ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔-17

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匿名ユーザー

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「ところで、いつ出発する?」
ブチャラティが気絶したアンリエッタをルイズの寝床に運びながら一同に質問した。
彼は王女の背面から腕を回して胴を掴むと同時に、膝の下に差し入れた腕で足を支えている。
俗に言うお姫様抱っこだね。



「本当なら今すぐにでも出発したいところだけど、姫様をこのままにしておくわけにもいかないし……」



ルイズはしばらく考えた後、二人に答えた。
「あなた達にも何かと準備があるでしょう? 出発は明日早朝にしましょう。姫様がおきるまで私が気をつけておくわ。あなたたちは自分たちの用意をしておいて。
 朝、日の出の時間に正門前に集合ね」



「わかった」
「ルイズ、君も今日は早めに休むんだぞ」
「ええ、あなたたちもね」



ルイズの部屋を出た直後、露伴が口を開いた。
「ブチャラティ、今日はここで分かれよう。僕はこれからすることがあるんだ」
「どうした? 俺も手伝おうか?」



「いや、手伝いは必要ない。二人の人に、僕のマンガが長期休載になるかもしれないことを知らせておきたいんだ」
露伴はルイズに召喚されたその日から、トリステイン学院内でマンガの連載を開始していた。
「その二人とは誰だ? 場合によって話さないほうがいいかもしれないな」



「まず、一人目はコルベール。彼には出版ギルドへの仲立ちをしてもらっているからな」
学者肌のコルベールは技術書や学術書に目がなく、気に入ったものがあると金目に糸目をつけずにその本を買う癖があった。そのため、トリステイン学院を出入りする本商人にとって、彼と知己を得る事は大変に重要なのであった。



露伴はこのコルベールの人脈を介してトリステイン国中の出版ギルドに渡りをつけ、
それらのギルドの出版能力をすべて審査した。
その結果、露伴はギルドの中で最も有能と思われた『トリスタニア出版ギルド』とマンガの出版の契約を交わしていた。



ちなみに露伴の原稿は、毎週の早朝学院から早馬によってトリスタニアの活版印刷の職人のもとへ持ち出される。
この早馬の便もコルベールがオールド・オスマンを口説き落として(というか辟易させて)露伴の原稿のためだけに新設された便なのだった。




「彼なら秘密を守るだろう。問題ない」
ブチャラティは少し考えた後、落ち着いて太鼓判を押した。
彼ならば生徒の身を第一に考えるだろうから、このような大変な話を外部に漏らすハズはない。ブチャラティはそう考えての結論だった。




「二人目はタバサだ」
「どーしてここにタバサが出てくんだ?」
デルフリンガーの柄の上に、『?』マークが点灯した。ブチャラティも同じ反応だ。



「実は、彼女に僕のマンガのセリフ入れを手伝ってもらっている」
岸部露伴は、文字に関してはコルベール先生に教わっているので、学術的な文語的表現については熟練しているが、セリフなどの日常的な言い回しなどは、とてもではないが書きこなせるレベルには達していない。
なので、毎日空いた時間にタバサと図書館で落ち合い、彼女と一緒に、マンガらしく口語的でわかりやすいセリフを考えているのだ。
さすがの露伴も、彼が旅行中に、タバサに図書館で待ちぼうけを食らわせるのは気が引けた。
「じゃあしばらく取材するとか何とか、適当に言いつくろえばいいんじゃねーか?」
「そうだな。デルフの言うとおり、彼女には任務の内容は話すべきなでないな」
「それもそうだな」



二人と一振りの剣は別れを告げ、ブチャラティは男子寮の方角へ、デルフを持った露伴は教員寮にむかって別々に歩き出した。
その会話から二時間後。梟がどこか遠くで鳴いている。
岸部露伴は悩みながら女子寮の廊下を歩いていた。
今はもう深夜だ。よく考えたらタバサはすでに眠っているんじゃあないか?



