ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は引き籠り-11

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
私の使い魔はボロボロだった。
当たり前だ。ギーシュの『ワルキューレ』七体相手に、刃物一つで立ち回るだなんて冗談が過ぎる。
それでも彼は闘った。
脇腹や両腕から血を滲ませ、右脚を腫らし、けれどそんな事は気にもならないと言わんばかりに。
闘う彼は、まるで『今までずっとそうしてきた』程に自然だった。
闘いの中に日常を見出すような表情は、召喚した日に見た覇気の無い顔とも、私を拒否して逃げ回る態度とも全く違って
私は彼が判らなくなる。

イルーゾォは健闘虚しく、傷だらけで広場の中央に倒れ伏す。それを見て涙が零れた。
彼が見ておけと言ったのは、『死んでも屈さない』、とそういう事だったのだろうか?

対照的に無傷のギーシュが彼を笑った。彼のただ一つの武器を取り上げて、非を認め詫びろというのだ。
イルーゾォは当然のようにそれを断る。
彼の堅い意志を、ギーシュは再度笑う。この後なんか、見なくったってわかった。イルーゾォが音を上げるまで、一方的にいたぶるのだろう。

観衆の殆どがそれを望んでいるから。

イルーゾォの言う『貴族様』は、彼が命を賭した決闘すら、ショーと同じものだと思っている。
傷だらけの『平民』に同情するものは、数える程も居なかった。

イルーゾォ、もう謝って。ギーシュもこいつを許してやって!
そう叫びたかったのに(隣りでキュルケが、同じような事を既に叫んでいた)喉が上手く動かない。

観客が大きくざわめく――――涙でよく見えないが、ワルキューレが何かしたに違いない――――

涙を拭って前を見て、驚愕した。
ギーシュが、完全に消失して居たのだ。ワルキューレ達が主人を失って崩れ落ちる・・・・

「ギーシュッ?!」

モンモランシーの悲鳴を背に受けて、私は走り出していた。
『死んでも屈さない』なんかじゃない。
『死なないし屈さない』――――私の使い魔は、誰よりも『自分が生きる事』に真剣だった。



オレはもう満足に働かない頭で、『鏡』になった小さなかけらを見つめていた。
オレの背後に映り込んだ糞ガキは、怯えた表情で辺りを見回す。
鏡の中は『死の世界』だ。生物も風も温度も無い死んだ世界に、慣れないものは誰だって震える。
その糞ガキを、オレと同じだけ血塗れの『マン・イン・ザ・ミラー』が背後からぶん殴った。
ガキは突然の衝撃に悲鳴を上げ(たようだった)逃げ出した。それを更に追いかけ、蹴りつける・・・・
スタンドも武器も取り上げられ、戦況は一転してオレのワンサイドゲームだ。――――『いつも通りの』。

オレは何をやっているんだろうと思った。
さっきまで『一人でこの試練を乗り越える』と燃えていたってのに、結局全部スタンド任せだ・・・・

バカらしくなって、折れた右脚の分だけ(我慢ならない痛みだ)適当に苛めてやってから、鏡の外に放り出す。
(あっという間に俺に劣らずボロ雑巾になった糞ガキは、泣きながら小さな声で謝罪を繰り返していた。)
やっぱりオレは『マン・イン・ザ・ミラー』の能力無しじゃあ何にも出来ないんだな。
いつに無くマジに闘っても、『鏡』がなけりゃあガキにも負ける――――

情けなくって泣けて来た。人を殺せない『暗殺者』なんてとんだ笑い種で、守る『誇り』も『信念』も途端に安っぽくなった気がした。

意識が落ちる寸前に、ルイズか駆け寄ってくるのが見えた。
「大丈夫?!」なんて聞いて来るのがおかしくて、口角を吊り上げる。大丈夫そうに見えるかよ?


そして意識を手放した。



ぴくりとも動かなくなった使い魔を見て肝が冷える。し、死んじゃったの?嘘よ・・・
恐る恐るイルーゾォを覗き込むと、血塗れの腹の辺りが小さく上下していた。まだ息が――――

「『レビテーション』!重傷だけど、まだ死んでないわッ!タバサ、治癒魔法出来る?!」

 ・・・キュルケ?あのう、何処でお知り合いに?

