る人物になりたい。その為に、『今の私』を知って貰うのが誠意だと思った。

『ゼロ』とは何か、打ち明ける気でいた。


まあそれでご推察の通り、意を決して訪れた医務室はもぬけの殻だった訳で。


「あァァの野良使い魔ァ!今度こそ絶対、絶ッッッ対取っ捕まえてやるんだk
「ダーリン!お見舞いに来・・・・あれ?」

私の心の叫びを遮る声の主は、ドアを勢い良く開け医務室に飛び込んできた見るからに健康そうな女性。
まあキュルケさん、ごきげんよう、何か御用ですか?つーかダーリンって何ぞ。
「・・・・ダーリンは?」
「ダーリンは知らないけどイルーゾォは逃げたわ」
「(イルーゾォって言うのね?変わった名前)もう、何してるの!自分の使い魔ならちゃんと見張ってなさい。ずっと居られたら邪魔だけど」
「何か言った?!」

キュルケは意外とあっさり引き下がって、脇にいるタバサ(静かにしてただけで、ちゃんと居たのよ)に向かって
ねえ~一緒に探すの手伝ってくれるう?と語尾をだらしなく延ばして頼んでいる。
タバサがチラッとこっちを見た。

――――『頼むべき。口だけ。協力する』

あの名前も知らないメイドを除けば、逃げ出したイルーゾォを見たのはキュルケだけだった。
どうやら捕まえようとしていたらしいし、食堂でタバサが彼に気づいたのも『キュルケの手鏡』を見たせいだ。
私が意地を張らなければ・・・・
 ・・・・ううん、違う。1人よりも3人の方がいい、それだけよ!

一つ息を呑んで、心を決めて。歩き出す二つの背中に声をかけた。

「きゅ、キュルケがイルーゾォを探すっていうんなら、協力してあげてもいいわ!」
「何言ってるのよ、貴方の使い魔でしょう。」
「協力するのは私たち・・・・」

キュルケとタバサは、顔だけ振り返って私を迎える。
「何処から探す?」

世界が少し広がった、気がした。



こんなに天気がいいんだからとりあえず中庭を探そう、というキュルケの提案を半ば直感で却下して(天日に当てたら溶けかねない)
室内を重点的に探す事で話がまとまった。
イルーゾォは私の知らないうちにあのメイドに懐いていたから、まずは厨房だ。

「イルーゾォさんですか?はい、今朝いらっしゃいましたよ。」
屈託のない絵顔で私を迎えるメイド(キュルケが小さい声で「勝った!」って言ってたけど私には何の事だかさっぱり!)は、
やはり頻繁にイルーゾォと会っているらしい。というか、餌付けしているらしい。
一瞬帰ってこないのは彼女のせいじゃあ?と思ったけれど、使い魔の世話をして貰っておいてそれは筋違いだと思い直す。
「何処へ行ったか判らない?」
「あの・・・・申しあげにくいのですが。」
メイドはたっぷり逡巡した後、申し訳なさ気な表情で私を見下ろして、小さく「『暫くアイツの来ないところへ』・・・・と。」

 ・・・・どうせ小さく言うなら、キュルケ達に聞こえないようにして欲しかった。
「あの、乱暴はやめてあげてください。」
「確約は出来ないッ・・・・!」

自分はギーシュのワルキューレと真正面から戦ったくせに、こんなか弱い女の子捕まえて何言ったのよう!


「むぐう!ん゛――――――!ん゛――――――!!」
「五月蝿いな騒ぐなよ!どうせ誰にも聞こえやしないんだ」

見えない掌に顔面を掴まれる感触のすぐ後に、まるで水面に沈むように鏡の中に引き入れられた。
目の前には昨日の平民、爽やかな朝は一転パニック日和。この感覚は初めてじゃあない、一昨日体験したばかりで
『見えない力』を感じたすぐ後に周囲の雰囲気ががらりと変わるのも、やはり同じだった。

唯一違うのは、頭を掴んだ掌が離れる事なく、(一昨日はサッと離れて、次いで背後から衝撃が降って来た)
そのまま僕の口を塞ぎ、がっしり掴んで離さない事だ。

「落ち着けって」
無茶言うな!見えない相手に殴られるのがどれほど恐いかわかるかい?!

 ・・・・あれ?わかるかな。良く考えれば、多分こいつの魔法だよ。これ。
何故平民が魔法を使えるのかは知らないけれど(そもそも平民が『使い魔』になる時点で意味がわからない)
もがく僕を面白くも無さそうに見ているこいつが原因って事でまず間違い無いだろう。
「・・・・むぐぅ」
「よし、気が済んだか?」

僕が抵抗をやめると、案外すんなりと『見えない力』は離れて、それきり何もしてこない。

景色全体に薄く灰色をまぶしたような死んだ雰囲気の部屋は、しかし確かに僕のものだ。
左右が綺麗に反転されているせいで違和感が付きまとうが、部屋中に僕の私物が溢れている。
ヴェストリ広場もそうだった。急に薄ら寒くなって、ギャラリーが消失し僕一人取り残される。

「ぼ、僕の部屋に何をした?!」
「『お前に』何かしたんだ。『引き入れた』んだよ、見えなかったのか?」

引き入れる。そう、僕は洗面台の鏡に頭から突っ込んだ。産まれて初めての体験だ。
振り返ると僕が引きずり込まれた鏡があり、そのむこうにはやはり洗面所が映り・・・・『僕と平民が映っていない』?!

「ど、どういう事なんだよこれはッ」

何か起こっている!けど、これがどんな魔法なのか、何のためなのか、一つもわからないじゃないか!

「五月蠅いな、騒ぐなって言うんだ・・・・おい」
「な、何さ」
「『マジで見えない』のか?」
平民は僕の目の前でふわふわと手を振って見せた後、人差し指だけ突き出して、つんと一度空振りさせる。
「だから何が・・・・あだっ」

額を小突かれた。まただ!また見えない攻撃が――――

「マジだ・・・・」

おい平民!何驚いたような顔で見てるんだよ!一体何がしたいんだよッ!!

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