今回の密命の件をコルベールに打ち明けると、奴は思ったよりもはるかに強硬に、
ルイズをアルビオンに行かせるなと反対した。
あのコッパゲ野郎め。デルフと二人がかりで何とか説得することに成功したが、今度は命を粗末にするなと何度も念を押してくる。まったくうんざりする。
酒を口に入れながらの話だったから話の内容はどんどん長く、くどくなっていくし。
僕はデルフを残してこっそりと部屋を出たが、コルベールのあの様子じゃあ今でもデルフを相手にクダを巻いてるだろうな。
こんなことなら、コルベールよりも前にタバサの部屋に行くべきだったな……
起こすか? いや、手紙か何かを部屋の前に置いて行くか?



そのようなことを考えながらタバサの部屋の前に到着すると、彼女の部屋から明かりが廊下に漏れている事に気がついた。
「おや、おきているのかな?」



「眠れない。あなたのせい」
部屋ををノックした露伴は、ドアを開けたタバサに開口一番、こういわれた。
彼女は腕を組み、体を震わせている。確かに今のタバサは薄い水色のワンピースを一枚着ただけの薄着だが、寮の中は、魔法でどんな季節でも快適なように設定されているはずだ。実際、露伴は薄着だが寒さを感じてはいない。
どうやら彼女は寒くて震えているわけではないらしい。



「なんでだ?……ってオイ!」
タバサが勢いよく露伴に抱きつく。その目には、おびえの感情が見て取れる。
露伴は、タバサの部屋の前の廊下で、当惑の声を上げるハメになった。



「あれ」
タバサは露伴に抱きついたまま、自分の室内を指差した。
彼女が指差した部屋の中の机の上には、先月にでた『ピンクダークの少年』が半開きに、読みかけのページを下にして放置されていた。
その巻は『ウインドナイツ・ロットの幽霊』の話がメインであり、少年を中心に人気のある、怪談ものの話だった。



「もしかして君、幽霊が苦手なのかい?」
露伴は、タバサの少し赤く充血した目を見つめてみた。
「いわないで」
彼女も、彼のかなり当惑した目を上目遣いに見据えた。



彼女の心の底からこみ上げているだろう、恐怖におびえるさまが、日ごろの無感動な態度と明確なコントラストを生じている。
タバサも年頃の女の子なんだな。
そう思った露伴は微笑みながら自然にタバサの頭をなでていった。



ワシワシワシワシワシワシワシ
ワシワシワシワシワシワシワシ



「ん…」
タバサの体の震えが徐々になくなっていく。
それと同時に、彼女の頬に少しずつ赤みがさしていった。
「ちょっとは落ち着いたかい?」
「……うん」
タバサはうれしそうに返事した。彼女の心に安心感が芽生えたようだ。



露伴は本題に入ることにし、タバサに向かってやさしく語りかけた。



「話がある、僕はこれからしばらく取材旅行に出かけようと思ってるんだ」
「だから、明日からは君が図書館に手伝いに来てくれても誰もいない。このことを君に伝えに着たんだ」



「………そう」
わずかに語尾を落として返事したタバサは、目をつぶって露伴にささやいた。



「なら、代わりにもっとして」
「なにを?」
「なでるの。頭」
一瞬惑った露伴であったが、そのようなことであるのなら、と思い直し、素直にタバサの言うとおりにすることにした。



ワシワシワシワシワシワシワシ
ワシワシワシワシワシワシワシ




「ん…………?」
露伴にとっては静寂の中、タバサの脳内で聞きなれた声が響き渡った。
一般にメイジと使い魔の感覚は共有できる。それを利用して、タバサの使い魔のシルフィードが自分で声を囁き、タバサにそれを聞かせているのだ。
というか、よく見ると廊下の窓の外から水色のうろこがチラリと見えている。
露伴の背中に面した位置にある窓なので、彼は気づいてはいないようだ。



オネーサマ、キャーナノネ!!!!      
タバサが突然露伴に抱きつくのをやめ、ドアの近くにある自分の杖をとった。
……ゴメンナサイナノネ…
タバサは元の場所に杖を置いた。



「どうしたんだい?」
「なんでもない。杖が落ちそうだっただけ」
「そうか」
窓の外の青色はもう見えなくなっている。タバサは露伴の正面に改めて向かい、
目を静かに閉じた。



ワシワシワシワシワシワシワシ
ワシワシワシワシワシワシワシ



露伴の手の動作は、タバサが「もっと」を十回言い、彼女が満足するまで続いた。
「もういいか?」
「……うん」



満足してベッドに戻ろうとしたタバサは、何かを思いついたのか、露伴のほうに振り返り、声をかけた。



「ひとつ、質問」
タバサは露伴に話しかけながら彼の両手を握った。露伴との位置は、彼になでてもらっていたときよりも少しだけ距離がある。
心なしか、彼女は詰問するような口調だ。



「なんだい?」
「『ブルーライトの少女』……」



ギクウッ!
露伴は自分の動揺を気取られまいと、目をタバサからそむけながら返答した。
「ソレガ、ドウカしたのかな?」
タバサは露伴の顔が見られるところまで自分が移動し、露伴の目を正面から見据えて質問した。



「セリフを考えたのは誰? この『ウインドナイツ・ロットの幽霊』の話も」
「私はやっていないし、あなたが考えたにしては口語的過ぎる」



「それはギーシュだよ! 初期は彼にやってもらっていたんだ!」
露伴の首筋から一筋の汗が流れ落ちる。幸いタバサはそれに気づいていないようだ。



「そう」
タバサは安心したのか、露伴の手を離し、自分のベッドに向かった。
「もう、寝る」



「そ、そうか。おやすみッ!」
「おやすみなさい」
逃げるように部屋を出た岸部露伴は、タバサの独り言を完全に聞き逃していた。
「他の女子ではない……」




トリステイン学院が日の出を迎える頃……
鶏の鳴き声がどこからか聞こえてくる。



早朝、朝もやが視界を狭いものにしている時刻。トリステインの正門前に、三頭の馬が待機していた。
ルイズたち一行は出発の準備を終え、これから乗馬してアルビオンに向けて旅立とうとしている。



「さてと、出発しましょうか」
ルイズがみなに向かって呼びかける。
彼女の話しかけた先には、ブチャラティと、デルフリンガーを持った岸部露伴がいつもの様子で立っていた。
その様子から、彼らに緊張した様子は見られない。二人とも落ち着いている。
「ルイズ、君は、昨晩あまり眠れなかったようだな、大丈夫か?」
ブチャラティの心配にもルイズは気にすることもなく答えた。
「大丈夫よ、ブチャラティ。姫様が気を取り戻すまで看病を続けていただけで、その後はグッスリよ。自分でも驚いているわ。今から国の運命をかけた使命が待っているって言うのにね」
「その分なら大丈夫な様だな」
ブチャラティは内心安堵した。彼は今回の任務で、ルイズが必要以上に気負いずぎているのでは、と一抹の不安を抱いていた。彼はひとつの懸念がなくなったことを内心で喜びつつ、ルイズに確認した。



「これからまずどこに向かう?」
露伴が自分の馬の鞍の位置を細かく直しながら、背後にいるルイズに話しかけた。
「まず、ラ・ロシュルの港街へ向かい、そこからアルビオンの船に乗るわ」
ルイズが手馴れた様子で馬にまたがりながら露伴の質問に返答する。
「私は姫様の代行だから、途中の馬車駅で馬の交換ができるわね。そう考えると…
 無理をすれば、ラ・ロシュルの街まで二日でつけるかもしれないわね」



「そうか」
そう返事したブチャラティは、まだ十分に馬を乗りこなせないので、露伴に手綱捌きを教わっていた。
「基本姿勢は手綱をゆるく、水平に保つんだ。後は、曲がりたいとき、自分の行きたい方角へ手綱を寄せればいい」
「本当にそれだけで良いのか?」
「ああ。この馬は調教されているから、速度は前の馬にあわせてくれるだろうしな。
 君は列の先頭に出ない限りこれで馬を操れるはずだ」
「なんだか不安だな。ところで露伴、お前なんで馬に乗れるんだ?」
「これくらいは漫画家としては常識の範囲内さ。マナーといってもいいかな?」



ブチャラティは少し離れたところにいるルイズに気づかれないように、彼女に背を向けた位置に移動し、馬のことを教わる振りをしながら露伴にそっと話しかけた。
「ところで、アンリエッタ王女の『使い魔』の件だが…正体はスタンドか?」
「多分な…」露伴はあいまいに答える。彼の口調には罪悪感は微塵もないが、その返答は心底答えにくそうであった。
「多分? お前は彼女を本にして見たはずだろうが」
「その部分は読んでない」
「Cosa?(何だと?)」
「だから、読んでない。知らない」



「テメーッ!王女のスリーサイズだの初潮の日だの読んでる場合じゃねーだろッ!
一番重要な情報を読んでねーじゃねーかッ!」
思わずチンピラ時代の口調に戻るブチャラティ。
「やあ、君t」
「うるさいな!第一あの時誰かさんが邪魔しなければ読めていたんだよ!」
「つーか最初に『能力』を見ろッ!!」
「『能力』は見たさ!『水』系統のトライアングルクラスだよ!
 でもメイジに『スタンド』があるなんて普通思わないじゃあないか!
 意識して探さない限りあの時間では探せないっての!」
「嘘付けッ!」
「あの…」
「そいつはおでれーた。お前ェはあの時王女にそんなことしてたのか!
 すげぇな、ロハン」
「デルフ!今はそんな事いってる場合じゃねーだろッ!」
「うわッ!ヒデ!俺も会話に参加したいのにさ…」




だが、この喧騒も彼女の一言で打ち切られることになる。
「ふ~ん……姫様に…………そんなこと……してたんだ…」
「お~い……」
「あんたたち…『プライバシー』って言葉…知らない?」
露伴とブチャラティが振り返ると、そこにはピンクの髪の鬼がいた。
ルイズの周りに、何か鬼気迫る危険なオーラが渦巻いている。



「ウフフフフフフフフフ…………『平民』には何を言ってもわからないのかしら?」
ルイズが杖を振り上げながら何やらブツブツと呪文を詠唱している。
詠唱時間の長さから、それなりに大物の魔法のようだ。
しかし、彼女がどんな魔法でも失敗するという事実はかわらない。
変わるのは、爆発の規模だ。



そして、長い詠唱の後、彼女の光り輝く杖が渾身の力をこめて振り下ろされるッ!



「「ヤバイッ!!」」



まさに振り下ろされる瞬間。
二人は今まで口論していたのが疑問に思われるほど、両者タイミングぴったりに杖の振り下ろされる方向からそろって身をかわした。



「ドォブゥッハァ!!!」



あたりに響き渡る壮絶な爆音。
ブチャラティと露伴には被害はなかったが、少し離れたところに穴が開いている。
その爆心地には、見慣れぬ貴族の青年らしいメイジが半分黒焦げで倒れていた。
意識はとうに吹き飛んでいるようだ。



「大変! 傷薬を!」
正気に返ったルイズが男の元に向かい、手馴れた手つきでその男の治療をしていく。



ほっと一息ついたブチャラティは、傍らにいる露伴に話しかけた。
「おい露伴、ルイズのあの手つき。妙に手馴れてないか? まるで何度も他人の火傷を手当てしたことがあるみたいだ……」
「みなまで言うな。君の言いたいことはわかってるさ…… まッ、なにはともあれ、
 ルイズの関心がそれたことだし、これで一安心だな」
「なわけあるかッ!」

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