「全部はとても無理。」
「医務室に運ぶから、応急処置で構わないッ」

何だか知らないがテキパキと指示を出すキュルケに、私の使い魔は取り上げられる。
 ・・・・まあしょうがないわ。イルーゾォは助けなきゃいけないし、あたしレビテーション使えないし。
そういう事なら礼を言おうと「あり・・・・」まで言ったところで、イルーゾォの身体が勢いよく目の前をスッ飛んで行った。
勿論私は無視で。
「あり・・・・あり・・・・アリーヴェデルチ。」
ベタに誤魔化したところで、知らない声が再び耳を劈く。

「イルーゾォさあんっ!嫌です、死んじゃうなんてそんな!」
「貴女!医務室のベッドをすぐに使えるようにして。後、氷やタオルの準備お願い!」
「は、はい!」

 ・・・・メイド?あのう、一体どなたですか?

「助かりますよね・・・・イルーゾォさん・・・・!」

もしもしすみませんけど。
貴女とキュルケ、『なんで』意気投合してるの?
あのう、そのう、わたし。そこに混ざれない雰囲気かしら・・・・?



やっと私が自分の使い魔に会えたのは、あいつが医務室に詰め込まれて5時間もたった頃だった。
その辺に転がっている水属性のメイジを、キュルケが半分脅すみたいに集めて(それでもモンモランシーは断固拒否した)
医務室につくまでに殆ど流血は無くなり、校医の先生はその迅速な対応に甚く感激していた。
それでも骨折やら臓器の内出血やらで酷い怪我らしく、(「面会謝絶よ!」と何故かキュルケが言った)あいつの意識が戻ったのは一時間前。
それを聞きつけたあたしがやってきて・・・・

「本当に怖かった・・・・私てっきり、イルーゾォさんが死んじゃうかと・・・・!」
「な、な、泣くなよっ」

ベッドサイドでさめざめと泣くメイドに途方にくれ、行き場をなくした手が零れる涙を掬おうとしたあたりで
私の聞こえよがしな咳払いに気づいた二人はぱっと離れた。死んじゃえば良かったんだこんなやつ。
「お邪魔だったら出て行くけど」
「いえっ、と、と、とんでもございません・・・・!」

真っ赤になって飛び出していくメイドを目で追って、何だか凄くやるせない気分になった。
何この、迷子になった飼い犬をやっと見つけたと思ったら、慎ましくも幸せそうなご家庭で『クロ』と呼ばれて可愛がられていたような気分は。

「お邪魔虫」
「五月蝿い!何時からそんなご身分になったってのよ!」
「ま、まだ言うのか!」

イルーゾォは久方ぶりに対面したと思ったら、警戒心をむき出しにこっちを見る。
少しばかり目を離した隙にすっかり『貴族不信』になってしまったようで(その辺は、あの戦いを見た後なら納得できるけれど)
とても私達の関係は、『主人』と『使い魔』とは言えなかった。

「まあ・・・・ね、命に別状が無くって、良かったんじゃない?」
「『おかげさまで』」
「皮肉屋!」
「お邪魔m」
「五月蝿い!ああもう、話が先に進まないじゃない!私が対等に話してあげようって言ってるのにィッ!」

バンドエイド越しに頬っぺたを抓ったら、下に切り傷があったみたいで大げさに痛がられる。
なんでかなあ。なんでこんなになっちゃったのかなあ。もっと従順だったり、かっこよかったり、頼りがいがある使い魔が良かったのになあ。

「ここの医療はピカ一だから。もう一度寝て、起きた頃には全快だって。」
「嫌に早くないか?『そういう能力』の奴が居るのか?」
「ずいぶん持って回った言い方をするじゃない。まあ、そうね。水属性・医療魔術のエキスパートが控えてるわ」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

イルーゾォが、警戒も何もあったもんじゃない間抜け面でこっちを見てる。

「は、は?じゃないわよ。魔法よ魔法。それしかないじゃない!
貴方を召喚して、モノを浮かせて、青銅像も作り出した。・・・・貴方だって何か魔法を使ったでしょ。」

確かに見た。ギーシュが身体を虚空に飲み込まれるように消えて、再び現れた時にはくちゃくちゃだった、
私は見たこともないあの魔法。平民なのに、何であんなことが――――

イルーゾォはたっぷり間を空けた後、これ以上ないってくらい眉根を寄せてこういった。


「イカレてんのか?」


私の正拳突きがクリーンヒットして、イルーゾォは『もう一度寝』たっきり、丸半日意識が戻らなかった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー